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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
55/65

決戦前

 シムタラは大きな会議室の壁際に立ちながら、長いテーブルにずらりと並ぶ諸国連合の王たちを見ていた。冒険者ギルド代表としてきたゴードは文字通り、末席に座って話を聞くだけだ。


 盟主は諸国連合で一番大きな国のグリタニア王だが、あくまで名目上で、本当の総帥はグリタニア王の横に立っているエルザである。エルザは同盟成立のため暗躍していたが、今は大賢者であることを隠していない。


 アカツキと決戦することはすでに決まっているのに、会議が長引いている理由は軍の配置である。どの王も自分の軍が先陣になるのを嫌がり、あれこれと言い訳をする時間が流れていった。おかげでシムタラは各国の王冠の形の違いを覚えてしまった。


 会議が煮詰まったとき、エルザがゴードを見たのでシムタラは嫌な予感した。


「ゴード、冒険者ギルドで先陣をやってほしい」


「冒険者は1万人しかおらん」


 王たちの顔が救われたように賛同する。


「ゴード殿、戦は数では無いと言うぞ」


「英雄ゴードなら安心だ!」


「冒険者は百戦錬磨の者が多い。先陣に適任じゃ!」


 シムタラの予感は的中した。国の代表者だけの会議に呼ばれたことがそもそもおかしかった。エルザは誰も先陣をやりたがらないと知っていて、初めから冒険者ギルドに先陣をさせる気でいたのだ。


 ゴードは黙って目をつぶった後、覚悟を決めたように「良か」と一言言った。


 不幸な男はもう一人いた。エルザが地図を指して言う。


「決戦の場はアバンドーノにしたい」


「待ってくれ!」


 アバンドーノの代表が立ち上がる。アバンドーノは王ではなく、商人たちが話し合い代表を決めていたので王冠を被っていない。


「捨てられた土地をようやく豊かにしたのだ。我が国を諸国連合が捨て石に使うのか!」


「最適だから言っている。港が大きく海路から各国の兵も運びやすい。街にも水路が張り巡らされており、守ることにも適している」


「そうじゃ、そうじゃ」


「誤解されるな」


「勝てば歴史に名が残る場所になる」


「我々は名誉を譲ったのだ。感謝したほうがよい」


 アバンドーノの代表以外の王たちはそう言ってうなずいた。


 シムタラはエルザを睨んだが、エルザが王たちを軽蔑するような目で見ていることに気づいた。シムタラは、保身しか考えない王たちをまとめるにはこうでもしなければならないのだろうな、と怒りながらも少し同情した。


 ★


 シムタラは冒険者ギルドに帰ると、モトクを呼んで事情を話した。


「こうなることぐらい予測できたのに、私は何でギルド長を連れていったのだ。私は愚か者だ…。ウッ!」


 嘔吐するシムタラを見てモトクが呆れる。


「お前、反省するたびに吐く癖、直したほうがいいぞ」


「私のせいで、また多くの冒険者が死んでしまう」


「あのなあ。世界分け目の戦いなんだろ。軍の先頭だろうが、後ろだろうが命を懸けて戦うハメになる。どこにいても変わらねえよ。まあ、それでもビビるやつは出てくるか」


 シムタラはギルド前に集まった冒険者に対し、諸国連合の先陣としてアカツキと戦うことを伝えると、不満が続出した。反乱軍時代、激戦区ばかりに回されたことを皆、忘れていなかった。


「また。いいように使われるのかよ」

「しかも、今度は報酬も無しだぜ」

「冒険者ギルドを守るためって、反乱軍のときもそう言ったじゃないか」

「シムタラって進歩してないよな」


 シムタラは冒険者たちを鎮めようとするが、なかなか収まらない。

 そこへ何十台もの荷馬車と元冒険者の鉱山夫を引き連れてモトクがやってきた。


「お前ら、報酬はあるぞ」


 荷馬車の横にいた鉱山夫が荷物にかかった布をバサッと取った。


「ミスリルの鎧に武器。しかも前払い。戦う気のあるやつは持っていけ。早い者勝ちだ」


「ミスリルの武具をくれるってマジかよ…」

「一番高そうなやつをもらおうぜ!」


 冒険者たちが歓声を上げながら荷馬車に殺到する。

 手に入れた冒険者たちは、すぐにミスリルの鎧をつけたり、剣を振ったりしていた。


「ミスリルなんて一生つけられないと思ってたぜ」

「どうだ、騎士団長みたいだろ」

「これなら生き残れるかもな」

「自分より強い敵にだって勝てる」


 はしゃぐ冒険者たちを横目にシムタラがモトクに聞く。


「マロッキから奪ったのですか?」


「交渉しただけさ」


 ★


 数時間前。モトクがマロッキを探していると、鉱山夫を使って何十台もの馬車にミスリルの武具を乗せるよう指示しているところだった。


「よう。大商人。在庫一掃セールってとこだな。どっちに売るんだ?」


「両方だ。勝者がわからん以上、片方からは取りっぱぐねるが仕方ない。戦後のことも考えておかないとな」


「それは賢くねえな。売るなら諸国連合だろう。戦後も儲かる」


「根拠を言え」


「アカツキが勝てば世界は統一し武具は売れなくなる。だが、諸国連合が勝ったら、アカツキの領土をめぐり必ず仲間割れが起きる。戦争が続き、お前は儲け続ける」


「勝てばの話だ」


「俺たちに渡せ。最前線で戦い、諸国連合にマロッキ商会の武具の優秀さを見せつけてやる。いい宣伝になると思わねえか?」


「負けたらどうする? わしは大損だ」


「そうだな。処刑されるとき、お前がガルバと組んで大儲けしていたことを、アカツキに言うぐらいしかできねえな」


「…わしを脅す気か?」


「俺たちに賭けろよ。マロッキ・ドーチン」


 元は冒険者だった鉱山夫たちがマロッキを見つめる。どの鉱山夫の目も一つのことを訴えていた。


「ええい! 一世一代の大勝負だ! 全部持っていけ!」


 ★


 火龍飯店ではアンナ、モンジ、ジャポ、アケビー、ランブ―が話し合っていた。モンジだけはテーブルに座らず壁に寄りかかって本を読んでいる。

 アンナは全員を見渡して言う。


「戦争に参加する?」


「師匠が戦争に加わるのは禁止って言ってたポ」


「あの人の話はやめて。みんなも破門されたんでしょ」


「あの人って…、何かあったの?」


 アンナが黙っているので、モンジが代わりに、アンナの父親がガルバであること、アンナの母親がガルバに呪いをかけられておかしくなったことを説明した。


「――とまあ、いろいろとあってな」


 ジャポたちは驚き、いろいろと聞きたかったが、アンナが頑なな表情をしているので、聞くのをあきらめ、ジャポは話題を戻した。


「こういうときネスコがいたら上手くまとめてくれるんだけどな」


「別にアカツキ軍を倒したいとは思わないポ」


「そうね。戦う理由がないもの」


「戦争はしないけど、街を守るってのはどうかな。この街には兵士じゃない人も多い」


「それなら遠慮なく戦えるポ」


「そう言って、お前は逃げて隠れるんだろ?」


「オイラは変わった。もう逃げない」


「どうだかな」


 そう言うと、モンジは本を読み始めた。アンナが本の背表紙を見て気づく。


「ちょっと! それってゲイブル国の本じゃない」


「アンナは途中までしか読んでなかったろ。ここ見て見ろ」


 そのページにはゲイブル国が滅んだ後に発見された女王キナミの手記が記されていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 私は呪いで狂ったんじゃない。元々、呪いで狂った女に戻っただけ。私はメンヘラ女だった。メンヘラなんて言葉、誰もわからないでしょうね。相手にも激しい共依存を求め、感情の起伏を自身で制御できない心の病気だった。でも私の脳は優秀だった。新進気鋭の医学者として世界的になったわ。


 そして、有名教授の仲立ちで将来有望な学者と結婚した。私たちは激しく愛し合い、子をもうけた。でも夫の愛情が子供に移っていくにつれ、私の心は均衡を失っていった。ある日の夜、私は赤ん坊の首を絞めていた。夫が気づいて私を殴り、赤ん坊を連れて家を出て行った。


 そこからの私は仕事も研究もやめ、薬を過剰摂取したり、自殺を何度も繰り返した。死ぬ気なんてない。誰かに構って欲しかった。愛情を向けて欲しかった。でも、みんな私から離れていった。

 身も心もボロボロになったとき、神王と名乗る男が現れた。


「君はこのままでは破滅する。生まれ変わりたくはないか?」


「どうやって?」


「洗脳手術だ」


「脳をいじくるつもり? お断りだわ」


「そんな野蛮な真似はしない。強力なマインドコントロールと思ってくれ。心だけを従順になるよう変えるだけだ」


「奴隷になれって堂々と言うのね。心が変わったら私じゃないわ」


「今の心が君を幸せにしているとは思えない。嘘の心こそが君を幸せにする。我々は君に不老不死を約束する。研究の時間を永遠に与えよう」


「不老不死なんて信じると思う?」


「延命技術の進歩は知っているだろう。体の一部を取り換え続ければ、今の技術で20年は延命できる。20年の間に30年生きられる技術が生まれる。30年の間に50年、50年の間に百年。永遠にならないはずがない。我々の研究は倫理などという愚かな考えに縛られてはいない」


 神王の話には一理だった。倫理を気にしなければ研究は飛躍的に伸びる。


「本物の君を捨て、嘘の君になれ」


 私は神王の言葉にうなずいた。


 それから私は新世界に入った。天使と呼ばれ、神々に仕えながら、研究を続けた。不老不死にもなり、幸せを感じたことはなかったが、不幸でもなかった。


 何億年か経ったころ、第一次地上探索隊に選ばれた。隊員たちは皆、心が躍った。どんな世界に変わっているのか?


 探索船が突き出すように地上に出ると、中世のような街の中だった。滅んだはずの人間がいた。人間は敵が攻めてきたといって襲ってきた。私たちは猛獣用に用意した銃で応戦したが、数の差は圧倒的に劣っていた。


 隊長のホナークは探索船で急いで地中に潜った。数名の天使を見捨てて。


 私は必死で逃げた。見た目が変わらないので群衆に紛れてしまえば、逃げるのは簡単だった。医者としての技術は地上でも通用したので、食べていくこともできた。


 生活が落ち着いてからは神のために何ができるかを考えた。洗脳が自分を見捨てたやつらを憎むことを許さなかった。いろいろな国を渡り歩き、神のための国にふさわしい場所を探した。


 ゲイブル国に居を定めてから、民衆に神を崇拝させるよう振舞った。医者は貴族たちの好意も得やすい。控え目に行動し、敵を作らないよう注意した。不老不死の私には時間だけはある。急ぐ必要は無かった。そして、私は女王になった。


 女王になってから数年後、ガルバという大商人がやってきた。鉱山師として名を上げた後、自身で鉱山業を起こした大富豪だった。私たちはすぐに互いが第一次探索隊の隊員だとわかった。二人とも名前を変えていなかった。


 数十年ぶりに会ったガルバは変わっていた。自信家で自分のために金儲けをしており、洗脳されているように見えなかった。ガルバは、呪いの道具で洗脳は解ける。だからとお前も神の呪縛から解き放ってやると言った。


 私が拒否しても、ガルバは洗脳されているからそう思う。本当のお前に戻してやると言って、強引に呪いの道具をつけた。私は本当の自分に戻った。同じ境遇の二人の仲は深まり、何億年も愛することを封じられていた私は感情を爆発させガルバを激しく愛した。ガルバも応じてくれて、私たちは結婚し、子が生まれた。


 だが、幸せな時間は短かった。私が爆発させた感情は愛だけではなかった。嫉妬、相手への依存と支配欲、すべてをぶつけた。女王という立場がわずらわしかった。政務が私とガルバの愛を邪魔していると思い、大臣たちを罵倒した。そのうちガルバとも喧嘩が増えた。理由は一つ。私への愛が足りないからだ。


 ガルバが赤ん坊を抱いているとき微笑んでいるのが許せなかった。私は再び赤ちゃんの首に手をかけた。今回も夫に気づかれ止められた。だが、ガルバは前の夫と違い、私を殴らなかった。


「すべて俺のせいだ」


 ガルバはそう言って、国から出て行った。世界中探させたが、見つけることはできなかった。私は感情の持って行く場所を失い。周りに攻撃的になった。赤ちゃんは隠され、私は幽閉された。


 ずっと、私はガルバの最後の言葉を考え続けていた。洗脳を解かれ、元の自分に戻ったことで、こんな目に会っている。だけど、ガルバと恋に落ち、子供を産み、何億年もの人生の中で最大の幸福を感じることができた。


 神が地上に現れても、私は再び洗脳をされることを望まないだろう。それが答えだ。ガルバが呪いをかけたことは間違っていない。


 もうすぐ、幽閉を解かれ、国民の前に立つ。だけど、女王に戻って何をする? 幸せになるのが人生の目標であるなら、私はもう達成した。後はどう死ぬかだけだ。


 私から逃げた憎いガルバ。愛しているわ。

 私が妬み、嫉んだアンナ。愛しているわ。


 愛する二人に幸多からんことを。


 キナミ・ノザシーチ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 読み終わったアンナにモンジが言う。


「どうだ。アンナの母親はガルバを恨んでないし、アンナを愛していた。これが真実だ」


「だとしても、お母さんが呪いをかけなければお姉ちゃんは死ぬことはなかった!」


「呪いがなければアンナが生まれることも無かった」


「だけど…」


「城にあった肖像画はアンナとキナミだ。幸せそうだっただろ。終わりは不幸だったけど、始まりは善意で、途中には幸福もあったんだ」


「ガルバがあたしを見捨てたから、奴隷になったわ! 千年もよ!」


「奴隷から救い出したのもガルバだ。目を治したのもだ。俺は呪いに感謝しているぜ。アンナに出会えた。お前らもそうだろう?」


 3人がうなずく。


「もうやめて! 頭がぐちゃぐちゃになりそう!」


 アンナは立ち上がると、火龍飯店から飛び出すと、ミスリルの鎧で揃えた兵の横を駆けていった。

 シムタラがアンナを見つける。


「ギルド長、アンナです。泣いている様子でしたが…」


「構う余裕は無か。戦場ば集中しろ」


「すいません」


 アバンドーノの外の荒野には各国から集まった軍が、決められた場所に布陣していた。城壁の外に出たギルド軍は各軍の真ん中を、ゴードを先頭にミスリルの武具をつけた冒険者たちが進んでいく。周りから羨望の声が聞こえ、冒険者たちは誇らしげだった。


 遠くから大きな砂塵があがり、アカツキ軍が迫っていることを示していた。すでに北部方面団が別の場所で戦端を開いていたが、主力同士の決戦の場はこの荒野である。


 ★


 アバンドーノの港には各国の王が乗る船が並んでいた。なかなか船から降りようとしない王たちがようやく腰を上げたが、街の中に司令部を置くと言って荒野に出ようとしなかった。

 エルザが王たちの前に立つ。


「全軍の士気を上げる儀式を行う。王の方々にはご協力いただきたい」


「軍の先頭に立て言うのではあるまいな」


「見ているだけでいい。すべて私のほうでやる」


「それなら、まあ…」


 王たちは顔を見合わせてうなずきあった。


「協力に感謝する。やれ!」


 エルザが右手を上げると、3艘の船がそれぞれ、真っ二つに割れ、激しく燃え、粉々に砕けた。キルイとネスコ、赤いゴーレムが現れた。

 3者は手を止めることなく、次々と他の船を沈めていくのを見て慌てた王たちがエルザに詰め寄る。


「何の真似だ。エルザ!」


「今すぐ止めさせろ」


「裏切ったのか!」


 エルザは後ろにふわりと跳び、燃え盛る船の先端に立つ。


「王たちが退路を断って覚悟を示した。これで全軍の士気は上がる」


「負けたらどうする! 我々は死ねば王家の血脈が途絶えてしまう」


「王の務めを果たさぬ、血脈など必要無い! 唾棄すべきクズどもよ。少しぐらいは役に立ってみせろ。行くぞ!」


 エルザが背中から六翼を出して羽ばたくと、キルイ、ネスコ、赤いゴーレムの背に乗ったセゲロが屋根を飛び移りながら後を追った。

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