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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
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新世界

 空の無い都市に耳障りなサイレンとともに放送が何度も繰り返される。


『緊急警報。速やかにシェルターへ避難してください』


 都市で一番大きな建物の中で、神王が天使を怒鳴っていた。


「早く出口を閉じろ!!」


「間に合いません。後1分で侵入者が到達します!」


「そんなはずは無い! 10分はかかるはずだ!」


「侵入者は羽を使い、時速180kmまで加速しています!」


「私は避難する。お前たちは時間を稼げ!」


 神王が建物から出てシェルターに向かって走っていくと、ドカッ!という音とともに建物に氷の柱が刺さった。


「この程度の危機で新世界を終わらせはしない」


 ★回想


 地表から6キロの地下にある都市が生まれたのは、今から数億年前、神々の言葉では西暦2050年だった。当時の大富豪千人から10兆円を集め、都市型のシェルターを作った。表向きは希少価値のある資源を掘るための鉱山開発とうたっていた。マスコミが取材しようとしても、その国は独裁国家で大統領に賄賂を握らせることで情報は封鎖できた。


 シェルターの一部が完成すると、不老不死と洗脳手術の人体実験を始めた。倫理を無視し、住民を何人も殺してエビデンスを貯めていった。シェルターが完成した10年後には不老不死手術の目途も見えていた。工事に関わった人間は何万人もいたが、すべて独裁者に殺させた。


 大富豪たちは次に手足となる研究者や技術者を千人集めた。一流で世間と繋がりが薄い者や、研究のことしか考えていない者を探し、不老不死を条件にスカウトしていった。


 シェルターに大量の資金が集まった理由は、不老不死が現実として見えてきたからだ。大富豪は想像した。不老不死になったとき、恐れるのは他人の干渉による死だ。大富豪が不老不死を得たと民衆が知ったときどうなるか? それが懸念だった。


 大富豪たちは独裁者に不老不死手術をすると偽って、洗脳手術を行った。そして核のボタンを押させた。この独裁者は核兵器を作ることだけは熱心だった。世界は核の炎に包まれた。


 大富豪たちは地獄を恐れなかった。不老不死である限り、死後の世界は存在しない。天国も地獄も無ければ、神を恐れる必要も無い。神と対等になったと思った大富豪たちは自らを神と称し、シェルターを新世界と名付けた。


 核汚染が完全に消え、地球の気候も最適になったと判断したとき、神々は地上を目指すことにした。安全を期すため、すぐに塞げる大きさの穴を掘り、探索隊を送った。しかし、新たな人類が誕生し、文明まで築いていた。人類は神より優れた肉体を持ち、魔法という超能力まで使っていた。


 神々のリーダーである神王は新人類が滅ぶまで、再び数億年待つことを提案したが、地上へ出たいという意見が多数を占めた。次に神王は新人類を完全に滅ぼし、安全を確保したら出ると言い、全員の同意を得た。


 神の一人であるホナークが暴走の果てに裏切った後、アカツキが世界統一を目指して戦争を始めた。その勢いを見て、神王は世界統一が成されれば、新人類を滅ぼすのは困難になると予想した。


 そんなとき、新人類からエルザという協力者が現れた。新人類の中でも屈指の力を持つエルザは人類を滅ぼす代わりに、永遠の命が欲しいと言った。その気持ちは神々にも良くわかった。圧倒的な才能を持つ人間なら望んで当然だ。神々がそうだった。


 エルザはアカツキに対抗する勢力を糾合し、全面戦争することで人類を減らすと言った。神にとってリスクの無い計画であり、神王は地上に残っているビスカとセゲロに、エルザに力を貸すように命じた。


 ★


「すべては新世界に通じる道を造るためだったか…」


 六翼を広げたエルザが空中から魔法で街を破壊し、避難する神と天使を殺していく。新世界では神々の不慮の死を避けるため銃火器を備えて無かったのが災いした。


 シェルターを見つけたエルザが扉の前に立つ。


「もう気が済んだだろう、エルザ」


「100万人が殺されていくのを、笑っていたのは誰だ?」


「リスクが減って喜ばない者はいないだろう? 野蛮な新人類と違って、我々はか弱い存在だ。そして――」


 エルザの背中に衝撃が走り、地面に叩き落とされた。

 神王がエルザを見下ろす。


「神と等しい、崇高な存在なのだ」


 聖人が着地し、背中からセゲロが降りる。

 聖人の手には引きちぎられたエルザの六翼があった。


「裏切りのリスクを考えていないと思ったか?」


「神王、遅れてすいません。エルザのあんな羽根の使い方は見たことがありませんでした。自由落下のスピードではとても追いつけなくて」


「エルザも奥の手を持っていたということだ」


 セゲロが話している間も、聖人はエルザを攻撃し続けていた。

 エルザは魔法で防御をするが、すべてを受けきれない。


「近距離の戦いじゃ、大賢者様でもこんなもんだ」


「嘘をつくな」


「まいったな。すぐ見破るなよ。そうさ。聖人にあんたの動きのパターンを全て入力したのさ。俺がずっと監視していたからね。厄介なのはこいつで逃げられることだけ」


 セゲロはエルザの羽根を持って見せる。羽根は血で赤く染まっていた。


「殺しますか? 使える女なんで洗脳するのもアリですよ」


「洗脳したとしても、呪われるリスクを厭わずに解く。そういう女だ」


「…わかりました」


 聖人が飛び上がると回転しながら蹴りを放った。

 エルザは魔法障壁を張るが、突き破られて腹に足先が突き刺さる。


「あんたのこと嫌いじゃなかったぜ」


「俺様の弟子はやらせねえ!!」


 聖人が横殴りに吹っ飛ばされた。

 倒れているエルザの横にガルバが立つ。


「ガルバ、来てしまったのね…」


「弟子の分際で師匠の代わりをすんじゃねえ」


「見抜いてしまったのね。あなただけに背負わせたくは無かった。私も彼も…」


「やはりアカツキもか」


「新世界の存在を知ったとき、あなたが一人で戦おうとするのは、私たちを巻き込まないためだとわかったわ。でも、あなたには死んで欲しくなかった。彼は王になり人類を一つにまとめて神々を迎え撃とうした。私も彼に協力したわ」


「だけど、袂を分かった」


「そうよ。神はいつ攻めてくるかわからない。そのときに私たちが死んでいたら? 再び世界が争う世の中になっていたら? 私は新世界を直接叩く方法はないかと考え続けた。出した答えは神の仲間になり、機会を伺うことだった。でも、結局、あなたを危険にさらせてしまった…」


「もういい。回復に専念してろ」


 エルザの目からこぼれる涙をぬぐうと、ガルバは立ち上がった。


「セゲロ、弟子をよくもこんな目に合わせてくれたなああああああ!」


 ガルバが斬りかかるのを聖人が防ぐ。


「キレたところで聖人は倒せないぜ」


「うおおおおおおおおっ!!!」


 ガルバと聖人が剣と蹴りを激しく応酬する。その間に神王がシェルターに逃げ込んだ。分厚い扉が閉まり始める。神王がスイッチを押すと、新世界を覆っている天井が崩れ始めた。


「神王! 聖人はガルバは倒せます!」


「もしも、ということがある。我々はどんな小さなリスクも取らない」


「それじゃあ俺も聖人も助からない」


「天使は神のために存在する。役目を果たせ」


「グッ…」


 しかし、シェルターの扉が途中で動きを止めた。


「神王、考え直してくれたんですね!」


「…氷だ」


 シェルターの扉が氷結されて動かなくなった。

 上半身を起こしたエルザが手をかざしていた。


「絶対零度の氷よ」


 ガルバがエルザを怒鳴る。


「回復しろって言っただろうが!」


「逃がしたら次の機会はいつ訪れるかはわからない」


「分からず屋が! 血喰い剣! 俺様の血でエルザを回復させろ!」


「戦いの目的を間違えるな!」


 エルザが叫ぶ。


「あなたの教えよ。師匠が間違えてはいけないわ」


「くそったれが! あいつを倒すまで待ってろ!」


 ガルバが聖人に再び斬りかかる。しかし、戦いの均衡は破られず、むしろガルバが押されて行った。

 セゲロが笑う。


「弱体化した体じゃ、フルパワーで長時間戦えるわけがないよな」


 聖人の蹴りが脇腹に当たってガルバが倒れこむ。

 聖人がガルバの手からガントレットをはぎ取ると、セゲロに向かって投げた。

 受け取ったセゲロがガントレットをつける。


「セゲロ! 何のつもりだ」


 セゲロの体が激しく痙攣する。


「…呪いをかけるのさ。己自身にな」


 痙攣が収まると、セゲロの顔は憎悪にゆがんでいた。

 神王に向かって両手を広げ、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「よくも俺を見捨てようとしやがったな。クソどもが。もう天使はやめだ。ガルバを殺った後は、お前らの番だ。俺は神を超えた存在となる! フハハハハハハ!」

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