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リスク対策

 馬車がマロッキ商会につくと、アンナはコットと共にマロッキとアキを介抱した。

 ガルバは地下室に残っていたポーションを飲みながらアンナを見る。


――口止めはしたが、何の解決にもなってねえ。アンナの戦闘力じゃ、誰に襲われてもあっけなく殺される。旅には盗賊がつきものだ。一時もアンナから目を離せなくなる。これじゃあ、どっちが従者かわからねえ。破れてしまった臓器強盗の手袋<オーゲンラバリ>は左右ある。右手袋は世界のどこかにはあるんだろうが…。


 ポーションが気管に入ったのか、マロッキはゴホゴホと咳をしながら起き上がった。

 飲ませていたコットを叱りつけるのを見てガルバが笑う。


「そんなに怒るな。入った初日から尽くす、いい使用人じゃねえか」


「…ガルバ様、わしのお仕置きは終わったんですよね?」


「石を投げつけた分はな。<唯我独戦>のメンバーが王都から出て行ったという嘘へのお仕置きはお前の指につけてある」


 マロッキは慌てて両手を広げると、右手の薬指に<疑>と大きく彫ってある指輪がはめられていた。


疑念指輪(サスペンリング)。指輪をはめた人間、つまり俺様がお前に対し疑いを深めるほど、指輪に疑いの思念を貯まっていく。そして指輪の許容量を超えると、疑念が一気にお前の頭に流れ込み、何もかも信じられなくなって狂い死ぬ。正直に話すんだな」


「何という恐ろしい物を…。ですが、正直に話しても、ガルバ様が疑われた場合は?」


「狂い死ぬに決まってんだろ。そいつは嘘を見破る指輪じゃねえ」


 マロッキは指輪を外そうと手に力を込めたが、少しもずれなかった。


――なんて理不尽な。瀕死のときに、とどめを刺ぜば良かった。


「問いに答えろ。<唯我独戦>のメンバーで王都に残っているのは?」


「アカツキ様だけです。他のメンバーは絶対にいません」


「なぜ、アカツキが国王になっている? クーデターで奪ったのか?」


「めっそうもございません。王女を娶り、王族になられたのです」


「エルザを捨てたのか? あいつらは恋仲だったろ」


 エルザは<唯我独戦>のメンバーの賢者だった。


 マロッキはやれやれといったふうに首を振る。


「魔王討伐の一年前には別れていましたよ。ガルバ様は鈍感ですからねえ。女遊びは派手でしたが、恋を知らない。その点、私はロマンスの旅人と呼ばれ、情熱的な恋を何度も――グアァッ!」


 ガルバはマロッキのこめかみを両拳でぐりぐり締め上げた。


「てめえの話は聞いてねえ。あのときの|国王<ジジイ>は<唯我独戦>を毛嫌いしていた。なのに、大事な一人娘をアカツキにやるか? 魔王を封印する手柄を挙げたとしても許さなかったはずだ」


「痛い痛い! それは王子を英雄にしたからです」


「あの臆病小僧を!?」


「ガルバ様がパーティーを裏切った後、いや、今はそう思っていませんよ! 当時の話です。<唯我独戦>は解散しました。リーダーが魔王の仲間なんてイメージが悪いですからね。その後、新しく<唯王独尊>と名を変えてパーティーを組みなおしたのです。新しいリーダーには王子を迎えました。魔王と大魔王を封印し英雄となった王子は、英雄にさせてくれたアカツキ様を騎士団長に推薦し、兄のように慕っていました。王女との婚姻も王子が国王を押し切って進めたそうです」


「その偽英雄はなぜ国王になっていない?」


「突然、亡くなったのです。その後は国が大変でした。病に伏せっていた国王は王子の死のショックで亡くなり、王妃も後を追うように自死なされたのです」


 聞いているガルバの顔が不機嫌になっていったので、マロッキは慌てた。


「嘘じゃありません! 本当に相次いで王族が亡くなったのです」


「疑っちゃいねえ。続けろ」


「その後、有力貴族たちによる内乱が起こり、<唯我独戦>のメンバーも、それぞれ親しい有力貴族に力を貸し、敵対して戦いました。最終的には王女を女王に推戴し、王国騎士団を握っていたアカツキ様が勝利して終わりますが、<唯王独尊>のメンバーは生死不明。他国へ逃れたとも噂されています。王国では<三公の乱>、または<大魔王の呪い>と呼んでいます」


「待て、なんで俺様がここで出てくる?」


「それは…、怒らないで聞いてもらえますか?」


「フン、昔話でいちいち怒っていられるか」


「…その言葉、信じますからね。コホン、王族が連続死するのは、ガルバ様の呪いに違いない。封印された復讐に呪いをもって王国を解体するつもりだったのだ、と」


「また、俺様が悪役か」


「お、落ち着いて。女王が禅譲したのも王家への呪いで、女王が亡くなるかもしれないという懸念があったからです。もし亡くなればまた内乱です。そこで貴族たちが話し合い、女王がアカツキ様に王位を譲る形で国王に即位なされたのです。つ、つまりガルバ様が悪名をすべて被ることで国が丸く収まったというワケで。ガルバ様は知らぬうちに良いことをなされたのですなあ。めでたし。めでたし」


「何がめでたしだ。マロッキ!!!」


「嘘つきいいいいい!!」


 ドガッっという音とともにマロッキの体が壁にたたきつけられた。

 アキはあれだけあった大量のポーションも今日一日で無くなりそうだと思った。

 ガルバはマロッキを殴った拳を見ながら考える。


――今すぐアカツキをぶちのめしたいところだが、やったところで、汚名返上とはならねえ。さらに悪名が高まり、王国全体を敵に回すだけだ。そして、戦いの最中に光った地面。あの結界で動きが鈍り、アカツキのハメ技にやられた。王都には何か仕掛けがある。そして何より俺様には弱点ができた。


 ガルバはアンナを見る。


――旅に出るにしろ、王国を敵に回すにしろ、まずはアンナを強くしねえことには始まらねえ。


 ガルバは視線をアンナからアキに移す。


「誰から戦技を学んだ?」


「は、はい。誰と言いましても、士官学校ですが」


「お前は貴族じゃねえだろ」


「今は平民でも入れます。お金はかかりますが、卒業すれば軍の下士官として入隊できますし、冒険者のD級ライセンスがもらえます。貴族にコネを作りたい親が入れる場合も多いようです」

「ぬるいな。昔は冒険者ギルドにいる古株に、いびられながら覚えた。しんどいがタダだし、同じ境遇同士の仲間もできる」


「もう、そういう時代では…」


「フン。で、お前も無駄金を払ったのか?」


「いえ、家が貧しかったので特待生枠で入りました。身体能力の高い者や、ある程度の戦闘スキルを持っている者には学費を免除してくれるのです」


「お前なら独学でも強くなれたと思うがな。B級の力はある」


「あの戦いだけで私を理解してくれたのですね!」


「別に褒めてねえ」


「すみません。つい嬉しくなってしまった。コホン、いくら戦闘スキルが高くても、読み書きができず、社会的信用も無ければ、ボディーガードをするにしても貴族や大商人は雇ってくれません。だから、学校へ入ったのです」


「冒険者なら物言わぬ魔物をぶっ叩いて、依頼書は仲間に読んでもらえばいい。が、人相手だとそうはいかねえか」


「他にもあらゆるジョブの初級が学べ、自身の適正も知ることができます。図書館も充実しており、やる気と才能があれば上を目指すことも可能です」


「ずいぶんと学校を褒めるんだな」


「私は在学中にB級ライセンスを取りました。学校には感謝しています」


「ふうん――アリだな」


 ガルバは再びアンナをじっと見つめる。

 アンナはどうしていいかわからずモジモジしていた。


――才能があるようには見えねえが…。せめてC級の力をつけば、一人でも盗賊から逃げることぐらいはできる。そうなれば、俺様も自由に動ける。


「旅は延期だ。アンナ、学校に入れ」


「へ!?」


 予期しない言葉に、アンナは顔をポカンとさせた。

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