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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
35/65

港湾国家アバンドーノ

 ガルバ一行が次に訪れた国、アバンドーノは面積こそ一つの都市程度だが、大きな港を持ち、商業が栄えていた。樹木の枝のように街の中に水路が通り、荷物を積んだ小舟が行きかう。


「ここに来ると元気になるわ」


 アキがアンナたちにうれしそう言う。


「アキさん、来たことあるの?」


「大きな商いをしているのなら、必ず来る場所よ。若い国だから活気があるでしょう?」


「国を作ったのは誰なのですか?」


「魔王軍から逃れてきた人たちよ。流民になり、他国にも拒絶された人たちは、魔王軍から離れた湿地帯に住み着いた。彼らに選べたのは、畑に適さず、他国が捨てた土地しかなかったの。ただ、幸運なことに港に適した場所だったわ。彼らは漁業と水運で生きていくことを決めた。湿地を埋め立て、水路を整え、船を造った。そして建国したの」


「とんとん拍子だ」


「埋め立てた土地には何万人もの死者が眠っているわ。餓死や事故死。それでも彼らはこの土地と戦うしかなかった。皮肉なことに死者の欠員は流民が補い続けた」


「そう上手くはいかねえよな」


「アバンドーノって国の名前。捨てられた、という意味なの。あえてそう名付けたそうよ」


 骨付き肉を食べていたガルバが笑う。


「いい名じゃねえか。人は誰しも何かを捨て、何かに捨てられて生きている」


「ガルバ様、それって悲しくない?」


 ガルバが食べ終わった骨を捨てると、野良犬がくわえて走っていった。


「そうしねえと人は壊れる。世の中も回らねえ」


「意味わかんない。あたしはそんなことしないわ」


「それでいい。理解と感情は別だ。お前ら、この国で一番の料理を出すとこを探してこい」


 アキが困った顔で答える。


「ここには世界中から有名な料理人が集まっています。どこが一番とは言えないかと」


「世界中からだと? 何で最初に言わねえ」


「ガルバ様と長く旅をしたくて。つい遠回りに…」


「お前なあ…、捨てるぞ」


「そんな! 私の体なら好きにして構いませんから。捨てるのだけは!」


 アキはメイド服の胸元を開けると目をつぶった。

 ガルバがアキの胸元に手を入れる。


「みんなが見ている前で恥ずかしい…。辱めの罰ですね」


「そうだ、お前の代わりにこれを捨てる」


 ガルバの手にはお椀が二つあった。そのまま川へ投げ捨てる。

 アキの胸がしぼんでいく。アキは膝を抱え込んで落ち込んだ。


「アキさん、気にしていたんだね」


「巨乳は肩凝り爆発しろ…」


 ぶつぶつつぶやいているアキを無視してガルバが言う。


「美味いと評判の店を手分けして食べてこい。食べ終わったら不味いと叫べ」


「え~、そんなことしたくないわ」


「嫌だって!」


「修業だ」


「何の修業だよ!」


「鋼のメンタルが手に入る」


 ★


 半日後、ガルバが飲んでいる酒場にアンナたちが集まった。

 ルザンヌが歌っていたのでアンナが驚く。


「教頭先生ってあんなに歌が上手かったのね」


「一流の娼婦は歌と踊りも一流だ」


「アキさんは?」


「下だ」


 アンナが床を見ると、アキが腕立てをしていた。


「Bの壁を超える。あしたのためのその一。大胸筋を鍛えるべし!」


「こんなところでも稽古しているなんて。この調子だとA級はすぐね」


「Aなんて最悪! 目指すのはDよ!」


 アキの迫力にアンナは後ずさりする。


「よ、よくわからないけど頑張って…」


 ガルバはアンナたち全員を見比べると、一人を指さした。


「お前が食った店にシュンカがいる」


 アンナが首をかしげる。


「この人知らないわ。誰なの?」


「修業ら、なはったのらよ」


 モンジの顔は原型がわからないほどボコボコに腫れあがっていた――。


 ★


 モンジが袋叩きにあった店に行くと『火龍飯店』の看板があった。

 5階建ての店内はテーブルも椅子も大理石でできており、上に行くほど豪華な席になっている。吹き抜けになった中央には噴水があった。


「素敵だわ!」


「凄く儲かってるポ」


「値段が高いのに流行っている理由は料理だけじゃなさそうだよ。あれを見て」


 ネスコの視線の先では、調理人がお客の目の前で火魔法をつかって肉や魚を焼いていた。


「わあ、凄い!」


「見世物としてもいいですね。知り合いを連れてきたくなります」


「商人の接待にもよく使われているのよ。旦那様は高すぎるといって使わないけど」


 ガルバが店の奥に向かって歩いていく。


「ここで間違いねえ」


 店員の制止を無視してガルバは進んでいき、厨房のドアを蹴破った。


「シュンカ・オーバ! ここにいるんだろ!」


 厨房にいる料理人たちの顔が強張る。


「何ですかあなたは! そのような名の者はおりません!」


「もうわかった。あの派手な頭を見ればな」


 厨房の一番奥にアフロヘア―に褐色の肌。ファイアパターンの入ったコックコートを着た人間がいた。


「シュンカ! お仕置きの時間だ!」


「その名前で呼ぶなって、やばっ! お兄ぃだ」


 シュンカと呼ばれた女は黒円を出すと、逃げるように中へ入った。

 すかさず、足首をガルバが掴む。


「逃がすかよ」


「やだ!」


 黒円から炎が噴き出し、ガルバの体が焼かれる。


「ウラァッ!」


 黒円からシュンカを引っこ抜き、そのまま壁に叩きつけた。

 シュンカは起き上がると、両足から炎を噴射させた。

 体が浮くと、厨房から飛び出した。


「待ちやがれ!」


 ガルバが追って厨房を出ると、吹き抜けの上のほうで浮いていた。

 アンナたちが目を丸くする。


「空を飛んでるわ!」


「足から炎が噴き出ている。火魔法でそんなことができるのか」



「できるのはオーナーだけだ」


 長いコック帽をかぶった料理人が答えた。


 シュンカが両手を掲げると炎が発生し、大きくなっていった。

 長いコック帽をかぶった料理人が鉄鍋を叩いて叫ぶ。


「お客様に申し上げます! 速やかにテーブルを立てて、体を隠してください。顔を出した方の命の保証はいたしません! 料理人はテーブルが持ち上がらない人を手伝って!」


「「「はいっ!」」」


 料理人が店内に散る。


噴火孤島マグマアイランド


 シュンカが炎を放つ。ガルバの立っている場所が噴き出すように燃え上がる。


「大蝙蝠」


 ガルバが背負った血喰い剣から黒い翼が生えると、宙へ舞い上がった。


「お兄ぃ、剣を使わなくていいの?」


「女は斬らねえ。ぶん殴るだけだ。紳士だろ?」


「殴りっこなら、付き合うよ。火炎魔人(イフリート)!」


 シュンカの体を赤い炎が包み、鎧のようになった。

 ガルバに炎のパンチを浴びせる。


「大魔導士だと思って油断したでしょ。パーティーを離れても一人で戦えるように考えたんだ」


「ガキのいたずらだな」


「そう? 防戦一方でお気に入りの鎧が壊れ始めているじゃん」


「殴る場所を探していたんだよ!」


 ガルバはシュンカのお尻を叩いた。


「キャン!」


 シュンカは吹っ飛んで柱に叩きつけられた。

 崩れかかった柱を背に立ち上がる。


「怒ったよ。お兄ぃ―――――っ!!!」


 シュンカを包む炎が赤から青に変わる。

 長いコック帽をかぶった料理人が叫ぶ。


「オーナー青い炎はダメです! 店が潰れます!」


 シュンカが立っている床と後ろの柱が沸騰したように溶けていた。


「ヤバっ!」


 シュンカが慌てて炎を赤色に戻した。


「隙見せちゃったら、来ちゃうよねー」


 シュンカの目の前にガルバの拳があった――。



 数分後。シュンカはお尻の痛みで目を覚ました。

 ガルバの脇に抱えられ、お尻ペンペンされている。


「ごめんよ! お兄ぃ」


「裏切った理由を言えば、止めてやる」


「ほんと! アレをくれるって言ったから」


 シュンカは小さな瓶を指さした。ネスコが持ってくると黒い粉が入っている


「胡椒―――か」


「さすが物知りだね。肉がめっちゃ上手くなるの。お詫びに一振りだけあげる」


「こんな…、こんなものために俺様は20年も封印を…」


「お兄ぃにはスパイスの価値をわからないかー。ほら言ったでしょ。ねえ早くおろしてよ」


「このアホウが! 尻が無くなるまで叩く!」


「キャン!」


 一時間後、シュンカの尻は無くならず2倍になった。


「オーゲンラバリを知っているな」


「お兄ぃが持っていた、ウネウネ動くきしょい手袋でしょ」


 噴水にお尻をつけながらシュンカが答える。


「持っているのなら出せ」


「んなわけないじゃん。あんな腕が腐り落ちちゃう手袋」


――嘘をついている様子はねえ。だとしたらエルザか。


 ガルバが考えていると、ネスコがやってきてシュンカに頭を下げた。


「僕をここで雇ってもらえませんか」


「あんた誰?」


「俺様の弟子だ。ネスコ、何のつもりだ?」


「火魔法を学びたいんです。死霊導師(ネクロマンサー)との戦いのとき、火魔法が使えれば、王子の力を借りずに逃げられたかもしれない」


「死霊導師? あいつ、アタイの顔を見るといつも逃げたよねー」


「お前との相性は最悪だからな」


「やっぱり、火魔法に弱いんですね」


「言いたかねえが、こいつの火魔法はレベルが違う」


「えっへん」


 シュンカは胸をそらし、バランスを崩して噴水に落ちた。

 ネスコがガルバをまっすぐ見る。


「弱くても構わない。このままだと王子との差が開いていくだけです!」


「あたしも!」


「オイラも!」


「僕ポ!」


「おでもお!」


「いいらほ、しひょー」


 ガルバの眉がピクリと動く。


「アカツキのガキに負けるのだけは許さん。シュンカ、こいつらを雇え」


「いいよー。立派な料理人してあげる」


「「「やったー」」」


 シュンカの好意でアンナたちは火龍飯店に入店することになった。

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