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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
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班目にうつるもの

 アンナたちと東部方面団の戦いを止めたのはアバンドーノの街に入ってきたゴーレムの姿と街の空から降り注ぐ無数の光だった。死んだはずの市民や兵士がむくりと起き上がるのを見て、ドルバスは屋根に飛ぶと配下に集まるよう命令した。


 アンナたちも屋根の上で一つに固まる。


 ドルバスが様子を見ているとゾンビの集団がゴーレムと戦い始めた。


 副団長が唖然とした表情でドルバスに聞く。


「団長、俺たちは夢でも見ているのか? 化け物同士が戦ってますぜ。世界がおかしくなっちまってる」


「もはや、人間同士の戦いでは無くなったということだ」


「どうします? 国が滅んじまうなら忠誠も何もありませんぜ」


「団長命令を伝える。東部方面団は解散だ。好きに生きろ」


「ありがてえ。まあ、好きに生きろって言われても、こんな世界じゃ、長生きできるとは思いませんがね。団長はどうするんで?」


「客人の相手をしてから考える」


 ドルバスは狼の毛皮を被った男を見る。


「戦っている途中から視線を感じていた」


「なるほど。殺気をビンビン出してやがる。団長、互いに生き残ったら酒でも飲みましょう。たまにはおごりますぜ」


「ああ、楽しみにしている」


 副団長は東部方面団に解散を伝えると、自らも去って行った。

 ドルバスが狼の毛皮を被った男に向き直る。


狂戦士(バーサーカー)か。懐かしい姿を見るものだ」


「狂戦士の村を滅ぼしたのは貴様だな」


「そうだ。名前は何という」


「シャーキだ」


 シャーキは鉤爪を飛び出させると沈みこむように体を低くした。

 ドルバスが剣を構える。


「キィイイヤアアアアアアッ!!!」


「俺に代償を払わせてみせろ! シャーキ」


 二人の斬撃が交差する。

 数秒後、ドルバスは体から血が噴き出して跪いた。


「恨みを晴らせたか…」


「団長!」


 解散したはずの東部方面団の兵士がドルバスを助けに戻ってくる。

 その兵士をシャーキが次々と殺していった。


「待て! シャーキ! 俺はもう死ぬ! 俺で終わらせろ!」


「貴様一人の代償で足りると思っているのか? 貴様の絆をすべて奪う」


「そうはさせん…」


 ドルバスは剣を杖にして立ち上がるが、シャーキはドルバスを無視して東部方面団の兵士を殺し続けた。ドルバスが叫ぶ。


「やめろ! お前たちは逃げるんだ!」


「ドルバスよ。これが本当の代償だ。目に焼き付けて死んでいくがいい」


「もう、勝負はついているでしょ!」


 アンナがシャーキに斬りかかる。シャーキは左の鉤爪で斬撃を受け止めると、右の鉤爪でアンナの心臓を狙う。しかし、アケビーの槍に弾かれた。


「業火喧乱!」


 ジャポが巨大な拳のような炎をシャーキの頭上から落とす。

 それをシャーキは横に飛んでかわした。


「ちょうどいい。まとめて奪う」


「もっと、慌ててくれていいと思うんだけど」


「貴様らの技は上から見ていた」


「学習済ってわけね」


 ドルバスが自分の体を支えきれずに倒れた。

 アンナが傍に寄る。


「団長さん、大丈夫?」


「虐殺をした俺を案じてくれるのか?」


「あなたは許せないわ。でも、こういう性格なんだから、しょうがないじゃない」


「お前は優しい。殿下にふさわしい妃になる」


「やっぱり手加減してたのね。殺気が無いからおかしいと思っていたのよ」


「アンナ! 危ない!」


 ドルバスがアンナを突き飛ばし、シャーキの鉤爪がドルバスの心臓を貫いた。


「団長さん!」


「俺の中にも、わずかに善意が残っていたらしい…」


 ドルバスは柔らかな表情で息を引き取った。

 シャーキがドルバスの死体を屋根から蹴り落す。


「シャーキ、あなたって人は…」


「貴様もすぐにこうなる」


「セカンドハート!」


「キイイィヤアアアァッ!!」


 二人が超高速で踏み込み、剣と鉤爪が激しくぶつかる。火花を飛び散った後、アンナは吹き飛ばされた。シャーキは休まず追撃する。前に鉛色の体をしたランブ―が立ちはだかるが、頭上を飛び越した。アケビーとジャポが攻撃するが、シャーキはかわしていく。


「速い!」


「捕えきれないポ!」


「もらったぞ! アンナ!」


 倒れているアンナの目前にシャーキが迫ったとき、目の前に氷の壁が発現し、攻撃を防いだ。


「アイスウォール」


「ネスコ!」


「僕もいっしょに戦う」


 ネスコの姿を見てアンナたちの顔が明るくなる。

 シャーキは距離を取ると、体を確認するように腕を触った。


「血を凍らせた。速くて少ししかできなかったけどね。それでも動きは鈍くなる」


 ネスコはアンナにヒールをかけながら言った。


「モンジはいないのか?」


「ファーストってやつと戦っている。手を出すなって言われたよ」


 ジャポがため息をついて答えた。


「じゃあ僕らで戦うしかないね。みんなは即死しないことだけで気をつけるんだ。他の負傷は僕がすべて治す」


「おう!」


「頼もしいポ」


「頑張るぞお」


 5人がかりでシャーキに攻撃を仕掛ける。強さではシャーキが上だが、負傷を恐れず、傷ついてもすぐに回復して攻撃の手をやめないため、徐々にシャーキにダメージを与えていった。


「シャーキ、復讐をやめるのなら許してあげるわ」


「我に許しを請えだと!」


 シャーキが叫んだとき、遠くで大きな破壊音が聞こえた。

 ゴーレムの姿が見える。他のゴーレムよりも二回りほど大きなサイズをしていた。


「あっちにはルザンヌさんの酒場があるわ!」


「怪我人が大勢いるポ!」


「街の中のゾンビはほとんどが市民だ。あのゴーレムを止められない」


「どうする? ネスコ」


「僕たちのパーティーから一人でも抜ければ、形勢は逆転する。考えろ、考えるんだ…」


「あたし一人で戦うわ。みんなはルザンヌさんを助けて」


「アンナだけじゃ無理だ」


「逃げるだけよ。みんなは早くゴーレムを倒して戻ってきて」


 ネスコが少し考えた後、アンナに言った。


「アンナ、ジョブを決めるんだ。僕は賢者、アケビーは槍戦士、ジャポは魔導士、ランブ―は重戦士になっている。ジョブには能力を引き上げる力がある」


「何が向いているかわからないのよ。無難な戦士にしとけばいい?」


「闇騎士だ」


「嫌よ! あんな人のジョブ」


「他のジョブだとシャーキに殺される。僕たちもルザンヌさんを助けに行けない。闇騎士ならシャーキから生き延びることはできる」


「何でそんなことが言えるの! あたし、呪いの力なんか使ったこと――」


 アンナはハッとする。


「君の目は呪いの装備だ。すぐに始めるよ。みんなが持たない」


 アンナとネスコが話している間、他の3人がシャーキの攻撃を防いでいた。

 ネスコがアンナの頭の上に両手をかざすと、地中から黒い霧がアンナの体を覆う。


「呪いを束ねる祟り神よ。アンナを闇の眷属に迎え入れたまえ」


 アンナの目から黒い痣が枝のように伸びていく。隈取をしたような顔になり、頭を押さえて苦しみ始めた。ジャポが心配になりネスコを見る。


「ネスコ、本当に良かったのか? 闇騎士には気が狂って死ぬ人もいるって言うじゃないか!」


「ああああああああっ!」


「アンナ、しっかりしろ! 頭が痛いのならジョブを戻す! どうなんだ!」


「違うの! 頭の中に誰かの記憶が入ってくるの!」


 アンナの両目が輝きを放つと、ネスコは顔をそむけた。


「みんなアンナを見るな! アンナ、それは恐らく班目が見た記憶だ」


 アンナの脳に入ってきたのは班目の記憶であり、闇騎士になった後のガルバの記憶だった。


 滅んだゲイブル国を歩き回ってアンナを探している、ガルバ。

 オーゲンラバリを手に入れ、目の移植の研究を続けている、ガルバ。

 世界中の冒険者ギルドにアンナ捜索の依頼書を貼っている、ガルバ。

 アンナが見つからず絶望している、ガルバ。

 キナミとアンナの絵を描いている、ガルバ。


 その記憶のほとんどがアンナのために行動していたガルバの姿だった。


 アンナが瞳から静かに涙が流れた。すると、両目の輝きも顔の黒い痣も収まった。

 涙をぬぐうとネスコたちを見る。


「あたしはもう大丈夫。みんなはルザンヌさんのところへ行って、シャーキはあたしが倒す」


「後からみんなで倒す。今は逃げるだけでいい」


「それじゃあ、教えに背いちゃうわ」


「教え?」


「だって、あたしは闇騎士の弟子。ガルバの娘だもの!」


「アンナ…。師匠を許したんだね」


 ジャポが驚きと喜びが混じった顔でアンナを見る。


「みんな! 闇騎士の弟子の強さを見せつけてきて!」


「ああ!」

「やってやる!」

「行くポ!」

「わかったあ」


 ネスコたちは勇んでゴーレムに向かっていった。アンナがシャーキに向かって剣を構える。


「シャーキ、タイマン勝負よ!」

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