第1話 遠い夢
【大気中の魔素濃度、活動範囲内までの増加を確認。休眠状態を解除します。】
その声と共に俺の意識は覚醒した。何が起きたかについては、はっきりと覚えている。そして俺が見ている景色からして、あれらは夢と言うわけではないだろう。真っ暗な洞窟中、俺の体は転がっている。というか、さっきから聞こえているこの声………。
『誰かいるのか?』
それに対する返答はない。試練だのスキルだのよく解らないことだらけなんだから少しは説明をくれよ。
【試練は悪魔、サタンの持つ権能です。権能:試練を発動すると対象に厄災が一定期間に渡り降りかかりますが、それを耐え抜けば相応の対価を得られます。】
………教えてくれた。
『ま、待て。てことは俺はサタンになったってことなのか?』
【サタンの肉体は現在より4000年前に消滅しております。権能のみが現在まで引き継がれたにすぎません。】
『権能のみが引き継がれたって………そもそもあんたはいったい………?』
【サタンの思念と思っていただければ。大した存在ではありません。】
『大した存在ですが!?』
【案外、よくあることですよ。それにあなたの存在の方がイレギュラーですから。】
『俺の存在………?』
【個の中に複数の意識が入ると言うことの方が問題と言うことです。この状態がイレギュラーなのです。】
『そう言われたらそう…なのか?』
結論、よく解らない。俺の身に起こったことも、サタンのことも。ただ1つ言えるのはここは恐らく、今まで俺がいた世界とは別の世界だと言うことだけ。その上、俺は石になっちまったと言うこと。さて、どうしたものか。
思案していると、聞き覚えの無い声が辺りに響いた。
「うーん、この辺にある筈なんだけどな。」
女の子の声?
『サタンさん、どこから聞こえるか解りますか?』
【いや、私にそんな解析とか求められても困ります。私が解るのは会得した情報のみですので。】
ああ、そんなうまい話しはないか。
【ガッカリしないでください。】
『思考読まないでください?』
そんなやり取りをしている間にも、足音が近づいてくる。
「この辺から魔力を感じるな………。」
ダメだ、ここら辺は物陰が多い上に暗くてまともに回りを見れたもんじゃない。
「あ!」
その声と同時に明かりと、そのシルエットが近づいてくる。そうしてその女の子は「あった!!」と声高らかに俺を手に取った。
「綺麗………これが私の魔石………。」
手に持っているランプを使い、俺を覗き込むと少女はそう言った。こちら側からは、逆光になってあまり姿は見えないが声からして十代前半と言うのは何となく予想がついた。
『魔石………。』
【魔石が結晶化したものを指します。】
『なるほど。俺たちはただの石じゃないと。』
【ただの石にスキルや権能があってたまりますか。】
『そらそうだ………。』
「これで………入学試験に参加できる………。」
と、年端もいかないその少女は俺を強く握って呟くのだった。