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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
最終決戦編
53/65

予兆

 シムタラから連絡を受けたガルバがギルド長室を訪れると、ゴードとシムタラが待っていた。木の椅子に座ったガルバが報告書を受け取ると、シムタラは説明を始めた。


「各国で物価が急に上昇しています」


「飢饉が起こったという話は?」


「ありません」


「戦争が近いな。それも全世界を巻き込んだ大戦争だ」


「やはり、そう読みますか。グティンラ王国以外で諸国連合がまとまったという噂もあります。近々、決戦が行われると思いますか?」


「じっとしていてもジリ貧だ。アカツキの勢力圏は広がっているんだろ?」


「竜騎士団にくわえ、北部方面団も精強で、今は大陸の6割はグティンラ王国の支配下となりました。もし、決戦となれば我々も巻き込まれ、どちらかにつかなければなりません。「諸国連合一択だろ。迷う必要はねえ」


「…それが、諸国連合をまとめたのはエルザらしいとモトクから報告がありました。内部協力者から得た情報と言っています。どちらもガルバ様の敵ですので…」


「それで、俺様を呼び出したってわけか。ゴード、お前の判断は?」


「アカツキは冒険者ギルドを認めとらん」


「よし、決まりだ。諸国連合につけ」


「よろしいのですか?」


「構わねえ。師匠と弟子の問題だ。俺様はアカツキとエルザをぶっ飛ばして俺様を封印したわけを聞きたいだけだしな」


「聞く必要がありますか? 世界を支配する邪魔になるからに決まっています」


「ゴードとシュンカならそうだろう。シンプルアホだからな。だが、アカツキとエルザは考えすぎるアホだ」


「おいはシュンカほどアホじゃ無か」


 ガルバはシムタラからペンを借りて報告書の裏に何かを書くとゴードに手渡した。シムタラがのぞき込むと驚きの表情でガルバを見る。


「オーナーを譲渡するのですか?」


「これで俺様を気にする必要はねえ」


「よろしいのですか? しかし、なぜ彼を…。いや、この条件なら…」


「ゴードいいか?」


「良か。メシばするか」


 紙を持ってブツブツいっているシムタラを置いて二人は食堂に向かうと、大きな体を丸めながらランブ―が食事をしていた。冒険者が3人、剣を持って攻撃しているが、鉛色になった肌を傷つけることすらできなかった。


「硬化しながらメシ食えんのか?」


「あんな器用なことばおいにもできん。食べたいという執念じゃ」


 ガルバはランブ―の腹を殴ると、椅子から落ちてうずくまった。A級ぐらいか、と言うとランブ―の食事を食べ始める。そこに筋肉粒々のメイドがツルハシを持って嬉しそうにやってきた。


「いらっしゃっていたんですね! ガルバ様! お久しぶりです!」


「誰だ。お前?」


「ひどい。アキです。あっ、巨乳だからわからなかったのですね。腕立てをやり続けていたらこんなに大きくなったんです」


 アキは大胸筋に力を入れるポーズをとると胸がぴくぴく動いた。


「そ、そうか。いい女になったな。マロッキはどうしている?」


「それが、変なのです。わしだけは生き延びると言って、鉱山夫に地下を掘らせています。私まで狩りだされてしまって」


「今も昔も金持ちの考えることは変わらねえな」


 ★

 

 火龍飯店では長いコック帽をつけたジャポがテーブルにドラゴンのステーキが乗った皿を乗せると、アケビーがナイフを持った。それを見てジャポがフォークを持つ。


「ごめん、切ってくれば良かった。オイラが切るからナイフ貸して」


「平気だポ」


 アケビーは素早い手さばきで肉を押さえずに切った。フォークに持ち替え肉を口に運ぶと、目を見開く。


「こんな美味しいの初めてだポ!」


「ドラゴンの焼き加減に自信が持てたら、一番にアケビーに食べてもらうって決めていたんだ」


「どうしてポ」


「オイラを変えてくれたから」


 ジャポはコック帽を取る。


「アケビー、オイラも一緒に戦う」


「うれしいポ! でもスレイブキングダムは滅んだポ」



「いっしょに戦えれば誰が相手でもいいじゃない」


「そうだよお」


 アンナとランブ―がアケビーの隣に座る。

 テーブルの席は2つ空いていた。アンナが申し訳なさそうに言う。


「モンジは忙しくて来れないって。ネスコは?」


「誰にも連絡がないんだ。どこで何をしているのかな」


 ★


 大陸の南にある海岸の丘に小さな墓があった。その隣にビスカは座り、海を眺めていた。ビスカは後ろに黒円が発現し、エルザとネスコ、キルイが出てきても振り向こうともしない。

 エルザがビスカの後ろに立つ。


「もうすぐ大戦が始まる」


「だから? 勝手にやってよ。見つからない場所を選んだつもりなんだけどなー」


「陽光が心地よく海が見える土地。貴様の兄が行きたかったであろう場所を探した。貴様が兄思いなのは知っている」


「僕の兄さんに対する思いなんてわかるわけない! 兄さんはボクに命と自由を与えてくれた。自分の命と引き換えにしてね!」


「悪かった。貴様が神に縛られていないのは兄のおかげだったのだな」


「そうさ――」


 ★


 ビスカは神の男女から生まれた双子の一人だった。神々は繁殖とトラブルを避けるため、神になるための条件として恋愛は死罪という契約を交わしていた。だが、ビスカの両親はその契約を破った。双子を出産し、隠れて育てていたが、他の神に見つかり、死罪となった。ビスカの両親は殺され、死体は地上に捨てられた。


 だが、問題が発生した。契約上、生まれた子も死刑と定められていたのにも関わらず、反対意見が半数近くあがったのだ。神には大人だけしかおらず、何億年も子供を見ていなかった彼らにとって子供の愛らしさは、捨てたはずの愛情を呼び戻すには充分だった。弁護する側は、契約は当人と結んだものであり子供は結んでいない、と言った。


 意見は分かれ、このままでは神々が二つに割れることを恐れた神王は妥協案を出した。このまま育て、洗脳手術ができる10歳になったら天使に落とすというものだった。神々は納得した。


 双子は隔離された場所で育てられたが、知能の発達具合に比べ、体の成長速度が著しく遅かった。神の一人で遺伝子工学の学者でもあった、ジョス・ホナークは二人の遺伝子を調べ、神同士の子供にのみ現れる遺伝子変化だと唱えたが、他に比較するものが無いため、あくまで仮説の域を出なかった。


 双子が10年経っても10歳相当の体にならなかったので、神王は肉体の成長の待たずに洗脳手術をすることに決めた。反対意見は少なかった。隔離して育てているうちに、神々に忘れられる存在になっていたことと、成長しない不気味さが憐憫の情を上回ったからだ。


 反対意見がゼロでは無い以上、双子を可哀そうと思った神が双子の前で涙を見せたのだ。双子の兄が泣く神に理由を聞くと、洗脳手術のことを話した。双子の兄は動揺する感情を抑え、死ぬわけじゃないですから、と逆に神をなぐさめた。ビスカは意味がわからず、ただ泣いていた。


 その日の夜、ビスカの兄は洗脳とはどういうものか弟に説明した。


「頭の中をいじられて奴隷みたいになるの。そんなのやだよー」


「そうだ。でも、良い方法を思いついたんだ。まず、僕が先に洗脳手術を受ける。戻ってきたらビスカが僕を殺すんだ」


「やだよー」


「そして僕に成りすますんだ。そうすれば洗脳手術されることはないだろ」


「だけど、兄さんが死んじゃうじゃないか。絶対やだ!」


「僕はこんな世界で生きていたくない。死ねば父さんや母さんのように地上へ捨てられる。でもね、地上はここよりももっと科学が進歩しているんだって。だから死んでも、へっちゃらさ。すぐに生き返られるし、手術された頭も治る。ビスカはここで勉強して、地上へ出るチャンスを待つんだ」


「でも…」


「そうしないと僕たちは変えられてしまう。兄弟よりも神が大切って思うようになる。僕はビスカが一番大切なんだ」


「ボクだってそうだよ!」


「だったら、僕の言う通りにして。これがビスカのためなんだ」


 次の日、ビスカの兄は連れていかれた。手術を受けて戻ってきた兄をビスカは数日間観察したが変わったように見えなかった。しかし、ビスカが自分と神々のどちらが大事か聞くと、兄は迷わず神々だと即答した。その日の夜、ビスカは兄を殺した。


 兄の死体を見て驚く神々にビスカは、弟が神をバカにしたから殺した、と言った。神王は、洗脳が効きすぎたかもしれんな、と言い、ビスカの過失ではないと判断をくだした。


 ビスカは他の天使といっしょに暮らし、技術者になるための教育を受けた。新世界での天使の立場は、新世界を保つための技術者で、皆、専門分野では一流の人間たちだった。


 ビスカは地上に出るチャンスを逃さないために勉強した。そして、誰も数億年以上、地上に出ていないことを知って、兄の言葉が嘘だと知った。


 百年経ったころ、第一次地上探索隊が結成された。隊長は神の一人のホナークで、隊員は鉱物学者のガルバをはじめ天使から数十人が選ばれた。しかし、探索の結果は失敗だった。


 人間の肉体能力は神よりはるかに上で、超能力まで持っていた。探索隊は急いで撤退したが、ガルバの他、半数が死亡または地上に置き去りとなった。神々は落胆したが、諦めなかった。人間に対抗する手段として戦闘用ロボットの開発に着手した。


 超能力という言葉はビスカに希望を持たせた。超能力で兄が生き返っているかもしれない。ビスカはあらゆる分野を学び、第二次地上探索隊に志願した。


 第二次地上探索隊の隊長はまたもホナークで、天使ではビスカの他にロボット工学博士のセゲロなど4名がいた。今回は戦闘ロボットが功を奏し、初めこそ順調だったが、人間がロボットへの戦い方を覚えていくと、状況は不利になり、新世界の神王は撤退するようホナークに命じた。


 だが、ホナークは拒絶した。研究していたキメラ<魔物>が完成するので、魔物で人間は滅ぼせると言った。ビスカは安堵した。もし、ホナークが撤退していれば、逃げ出そうと決めていたが、地上で生き残れるかどうか不安だったのだ。


 ホナークの言葉通り、キメラは人間より強力だった。ホナークは強くするのも、繁殖機能を無くすのも簡単だったが、味方を攻撃しないようにするのが一番難しかったと言った。


 そのころには魔石も発見され、セゲロは魔石を使った新しいロボットを開発していた。ビスカは新しい魔法を研究すれば、人間を滅ぼすのに役立つとホナークに進言し、承認された。


 ビスカは百年以上かけて死霊魔法を開発した。そして両親と兄が捨てられた場所に遺体を探しにいった。はじめは人間が支配する地域だったのだが、こちらの勢力下に入ったのだ。


 氷山の中に兄の遺体はあった。他にも遺体はあったが両親の顔を知らないビスカにどれが両親の遺体かわかるはずはなかった。ビスカは兄をゾンビにしたが、兄は何も語らず、うなずくことしかできなかった。


 ★


 すべてを話し終わるとビスカは薄く笑った。


「これで満足した? 知りたがりさん。もうボクには用は無いでしょ」


 エルザはネックレスを外すとビスカに渡した。ネックレスには黄金色に輝く魔石がついていた。


「普通の魔石の輝きとは違うね」


「私が魔力を貯め続けていたら、輝きが変わった」


「賢者の石ってわけだ。でもどうしてボクに?」


「貴様が諦めずに研究を続けていたことは知っていた。行き詰っていたこともな。魔力を強力にすれば糸口が見つかるかもしれないと思って貯めていた。間に合いはしなかったがな。だから、これは貴様のものだ」


 エルザは身をひるがすと、行くぞ、とネスコとキルイに命令した。ネスコが発現させた黒円にエルザが入り、ネスコとキルイはビスカの背中に礼をしてから、後に続いた。

 

「ボクのためにだって…。そんなこと言ってくれるの兄さんしかいないと思ってたよ」


 ビスカは墓にそう言うと、ネックレスを首にかけた。

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