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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
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新しき世界

 新世界の覆っている天井が崩れていく中、聖人がガルバを蹴り続けている。ガルバの息は荒くなり、かろうじて防戦できていた。

 神王はへたり込むように座ると、ナイフを首にあてた。

 シェルターの中から生き残っている神が集まってくる。


「もう我々は終わりだ。セゲロに殺されるぐらいなら、誇りを持ったまま死のう」


「神王。早まってはいけない。セゲロも謝れば許してくれる」


「話が通じる相手ではない。セゲロは重度の麻薬中毒者だ。洗脳してなお、大麻を止められないほどのな」


 神々がセゲロを見ると、口の両端に大麻を3本ずつくわえて煙を吐いていた。


「ああ…、そんな…」


「麻薬中毒者に人生の幕を閉じさせるつもりはない。さらばだ」


 神王は首をナイフでかき切った。

 神々は悲鳴を上げ泣いた後、諦めたように次々と首をかき切っていく。集団自殺の様相にエルザは顔をそむけた。


「小さなリスクを恐れ続けると、こうも心が弱くなるのね…。でも、私たち人類は違う! 小さなリスクを恐れず、小さな希望に賭ける!」


「もう魔法を使うな! エルザ!」


 血を吐きながら手をかざすエルザにガルバが怒鳴る。


「転移!」


 黒円が発現する。


「お願い…。来て…」


「誰が来ようとも聖人には勝てねえよ」


 セゲロは黒円から閃光が放たれたように見えた。

 次の瞬間、聖人が地面に叩きつけられた。


「貴様は!」


「アカツキ!」


「天界の門に来てくれていると信じていたわ…」


「僕も信じて待っていた」


「サポートしろ! アカツキ!」


「逆だな。余のほうが強い」


「てめえ!」


 アカツキの刺突剣が超高速の突きで、聖人を削っていく。

 ガルバは舌打ちしながら、聖人が避けたところを攻撃する。形勢は逆転した。


「おのれ!おのれ!おのれえええっ! これで勝ったと思うなよ!」


 セゲロが服の前を引きちぎると、服の下には大量の魔石が鎖帷子のように連なっていた。


「ククク。魔石のオーバードーズだ。暴走しろ! 聖人!!」


 大量の魔石から魔力が聖人に注がれる。

 赤色から銀色に変化した聖人は速さとパワーが増して、ガルバとアカツキの二人がかりの攻撃も物ともしなかった。


「くそったれ! 隙を見つけろ、アカツキ!」


「それよりも連携だ。ガルバ!」


 二人の攻撃がちくはぐになっていくのを見てエルザが叫ぶ。


「見てられないわ! アカツキ、10秒でいいから時間を稼いで! ガルバは私のところへ! 私に策があるわ!」


「回復か? ヒールを打つ魔力もねえだろ! アカツキも一人じゃ10秒持たねえ」


「この策に魔力はいらない!」


「ガルバ、俺たち弟子を信じろ!」


「わかったよ!」


 ガルバがエルザに向かう途中、エルザの右手が変わっているのを気づいた。


「それは…」


「オーゲンラバリ」


 エルザは自分の心臓を取り出すと、ガルバの左胸に入れた。エルザの心臓があった場所から血が噴き出す。


「これで昔のあなたに近づけるはずよ…」


「くそったれが! 心臓が共有できても、出血で死ぬだろうが!」


「死ぬのは時間の問題だったわ…」


 ガルバの鼓動が早くなる。体中に力がみなぎってくるのがわかった。


「あいつをぶっ倒してくる」


「最高の餞別だわ」


 ガルバは飛び上がると、聖人に斬りかかる。


「アカツキ! 前座はどけ!」


「フッ」


 アカツキは口元だけで笑うと横へ飛んだ。

 ガルバの攻撃を聖人が蹴りで迎え撃つ。激突した衝撃波が辺りの建物を吹き飛ばした。


「うらあああっ!」


 ガルバが咆哮と共に血喰い剣を振りぬくと、聖人の脚が切断された。


「パワー負けだと! 魔力暴走までさせたんだぞ!」


「てめえの木偶なんざこんなもんだ」


「聖人! 速さで攪乱しろ! 体が砕けても構わん!」


 聖人は分身が見えるほどの速さでガルバの周りを動いた。


「班目! 開眼しろ!」


 ガルバの黒鎧にある5つの瞳が開いた。


「聖人は無機物だ。状態異常など効かん!」


「そんなつもりねえよ。馬鹿」


 ガルバが血喰い剣を大上段に構えると、神々の死体から流れる血が霧状になり、血喰い剣に集まってくる。5つの瞳が聖人の動きを激しく追っていた。


「捕えたぞ、木偶!」


「まずい! 聖人、ガルバから離れ――」


 セゲロの首にアカツキの刺突剣が突き刺さっていた。


「余から目を離したな」


「グハッ!」


「行け! カルバ!


 ガルバが血喰い剣を振り下ろす。


「吸血神恨斬!」


 血喰い剣から出た血が三日月のような真紅の刃となり、聖人を真っ二つにした。

 聖人の割れ目から魔力があふれ出し、大爆発を引き起こす。

 衝撃で新世界の天井が完全に崩壊した――。


 ★


 翌日。地上のゴーレムはすべて破壊され、ゾンビは土に還った。こうして神と人類の戦いは人類側の勝利に終った。


 その後、アンナたちと冒険者はガルバを探し、グティンラ王国軍がアカツキを捜索し続けたが死体さえ見つけることはできなかった。


 ★


 一年後、グティンラの王宮では、ミカエルの戴冠式が行われていた。ネスコ、モンジ、アケビー、ランブ―も招かれて参列している。


「皇帝って何だポ?」


「王の中の王だよ。あそこに、諸国連合だった国王たちも並んでいるだろ」


 ミカエルは最終決戦の後、諸国連合に対して侵略ではなく、融和を持って交渉した。兵のほとんどを失い、まとめるエルザもいなくなった諸国連合の王たちは、自分の地位の保全と自治権を条件にミカエルに従属した。


「凄いポ!」


「ミカエルは何もしてねえよ。実際に絵図を描いたのは内務省。動いていたのはオルゴだ」


 モンジがオルゴを見て言った。

 オルゴは騎士団長になり、シャルロットと並んでいる。二人は婚約していた。

 ネスコがモンジの正装姿を見て言う。


「だけど、貴族を嫌っていたモンジが爵位を受けるとは思わなかったよ。しかも司法省に入るだなんて」


「嫌いなのは変わらねえよ。正面からクソ貴族を叩くためだ。お前も大臣の誘いを断ったそうじゃねえか」


「まだまだ知識が足りないからね。師匠の城で数年は本と暮らすよ」


「アケビーとランブ―はギルドで働くんだろ? みんな、たまには火龍飯店に来てくれよな。とびっきりの火料理を用意するからさ。モンジも来いよ。もうオイラは臆病者じゃないだろ」


「しつけえなあ。臆病者じゃねえって何度も言ってるだろうが」


 モンジ以外の4人が笑った。

 ジャポが残念そうに言う。


「アンナも来ればよかったのに」


「戴冠式でミカエルが求婚するって噂が出たら、怖くて来れねえって」


「王家で反対している人もいないんだし、王妃になればいいのに。オイラたちも子爵にしてもらったんだしさ」


「不老不死の皇后がいたらどうなると思う? 皆、いつか死ぬ皇帝よりアンナの顔色を伺うようになる。絶対権力者になるのも、権力の道具になるのもアンナは望んでいない」


「アンナの母親がそうだったポ」


 グティンラ正教の教皇がミカエルに王冠を被せる。

 ミカエルは厳粛な顔をしているが、モンジには寂しそうに見えた。


「気にしてんだよ。自分に惚れたのは呪いのせいなんじゃねえかってな」


「どういうこと?」


「入学初日、俺とアンナがオルゴに洗礼の儀式を喰らったことを覚えているだろ。あのときのアンナの目を見て惚れたとミカエルは言ったらしい」


「負けても立ち向かおうとする姿に惚れたんだろ? 自然じゃないか」


「アンナは魅了の瞳が発現したんじゃねえかって思ってる。あのとき、ブチ切れてたからな」


「だとしても、おかしい。魅了の効果は3分しか持たない」


「俺もそう言ったさ。でも、アンナの思い込みの強さは知っているだろ? 王子が自分みたいな女に惚れるのはおかしい。魅了のはずだって言って聞かねえんだよ」


「王子が平民に惚れることもあるだろう。アンナがそんな偏見を持っていたとはね」


「…すまん。俺のせいかもしれねえ」


 モンジはバツが悪そうに言った。


 ★


 アンナは岬の先にあるビスカの小屋にいた。


「ねえ、出てってくんないかなー。いつまでいる気?」


「ずっとよ。不老不死同士、気楽でいいでしょ」


「嫌だって」


「年上の言うことは聞くものよ」


「200年先に生まれたからって姉貴面すんのやめてくんない?」


「やましいことがあるから、いっしょにいたくないんでしょ?」


「無いってば。闇騎士の女なんか暮らしたくないだけだよ」


「もう呪われてないわ。守られてもないけど」


 アンナは輝きを失った聖剣を見せる。シャーキに一撃を放った後、アンナの目が変化して光ることは無くなり、剣からも聖なる気を感じなくなっていた。


 ★


 吹雪が吹き荒れる北の大地。かつてビスカが住んでいた王宮の部屋にアカツキとエルザはいた。

戸を開けてガルバが入ってくると、白い息を吐きながら両手に抱えていた本をテーブルに置いた。


「師匠をこき使ってるんじゃねえ!」


「ゾンビだからしょうがないじゃない」


「何もアカツキまでゾンビになることなかっただろうが」


「僕は不老不死じゃない。二度とエルザを一人にしないためだ」


「オーゲンラバリを使えばいいだろうが」


「人が死ぬ。ガルバのような野蛮人とは違う」


「お前ら二人とも、今まで殺しまくっていただろうが…」


「愛しているわ、アカツキ」


「僕もだよ」


 怒りに震えるガルバを無視して、二人が抱き合う。


「イチャついてんじゃねえ!」


 新世界が崩壊した後、転移魔法で脱出したガルバたちだったが、エルザが息を引き取ると、アカツキがビスカを探してゾンビにさせた。そして、自らも死んでゾンビになったのだ。二人の肉体は強いこともあって、タールを塗らなくともゾンビでいることができた。


「その心臓はエルザのものだ。師匠は僕たちに借りがある」


「お前にはねえ」


「セゲロを殺さなければ聖人は攻撃をかわしていた。勝ったのは僕のおかげだ」


「あれはタイマンで勝った!」


「いや、連携で勝った」


「タイマンだ!」


「連携だ」


「何度目の言い合い? 仲が良いのか、悪いのか」


 ガルバとアカツキが延々と繰り返すのを見て、エルザがため息をつく。


「ねえ、ガルバ。アンナに会いには行かないの?」


「俺様が生きていると知ったら恨みで心が呪われる。死んだことにしておいたほうが、あいつにとっていいんだよ」


「恰好つけているけど、また捨てられると思っているんでしょ」


「娘と一人で向き合うのが怖いんだよ。僕がフォローしてあげてもいい。連携とは戦いだけではない」


「言ってくれるじゃねえか。会ってやるよ!」



「アリアリのアリ。もう隠すのしんどくてさー」


 ガルバが振り向くと、ビスカが立っていた。そばには黒円が発現している。


「ウッ…。今すぐとは言ってねえ…」


「情けない師匠だわ」


「見てエルザ。足がすくんでいるよ」


「スグスグのスーグ」


「ビビってねえ! 行けばいいんだろ、行けば! ああ、会ってやる! 会ってやるさ!」


 ガルバがドスドスと床を踏み鳴らしながら黒円の中に入っていく。黒円が消えた後、エルザがアカツキを見る。


「私たちの願いは叶うかしら」


「叶うさ。ゴードもシュンカもずっと願っていたからね。ガルバが、トラウマから解放されて、人を信じられるようになることを」


 ★


 黒円からガルバが出ると、風が吹く岬の先でアンナは海を見つめていた。

 足音に気づいてアンナが振り返る。


「やっぱり、生きてた…」


「げ、元気にしていたか」


「うん。お父さんは?」


 ガルバの呼吸が止まる。アンナの目から涙がこぼれていた。


「俺でいいのか…」


「ずっと心配していたのよ」


「悪かった。詫びにメシを作ってやる」


「お父さんの料理はしょっぱくて嫌い。でも食べたいわ」


「ボタン鍋はどうだ?」


「もう! 娘の嫌いな物ぐらい覚えておいてよ」


 アンナがガルバの胸を叩くと、そのまま体を預けた。

 ガルバはぎごちない手つきでアンナを抱きしめた。

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