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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
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決戦②

 王たちと護衛兵が、大通りのテントで食事を作っている女たちを突き飛ばしながら走っている。

 逆方向である街の入口からは東部方面団が放火しながらこちらに向かっていた。


 街のあちこちから悲鳴が上がる中、ミカエル率いる竜騎士団は王たちをピンポイントで狙おうとするが、護衛兵や、関係の無い市民を死なせるだけだった。


 ようやくミカエルが王の一人を討ったのだが、顔を見ると若い女だった。王たちは自分の服を市民に着せ、女の服を着て逃げていた。こうなると上空から見つけるのは難しい。


 副団長が難しい顔をする。


「無差別に焼き払うしかなさそうですね…」


「やめろ。親衛隊の数は減らした。後は東部方面団にやらせればいい」


「陛下に甘いとお叱りを受けるのでは?」


「手柄を上げれば許してくれる。敵の後背を突くぞ」


 ミカエルは竜騎士を集めると主戦場へ向かっていった。


 東部方面団の副団長が去っていく竜騎士団を見上げながら団長のドルバスに言う。


「団長、軍令違反でしょ。あれ」


「普通なら俺たちの仲間へようこそってとこだな。だが、あれでいいんだよ。王子が虐殺なんてしていたら国民が怯えちまう。陛下もそれがわかっているから俺たちをここへよこした」


「俺も好き勝手暴れたいだけで、虐殺なんか好きじゃねえんですけどね」


「はぐれ者の自由には代償が必要だ。それがたまたま虐殺だったってことだ」


「へいへい。片っ端から殺していけばいいんですね」


「女に変装するほどの臆病者だ。変装に意味が無いとわからせれば、必ず剣を手に取り、護衛兵を呼び戻す。ただし」


「ガキだけは殺すな、でしょう」


「東部方面団の恐怖を伝える者は必要だ」


「恨んだガキにいつか殺されますぜ」


「それも代償だ。虐殺者がマトモな死に方をしたら世の中がおかしくなる」


「違えねえ」


 副団長はカラカラと笑うと、兵士に指示を出していった。

 ドルバスは市民の死体が転がっている通りを歩いていく。そして、生き残っていそうな者を見つけると、剣を突き刺していく。


「はぐれ者は仕事が粗い。だが、これも代償だ」


 恐怖で腰が抜けている子供にドルバスが、この顔を目に焼き付けろ。恨む相手を間違えるな、と言っていると、火柱が上がるのが見えた。


「馬鹿が。粗い仕事の代償がデカすぎる」


 ドルバスは火柱の元へ急いでいくと、アフロ頭の女に味方が焼かれていた。


「下がれ! この店には手出しをするなと言っていただろう!」


「だけど、仲間が!」


「お前らが何千人いようと勝てる相手ではない。他をやれ!」


 ドルバスが追い払うような仕草をすると、兵士たちは散っていった。


「ドルハゲ! しつけがなってないよ!」


「すまん。地図を読むのをめんどくさがるやつらなんだ。ところで、シュンカの顔を見たら久しぶりに美味い飯を食いたくなった。入っていいか?」


「お断りだね。今は炊き出しで厨房が戦場なんだよ」


「ほう」


 ドルバスの手が剣の柄を握るのを見て、シュンカが鼻で笑う。


(クズ)をかくまうわけないだろ?」


「陛下との約束を守っていると信じていいのだな」


「ドラゴンの肉が欲しいからね」


「信じよう。お前は馬鹿だが嘘はつかない」


「馬鹿って言うな!」


 シュンカの右手から噴き出した炎が、ドルバスを襲う。

 ドルバスは素早く剣を抜くと炎を両断した。


「やるじゃん。ハゲ」


「邪魔をした」


「言っとくけど、この街は簡単じゃないよ」


「親衛隊の生き残りなど数にもならん」


「未来の英雄がいる」


「誰だ。それは――」


 ドルバスが聞き返そうとしたとき、全身に鳥肌が走った。



「リバーフェニックス!」


 片腕の男が突きを放つと衝撃波が渦を巻いて向かってきた。

 ドルバスが剣の腹で受ける。


「火竜狂爛!」


 続けざま炎の竜が襲い掛かるのを、剣を切り上げて二つに割る。

 ドルバスの髭の端がチリチリと焼けた。

 割れた火竜の後ろに娘がいる。


「セカンドハート!」


 ドルバスは娘の踏み込みの速さに対応できず、わずかに身を捻ることしかできなかった。鎧の肩部分が砕け、血が噴き出す。


「技名考えとけばよかったあああ!!」


 鉛色の体をした男がドスドスと音を立てて突進してきた。

 ドルバスはゆっくりと構え直すと、背後からささやくような声が聞こえた。


「技名なんていらねえよな。オッサン」


 ドルバスがハッとして振り返ると、双剣を持った男に切り刻まれた。

 鎧が破壊され、半裸になった体から血が流れ出る。


「チッ! 浅いか。ミスリルの鎧ってのは固えな。家一軒分の値段がするだけのことはあるぜ」


 ドルバスは飛びのいて距離をとった。鉛色の体をした男は火龍飯店の入口に突っ込み、ガラガラと崩れた。

 シュンカが怒鳴る。


「このウスノロ! 溶かして鍋にしてやろうか!」


「おでだけカッコ悪いよお」


 東部方面団の兵士たちが駆け寄ってきて、ドルバスにポーションをかけた。


「なるほど。こいつらが未来の英雄か」


 ドルバスはシュンカを見てにやりと笑った。


「副団長、東部方面団をすべて集めろ」


「王たちはどうするんで?」


「愚鈍な王など後でいい。目の前の敵は近い将来、陛下にとって脅威となる」


「そんなに強いんで。参ったな。みんな死んじまう」


「これも代償だ」


 副団長が笛を鳴らすと、数百人が集まってきた。ドルバスは敵一人に対し、百人ずつ振り分けると、剣で娘を指し示した。


「あの娘は俺がやる」


「一番強いんで?」


「娘が持っているのは王家に伝わる聖剣だ。噂は知っているだろう」


「ああ、王子の想い人の」


「恨まれるのは俺だけでいい」


 東部方面団全軍が攻撃を仕掛けた。

 ドルバスが娘の前に立つ。


「娘、王子の元に嫁ぐのなら見逃してやる」


「アンナよ。そんな気は無いわ」


「そうか。遠慮なく叩き潰せる」


 ドルバスが剣を振る。大きな体とは思えない速さにアンナは驚き、かろうじてかわした。

 オレンジ色の髪が数本、宙に舞う。

 アンナの呼吸が早くなりリズムを刻んでいく。


「タコの顔真似などして、挑発のつもりか?」


「すっごい嫌だけど、あなた強いもの」


「違うな。俺はとても強い」



 ドルバスとアンナが対峙しているのを屋根の上からシャーキとファーストが見下ろしていた。


「行かないのですか? 放っておけば、あの大男がアンナを殺すでしょう」


「少し気になることがある。貴様は他が気になるのだろう? 気配がそう言っている」


「申し訳ありません。モンジの成長が著しいように見えまして」


「貴様がうれしそうな顔をするのを初めて見た。我から離れることを許す」


「ありがとうございます」


 ファーストが離れた後もシャーキは何かを考えるようにじっと二人の戦いを見ていた。


 ★


 ルザンヌの酒場は臨時の病院に変わったようだった。テーブルと椅子をどかした床には怪我人が並べられ、ルザンヌや店の女が酒のボトルをポーションに持ち替え、怪我を治している。


「あなたに頼んで良かったわ。普通のポーションじゃ助けられない命も救える」


 ルザンヌはポーションの箱を運び込んでいるコットに言った。


「いえ、もっと早く持ってくるつもりだったのですが、港が燃えていたので、船をつけるのに時間がかかりました」


「ケチなマロッキにしてはずいぶん奮発したわね」


「こうなったら諸国連合に全部掛けると言われまして。今は洞窟の中で震えていますけどね」


「賭けるなんて言いながら後で請求してくるんじゃない? それでも構わないわ。私、じじい転がしは得意なの。何百人でも貢がせてみせるわ」


 ルザンヌとコットは笑いあった。コットのポーションの効果は抜群で、運び込まれた怪我人はすぐに治り、救護を手伝えるほど元気になった。

 回復した女の一人がルザンヌに言う。


「ルザンヌさん、私も怪我人を探してきます」


「気を付けるのよ」


「はい、助けられた命を粗末にしません」


 女が笑顔で酒場から飛び出すと同時に悲鳴が聞こえた。ルザンヌたちは立ち上がって見に行こうとする前に、女を突き刺したまま剣を掲げ、男が入ってきた。


「さっそく粗末にしちまったなあ。希望から絶望に変わるときのツラがたまんねえ~」


 男はニヤニヤと笑いながら、投げ捨てるよう剣を横に振った。突き刺されていた女が床に落ちると、ポーションをもってルザンヌが駆け寄る。


「もう死んでるって。俺は東部方面団のクズみたいなヘマはしねえ」


「ここにいるのは市民だけよ。変装を疑っているのなら、隅々まで調べてもらっていいわ」


「だから、東部方面団じゃねえって言ってんだろ!」


 男は床に寝ている怪我人を突き殺した。血しぶきが男の顔にかかり、垂れた血を舌で舐めた。


「自己紹介しよう。俺の名はサード。趣味は絶望したツラを見ながら殺すこと。だから、相手は弱ければ弱いほうがいい。だから、ここは天国さああああっ!」


 サードが両手を広げて笑う。ルザンヌが店の女に目線を送ると、カウンターの後ろに数人が向かった。


「殺しの前に酒でもどう? とっておきのを出してあげるわ」


「そのツラは良くないねえ。抵抗する気満々だ」


「ご名答」


 店の女がサードに向かって酒瓶を一斉に投げた。サードはすべて砕いたが、酒が振りかかった。あたりに強い酒の匂いが漂う。


「火で酔っ払いな!」


 ルザンヌがランブを投げると、サードの体は炎に包まれ、もがき苦しむ。


「コット、みんなを連れて逃げて!」


「はい!」


 店の中にいた全員が外へ逃げる。

 コットも怪我人に肩を貸して出て行った。


「楽しくねえ酒だなああああっ!」


 サードが叫ぶと燃えている鎧が炎とともにはじけ飛んだ。


「そのツラを絶望に変えてやる。楽に死ねると思うな」


 サードがルザンヌに飛び掛かると、馬乗りになって殴り続けた。

 ルザンヌの顔がみるみる腫れていく。


「なぜだ! なぜ! 絶望したツラを見せねえ。誰もお前を助けにこねえんだぞ!」


「あら残念。一流の娼婦はねえ、絶望していても笑顔で男を慰めることができるの。あなたみたいな下種な客はお断りだけどね」


「このアマああああっ!」


 サードが拳を振り上げる。そのとき、背中に衝撃を受けた。

 振り返るとコットが突きの構えをしていた。

 ルザンヌが微笑む。


「馬鹿ね…。奥さんに叱られるわよ」


「生き残れたら、いっしょに妻に謝ってもらえますか?」


「いいプレゼントを考えてあげる」


 サードが立ち上がると鼻で笑った。


「ハァ? カスみたいな攻撃しかできねえのに、ヒーロー気取りかよ」


「わ、私は槍の神だ。思い出せ、思い出せ、思い出せ…」


 槍戦士はアケビーが練習していた姿を思い出す。

 右腕をだらりと下げ、左腕だけで槍を構える。


「なんだその構えは? 舐めてんじゃねえぞ!」


「リバーフェニックス!」


 サードは予想外の突きの鋭さに身をよじって避ける。

 しかし、衝撃波が胸の皮膚を切り裂いた。

 コットの左腕から血が噴き出し、槍を右腕に持ち替える。


「奥の手を隠し持っていやがったな。だが、技に体がついていってねえ」


「腕はもう1本ある」


「今度は油断しねえよ。さあ、突いて。両腕ともダメにしろ。そうすりゃ、俺の大好きな弱者の出来上がりだ」


「リバーフェニックス!」


 コットが右腕から血を噴き出しながら突きを放った。


「バーカ」


 サードが横に飛ぶ。サードがかわしたと思って笑ったとき、サードの体に衝撃が走り、壁に叩きつけられた。サードが呻きながら立ち上がって見ると、筋肉隆々のメイドが立っていた。

 槍戦士とルザンヌの顔が明るくなる。


「アキさん!」


「どうしてここに?」


「旦那様から請求書を預かってきました。賭けるのではなく、金を取りたいようでして」


「フフフ、マロッキのドケチに助けられるなんてね」


 アキはルザンヌとコットにポーションをかけながらサードを見る。


「あなたは弱い者と戦うのがお好きなようですね。私は強い者と戦うのが好きです」


「その体つき。ただもんじゃねえな」


「胸をじろじろ見ないでもらえます。巨乳になるのも考え物だわ。ねえ、ルザンヌさん」


「そ、そうね。ナイスバディよ」


「うふふ」


「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」


 サードが剣を振り下ろすのをアキが体をひねってかわす。その勢いのまま体を回転させ裏拳をサードに叩きこんだ。


「そちらこそ死ぬ気でかかってきてください。あなたがみんなを傷つけた貸しは、きっちり取り立てます」


 アキが拳の連撃を、サードがガードする上から叩きこむ。


「1パー!2パー!3パー!4パー!」


「ぐおおおおおおっ。何だそれは!」


「マロッキ商会の利息です! 当商会は1カ月ごとに上がる契約です」


 アキの連撃の速度が上がる。サードのガードが崩れ、体に拳が当たっていく。


「99パー!100パー!」


「あこぎすぎるだろうがあああああっ」


 サードがふっとび壁にめり込んだ。アキが拳を握りこむと手首まで黒く変色する。


「鋼鉄のブラックリストおおおおおっ!」


 サードの心臓を鋼鉄化した黒い拳が貫いた。

 拳を抜いたアキがルザンヌに微笑む。


「マロッキ商会のご利用は計画的に」


「ポーション代は早めに払ったほうが良さそうね」


 ルザンヌは大きな宝石のついた指輪を外すと、カウンターに置いた。

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