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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
44/65

再起

 グティンラ王国・国王の部屋に怒声が響く。

 ミカエルがオルゴを殴り、吹っ飛ばされたオルゴが壁に叩きつけられた。

 アカツキ、カムロン、ナイラが黙って見ている。


「アンナが殺されたとき、何をしていた!」


「すまない、ミカエル。まだ生きているそうだ」


「そうだだって? 自分自身の目で見ていないのか!」


「いや、北部方面団は立て直しの最中で」


 ミカエルはオルゴの胸ぐらを持って立たせる。


「君を副団長に推薦するんじゃなかった。竜騎士団で行く。もし、アンナが死んでいたら、君を殺す」


「勝手な行動は許さぬ」


「父上! なぜ援軍を出さなかったのですか。出していればアンナは!」


「いい加減にしろ! あの女のことは忘れろと言ったはずだ」


「嫌だ! アンナを助ける!」


「ナイラ、この思い上がりを叩きのめせ」


「殿下、お許しを」


 ナイラが剣を抜くのを見てミカエルは不敵に笑う。


「僕に勝てると思っているの?」


 ミカエルが剣を抜いて打ち込んだ。

 ナイラは抜き打ちでミカエルの手首を打つと、ミカエルの手から剣が落ちた。

 素早くミカエルの背後に回り込んだナイラが後ろ手をねじり上げる。


「なんで…。僕の力はS級なのに」


「己の力量も測れぬ未熟者め。竜に乗っていないお前など、B級にすぎぬ。牢で頭を冷やせ」


「なんで僕が牢に! 父上!」


 ナイラがミカエルを連れて部屋を出て行くと、オルゴは改めてアカツキに頭を下げた。


「では、北部方面団へ戻ります」


「その必要は無い。近衛隊副隊長を命ずる」


「父上の差し金ですか? 近衛隊なら危険が少ないから」


 オルゴはカムロンを睨む。

 アカツキは引き出しから封書の束を取り出した。


「カムロン、思い上がりは余の息子だけではないようだな」


「お恥ずかしい限りです」


「北部方面団からの訴えだ。先の敗戦の責任は卿にあり、副団長にふさわしくない。みなそう書いてある」


「そんな…」


「陛下はお前の体面を考えて罷免ではなく転属という形にしてくださったのだ」


「近衛隊副隊長を辞退します。私は北部方面団に戻ります」


「オルゴ! 陛下のご厚意がわからぬのか!」


「北部方面団に卿の席は無い」


「一人の兵として戻ります」


「気でも狂ったか! お前は内務大臣の息子だということを忘れるな! 陛下もお止めください!」


「犬死になるやもしれぬぞ」


「構いません。私の身勝手な行動で多くの兵を死なせました」


「ならば、止める理由は無い」


「陛下!」


「カムロンよ。互いに息子には苦労するな」


 そう言ってアカツキは笑った。


 ★


 王宮の地下牢の前にやってきたソフィーは、看守が用意した椅子に座ると、飾り扇を閉じる。


「ここは涼しくていいわね、ミカエル。あらやだ、虫がいるわ。シャルロットお願い」


「はい、お母様」


 シャルロットが火魔法で虫を燃やした。

 今年、王立士官学校へ入学したシャルロットは幼女から少女に変わっていた。


「母上、父上に牢から出すように言ってよ」


「今夜の舞踏会に出るのなら、取りなしても良くってよ」


「舞踏会には出ないって言っているじゃないか」


「お相手を見つけるには、いい年頃よ」


「僕にはアンナがいる」


「あんな野蛮な娘のどこがいいのかしら」


「お兄様、そんなこと言っているけど、ふられたんでしょ」


 シャルロットがクスクス笑う。


「シャルロット、せっかくわらわが傷つけないように申したのに」


 たしなめるソフィーの顔にも笑みが浮かんでいた。


「ち、違う! 父上と母上が反対するから、今はアンナが遠慮しているだけなんだ…。いつかいっしょになると約束した」


「嘘だあー」


「証拠はある! アンナは僕たち二人の名前を記した聖剣を大事に持っている」


「まあ、呆れた。聖剣を渡したのですか? 陛下が知ったらジョークでは済みませんよ」


「結婚すれば王家に戻ってくるし…」


「わたし知っているわ。お兄様がかわいらしいドラゴンにアンナって名前つけていること。友達にこういう男って、どう思うって聞いたら、未練タラタラねって馬鹿にされたわ」


「まあ、気色ちが悪い。偏執狂ではありませんか。アンナが可哀そう」


「クッ…」


 分が悪いと思ったミカエルは話を逸らす。


「母上も先代に反対されたって言っていたじゃないか。それでも結婚したんでしょ」


「わらわはあなたよりひどかったわ。父上も母上も理由を言ってくれなかったもの。ただ嫌な顔をするだけ。お兄様が強引に進めなければ、結婚できていなかったわ」


「今でも理由はわからないの?」


「お母様が話してくれたわ。でも信じなかった。三公の乱で不貞を疑われて、心が壊れていたときだったから。質の悪いジョークと聞き流したわ。まあいいでしょう。わらわも鬼ではありません。舞踏会は出なくてよくってよ」


「わかってくれたんだね」


「どうせ振られているのだから、いつか気が変わるでしょう」


「お母様ってば、鬼ですわ。フフフフフ」


「ジョークよ、ミカエル。ホホホホホ」


 二人の笑い声が地下牢にこだました。


 ★


 北部方面団砦にオルゴが戻ってきたので、兵士たちは落胆した顔を見せた。

 広場に全員を集めさせると、オルゴは自分のマントを兵士長に渡す。


「団長代理は貴様だ。陛下から任命状も預かっている」


「すると、オルゴ様は王都へお戻りに」


「兵士として残らせてくれ、頼む」


 頭を下げるオルゴの姿を見て、兵士たちがざわつく。

 兵士長は意外な申し出にとまどったが、オルゴに優しく語りかけた。


「それでは、私の警護をしてもらいましょう」


「許されるのなら、門の守備をさせて欲しい」


「門を? 吹雪の中で立ち続け、敵が来れば真っ先に戦わなければいけない場所ですよ」


「だからだ」


「お断りします。門は償いの場ではありません」


「そうじゃない。兵の気持ちを知りたいのだ。俺はわかろうとしなかった。皆の凍えるつらさを! 襲われる恐怖を! 立ち向かう勇気を!」


「いいでしょう。ただし、職務を果たす能力が無いと判断した場合、配置を変えます」


「感謝する」


 その日の夜から、オルゴは門の前に立った。

 雪が降る中、他の門番が門のかがり火に手をあてて暖を取る。


「オルゴ様も、いっしょに火に当たりませんか?」


「俺はいい」


 オルゴの言葉を聞くと、門番はかがり火から離れて立った。

 門の上から人影が飛び降りるのを見て、オルゴが構える。


「モンジか。紛らわしい真似をするな」


「いい加減、つまんねえプライドを捨てろ」


「プライドは捨てた。この姿を見ればわかるはずだ!」


「門番がかがり火に誘ったとき、こう思っただろ? 軟弱な奴だ。俺は違う。って」


「それは…」


「また兵を死なせるな。お前は」


「かがり火ぐらいで大げさに言うな!」


「言うね。門番がかがり火にあたっていたのは、敵が来た時に体が動きやすくするためだ。それをお前は自分の思い込みで理由も聞かず断った。そして門番はお前に遠慮してかがり火から離れる。これで二人とも戦力ダウンだ」


「…そうなのか」


 門番がうなずく。


「はい。ここで働く兵士は皆知っています」


「今までずっと、火にあたる兵の姿を見て惰弱な兵だと思っていた…」


「兵士の気持ちを知りたきゃ、兵士の行動を何も考えずに真似しろ。ダメな部分もだ」


「ダメな部分はいいだろう」


「今みたいに理由があるかもしれねえだろ」


「そうだな」


 モンジは腰から少し短い剣を外すと、オルゴに差し出した。


「お前にやるよ」


「この剣は…、団長の…」


「親父の形見が欲しくてずっと探していた」


「いいのか?」


「人は変われると親父は信じていた。変わろうと思っている人間が持っていたほうが親父も喜ぶ」


 ★


 火龍飯店の厨房で、ジャポはコック帽を取ると、シュンカの前に置いた。


「大魔導士の弟子にしろって? ウチで料理長を目指すんじゃないの?」


「ネスコたちの友達でいたいんです」


「ケンカでもした?」


「戦いが怖くて逃げていたのに、気づいたら友達の心から離れていました。アケビーは片腕になっても強くなろうとしています。みんな自分のためじゃない! 友達のためなんです! このままじゃ、オイラは胸を張ってみんなの友達だと言えません!」


「うーん、そうだなあ。じゃあ、仕入れに連れてくか」


 横で聞いていた料理長がギョッとした顔をする。


「まだ、早いのではありませんか?」


「なんとかなるっしょ」


 シュンカが黒円を発現させる。


「オイラは魔法の修業を――」


「行くよ!」


 シュンカはジャポの首根っこを摑まえると、黒円の中に放り込んだ。


 ★


 スレイブキングダムの独房で、アンナは腕立て伏せを延々とやっていた。

 半裸に体をタールで黒く塗ったセカンドが見張り役として立っている。


「鍛えるのが好きなんだな。気持ちはわかる。俺もヒマさえあれば鍛えていた」


「セカンドもやればいいじゃない。あたし、お母さんが見つかるまで脱走する気なんてないわ」


「ゾンビの肉体は死んでいる。鍛えても成長しない」


「そっか。それじゃあやる気は出ないわよね」


「突きを強化したいのか?」


「違うわ。どうして突きなの?」


「大胸筋は突きの強さに関わる筋肉だ」


「そんなことがわかるの!」


「ファーストを超えるために鍛え方を考えた。そのときに調べた知識だ」


「じゃあ心臓はどうやって鍛えるの?」


「心臓はわからないな。ただ第二の心臓と呼ばれる筋肉は知っている」


「第二の心臓があるの!? 第二の肺なら知っていたけど」


「ふくらはぎだ。鍛えれば血の巡りが加速する」


「鍛え方を教えて!」


「しゃがんで跳べ」


「ダメダメのダメ~。セカンド、余計なこと教えるなよー」


「申し訳ありません」


「あたしがお願いしたの。セカンドは悪くないわ」


「騙されちゃダメだよ、セカンド。この女は嘘つきだからねー。鍛えたら、恩を忘れて脱走するよー」

「嘘なんかついてない! ついたのはビスカのほうじゃない!」


 昨日、アンナへ食事を配膳してきたゾンビ女が母親だと名乗ったが、すぐにアンナは声で別人だと見抜いた。


「早く喜んで欲しかったからさー。優しいんだ、ボクは」


「だいたい、お母さんが心臓の謎を聞いてくるわけないでしょ!」


「お互い様だろー。セカンド、嘘つき女を縛り上げてー。稽古させなーい」


 セカンドが独房に入り、アンナを鎖で巻いていく。

 たちまちアンナの上半身はぐるぐる巻きにされた。


「ちょ、ちょっと待って! 話すから!」


「どうせ嘘だろ」


「オーゲンラバリって呪いの手袋があるの。人の体を自由にいじられるみたいで、ガルバ様に実験だーって他人の心臓を入れられたわ。ひどい話でしょ。だから言いたくなかったの」


「色と長さは?」


「黒くて肘まであったわ」


 ビスカの脳裏にエルザが地下神殿でやっていた儀式が浮かぶ。


――あれか? 強力な幻覚魔法だと思っていたが。


「ガルバはキミとオーゲンラバリを交換してくれるかなー」


「無理よ。オーゲンラバリはアカツキ様に破壊されたわ。ガルバ様は持っていない」


「キミの言うことはいつも都合が良すぎるねー」


「だって、本当だもの! もう片方のオーゲンラバリはエルザさんが持っているそうよ」


 ビスカの表情が固まる。


「半分信じるよ。ここにくるゾンビ女の数を増やしてあげる」


「稽古は? 鎖をほどいてよ!」


「ダメダメのダメ~。信じたのは半分だよー」


「ちょっと待って! それだと困るの!」


 アンナの叫びを無視して、ビスカは立ち去った。


「セカンド、お願い。鎖をほどいて」


「主の命令には逆らえない」


「稽古したいのよ!」


「下半身が動き、鎖は重りになる。稽古の質が上がるな」


「そっか! ありがとう、セカンド」


 アンナはしゃがんで跳ぶ稽古を始めた。

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