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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
36/65

探し人

 アンナたちが火龍飯店で火魔法修行を始めたので、ガルバはアバンドーノに腰を据えてエルザを探すことにした。アキも役目を終えマロッキに元へ戻っていった。

 ガルバが酒場でグラスを傾けていると、歌い終わったルザンヌが隣に座った。


「歌っているときのお前が一番いい」


「若い時はもっと澄んだ声だったわ」


「落ち着いて飲める。いい声だ。この街で酒場をやれ。これから多くの人間が傷つく。癒しの場が必要だ」


「アカツキ様の戦争が激しさを増す。そういうことね」


「あいつは頑固で糞真面目だけど、世界統一なんか考えるやつじゃ無かったんだけどな」


「…殺せるの? 一番弟子を?」


 ガルバは酒を飲み干した。


「あいつの本音次第ではな。今はオーゲンラバリが先だ」


 ★


 冒険者ギルド長の部屋に黒円が発現し、ガルバが出てくる。

 ゴードを見ると書類と睨みながらうなっていた。

 ガルバが書類を一枚取って笑う。


「おい、何をする」


「慣れねえことはやめとけ。魔物が芸を覚えるようなもんだ。こんなものは若いやつにやらせて、お前はどーんと構えてりゃあいいんだよ」


「おいの無頓着が、シムタラば苦労させた」


「なら、今はお前の尻拭きでさらに苦労しているな。計算が間違いだらけだ」


 ガルバから書類を奪い取ると、他の書類と照らし合わせる。

 ゴードはため息をつくと書類を放り投げた。


「向いて無か」


「計算なんざしなくても鉱山の儲けでギルドは維持できる。ほら、新しい依頼書だ。仕事を取ってきてやったぞ」


「唐辛子、生姜、胡麻、山椒――。何の呪文だ?」


「発見されていない植物だ。名前は気にするな。絵と味の説明だけ見りゃいい。報酬は金貨千枚」


「おまんは騙されとる」


「上手く扱えば大富豪になる代物だ。依頼者はシュンカ・オーバ」


「シュンカに会うたんか。どげんしとった?」


「相変わらずアホだ」


「良か。良か。こっちばさっぱりだ。エルザの手がかりも見つからん」


「期待してねえ。見つけたところで死ぬ確率が高い」


「おいが戦えば良か。おまんに受けた借りば返す」


「エルザは強くなっている。衰えたお前じゃ勝てねえ」


「鍛えなおしとる。疑うのなら試せば良か」


「死んでも知らねえぞ」


 ゴードとガルバの体から闘気が噴き出し、冒険者ギルドの建物が震える。

 シムタラが扉を開けて飛び込んできた。


「ちょっと、二人とも何やっているんですか!」


「まだやってねえ」


「今からじゃ」


「いい加減にしてください!」


 シムタラが大きな黒円を発現させる。


「グティンラの王宮に繋げました。アカツキの前で暴れてください。さぞかし笑ってくれますよ」


「「フン!」」


 二人は白けたように椅子に座った


「シムタラ、魔法の修業を続けているようだな。黒円が大きくなった」


「ありがとうございます。でもこのままで良いのでしょうか? ギルドを再開して一年。依頼者はゼロです」


「こんな山奥に依頼者が来ねえ。初めからわかってたことだろう」


「鉱山収入で何とかなっていますが、みんな落ち着かなくて…」


「面倒くせえ奴らだな。なら、こうしろ。アバンドーノに支店を出せ」


「支店…ですか。商人のような」


「ここも商売だろ。いろんな国を回ったが、どこも冒険者ギルドは廃業していた。他国に出しても同業者と揉めることはねえ」


「確かにそうです! 早速、準備します!」


 シムタラは礼を言うと、うれしそうに部屋を出ていった。

 ガルバは壁に貼ってある依頼書を見る。


「捜索依頼。シャーキ・キリノト。依頼者ゴード・イーサン。ったく、子離れできねえな、お前は」


「そうじゃ無か。おいには奴隷を山に返す責任ばある」


 奴隷狩りを行っていた者たちはシャーキに皆殺しにされていたため、奴隷商人の顔を知る者はシャーキしかいない。アンナたちも奴隷商人と死霊導師(ネクロマンサー)が同一人物だとは思っていなかった。


「アンナの母親もわかるかもしれん」


 アンナの母親の捜索依頼は出していない。というより、出せないのだ。アンナが知っているのは声だけで、姿形もわからない。


「チビのころでも出身地ぐらい覚えていろってんだ」


「盲目で外ば出られなければ、仕方無か」


 ★


 帰ってきたガルバが火龍飯店に顔を出すと、ジャポが客前で簡単な料理を焼いていた。その周りでアンナが元気に接客している。


「アンナ、魔法の修業はどうした?」


「あたしには向いてないって」


 アンナが恥ずかしそうに言うと、厨房からシュンカが出てきた。


「おい、真面目に教えろ」


「センスが壊滅的だもん。見たことないよ、こんな子。でも接客の才能あるよ。明るくて元気があるもんねー」


「はい! 頑張ります!」


「休まずにめっちゃ働くし」


「てへへ」


「この子ってば、体力お化け。一日中動いて汗一つかかない。お兄ぃ、どんな鍛え方したの?」


「体質だ」


――俺様の血を半分近く渡したことで、心臓との相性が良くなったのか。


「嘘だあ。でも魔法が使えない分、体力に回ることもあるか。うーん、どうでもいいや」


「他の弟子どもはどうだ?」


「チビとメガネは見込みあるね。デブとノッポとツンツン頭はC級止まりかなあ」


「なら間違いねえ。お前の頭は信用できねえが、才能を見定める目は確かだ」


「なんだよそれー。言っとくけど、S級まで仕上げる保証はしないよ」


「A級で上等だ。S級の才能なんて万に一人いるかどうかだ」


「しゃあ、アカツキの子は超レアだね」


「馬鹿言え。あのガキにそんな才能はねえ」


「シャルロットは凄いんだって! もうセンスの塊!」


「あの娘か」


 ガルバは王宮の中庭で、シャルロットにドラゴンの肉を焼いてもらったのを思い出した。


 アンナがふくれっ面で言う。


「ガルバ様、モンジを叱って。すぐサボってどこかへ行っちゃうの」


「どうせ盗みさ。盗賊時代のクセが抜けないんだ」


 調理が終わったジャポが皿を持って横を通る。


「ジャポ、想像で決めつけるのは良くないわ」


「はいはい。悪うござんした」


 ★


 数日後の夜。モンジが塀から飛び降りる。塀の向こう側には大きな屋敷があった。

 モンジは肩を落とす。


「また、空振りか」


「音が消せてねえ。気配もだ」


「なっ!」


 モンジが振り向くとガルバが立っていた。


「師匠! どうしてここに」


「ここじゃねえ。屋敷に入る前からずっとつけていた」


「嘘だろ。気づかなかった…」


「忍び込むことで頭が一杯だったろ。だから意識の死角ができる。何もしねえで出てきて、目当ての女がいなかったのか?」


「夜這いじゃねえよ!」


「修業なら、こんなチッポケな屋敷に入るな。一番でかいところへ行け。相手がぬるいと腕が落ちる」


「そういうんじゃねえって」


「だとしたら、何のためだ?」


「昔、王都にいた貴族を探している。数年前にアカツキに追放されて国の外へ逃げたんだ。そいつを見つけ出して復讐する」


「ワケありか。話せ」


「言いたくねえよ」


「なら、これからも後をつける。暇つぶしにちょうどいい」


「保護者付きの復讐なんて聞いたことねえよ。話すから勘弁してくれ」


 モンジは渋々、語りだした。


「俺は小さいころに親を亡くして、残飯を漁って生きていた。それでも盗みはしなかった。親の教育だ。どこの家でも教えているごく当たり前のな。俺は教えを大切にしていた。盗めば死んだ両親との繋がりが切れる気がしたんだ。


 あるとき、俺は盗みの濡れ衣で袋叩きにあった。それを貴族の子供が助けてくれた。そいつは飯も服もくれた。そして友達になろうと言ってきた。浮浪児の俺にだ。今まで蔑まれ続けた俺はうれしくて泣いたよ。


 だけど、そいつには盗み癖があった。貧しくてやっているんじゃない。遊びでだ。手業も凄かった。動きがなめらかで見とれるほどだった。でも盗みは盗みだ。何度も止めようとしたが、できなかった。そいつに嫌われるのが怖かった。


 ある日、宝石店で盗みをやった。そのとき居合わせた相手が悪かった。老騎士の目はごまかせなかった。そいつは俺を指さして、脅されてやったと言った。取り調べたやつは、俺が浮浪児なのに関わらずいい服を着ているのはおかしい。貴族が与える理由も無い。普段から脅していたのだろうと決めつけ、牢屋にぶち込まれた。


 そいつが面会にやってきたとき、ニヤニヤしながらこう言った。


 怒っているかい? 殴りたいかい? でも、永遠に出られない。他の盗みもぜ~んぶ、君のせいにしたから。感謝しろよ。これで、飯に困ることはなくなる。


 俺は横にいる看守をみたが、何も聞こえていないふりをしていた。そいつが去った後、看守は言った。

 

 よくあることだ。貴族は腐っている


 看守の机の上には銀貨が1枚乗っていた。


 その貴族の子供が一家ごと追放された後、俺の冤罪も晴れた。宝石店にいた老騎士が俺の無罪を主張してくれたんだ。礼を言おうとしたが老騎士は遠方に赴任していた。


 俺はそいつに復讐することを考えた。だが、俺は無力だ。忍び込んで殺す技術を覚えるために盗賊団に入った。そのころには親の教えも忘れていた」


 モンジは一気に話すと、過去を思い出して険しい顔になっていた。

 ガルバはあくびをする。


「そんなしょうもないやつのために、靴底を減らしてんのか?」


「師匠も<唯王独尊>に復讐しようとしているだろ!」


 ガルバは笑った。


「そうだ。相手は関係ねえよな。己の感情の問題だ。だから、殺してむなしくなっても、こだわったまま許しても、復讐を果たしたとは言えねえ。どうでもいいと思ったときが復讐の終わりだ」


「何言ってるか、わかんねえよ」


「だが、相手が小さすぎる。それじゃあお前まで小さくなる」


「憎んでいる相手を鍛えろって言うのかよ」


「お前が憎んでいる本質と戦え」


「本質?」


「腐った貴族すべてだ。強くなんなきゃできねえぞ」


「無茶言うなよ」


「お前の体はそうは言ってねえ」


 モンジが肩に手を当てると震えていた。


「武者震いってやつだ」


 ガルバはうれしそうに笑った。

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