貫かれた心臓
スレイブキングダム国・王宮の一室。雪夜の戦いの翌日。ビスカとシャーキの前にはシングルスのセカンドとフォース、そしてアンナの体が床に横たわっていた。
「シックスとセブンスの体はバラバラで使えなかった」
「S級のジジイを殺せたから、いいんじゃなーい」
「この娘もゾンビにするのか」
「もったいないしねー。そんな顔するなよー。キミが奪いたかったのは生きているアンナでしょ。死んだアンナはボクのものー」
ビスカは魔石をセカンドの胸に押し込むと、魔石が赤く光り、セカンドが起き上がる。
セカンドが胸の魔石を触ると、自分がゾンビだと把握した。
「死んだ俺はもう強くなれないのですね…」
「ゾンビだからねー。それをつけてれば僕が魔法を使わなくても動けるから。10日間で魔力が切れるから交換を忘れないでねー。体に塗るタールは隣の部屋ねー」
続けて魔石を埋め込まれたフォースが起き上がる。
「ありがとうございます」
「キミは王宮門の見張りねー。もう寒さは気にならないでしょ」
フォースは半裸のまま門へ向かった。
ビスカはアンナの服をはだけると胸に魔石を押し込んだ。
「いったあ!」
アンナは胸が露わになっているに気づくと、驚くビスカの頬を思いっきりビンタした。
「見ないでよ、変態!」
「動くな」
シャーキの鉤爪がアンナの首筋にあてられる。
「ビスカ、もうゾンビになったのか?」
「…違う。生きている」
アンナがゾンビという言葉に反応して、ビスカの袖をつかんだ。
「お母さんは! お母さんはどこにいるの! ゾンビ使いならわかるでしょ!」
「動くなといっただろう!」
鉤爪が食い込み首から血が流れてもアンナはビスカを放さなかった。
「…母親がゾンビなのか?」
「そうよ! 雪の中であたしを呼んだの! お願いだから会わせてよ!」
「ビスカ、娘の首を刎ねるぞ」
「この娘はボクのものだ」
「それは殺した後の話だ」
「生きている原因を調べたら返す。ボクに逆らうな」
「我はお前の奴隷でもゾンビでもない」
ビスカとシャーキが睨み合う。
そこへ王宮門の見張りへやったはずのフォースが火ダルマになって戻ってきた。
「…敵の焼き討ちです。戦闘奴隷が防戦しておりますが、抵抗難しく」
「半死半生の北部方面団にそんな力が残っていたのか?」
「…北部方面団ではありません。敵は一人」
そこまで言うとフォースの体は炎に包まれたまま崩れていった。
ビスカとシャーキは王宮のテラスに出て外を見る。
「雪原が割れている…」
遥か遠くから王宮の門まで一本の道ができていた。
雪で覆われているはずの大地が見え、門の前では渦を巻く火柱が上がっている。
「この炎の凄まじさ。間違いないね…」
「出てきたね。死霊導師、全部灰にしてやる」
「大魔導士シュンカ・オーバ! アカツキについたのか!」
ビスカから余裕ぶった口調が出てこないことが、シャーキに事態の深刻さを感じさせた。
「んなわけないじゃん!」
「なら、戦う理由は無い」
「そっちになくてもこっちにはあんの。お兄ぃと看板娘の敵討ち!」
「誰だ、それは? キミは勘違いをしている」
「ガルバとアンナ! 常識だよね!」
シュンカの後ろの火柱が大きくなる。
「ビスカ、私が殺る」
「よせ。シュンカの火炎が王宮に燃え広がれば、兄さんが巻き込まれる」
ビスカが後ろに控えているセカンドにアンナを連れてくるよう命じた。
「シュンカ! アンナは生きている! 今、その証拠を見せる!」
「騙したら、後が怖いよ」
シュンカはそう言いながらも火魔法を放つ手を緩めない。
「セカンド、早くしろ! せっかく、北部方面団の戦力を減らしたのに…」
セカンドがアンナの後ろ手をひねり上げながら連れてきた。
アンナはシュンカを見て喜ぶ。
「シュンカさん!」
「良かった! 生きていたんだね。後ろのゾンビ、アンナから手を放しな」
「あの女の言う通りにしろ」
ビスカが命令すると、セカンドはアンナを自由にした。
「アンナ、降りてきな。店に帰るよ」
「シュンカさん、あたし帰らない! ここに残る!」
「ハァ!?」
シュンカは呆気に取られ、ビスカとシャーキが顔を見合わせる。
「冗談言っていると怒るよ」
「本気よ!」
シュンカのこめかみに血管が浮き上がる。
「…裏切って、お兄ぃを殺したやつらにつくってこと? 灰にしてやる!」
火柱が赤色から青色に変わる。
「ガルバ様は死んでないわ!」
「心臓が止まってたんだよ!」
「それでも生きているわ! あたしにはわかるの!」
アンナの言葉には迷いが無かった。
シュンカの瞳から涙がこぼれる。
「お兄ぃは…、お兄ぃは本当に生きているの?」
「絶対に!」
「わかった。必ず帰ってくるんだよ。ビスカ! この子を殺したら承知しないよ」
シュンカは黒円を発現させると、帰っていった。
ビスカは胸を撫でおろす。
「嘘が上手だねー。助けてくれたお礼に仲間にしてあげるよー」
「嘘じゃないわ!」
「シャーキ、アンナはボクが預かるよー」
「ガルバが死んだのなら、娘はどうでもいい。被害状況を確認してくる」
シャーキがテラスから飛び降りる。
「だから生きているって! どうでもいいって何よ!」
「大声だすと、傷が開くよー」
「傷? 痛ったああああっ!」
アンナは胸の傷を押さえるとうずくまった。
「キャハハハ! 痛みを忘れるほど興奮してたんだ。セカンド、アンナを牢へ連れてってー。あそこにもポーションあるから」
「ちょっと! お母さんに会わせてよ!」
「それも嘘かもしれないからねー。信用できたら出してあげるよー」
「あたしは嘘つきじゃない!」
セカンドがアンナの襟首を掴むと、引きずりながら牢へ向かった。
★
その日の夜。アンナはポーションで傷が癒えたことを確認すると、剣を持ったつもりで、素振りを始めた。
「これでどちらかわかるはず」
素振りを続けたアンナは、夜が明けるころ、床に大の字に倒れていた。
顔が汗と涙で濡れている。
「お願いだからバテないでよ! 失ったのがガルバ様の心臓になるじゃないの! ごめんんなさい…。ごめんなさい…」
アンナは泣きながら、ガルバに謝り続けた。
★
泣き疲れて寝ていたアンナは胸にあたる手の感触で目を覚ました。
ビスカがアンナの胸に手を当てていた。
アンナがビンタをする。
「どんだけおっぱい好きなのよ! 子供のうちからそんなんだと変態になるわよ!」
「キミより何百年も先輩なんだけどなー」
ビスカが頬をさする。
アンナは服で胸を隠した。
「おかしいなー。心臓って勝手に復活しないんだけどなー。どういうこと?」
「知らないわ。それより、お母さんに会わせて」
「そもそもキミの母親を知らないって。顔や体の特徴は?」
「わからない。わかるのは声だけ。あたしが探すから自由にして」
「キミにしか見つけられないってこと。嘘嘘の嘘~。そう言って王宮の中を探るんでしょ」
「嘘じゃない! ずっと探し続けたお母さんなの!」
「…ゾンビでもいいの?」
「何だっていい! 会ってありがとうって言いたいの! お母さんは命を懸けてあたしを守ってくれた」
「そうか…。明日から食事を女のゾンビに用意させる。毎回、違うゾンビに変えるから、母親かどうか確かめて」
「ありがとう! ビスカ!」
アンナがビスカの手を握りしめる。
「様をつけろよ。バ~カ」




