エピローグ
ミカエルの戴冠式から5年後。王都に新しく出来た、火龍飯店フォミディ店で、モンジが料理を食べていた。
向かいに料理長のジャポが座る。
「5年で裁判長なんて凄いじゃないか」
「小さな都市だ。大したことはねえ」
「聞いたよ。モンジが探していた元貴族がスリで捕まったんだって?」
「ああ。俺が裁いた」
「もちろん死刑だろ」
「窃盗は禁固3年の刑だ」
「軽すぎる! モンジを陥れた罪もあるじゃないか!」
「あいつもそう思っていたんだろうな。俺に泣いてすがってきたよ」
「だったら!」
「卑屈な泣き顔を見ていたら、昔のことなんて、どうでも良くなった。師匠の言っていた通りだったよ。他のやつらはどうしてんだ」
「アンナとネスコは変わらずさ。アケビーとランブ―はオーナーの依頼でスパイス探しの旅に出てる」
「まだ探してんのか?」
「ギルドへの依頼はほとんど無くなっちゃったからね。新しいギルド長も大変だよ」
★
ジャポの言う通り、冒険者ギルドには冒険者はほとんどいなくなっていた。
ギルド長室にシムタラが入って来る。
「モトク、ガルバ様からの依頼は終わりそうですね」
「婚活依頼なんて聞いたことがねえよ」
先の大戦の後、オーナー兼ギルド長になったモトクは、夫に先立たれた家族と生き残った冒険者とを見合いさせ、結ばせていた。
新しい夫婦はグティンラ帝国が用意した農地に入植していく。大戦の犠牲者はあまりにも多く、主のいなくなった農地はいくらでもあった。
「こんな面倒臭いことお前のほうが向いているだろ」
「新聞社のほうで手一杯ですよ」
シムタラは世界中に記者を派遣する新聞社の社長となっている。
「ガルバのやつ、オーナーの条件に面倒なことを押し付けやがって」
「あなたも家族を作ったらどうです?」
「もういるさ」
モトクとシムタラがギルド長室の窓から外をのぞくと、何百人もの子供たちがモトクに気づいて手を振る。ガルバの依頼には戦災孤児の救済も含まれていた。
「子だくさんだろ。世界一の大家族だ。面倒でしょうがねえよ」
「その割にはうれしそうな顔をしていますね」
小さな黒円が発現し、シムタラに紙を渡した。
モトクが呆れる。
「ここでも仕事をする気か?」
「情報は速さが命ですからね――!? これは…」
紙を持つシムタラの手が震えている。
「皇帝が退位すると…」
「どういうことだ? 帝政は安定しているはずだろう」
「二代皇帝はシャルロット妃殿下の息子だそうです」
★
ミカエルは岬にある家の小屋に立つ。
小屋にはガルバ親子とビスカが住んでおり、ミカエルは時折、お忍びで訪れていた。
足音が聞いた、アンナとガルバ、ビスカが小屋から出てくる。
「どうしたの? 真剣な顔をして。悩み事があるのなら力になるわ」
「退位してきた。結婚しても王妃にもなることもない」
「馬鹿…」
「モンジから聞いた。僕が好きになったのは魅了なんかのせいじゃない!」
「そんなのわからないわ! 私にもミカエルにも…」
「わかる人がいる」
ミカエルはアンナの後ろに立っているガルバを見る。
「ああ、呪いなんかじゃねえ」
「ほんとに…」
「世界一の闇騎士を信じろ」
「信じるわ。お父さんを」
ミカエルが膝をつき、手を差し伸べる。
「アンナ、結婚して欲しい」
「ええ。喜んで」
アンナはミカエルの手を取った。
ビスカが涙ぐむ。
「姉さん、おめでとう」
感動の空気に包まれるなか、ガルバが二人の手を離す。
「娘はやらん!」
「なんでそうなるのよ!」
「じゃあ一発殴らせろ!」
「だからなんでなの!」
「父親だからだ」
<fin>




