探し人
アンナたちが火龍飯店で火魔法修行を始めたので、ガルバはアバンドーノに腰を据えてエルザを探すことにした。アキも役目を終えマロッキに元へ戻っていった。
ガルバが酒場でグラスを傾けていると、歌い終わったルザンヌが隣に座った。
「歌っているときのお前が一番いい」
「若い時はもっと澄んだ声だったわ」
「落ち着いて飲める。いい声だ。この街で酒場をやれ。これから多くの人間が傷つく。癒しの場が必要だ」
「アカツキ様の戦争が激しさを増す。そういうことね」
「あいつは頑固で糞真面目だけど、世界統一なんか考えるやつじゃ無かったんだけどな」
「…殺せるの? 一番弟子を?」
ガルバは酒を飲み干した。
「あいつの本音次第ではな。今はオーゲンラバリが先だ」
★
冒険者ギルド長の部屋に黒円が発現し、ガルバが出てくる。
ゴードを見ると書類と睨みながらうなっていた。
ガルバが書類を一枚取って笑う。
「おい、何をする」
「慣れねえことはやめとけ。魔物が芸を覚えるようなもんだ。こんなものは若いやつにやらせて、お前はどーんと構えてりゃあいいんだよ」
「おいの無頓着が、シムタラば苦労させた」
「なら、今はお前の尻拭きでさらに苦労しているな。計算が間違いだらけだ」
ガルバから書類を奪い取ると、他の書類と照らし合わせる。
ゴードはため息をつくと書類を放り投げた。
「向いて無か」
「計算なんざしなくても鉱山の儲けでギルドは維持できる。ほら、新しい依頼書だ。仕事を取ってきてやったぞ」
「唐辛子、生姜、胡麻、山椒――。何の呪文だ?」
「発見されていない植物だ。名前は気にするな。絵と味の説明だけ見りゃいい。報酬は金貨千枚」
「おまんは騙されとる」
「上手く扱えば大富豪になる代物だ。依頼者はシュンカ・オーバ」
「シュンカに会うたんか。どげんしとった?」
「相変わらずアホだ」
「良か。良か。こっちばさっぱりだ。エルザの手がかりも見つからん」
「期待してねえ。見つけたところで死ぬ確率が高い」
「おいが戦えば良か。おまんに受けた借りば返す」
「エルザは強くなっている。衰えたお前じゃ勝てねえ」
「鍛えなおしとる。疑うのなら試せば良か」
「死んでも知らねえぞ」
ゴードとガルバの体から闘気が噴き出し、冒険者ギルドの建物が震える。
シムタラが扉を開けて飛び込んできた。
「ちょっと、二人とも何やっているんですか!」
「まだやってねえ」
「今からじゃ」
「いい加減にしてください!」
シムタラが大きな黒円を発現させる。
「グティンラの王宮に繋げました。アカツキの前で暴れてください。さぞかし笑ってくれますよ」
「「フン!」」
二人は白けたように椅子に座った
「シムタラ、魔法の修業を続けているようだな。黒円が大きくなった」
「ありがとうございます。でもこのままで良いのでしょうか? ギルドを再開して一年。依頼者はゼロです」
「こんな山奥に依頼者が来ねえ。初めからわかってたことだろう」
「鉱山収入で何とかなっていますが、みんな落ち着かなくて…」
「面倒くせえ奴らだな。なら、こうしろ。アバンドーノに支店を出せ」
「支店…ですか。商人のような」
「ここも商売だろ。いろんな国を回ったが、どこも冒険者ギルドは廃業していた。他国に出しても同業者と揉めることはねえ」
「確かにそうです! 早速、準備します!」
シムタラは礼を言うと、うれしそうに部屋を出ていった。
ガルバは壁に貼ってある依頼書を見る。
「捜索依頼。シャーキ・キリノト。依頼者ゴード・イーサン。ったく、子離れできねえな、お前は」
「そうじゃ無か。おいには奴隷を山に返す責任ばある」
奴隷狩りを行っていた者たちはシャーキに皆殺しにされていたため、奴隷商人の顔を知る者はシャーキしかいない。アンナたちも奴隷商人と死霊導師が同一人物だとは思っていなかった。
「アンナの母親もわかるかもしれん」
アンナの母親の捜索依頼は出していない。というより、出せないのだ。アンナが知っているのは声だけで、姿形もわからない。
「チビのころでも出身地ぐらい覚えていろってんだ」
「盲目で外ば出られなければ、仕方無か」
★
帰ってきたガルバが火龍飯店に顔を出すと、ジャポが客前で簡単な料理を焼いていた。その周りでアンナが元気に接客している。
「アンナ、魔法の修業はどうした?」
「あたしには向いてないって」
アンナが恥ずかしそうに言うと、厨房からシュンカが出てきた。
「おい、真面目に教えろ」
「センスが壊滅的だもん。見たことないよ、こんな子。でも接客の才能あるよ。明るくて元気があるもんねー」
「はい! 頑張ります!」
「休まずにめっちゃ働くし」
「てへへ」
「この子ってば、体力お化け。一日中動いて汗一つかかない。お兄ぃ、どんな鍛え方したの?」
「体質だ」
――俺様の血を半分近く渡したことで、心臓との相性が良くなったのか。
「嘘だあ。でも魔法が使えない分、体力に回ることもあるか。うーん、どうでもいいや」
「他の弟子どもはどうだ?」
「チビとメガネは見込みあるね。デブとノッポとツンツン頭はC級止まりかなあ」
「なら間違いねえ。お前の頭は信用できねえが、才能を見定める目は確かだ」
「なんだよそれー。言っとくけど、S級まで仕上げる保証はしないよ」
「A級で上等だ。S級の才能なんて万に一人いるかどうかだ」
「しゃあ、アカツキの子は超レアだね」
「馬鹿言え。あのガキにそんな才能はねえ」
「シャルロットは凄いんだって! もうセンスの塊!」
「あの娘か」
ガルバは王宮の中庭で、シャルロットにドラゴンの肉を焼いてもらったのを思い出した。
アンナがふくれっ面で言う。
「ガルバ様、モンジを叱って。すぐサボってどこかへ行っちゃうの」
「どうせ盗みさ。盗賊時代のクセが抜けないんだ」
調理が終わったジャポが皿を持って横を通る。
「ジャポ、想像で決めつけるのは良くないわ」
「はいはい。悪うござんした」
★
数日後の夜。モンジが塀から飛び降りる。塀の向こう側には大きな屋敷があった。
モンジは肩を落とす。
「また、空振りか」
「音が消せてねえ。気配もだ」
「なっ!」
モンジが振り向くとガルバが立っていた。
「師匠! どうしてここに」
「ここじゃねえ。屋敷に入る前からずっとつけていた」
「嘘だろ。気づかなかった…」
「忍び込むことで頭が一杯だったろ。だから意識の死角ができる。何もしねえで出てきて、目当ての女がいなかったのか?」
「夜這いじゃねえよ!」
「修業なら、こんなチッポケな屋敷に入るな。一番でかいところへ行け。相手がぬるいと腕が落ちる」
「そういうんじゃねえって」
「だとしたら、何のためだ?」
「昔、王都にいた貴族を探している。数年前にアカツキに追放されて国の外へ逃げたんだ。そいつを見つけ出して復讐する」
「ワケありか。話せ」
「言いたくねえよ」
「なら、これからも後をつける。暇つぶしにちょうどいい」
「保護者付きの復讐なんて聞いたことねえよ。話すから勘弁してくれ」
モンジは渋々、語りだした。
「俺は小さいころに親を亡くして、残飯を漁って生きていた。それでも盗みはしなかった。親の教育だ。どこの家でも教えているごく当たり前のな。俺は教えを大切にしていた。盗めば死んだ両親との繋がりが切れる気がしたんだ。
あるとき、俺は盗みの濡れ衣で袋叩きにあった。それを貴族の子供が助けてくれた。そいつは飯も服もくれた。そして友達になろうと言ってきた。浮浪児の俺にだ。今まで蔑まれ続けた俺はうれしくて泣いたよ。
だけど、そいつには盗み癖があった。貧しくてやっているんじゃない。遊びでだ。手業も凄かった。動きがなめらかで見とれるほどだった。でも盗みは盗みだ。何度も止めようとしたが、できなかった。そいつに嫌われるのが怖かった。
ある日、宝石店で盗みをやった。そのとき居合わせた相手が悪かった。老騎士の目はごまかせなかった。そいつは俺を指さして、脅されてやったと言った。取り調べたやつは、俺が浮浪児なのに関わらずいい服を着ているのはおかしい。貴族が与える理由も無い。普段から脅していたのだろうと決めつけ、牢屋にぶち込まれた。
そいつが面会にやってきたとき、ニヤニヤしながらこう言った。
怒っているかい? 殴りたいかい? でも、永遠に出られない。他の盗みもぜ~んぶ、君のせいにしたから。感謝しろよ。これで、飯に困ることはなくなる。
俺は横にいる看守をみたが、何も聞こえていないふりをしていた。そいつが去った後、看守は言った。
よくあることだ。貴族は腐っている
看守の机の上には銀貨が1枚乗っていた。
その貴族の子供が一家ごと追放された後、俺の冤罪も晴れた。宝石店にいた老騎士が俺の無罪を主張してくれたんだ。礼を言おうとしたが老騎士は遠方に赴任していた。
俺はそいつに復讐することを考えた。だが、俺は無力だ。忍び込んで殺す技術を覚えるために盗賊団に入った。そのころには親の教えも忘れていた」
モンジは一気に話すと、過去を思い出して険しい顔になっていた。
ガルバはあくびをする。
「そんなしょうもないやつのために、靴底を減らしてんのか?」
「師匠も<唯王独尊>に復讐しようとしているだろ!」
ガルバは笑った。
「そうだ。相手は関係ねえよな。己の感情の問題だ。だから、殺してむなしくなっても、こだわったまま許しても、復讐を果たしたとは言えねえ。どうでもいいと思ったときが復讐の終わりだ」
「何言ってるか、わかんねえよ」
「だが、相手が小さすぎる。それじゃあお前まで小さくなる」
「憎んでいる相手を鍛えろって言うのかよ」
「お前が憎んでいる本質と戦え」
「本質?」
「腐った貴族すべてだ。強くなんなきゃできねえぞ」
「無茶言うなよ」
「お前の体はそうは言ってねえ」
モンジが肩に手を当てると震えていた。
「武者震いってやつだ」
ガルバはうれしそうに笑った。




