決戦①
諸国連合軍の中では1%程度しかない冒険者ギルド軍が、アカツキ軍最強を誇る騎士団を向こうに回して、圧倒していた。反乱軍で戦っていたときはまるで違っている。冒険者がミスリルの武具をつけたことによって強化されたこともさることながら、ゴードが仲間を気にせず攻撃に集中できることになったのが大きかった。
「こんな日が来るなんて…」
シムタラが反乱軍のときの苦労を思い返して涙ぐんでいると、モトクが苦々しい顔をして側にきた。
「感慨にふけってんじゃねえ。お前、軍師役だろうが!」
「順調ではないですか」
「ギルド軍以外は誰もついてきてねえ。一本の針だけが突き進んでいるようなもんだ」
シムタラは高く飛び上がって後ろを見ると敵軍の海の中にいるようだった。馬を持たないギルド軍には戦況を把握しづらいという弱点があった。
「いつのまにか後方に敵の大軍が!」
「こっちが横を向いてんだよ」
影を見ると、開戦前に正面に落ちていたが、今は左手にあった。
「敵に誘導されていた…。私は愚か者だ。ウップ!」
激しく嘔吐するシムタラを見て、モトクがため息をつく。
「まあ、愚かなまま行くのもアリか。ギルド軍が捨て石として使われているのは敵も承知だろう。このままアカツキから離れていけば敵の攻撃も緩くなるかもしれねえ」
「いえ、そうはさせてくれないようです」
後方から赤い鎧を着た騎馬隊が襲い掛かってきた。
「近衛兵が来たってこたあ――」
「アカツキがいます」
ギルド軍の真ん中を切り裂くようにアカツキが冒険者たちを突き殺していく。アカツキの刺突剣はミスリルの鎧が守っていない首だけを的確に刺していた。一筋の血しぶきは一直線にゴードへ向かっていく。
「ゴード! アカツキの狙いはお前だ!」
「良か」
ゴードの体が鉛色に変わる。アカツキが馬から飛び上がり、無数の突きを放つと、ゴードの鎧は粉々に砕け散り、半裸になった。
「盾ば砕いたお返しか。おまんは昔から負けず嫌いじゃのう」
「もう袋のネズミだ。裏切って余と共に戦え。国王ではなく、かつての友として言っている」
「友ば言う割には上から目線じゃのう。おいはシムタラば騙したことば許しとらん!」
ゴードはハルバードを叩きつけるように振り下ろす。地面が割れるほどの威力だが、アカツキは宙に飛んでかわし、刺突の連撃を繰り出す。鋼とかしたゴードの体が削れ、小さな破片が飛んだ。
「余の速さについていけぬことは貴様が一番知っておろう」
「おいの固さを忘れたか」
「長引かせたところでどうなる? 無駄なだけだ」
「おいだけならそうじゃ。シムタラ、モトク。おいの後ろからアカツキばやれ」
「はい!」
シムタラは魔法で、モトクは投げナイフでアカツキを攻撃した。アカツキはかわしながら懐かしむような顔をした。
「貴様はそうやってパーティーを守ってくれた」
「その隙にガルバとおまんが敵を倒す。おいたちは良かパーティーじゃった。おまんが裏切ったせいでみんなバラバラじゃ。これで良か思うとるのか!」
「みんなを助けるためだった」
「虚言ば吐くな!」
「余の紛れもない本心だ」
「陛下!」
近衛隊がギルド軍をかき分けるように近づいてくる。先頭には隊長のナイラ・キーレイトがいた。
モトクとシムタラが顔を見合わせる。
「まずいな。やつらは後衛の俺たちを狙ってくる。そうなりゃゴードはジリ貧だ」
「私に策があります。ギルド長、わざと隙を作ってください」
「おいおい、失敗してまた吐くんじゃねえだろうな」
「成功例を知っていますから」
「良か」
ゴードの肌が鉛色から肌色に戻った。削れていた個所から血が噴き出す。
それを見たアカツキが別れを告げるように言う。
「覚悟を決めたか。決して苦しませぬ」
アカツキが渾身の突きを放ったとき、シムタラが叫ぶ。
「大転移!」
ブンッという音と共に巨大な黒円がゴードとアカツキの前に拡がった。アカツキは留まることができず、黒円の中に入る。ナイラが悲壮な顔で叫んだ。
「近衛隊も黒円の中に入れ! 陛下の後を追う!」
黒円が小さくなって消えるまでの間に近衛隊が百騎ほど入っていった。
モトクが感心してヒューと口笛を鳴らす。
「見直したぜ」
「ガルバ様の真似をしました」
「どこばやった?」
「諸国連合軍のど真ん中です」
「そいつはいい。お前ら! アカツキが転移で諸国連合軍の中に飛ばされたと騒げ!」
冒険者がモトクに応じてアカツキが飛ばされたことを大声で言いはやすと、たちまちアカツキ軍は動揺した。そして、アカツキを救うべく、諸国連合軍に対し猛烈に突撃した。両軍の陣形が崩れ、たちまち乱戦となる。包囲殲滅されそうだったギルド軍の周りからは敵が消えていた。
それまで戦い続けていた冒険者たちも、疲れていたのを思い出したかのように地面に座り込んでいる。忙しく動いているのは回復術士だけだった。ゴードもシムタラにヒールをかけられていた。
「モトク、エルザの姿が無か」
「どこかで悪だくみしてるんだろ。俺らに殺し合いをさせといていい身分だぜ」
★
エルザは魔王の部屋に表示されているモニターを見ていた。2つ並んでいる数字がみるみる減っていく。初めは100万前後を表していたが、今は80万近くになっていた。エルザは壁の光に向かって聞く。
「神王。両軍が50万になれば天界の門を開く。そう言ってたな」
「いや、30万に減るまで待つ」
「念入りなことだ。すぐそこまで天界の門は来ているのだろう?」
「アカツキもゴードも死んでいない。下方修正するのは当然のことだ。なぜ貴公は焦っている? 永遠の命があるのにも関わらず」
「両軍の犠牲が大きくなれば停戦の可能性が出てくる。そうなればまたやり直しだ。ガルバも元の力を取り戻す。命令しているだけの貴様らとは違う」
「また愚かな王たちを説得とするかと思うと気が滅入るか」
神王が笑うと壁のいろんな部分が笑い声とともに明滅した。
★
諸国連合軍の中に転移させられたアカツキは笑っていた。
その姿を見てナイラが心配する。
「お気を確かに! 味方がすぐに助けにきます。私の馬にお乗りください」
「圧勝するつもりだったのだがな。エルザの勝ちだ」
「そんなことはありません! 苦戦するはするでしょうが…」
「それでは意味が無いのだ。ナイラ、己が生き延びることだけ考えよ」
「ですが!」
アカツキはマントを取ると投げ捨てた。
「戦がどうなろうとも、余は負けぬ」
アカツキの体から闘気が吹きあがる。ナイラが見たことがない姿だった。
「陛下から離れろ!」
「良いのですか?」
「巻き込まれたいのか!」
百騎の近衛隊が距離を取ったとき、アカツキを囲む敵兵が血を噴き出しながら倒れた。敵兵がひるみ、敵将が離れて大量の矢を浴びせるよう命じたが、アカツキはすべて叩き落とした。
アカツキがゆっくりと敵陣の中を進むと、両脇に死体と血があふれた一本の道が出来ていった。
ナイラはそれがこれまでのアカツキの人生の歩みを表しているように見えた。
「陛下をお一人にさせてはいけない…。近衛隊に問う! 我らの誇りは何だ! 喜びは何だ!」
「「「命を賭して、陛下の守護奉ること!!!」」」
「陛下の背を守れ! 例え、陛下に殺されてもだ!」
「「「ハッ!」」」
近衛隊はアカツキの背後に布陣した。どの顔も死を覚悟していた。
諸国連合軍に紛れ込んでいたシャーキが鉤爪を収めると、ファーストが意外そうな顔をした。
「アカツキを殺すのをやめるのですか?」
「あれは失った男の顔だ。奪われたか、自ら捨てたか」
「王妃も王子もいますが」
「やつにとっては仮のものなのだろう」
シャーキは踵を返して街へ向かう。馬に乗った指揮官が、逃げると斬る!と叫んだが、ファーストが一刀のもとに切り捨てた。シャーキは黙って歩いている。
「何を考えているのですか」
「ビスカの兄を斬ったとき、解き放ってくれてありがとう、と言って死んだ。あれは自身のことだったか、ビスカのことなのか…」
「両方ではないでしょうか」
「そうかもしれんな。だが我は奪われたままで死ぬ気はない」
シャーキとファーストはアバンドーノの街の入口に立つ。
「ガルバの絆を奪いに行くぞ」




