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「復讐は何も生まない」とよく言うが、復讐を妊娠・出産させてしまった

 詳しくは述べないが、俺の生い立ちは不幸だった。

 だから昔から、この世界に復讐してやる――そんなことばかり考えていた。

 だが、心のどこかで復讐なんてバカらしいなんて思ってたのも事実だ。

 だって、


「復讐は何も生まない」


 ってよく言うじゃないか。


 そうしたら、復讐が声をかけてきた。


「私が何も生まないですって!?」


 俺は答える。


「ああ、何も生まない」


 復讐は怒った。


「そんなことない! 私だって何かを生めるわよ!」


 こうなると売り言葉に買い言葉だ。


「お前に何が生めるんだよ!」


「私と付き合ってくれればきっと分かるわ!」


「だったら付き合ってやろうじゃないか!」


「ええ、付き合いましょう!」


 こうして俺と復讐は交際することになった。


 公園を散歩したり、レストランで食事をしたり、レジャー施設で遊んだり。意外にも俺と復讐の相性はよく、デートを重ねるたび関係は深まっていった。


 やがて、俺たちは結婚。

 式には大勢の人間が駆けつけ、俺たちを祝ってくれた。


「二人ともおめでとう!」

「幸せにな!」

「お似合いだわ!」


 皆からの祝いの言葉を反芻しつつ、俺と復讐はそのまま初夜を迎えたのだった。



***



 それからしばらくして、復讐がこう言った。


「あのね……」


「ん?」


「できたみたい」


「本当か!?」


 なんと復讐が妊娠してしまった。


 復讐って妊娠するんだ……。驚いたが、それ以上に嬉しかった。

 こんな俺もついに人の親になるのか、という感慨を覚えた。


「体、大事にしろよ。絶対無事に出産するんだぞ」


「うん……ありがとう」


 俺と復讐は体を寄せ合った。復讐のぬくもりが心地よい。

 交際したきっかけはなりゆきもいいところだったが、今や俺たちはすっかり一人前の夫婦になっていた。



***



 数ヶ月後――

 待合室のソファでそわそわしている俺に、年配の女性看護師さんが声をかけてきた。

 俺はすぐさま立ち上がる。


「……あっ! あの、出産は……妻は!?」


 狼狽する俺を落ち着かせるように、看護師さんはにっこりと笑ってくれた。


「無事に終わりました。元気な双子ですよ」


「やったぁ!」


 俺はすぐさま復讐のいる部屋に駆け付ける。

 出産を終えたばかりの復讐が優しい笑みで出迎えてくれた。

 ああ、“母”になったんだな、と感じた。


「よくやったね」


「ありがとう、あなた……」


 生まれたのは男女の双子だった。

 二人とも生まれながらにして、不機嫌そうなしかめっ面をしている。

 俺は男の子には“憎悪”、女の子には“連鎖”と名付けた。

 復讐から生まれた子に対して、実に相応しい名前といえる。


 さて、俺と復讐は二人にたっぷり愛情を注いだ。


「お父さん、キャッチボールしよー!」


「パパ、見て見て! ママと一緒にお料理作ったの!」


 憎悪も連鎖もすくすくといい子に育った。

 誕生当初はしかめっ面だった表情も可愛らしくなっていく。

 時が流れるのは早いもので、二人とも小学校を卒業し、中学に進学、そして高校……。


 息子の憎悪は大学を卒業し、名のある企業に就職することができた。

 娘の連鎖もまた、職場で恋に落ち、よき伴侶と巡り合えた。

 孫の顔を見せられ、その子を抱いた時は本当に感無量だった。


 今、俺は復讐と穏やかな老後を過ごしている。


「あなた、どうぞ」


 復讐がお茶を淹れてくれた。


「ありがとう」


 お茶をすする。程よく渋くて、とてもいい味だ。

 復讐が尋ねてくる。


「ねえ、あなた……」


「なんだい?」


「私とあなたは『復讐は何も生まない』という言葉をきっかけに出会ったけど、私は何かを生めたかしら?」


 俺はうなずく。


「ああ、君は数え切れないくらいたくさんのものを生んでくれた。おかげで俺は幸せだよ。本当に……ありがとう」


「私こそ嬉しいわ。あなた……」


 俺と復讐は寄り添う。


 俺は今、とても幸せだ。

 かつての俺は復讐を望み、諦め、そして復讐と出会った。

 そして今、ようやくこの世界への復讐を果たせた、という気分になれた。






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
復讐……女性人格、というか女性な肉体を保持していたのか!? 妻・復讐。 息子・憎悪。 娘・連鎖。 俺の名前はなんだろう? 殺意? 破滅? いや、意表をついて良雄とか?
[良い点] 「復讐」と結婚して、生まれた双子が「憎悪」と「連鎖」とは… 思わず笑ってしまいました。 >「復讐はなにも生まない」 まあ、事実としてはそうなのでしょうね。 実際「憎悪」と「連鎖」が生まれ…
[良い点] 奥さんが復讐さんで、産まれた子供が憎悪君と連鎖ちゃんですか。 これは何とも物凄い名前の家族ですね。 とはいえ後漢末期に袁紹に仕えた文醜や戦国時代の毛利氏に仕えた悪小次郎のような例を考えます…
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