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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
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肉親

 セカンドがビスカと共に地下牢の先にある奥の部屋に入った後、アンナの見張りはフィフスに変わった。


「ねえ、フィフス。しゃがみ跳びの形どう? 崩れてない」


「話しかけるな。黙ってろ!」


「カリカリするのは良くないわ。出口のほうばかり見て、戦いが気になるの」


「当たり前だ! 戦闘奴隷は減り続け、向こうには援軍が来ている。なのに、私まで戦闘から外された。シャーキ様はどれだけ苦労されているか」


「だったら、行けばいいじゃない。逃げないって約束する」


「お前の言葉などどうでもいい! ビスカ様に命令された以上、ここにいることしかできない」


「フィフス、もう行っていいよー」


 奥の部屋からビスカとセカンドが現れた。胸に埋め込まれた魔石が無くなり、肌に塗られた黒いタールも洗い落されていた。フィフスが確かめるようにセカンドの体を触る。


「セカンド、人間に戻れたのか! 良かったな!」


 セカンドはうなずくと、アンナの前に立った。


「泣いてくれるのか」


「もちろんよ。こんなにうれしいことはないわ」


「次はお前の母親の…、ウッ!」


 セカンドは頭を両手で押さえる。


「大丈夫?」


「頭が痛い。意識がぼやけてくる。胸が破裂しそうだ。苦しい! 痛い! つれえ! 痛えよおおお!」


 セカンドがビスカを睨みつけた。

 フィフスがかばうようにビスカの前に立つ。


「お前だな! お前が俺をこんな目に合わせた!」


「成功だと思ったのに…」


「ビスカ様、ここは危険です。シャーキ様を早く!」


「ああ…」


 ビスカが走っていく背中めがけてセカンドが力まかせに殴りつける。

 フィフスが剣を抜き、腹で受け止めるが、衝撃を受け止めきれずに壁に打ち付けられた。

 セカンドの拳と腕から血が噴き出す。


「力が制御できなくなったのか、セカンド」


「うがあああああっ!」


 フィフスの体をセカンドの拳が貫いた。


 セカンドは牢屋の鉄格子を両手で握ると軽々と広げる。

 ぐにゃりと曲がった鉄格子を跨いで牢屋の中に入ってきた。

 アンナが後ずさりする。


「ちょっと待って! あたし、ぐるぐる巻きにされているのよ!」


「うがああああっ!」


 セカンドの拳は空を切り、壁に穴が開いた。


「避け続けるしかないみたいね。集中よ。第二の心臓も頑張って!」


 アンナはふくらはぎに力を入れると筋肉が膨張した。ステップで攻撃をかわしていく。セカンドが乱打を放つがかすりもしなかった。苛立ったセカンドが壁を殴りつける。


「うがああああっ!」


「もう、やめよう。セカンド」


 セカンドが再び殴りつける。アンナはかわすが、セカンドは体に巻かれた鎖の端を掴んだ。


「ちょっと、それは無し!」


「うがああああっ!」


 セカンドが鎖を引っ張ると、アンナの体がコマのように回転した。鎖は引きちぎれながら、アンナの体から離れていく。鎖が無くなったとき、アンナは回転しながら壁に激突した。


「頭がぐるぐる回る~。骨がボキボキ折れてる~」


 アンナはそのまま気を失った。

 そこへ、ビスカがシャーキとファーストを連れてやってきた。

 シャーキが鉤爪を出す。


「セカンド、今、楽にしてやる」


「うがああああっ!」


「シャーキ様、セカンドは私と戦いたがっていました。最後に望みを叶えてやりたいと思います」


 ファーストは剣を正眼に構えた。セカンドが飛び掛かる。


「うがああああっ!」


「冥府で会おう」


 二人の攻撃が交差したと同時にセカンドの首が飛んだ。

 セカンドの体だけゆっくりと歩いていく。体は膨張していき、3歩進んだところで破裂した。

 シャーキはセカンドの首とフィフスの死体を見て、顔をゆがめる。


「戦いを忘れ、研究に没頭した結果がこれか! ビスカ!」


「…あと少し、あと少しなんだ!」


「いい加減にしろ! 国を滅ぼしたいのか! 敵が迫っている。奴隷をかき集めてこい!」


「王宮には太陽の光は入らない。ゾンビで守り切れる」


「甘いな。敵は増援に魔術師隊を呼んだ。こっちの切り札は見抜かれている」


「…そうか。研究に戻る。アンナに見張りはつけなくていい」


 シャーキがビスカに鉤爪を突き付ける。


「戦いに戻らなければ殺す」


「…好きにすればいい。研究をやめるつもりはない」


「ビスカ!」


 シャーキが鉤爪を振り下ろす。

 しかし、ファーストの剣が斬撃を受け止めた。


「私もシャーキ様と心は一つ。しかし、主を守る契約を結んでおります。やるのなら私の命を奪ってからにしてください」


「…お前を斬る理由は無い。行くぞ、ファースト!」


「ハッ」


 シャーキとセカンドは地上へ、ビスカは奥の部屋へ歩いていった。


 シャーキはファーストを戦場へ戻るよう命令すると、国王の部屋へ進む。扉の前には槍を持った戦闘奴隷が衛兵として守っていた。シャーキは、許せ、と言った後、衛兵全員を切り殺した。扉を開け、階段状の台の上にある玉座から見下ろす国王の前に進む。


「ビスカに研究をやめるように言ってくれ。王の言うことならアイツも聞くはずだ」


「うむ」


「よし、すぐに行こう」


「うむ」


「どうした。なぜ、動こうとしない」


「うむ」


「私に運べと言うのか」


 シャーキは舌打ちをすると、国王の前まで駆け上がった。腕を掴んで引っ張ろうとしたそのときズルリと手が滑った。シャーキが手のひらをみると白い粉がついている。


「まさか――」


 白い粉の下から黒い腕が見えた。


「研究は貴様のためだったのだな」


「うむ」


 ★


 ファーストが奥の部屋をノックして入っても、ビスカは手を止めずに作業をしていた。


「何度言っても研究は続ける」


「シャーキ様が戦場を離れました」


「…そうか」


「防衛線が崩れています」


「…国王を連れてきてくれ。場所を移す」


「シャーキ様からの言伝です。貴様の研究は無意味となった、と」


「無意味…」


 ビスカの目が見開く。ファーストを押しのけてビスカは走った。


「兄さん! 兄さん!」



 国王の部屋に入ると、国王の体は修復不可能なほど切り刻まれていた。


「ああ…、兄さん、兄さん」


 国王の体にすがりついてビスカは泣き続けた。

 泣き疲れたビスカが人の気配に気づいて振り返ると、ネスコとキルイが静かに立っていた。


「エルザ様の命により、研究資料とオーゲンラバリを回収に来ました」


「初めから知っていたってことか。回りくどいことをするね。初めから許可してくれれば良かったのに」


「あなたが神の洗脳にかかっているか? かかっていないのならなぜか? エルザ様は興味を持たれました」


「あの人は何でも知りたがる。勝手に持っていけば。ボクにはもう必要ない」


「では、失礼します」


 ネスコとキルイが礼をして、去っていった。


「はは、ははは、何もかもどうでもよくなったよ。死霊術も、奴隷も、この国も兄さんが蘇らないのなら、どうでもいい。もうすべてやめだ!」


 ビスカが両手を合わせると、幾万もの光が飛んで行った。


 ★


 その光は、王宮を攻撃している北部方面団にも見えた。

 オルゴがエゾシカに乗って団長代理の側にやってくる。


「団長代理、いったん兵士を下げよう。死霊導師の罠の可能性がある」


「そうだな。全軍停止! 周りの警戒を怠るな!」


 しばらくすると戦闘奴隷が武器を捨て始めた。

 その光景を団長代理は不審な顔で見る。


「普通に見れば降伏だが、戦闘奴隷の降伏など聞いたことはない。やつらは死ぬまで戦えと命令されているはずだ」


「先ほどの光には見覚えがある。俺が奴隷契約を解いたときと同じ光だった」


「わかった。私が捕虜として砦まで連れていく」


「待て、俺が間違っている可能性があるかもしれない」


「私は君を信頼している」


「なら、俺が捕虜を連れていく」


「この戦場で一番献身的に戦ったのは君だ。オルゴ、武勲をあげろ」


「団長代理…」


「遠慮するな」


「感謝する」


 オルゴは剣を高々と上げて叫ぶ。


「突撃する! 武器を持っていない者は無視して構わん! 俺の後に続け!」

「「「おおーっ!!!」」」


 ★


 アンナが目を覚ますと、折れていた骨がすべて治っていた。セカンドとの戦いは夢だったのかと思ったが、セカンドとフィフスの無残な亡骸を見て現実だと思い直した。横には取り上げられたはずの聖剣も置かれていたので、アンナの頭は混乱した。


「いったい何が起こったの。あっ、お母さんの無事を確かめなきゃ!」 


 アンナが奥の部屋に入ると、母親が横たわっていた。胸に埋め込まれた魔石には光が無く、足は崩れ去っていた。


「お母さん! お母さん!」


「あなたは…、アンナ、アンナなの?」


「話せるようになったのね。でも体が崩れてきている」


「ずーっと靄の中を歩いているようだったわ。でも、さっき靄が晴れたの。良かったわ。消える前にあなたに会えて」


「あたし、お母さんにずっと謝りたかった! ありがとうって言いたかった!」


「おかしいわ、アンナ。私をお母さんだなんて」


「お母さんでしょ。姿は覚えていないけど、声は忘れないわ」


「私は侍女よ」


 母親だと思っていたゾンビはアンナの母親ではなかった。

 アンナはショックで呆然と立ち尽くす。


「あたしは誰なの?」

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