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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
46/65

実証

 カフイサヤ神国の聖人広場に到着したゴードが見たのは、倒れているガルバだった。

 離れた場所には砕けた赤い女神像があり、側でセゲロが頭を抱えている。

 そして上空には6枚の羽根を拡げたエルザが傷を負っていた。


 エルザが両手を掲げるのを見て、ゴードが走り出す。


「いかん!」


氷塊金字塔(コールドグレイ)


 巨大な氷の逆さ四角錐がガルバの上に発現し、落下する。

 ゴードがガルバを跨ぐように立つ。


「超硬化」


 体が鉛色に変化したゴードが巨大な氷を受け止めた。

 全身の血管が浮きだし、氷に指がめり込んでいく。

 そこを起点とし、氷にヒビが入っていく。


「うおおおおおおおおおっ!!!!」


 ゴードの咆哮とともに、氷は砕け散った。


「おまん、鳥人間になったんか?」


「あなたは相変わらずね」


 傷口を手で押さえていたエルザがクスリと笑った。

 ゴードは背負っていたハルバードを手に持つと、石突きを地面に叩きつけた。


「こっからは、おいが相手じゃ」


「味方と戦う気はないわ」


「おいは敵じゃ。何を言うとる」


「久しぶりに会えてうれしかったわ」


 エルザの羽根を羽ばたかせると、遠くへ飛んで行った。

 遅れて到着したシムタラがガルバにヒールをかけている。

 ガルバは起き上がろうとしたが、立つことが出来ずに四つん這いのまま、荒い呼吸をしていた。


「ガルバ、負けたな」


「ハァ…、ハァ…。負けてねえ。少し休んでいただけだ」


「おまんのそんな姿、初めて見た」


「寂しそうな目で見るんじゃねえ」


「お互い老いたの。ガルバ、昔ば覚えとるか」


 ゴードはガルバの横に座ると、語り始めた。


「おいは童んころから力が強く、暴れまわっていた。皆に鬼子と嫌われて、村ば追い出されたおいはメシばどうやって食えばいいか、わからんかった。


 そんなとき旅人に冒険者ギルドの存在ば聞いた。異国の王都へ行き冒険者になったおいは言葉ば話せんかったが、ソロですぐ名を上げた。童じゃったおいはB級になって調子に乗った。


 おいの鼻柱をへし折ったのがおまんじゃった。ある日、おいを嫌っていた冒険者がギルドの受付に金ば渡して、S級で無ければ倒せないドラゴンの討伐ばおいにさせた。あまりの強さにおいは死ば覚悟した。そこにおまんが現れて苦も無く倒した。強さに憧れたおいは弟子にしてくれと頼んだ。おまんは戦いだけじゃなく言葉も文字も教えてくれた。恩人じゃ。だが、おいは疑問じゃった――」


 ゴードの頭からゴンッという音が鳴り、座った姿勢のまま横に倒れた。

 

「昔語りをやめろ! 俺様は死に際の老人じゃねえ!」


 立ち上がったガルバが血喰い剣の腹でゴードの脳天を叩いていた。


 ★


 エルザは魔王城の外壁に空いた穴に舞い降りると、魔王の部屋に入っていく。

 差し込む外光がエルザの影を長く伸ばすが、奥に進むにつれ影が闇に溶けていった。

 玉座に座り180度回転させる。しばらくすると、壁が様々な光を放ち始めた。

 エルザが光の一つに話しかける。


「神王。ガルバは弱くなった」


「ああ、ゴーレムの目を通して見ていた。しかし、擬態ではないのか? やつは不老不死で病気耐性もある。弱くなる理由が無い」


「これだ」


 エルザはオーゲンラバリを見せる。


「人の一部を自由に取り換えられる呪いの道具だ。私が体の中身を取り換えて、若さを保っていることは知っているだろう」


「ガルバは不老不死だ。使う必要が無い」


「あなたたちには魔力が無い。魔法を使うときには魔石が必要になる」


「そうだ」


「私には疑問だった。なぜ神には魔力が無く、人間が魔力を持っているのか? 答えは胃よ。草食動物は草しか食べないのに、肉食動物顔負けの筋力がある。それは胃の中に動物性の微生物が住んでおり、それを消化することで動物性たんぱく質を得ているからだ。人間の胃の中には魔力を持つ微生物が住んでいて共存している。そして、ガルバは天使なのにも関わらず魔力を使うことができる」


「胃を取り換えた」


「不老不死以外の使い道を見つけたのだ。ガルバはさらに研究した。他人に臓器を預けられないかと…」


「臓器が抜き取られて生きていられるはずがない」


「神の常識ならそうだ。この地上には神も知らない事実がある。魔力があり、呪いがある。死霊術もその一つだ」


「むう」


「否定したい気持ちはわかる。私も疑った。だが、アカツキに心臓を壊されても死なず、ガルバの弟子もシャーキに心臓を壊されて生きている。ガルバが倒れたとき、私は病室でガルバを診ていた。ガルバが起き上がったときも、心臓の鼓動は感じなかった。この事実から導き出せる答えは一つ。弟子に預けた心臓がシャーキに壊された。そしれ今は弟子の心臓で生きている。だから弱い」


「一つの心臓を二人で使っているというのだな。しかし、仮説の域を出ぬ。我々は仮説を信じて痛い目にあった。ホナーク博士がそうだった」


「魔王か」


「ホナークはキメラを作れば人間を絶滅できると断言した。生殖機能をつけず、一代限りにすれば、数十年でキメラも死に絶える。その後、神々が地上へ行けばいいと。我々は許可し、天使であるビスカとセゲロらを補佐につけて、地上へ遣わした。


 しかし、優秀な科学者だったのが仇となった。


 皆、新エネルギーである魔力に魅了された。ホナークたちは人間を絶滅するための研究と言っていたが、新しい物を作る欲求が上回った。結果、ホナークは暴走した。キメラの寿命を延ばし、自身をキメラ化し、キメラを馬、牛、犬のような使役動物にしようとした。


 目的と手段が入れ替わってしまったのだ」


「仮説では無いことを実証してみせる」


 エルザが黒円を発現させ、黒円の中に手を入れると、裸の女が黒円から出てきた。

 黒円が閉じると、今度は手に氷の剣を発現させ、女の左胸に突き刺した。


「この女の心臓は私に移している」


 エルザは胸に刺さった氷の剣をひねる。

 女は苦痛に耐える顔をするが、死ぬことはなかった。

 氷の剣を突き刺したまま、手を放すと腰から短剣を抜いた。

 壁の光に目をやる。


「まだ信用できないだろう?」


 エルザは自分の心臓の位置を確かめるように短剣を持っていくと、一気に突き刺した。

 女の体がビクリと動き、よろけたが倒れることはなかった。

 エルザは女の頬を優しく撫でる。


「よく耐えた。今、私の心臓でお前は生きている」


「大司教様と一つに…」


 女の両目から歓喜の涙が流れた。

 壁の光がいくつも点滅する。


「貴様の心臓はどこにある?」


「少し下にある」


 エルザは左胸の下を触って答えた。


「何度も試したのか?」


「初めてだ」


「死ぬかもしれぬのだぞ。狂っておるな」


「ここまでしなければ、あなたは信じない」


「天界の門を開けというのだな」


「ガルバが心臓を鍛え直す前に」


「よかろう。3年後に門を開く。ただし、少しでも異変があれば中止する」


「フッ、神というのはどうしてこうも臆病なのか」


「神は不老不死だが不死身ではない。我々はか弱いのだ」


 ★


 カフイサヤ教国からギルドへ戻ってきたガルバは腹が減ったので食堂へ向かった。

 ゴードは大きなタンコブを撫でながらついてきている。

 中に入ると標準体型になったランブ―が泣きべそをかきながら一切れの肉を眺めていた。


「減量中か。いらねえならもらうぞ」


 ガルバがつまむと、ランブ―が必死の形相で腕を掴んでくる。


「やめろおおおお!」


「ケチケチすんじゃねえ」


 ランブ―を振りほどき、口へ放り込む。


「今日のご飯があああ!」


 ランブ―は突っ伏してオイオイと泣いた。

 体中には青い痣ができている。


「なんだ、コイツ」


「大切な物を守り切れなければ、ああなる」


「ああ、俺様がお前にやったアレか? ひでえことしやがる」


「ひどく無か。おいはおまんが相手にやって、飢え死にしかけた」


 ガルバの目の前に大量の皿が並んだ。すべて肉を焼いたものだった。

 ランブ―がよだれを垂らして見るが、ガルバは不満気な顔を見せた。

 厨房から出てきた料理長が申し訳なさそうに頭を下げる。


「肉はこれですべてです」


「謝らんで良か。食い意地ば張りすぎじゃ」


 ガルバは食べ終わると、苦しそうに腹をさすっていた。


「ほれ見ろ。満腹じゃ」


「うるせえ、胃を鍛えてんだよ。俺様の顔色はどうだ?」


「悪か」


 ガルバは腕の血管を触り、脈を確認した。


「クソったれが…。ゴード、俺様の金はどれぐらい貯まっている?」


「こんぐらいじゃ」


 ゴードは肩幅に両手を広げる。


「それでわかるか! いくらか聞いてんだよ」


「知らん」


 鉱山の収益からマロッキの取り分と冒険者ギルドの運営費を差し引いた金が、オーナーであるガルバの取り分だった。

 ガルバはナプキンに文字を書いてゴードに渡す。


「依頼を出す。冒険者をアカツキの国へ潜入させて、こいつの場所を調べさせろ」


「アカツキの力ば削るのか」


「それはついでだ」


 ★


 グティンラ王国・国王の部屋でアカツキが机に座り、紅茶を飲む。背後の壁にある地図の赤く塗られた場所が広がっていた。国王の部屋に黒円が発現し、エルザが現れる。アカツキは静かにティーカップを置いた。


「君が来たということは、進んだのだな」


「3年後、諸国連合はグティンラに決戦を挑む」


「受けて立とう。どちらが正しかったかがわかる」


 アカツキは立ち上がると、エルザに近づいていく。


「僕のことを恨んでいるか?」


「もう忘れたわ。さようなら、永遠に」


「来世で逢おう」


 アカツキはエルザを抱き寄せると唇を重ねわせた。

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