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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
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雪夜の戦い②

 ネスコの指示により、慣れないながらもアンナたちはフォーメーションを組んだ。しかし、周りにいた兵が退却していくにつれ、シャーキだけではなく、ゾンビからもオルゴを守らなければいけなくなった。


 ネスコがゾンビに火魔法を使うと激しく燃えた。


「そういうことか」


 何かに気づいたネスコがオルゴを中心に半円を描くようにゾンビを燃やしていく。


「炎が燃え上がって壁みたいになってるわ」


「ゾンビが寄ってこないよお」


「油をかけたようだポ」


「実際、そうなんだ。ゾンビが黒いのは油を塗っているからなんだ。どんな理由かはわからないけど、今は利用させてもらう」


「背後を気にせず戦えるポ!」


 炎に照らされたシャーキが口元で笑う。


「そうだな。逃げられる心配がなくていい」


 シャーキの鉤爪が唸るような風切り音を立て襲ってくる。

 力自慢のランブ―さえ剣で受ける際、後ずさるほどの威力だった。

 アンナは受けずに横っ飛びでかわすと、ネスコが叫ぶ。


「アンナ、小さくかわすんだ。離れすぎると連携できない!」 


「そんなこと言ったって、速すぎて――」


 アンナは言葉を止め、棒立ちになった。


「どうした? アンナ!」


「お母さんの声がしたの!」


 アンナはゾンビに向かって走っていく。


「ねえ、どこにいるの! 返事してお母さん! お母さーん!」


「どうするポ」


「シャーキとアンナの間に割って入る。アンナが正気を取り戻すまで3人で耐えるしかない」


 アンナはゾンビの攻撃を避けながら、声の主を探す。

 しかし、顔を知らないアンナが見つけることはできなかった。


「ねえ、ネスコ! 母さんの声が聞こえなくなった!」


 振り向いたアンナの目に入ったのは、血を噴き出しながら宙を舞うアケビ―の右腕だった。

 倒れるアケビーをランブ―が抱きかかえる。


「アケビー!」


 アンナの右目が赤く輝く。


「よくも! よくも! アケビーを!」


「アンナ、止まれ! 一人じゃ無理だ!」


 アンナがシャーキの間合いに踏み込む。


「ぶっ飛ばしてやる!」


 シャーキが応じるように雄叫びをあげる。


「キイイィヤアアアァッ!」


 アンナの繰り出した突きが、シャーキの被っている毛皮を刺し、顔が露わになる。

 シャーキの鉤爪はアンナの左胸を貫いていた。

 シャーキがアンナを貫いたまま上に掲げる。


「フハハハハ! ガルバから一つ奪ってやったぞ!」


「アンナが…、アンナが…」


 ネスコたちはそれ以上の言葉も出せず、その場で膝をついてまま固まっていた。

 ビスカが巨象骸骨の上からシャーキに言う。


「喜んでるとこ悪いけど時間切れ。残りは次ねー。シングルスも目的を達成したし。さあ、ゾンビちゃんたちも魔力の切れないうちに帰るよー」


 シャーキは舌打ちすると、アンナを持ったまま巨象骸骨に飛び乗った。

 その後ろからゾンビがゾロゾロとついていく。

 オルゴが恐る恐る立ち上がる。


「助かった…。おい、貴様ら大丈夫か!」


 しかし、誰も返事は返さなかった。

 ネスコは膝をついたまま呆然とし、ランブ―はアケビーの傷口を縛っていた。


「返事をしろ! おい!」


 大声を出すオルゴに引上げ中のゾンビが襲い掛かった。


「ひぃっ!」


 襲い掛かったゾンビが燃え上がる。ゾンビが倒れると雪の中から兵士が現れた。

 兵士は黙ってオルゴの頭を掴むと地面に抑えつけた。顔の半分が雪に埋まる。


「何をする!」


「大声を出すな。術者から離れるほどゾンビは勝手に動く。やつらは音と熱に反応する。夜が明けるまで死んだふりしとけ」


「俺は副団長だぞ…」


「頭に無能ってつけるのを忘れているぜ」


「無能…。そうだな…」


「雪の中で頭を冷やしな」


 兵士は立ち上がると、ランブ―、アケビー、ネスコの3人を担いだ。


「凄い力だな。名を教えてくれ…」


「俺か? 不死身のモトク様だ」


 オルゴは緊張が解けたのか、雪の中で眠った。


 温もりで目を覚ましたとき、オルゴはモンジに背負われていた。

 朝日に照らされた雪原が輝いている。兵士の死体が散乱していなければ、きっと美しさに息を飲んでいただろう。


「助けて…、くれたのか…。感謝する」


「俺はな、お前なんて助けたくなかった」


「…じゃあ、どうして?」


「親父の遺言だ…」


 雪の上に小さな穴がいくつもできた。

 モンジの背中が震えているのを感じて、オルゴは何も言えなくなった。


 ★


 砦から離れた雪原では倒れているガルバをシムタラとその部下が手当てしていた。

 ガルバが北部方面団の砦に向かった後、ジャポが冒険者ギルド支店に駆け込み、シムタラにすべて話したのだ。シムタラは支店にいた部下を引き連れ、ガルバを追った。


 シムタラの横でモトクが呆れた顔をする。


「見渡す限り、粉々になったゾンビで埋め尽くされている。とんだ化け物だよ」


「アンナは本当に殺されたのですか?」


「心臓を一突きだ。間違いねえ」


「転移魔法が使えれば…。私もガルバ様もこの場所に来たことがなかった」


「スレイブキングダムは十年前にできた国だ。俺も依頼で無けりゃ、こんな北の果てに来ねえよ」


「助けられなかったのですか?」


「死んじまったらシャーキの情報を持って帰れねえだろ」


「…そうですね」


 依頼が最優先。冒険者ギルドの基本原則だ。それを守れないギルドは実力があっても信用はされない。だからこそ、シムタラはモトクを非難しなかった。


 モトクはガルバの顔をのぞき込むと枝でつついた。


「死んでんのか? この化け物」


「やめてください!」


「谷に突き落とされたんだ。これぐらいやらせろ」


「心臓が動いていません。ただ呼吸はしています」


「無傷だぜ。毒か、病気か」


「わかりません。シュンカ様なら治療法を知っているかもしれない」


 シムタラは立ち上がると黒円を発現させた。

 人の3倍ほどもある直径にモトクが驚く。


「才能あったんだな。A級でも上位レベルだ」


「転移魔法だけです。お前たちはガルバ様を支店のベッドへ運べ。私も後で行く」


 シムタラの部下たちがガルバを持ち上げ、黒円の中に入っていった。


 ★


 オルゴが砦に戻ったとき、中は負傷者であふれかえっていた。動けるものは皆、ポーションや薬草で手当てをしている。オルゴは被害状況を見て回ったが、兵士たちはオルゴを無視した。

 オルゴが横を歩くモンジに言う。


「皆、疲れているのだろう。話す元気が無いのも当然だ」


「副団長室へ入って鎧を脱いできな」


「なぜだ。どこも壊れていない」


「砦の中で綺麗な鎧を着ているのはお前だけだ」


「だが、それでは副団長としての威厳が――いや、助言に従おう」


 オルゴは足早に副団長室へ向かった。

 モンジは外を見る。


「親父、あいつも少しは変われるかもな」


 食堂の机の上には料理ではなく、負傷者が寝かされていた。その中には右腕を失ったアケビーもいる。その横でネスコは自分を責め続けた。


「火魔法を覚えたぐらいで、強くなった気でいたのか? なぜ、シャーキの誘いに気づかなかった? なぜ、逃げる方法を探さなかった? 連携で戦ってみたかったんじゃないのか? リーダーになった気でいたのか? 冷静に考えればアンナは死なず、アケビーは右腕を失わなかった。僕は度し難い愚か者だ!」


 モトクがネスコの肩に手を置く。


「お前さんは良くやった。俺なら全員死なせていた」


「いいえ、僕がもっと――」


「うぬぼれんじゃねえ! そんな考えじゃまた仲間を殺すぞ!」


 モトクが殴ろうとするのをシムタラが止める。


「モトク! 慰めるならやり方を選んでください!」


「悪りぃ。ガルバもぶっ倒れちまった。お前さんが相手していたのはそういう敵だってことさ」


「師匠が!?」


「助けに来ていたことも気づかなかったのか?」


「どこにいるんですか!」


「今はアバンドーノです。あなたたちも帰りましょう。ランブ―はどこに?」


 ネスコが厨房を見ると、ランブ―が厨房で大鍋を振っていた。焼けた米が舞い、おいしそうな匂いが食堂に広がる。


「みんな、ご飯できたぞお。食わなきゃ、おでが食っちゃうぞお」


「あなたはいつも通りなのですね」


「美味いチャーハンは万能薬だよお」


「んなわけねえだろうが」


 モトクの突っ込みに周りから笑い声が起こる。


「だが、美味そうだ。一口だけくれ――おっ! 一口じゃ止まらねえ。みんなも食え! 怪我人にも食わせてやんな」


 兵士たちが大鍋に集まり、暗かった食堂の空気が明るくなった。


 ★


 冒険者ギルド支店のベッドでは、老いた回復術師が額に汗を浮かべながらガルバに魔法をかけていた。その傍でルザンヌが心配そうに見ている。シュンカがわんわん泣いていた。


「お兄ぃ、ごめんよー。アタイがアンナたちを行かせたから! 仇はとるからね! 全部焼き尽くしてやる!」


「シュンカ様、まだ死んでいませんわ。先生、この国で一番の回復術師なんでしょ! 何とか助けてください!」


 部屋に黒円が現れると砦から戻ってきたシムタラたちが出てきた。

 シムタラの横をシュンカが過ぎ、小さくなっていく黒円の中に飛び込んだ。


「シュンカ様! どういうことです?」


 シムタラがルザンヌに聞いた。


「きっと仇討ちにいったんだわ」


「じっとしていられない気持ちはわかりますが…。ガルバ様が助かる見込みはありますか?」


 老回復術師が首を振る。


「すべての回復魔法を試してみたが変化は無い」


 ネスコがガルバの病床にすがりつく。


「そんな…、師匠まで…」


 アケビーとランブ―も声をあげて泣いた。


「ピーピー、ピーピー、うるせえ! 寝れねえじゃねえか!」


 ガルバがむくりと起き上がった。

 全員が驚愕し、安堵の表情に変わった。


「「「良かった!」」」


「うるせえって言ってるだろうが!――うっ、何だこれは」


 ガルバが頭を押さえると黙り込んだ。


「病み上がりで、頭に血を上らせるからよ。はい、お水」


 ルザンヌに渡された水を飲み干す。


――雪の中で戦っている最中、突然、苦しくなって倒れこんだ。あのとき何が起こった。今もそうだ。俺様は貧血なんて起こしたことなどねえ。


 ネスコ、アケビー、ランブ―が両手をついて頭をさげる。


「師匠…、アンナが殺されました…。すいません!」


「そういうことか」


 ガルバは左胸を触る。


「アンナは死んでねえ」


 モトクが剣を突く仕草をした。


「心臓を一突きだぜ。絶対、死んでるって」


「モトク! ガルバ様が弟子を気遣っているのがわからないのですか!」


「シムタラ。そうじぇねえ。わかんだよ。俺様には」

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