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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
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黄金の魔石

 巨大な塔の前ではガルバがネスコ、キルイ、聖人を突破できずにいた。それどころか、ガルバの傷が増え、息が荒くなっていた。セゲロが大麻を吹かしながら笑う。


「聖人ちゃんだけでも倒せたな。アンタは馬鹿だよ。弱くなったのなら、パーティーを組めば良かったんだ。敗因はアンタの驕りと傲慢さだ」


「パーティー? お断りだ。もう家族は死なせねえ」


「家族だと? 貴様にそんな上等なものがあるか。行け!」


 聖人がガルバに向かって回転しながら飛び蹴りを放つ。

 ガルバが血喰い剣を構え直した。

 二人の間に大きな体が割って入る。


「家族ならおいは弟か?」


「俺様の見せ場を取るんじゃねえ。ゴード」


 聖人の蹴りがドリルのように鉛色の体を削る。

 ゴードがムンっと気合を入れると、聖人が跳ね返された。


「なぜここに来た。戦争をサボってんじゃねえ」


「アカツキが踏ん張っとるが、数が多すぎる。アカツキも全滅するとわかっとるから、こっちば行けと言うた。ガルバ、少し休め」


 ゴードが敵の攻撃を防いでいる間、ガルバが血喰い剣の柄を右手に、剣先を左で持つと、空に向かって捧げるように上げた。すると赤い雲から赤い筋が血喰い剣に降りてくる。血喰い剣に血管が浮き出てきて脈をうち、血喰い剣がどんどん大きくなっていった。


 剣先を持っていた左手は剣が巨大化したため、いつの間にか剣先ではなく剣の根元を持っていた。


 危険を察知したネスコとセゲロが左右に距離を取る。ネスコが叫ぶ!


「キルイ! あれはマズイ! 早く距離を取れ!」


「ガルバ殿の狙いはエルザ様でござる!」


 ガルバが血喰い剣を振り下ろす。


「血海大帝斬!」


 巨大な赤い斬撃が塔に向かって放たれた。キルイは太刀を構えて受けるが、太刀ごと体が両断された。斬撃の勢いは衰えず、塔を斜めに両断した。塔の内部が見えると、大きな門が閉まっていくところだった。


「キルイ!」


 ネスコが叫ぶ。

 セゲロはキルイを気にもかけず、塔を見る。


「エルザ様がいない…。こりゃ、マズイことになった」


「どういうことです?」


 セゲロは答えずに聖人の背中に乗ると塔へ向かっていった。ガルバがつぶやく。


「そういうことか…」


 ガルバは走ろうとしたが、よろめいて倒れた。

 ゴードが背負って走る。


「…急げ」


「ガルバ、何事ば起っとる」


「エルザは自分だけでケリをつける気だ」


 ★


 ガルバたちが去った後、ネスコはキルイにヒールをかけ続けた。


「クソッ! クソッ! なぜ治らない! 何が賢者だ! 治せなければ無能と同じだ! 仲間を助けられなきゃ僕は昔のままだ!」


「真っ二つされてはエルザ様でも無理でござる」


 キルイがネスコの腕を掴む。


「魔力はいつも話していた仲間のために取っておくでござる」


「僕はもうみんなとは戦えない」


「腕を見るでござる」


 ネスコが腕を見ると、奴隷契約の刻印が消えていた。


「これは…、エルザ様が亡くなったのか?」


 キルイが確かめるように自分の胸に手をやると首を振った。


「エルザ様が契約を解いたのでござる。ネスコ殿、本当の仲間の元へ行くでござる」


「キルイも本当の仲間だ」


 キルイの両目から涙がこぼれる。


「良かった。好きな人にそう言ってもらえて」


「やめろよ! ござるって言えよ!」


「実はね。照れ隠しで言っていたの」


 ネスコは泣きながらキルイを抱きしめる。


 その傍らにビスカが立っていた。


「キルイ、死んだ後、ゾンビにして欲しいのならしてあげるよ」


「死ぬとわかったから気持ちを打ち明けたの。私の覚悟を侮辱しないで」


「…ごめん」


「いや、ビスカ! キルイをゾンビにしてくれ!」


「ダメよ、ネスコ。ゾンビになったら、ネスコの心を縛ってしまうわ」


 キルイの言葉にビスカはハッとする


「…兄さんも、そう思っていたのかもしれない」


 ビスカは片膝をつくと真剣な顔をキルイに近づける。


「キミの胸に魔石は埋めない。だけど1日だけゾンビにするのを許して欲しい」


「どうして?」


「エルザは天界の門から新世界へ向かった。土壇場で神を裏切ったんだ。ボクも神には恨みがある。だからエルザに協力して戦う」


「…良かった。エルザ様は人類滅亡を願ってなかったってことね。いいわ。エルザ様のためにゾンビになる」


「ありがとう」


 ビスカはキルイが息を引き取るのを見届けると、立ち上がって両手を合わせた。首から下げていた黄金色の魔石の輝きが強くなる。


「数多の魂よ! 血はすでに無く、臓物が潰れ、肉体は砕けようとも、冥府から戻り、敵を討て!」 


 黄金色の魔石が砕け、無数の光が飛んで行った。光の一つがキルイに入ると、上半身と下半身が繋がりはじめ、間もなく起き上がった。ネスコがキルイの両肩を掴んで喜ぶ。


「いっしょに戦おう」


「いいえ。ネスコは生きている仲間を助けて。私は敵を討つ」


「敵って?」


「ゴーレムよ。ゾンビになったとき命令が頭に入ってきたの。そうよね、マスター」


「ああ、神の野望を打ち砕け」


 ★


 戦場でも異変が起こっていた。両軍の激戦とゴーレムのよって10万を切るほどに減った兵士の前に、大量の戦死者がゾンビとなって起き上がったのだ。その光景にナイラは絶望した。


「我々の敗北です。陛下だけでもどうかお逃げください!


 アカツキは黙ってゾンビの動きを見ている。


「陛下!」


「ナイラ、我らの勝利だ。見ろ」


 ゾンビは生きている兵士を無視してゴーレムに攻撃を始めた。


「ゾンビが味方に…」


「190万の援軍だ。生き残った兵をまとめて後退させよ。これ以上死なせてはならぬ。負傷者を見落とすな」


「ハッ!」


 ナイラは残存兵を連れて離れた場所に行くと、すでにギルド軍が負傷者の手当をしていた。


 治療の指示をしているモトクと目が合うと、どちらも安堵の表情を浮かべた。殺しあっていた両軍の兵士だったが、今では友軍に会ったように生き残った喜びを分かち合っていた。


「ミスリルの鎧は大したものだ。かなり生き残ったな」


「それでも三分の一だ」


「我らは十分の一にも満たない。騎士団長も死んだ。この上、陛下まで失ったら、我々は…」


「まだ一人で戦ってんだな」


 二人が話しているとゾンビの大軍の中からゴーレムが1体抜け出してこちらに向かってきた。ナイラが剣を抜く。


「1体だけなら心配いらねえ。シムタラが追っ払ってくれる」


「シムタラという男はそれほど強いのか」


 シムタラが前に出ると、ゴーレムが覆いかぶさるように襲い掛かった。


「大転移!」


 ゴーレムの前に巨大な黒円が発現し、ゴーレムは勢いのまま黒円の中に入っていった。


「どこへ送ったのだ?」


「俺が落とされた崖さ。あの重さじゃ、粉々になるだろうよ。あいつは凄い奴だ。ゴードの目は間違っていなかった」


 ★


 ガルバとゴードが塔にたどり着いたとき、天界の門は閉まる寸前だった。

 ゴードは門の隙間に手を入れて力を籠める。筋肉が膨張し浮き出した血管はたちまち破裂する。


「うがああああああっ!」


 扉が少しずつ開き始めるとゴードは隙間に体をねじ込み、体を硬化させた。


「やめろ! ゴード!」


「早く行かんか! エルザを助けるんじゃろ!」


『開閉システムニエラー発生。障害物ヲ排除します』


 ゴードが押さえている左右の扉から何本ものドリルが出てきて、ゴードの体を削っていく。


「おまんもエルザも命を賭けとる。おいを仲間外れにするんじゃ無か」


「すまん」


 ガルバはゴードの頭の上を飛び越えるように門へ飛び込んだ。


「良か。早よう抜けてシムタラに回復してもらうとするか――!?」


 ゴードの体にドリルが深く刺さっていた。体がメキメキと音を立て破壊されていく。


「…無か」


 ゴードは大きく息を吸うと叫んだ。


「ガルバ! おいは助かった! 気にせずとも良か!」


門の奥から、おう!というガルバの声が聞こえた。


「…これで良か」


 天界の門が激しい破壊音と共に閉じた――。

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