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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
37/65

3年後

 ガルバたちがアバンドーノに腰を据えてから3年が過ぎた。その間にアカツキの領土は世界の3割から5割にまで増やしている。


 港湾国家アバンドーノには冒険者ギルド支店が出来ていた。

 支店長のシムタラが机の上に積まれた報告書の中から1枚手に取ると、ガルバに見せる。


「また、アカツキが国を落としました。領土拡大の早さが異常です」


「国が成長すりゃ、戦争も強くなる。不思議なことじゃねえ。ましてやあの――」


「竜騎士団。数は少なくても恐ろしく強いらしいですね」


「空を制されちゃあ、高い城壁も無意味だからな」


「戦いの常識が変わりました。各国は慌てて大弓を買っているようです」


「マロッキは笑いが止まらねえな」


 マロッキはアンナたちからミカエルの話を聞くと、値千金の情報だ。大儲けができるわいとほくそ笑み、冒険者ギルドに対空用の大弓の買い付けを依頼した。魔物がいる時代は空から襲われることはあったが、魔物が消え、人間同士の戦いになると、使い道が無くなり、各国の倉庫に眠っていた。マロッキはそれを安く買い叩いた。その大弓を今、各国に高値で売っている。


「竜騎士団ですが、ミカエル以外はすべて平民で構成されているようです。アカツキが平民出身だからでしょうか?」


「もう統一した気でいやがるんだよ」


「どういうことですか?」


「知らねえ」


 ガルバは立ち上がると報告書の束を手に取る。すべて、エルザ捜索に関してのものだった。


「これ、書かせなくていいぞ」


「そういうわけにはいきません。ガルバ様の好意で、成果は関係無しに冒険者に活動費を渡しています。そうすると中にはどうせ見つかりっこないとサボる者が出てくるのです。だから、仕事をしている証拠として、各国で見聞きしたものを書かせています」


「文字が書けねえやつもいるだろ」


「絵で出せと言っています。同じ国に何組もパーティーが行っているので、文字の報告書と組み合わせて見ると面白いですよ」


 シムタラに言われた通り、ガルバは組み合わせて読んだ。


「これは売れるな」


「ただ報告書ですよ?」


「すべてまとめれば、世界各国の情報が絵付きでわかる。そしてアバンドーノには世界で商売している商人が集まっている。必ず買う」


「そういうものですか。やってみましょう。それと、ガルバ様宛の依頼者ですが、またやってきました」


 ガルバの眉が上がる。


「ええ! もちろん、断りました! ですが、しつこくて――」


「大体、何で冒険者ギルドのバックに俺様がいることを知っている。お前がしゃべったのか?」


「とんでもない! 冒険者たちにもしっかり口止めしています。ただ、この依頼者なら知っていてもおかしくないかと…」


「いないで通せ。わかったな」


 ★


 火龍飯店の厨房で働いているモヒカンズはシュンカにダサいから禁止と言われ、それぞれ髪を伸ばしていた

 コック帽をかぶるジャポを見て、アンナとモヒカンズが感心する。


「に、似合ってるかな?」


「胸を張っていいポ」


「ジャポの魔法の才能がこんなにあるとはね。大分、差をつけられたよ」


「おでなんか、全然だよお」


「かっこいいわ。背も高くなったし」


「アンナだけは全然成長しないけどな」


「気にしてるんだから言わないの!」



「魔法が上手くても、中身が臆病者じゃ意味ねえよ」


 アンナが振り向くと、モンジが調理台で食事をしていた。


「いつからいたの? あー、またあたしたちのまかない食べてる!」


「働いてないのに食べちゃダメだポ」


「気配を消すのが上手い」


「立派なコソ泥になれるな」


 ジャポが嫌味を言い返した。

 モンジがレンゲを投げ、ジャポが燃やして灰にする。


「やるのか、てめえ」


「売ってきたのはそっちだろ?」


「もう! 二人ともやめてよ!」 


 シュンカが鉄鍋をオタマでガンガン鳴らす。


「くっちゃべっていないで、ちゃきちゃき働く! VIP席にお客さんよ」


「「「はいっ!」」」


 アンナたちが持ち場に戻る。モンジは姿を消した。

 シュンカが上に向かって言う。


「丼は洗って返すんだよー」


 アンナが注文を聞きに最上階に上がっていくと、聞き覚えがある声がした。


「オルゴだわ」


 階段を登り切らずしゃがみこむ。

 VIP席にはオルゴと父親のアッカ・カムロンがいた。


「ギルドはいないって言っているけど、ガルバは本当にいるの?」


「壁耳を舐めるな。マロッキから買った情報だ。間違いない。わしに危ない橋を渡らせおって。陛下に知れたらどうなるか」


「戦争に勝つためなら許してくれるさ。敵の将軍が手強いんだ」


「だったら、赴任先を変えてやる。そんな相手は殿下にでも押し付ければいい」


「それじゃあ、ダメなんだ! ミカエルはどんどん武勲をあげている。北部方面軍の副司令官の座はミカエルに用意してもらった。逃げたらミカエルに笑われる」


「笑われた分は、内務省に入って見返してやれ。占領地が増えて平民の手を借りるほど人手が足らん」


「俺は剣で生きる。そう決めた」


「いつまでも駄々をこねおって。そういうことは結果を出してからいうものだ! わしはもう知らん!」


 カムロンが立ち上がったのでアンナは柱に隠れた。

 そのままドスドスと音を立てて階段を下りていったので、アンナがオルゴをのぞき込むと、オルゴは泣いていた。


「畜生…。このままじゃ俺は…」


「オルゴ、大丈夫?」


 オルゴは顔をあげると涙を隠すように袖で拭いた。


「なぜ貴様がここにいる! 何をしに来た?」


「この店の店員で注文を取りにきたのよ」


「そうか。貴様がここにいるということは、やはりガルバもいるんだな」


 オルゴは椅子から立ち上がると、床に両手をついて頭を下げた。


「頼む! ガルバに会わせてくれ!」


「ちょ、ちょっと! やめて! らしくないわ」


 それでも、オルゴは頭を上げなかった。

 騒ぎを聞いてVIP席にやってきた、ネスコたちが驚く。


「オルゴじゃないか!」


「さっき、壁耳の姿を見たからもしかとは思ったけど」


「なんで頭下げてるのお」


「何かされたポ?」


「ううん。お願い、オルゴ。頭を上げて」


 オルゴは顔を上げた。流れる涙を今度は隠さなかった。


「俺は…、俺はこんなところで挫折するわけにはいかない。頼む…」


「ガルバ様に何をお願いするつもりなの?」


「敵軍に一人。猛将がいる。そいつさえ討てれば勝てる。そうすれば俺は階段を一段上ることができる」


 アンナは困った顔をする。


「ガルバ様はアカツキ軍の味方はしない。言い切れるわ」


「…そうか。困らせて悪かった」


 オルゴはフラフラと立ち上がると、階段の手すりを掴んだ。


「あたしたちが代わりに引き受けてあげる」


「アンナ! 何言ってるんだ」


「プライドの高い、オルゴがここまでするほど困ってるのよ。助けなきゃ、友達じゃない」


「友達じゃないポ」


「泣いて悩みを告白されたら、もう友達よ」


 オルゴが首を振る。


「気持ちはうれしいが、貴様らでは無理だ」


死霊導師(ネクロマンサー)と戦ったときより、あたしたちも強くなってる」


「四天王と戦ったことがあるのか! それなら、突破口が開けるかもしれない!」


 オルゴはアンナの両肩を掴む。


「ボロ負けだったポ」


 アケビ―がボソリと言ったが興奮したオルゴの耳に入らなかった。


「報酬は十分、用意する」


「いらないわ。友達でしょ」



「お前がそうでも、そいつは友達と思ってねえ。都合がいいから利用しているだけだ」


 建物の梁の上からモンジがひらりと降りてきた。


「否定はしない。それでも助けて欲しい」


「ほらな。これが貴族だ」


「だから何? モンジこそ友達を都合のいいものだと思っているわ。自分と考え方が違う人、性格も合わない人がいて当然よ。それでも理解しようとするのが友達でしょ!」


 アンナの剣幕にモンジが黙る。ジャポは涙を浮かべていた。


「あたしはオルゴを助けに行く」


 ネスコがコックコートを脱ぐ。


「今度は戦場か。修業の成果を確かめるにはハードだけど」


「料理は飽きたポ」


「おいしいものあるかなあ」


 アケビ―とランブ―もコックコートを脱いだ。

 ジャポは長いコック帽を取ったが、胸に当てたままコックコートは脱がなかった。


「ごめん。オイラは料理人の修行を続けるよ。夢ができたんだ。S級の料理人になりたい」


「フン、怖気づいたな。やっぱりお前は――」


 次の瞬間、アンナの拳がモンジの顔にめり込んだ。

 モンジが吹っ飛んで倒れる。


「他にもジャポの悪口を言いたい人は? あたしが相手するわ」


「…アンナ、それは無理だ。瞳が赤い。目を閉じてくれ」


「あっ!」


 アンナが右目を閉じると、1分ほどでみんなの体が動き出した。

 モンジが首の後ろをさすりながら起き上がる。


「受け身も取れねえじゃねえか、馬鹿」


「ごめーん」


「俺もついていく。だが、オルゴのためじゃねえ。アンナを助けるためだ。アンナ、友達なら理解しろよ」


「ありがとう。モンジ」


 アンナはオルゴのほうを向くと、目を見開いていた。


「凄い力を持っているんだな」


「闇騎士の弟子だもん。オルゴ、少しだけ待っていて。もう少ししたら、またガルバ様がエルザさんを探しに旅に出るの。ジャポ、シュンカさんへのフォローをお願いね」


「わ、わかった。任せてよ!」


 ジャポは救われたような顔をしていた。


「みんな! それまで火魔法を頑張ろう!」


「自分が使えねえのに良く言うぜ」


 モンジがアンナをからかうと、全員が笑った。

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