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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
スレイブキングダム編
34/65

守護聖人

 ガルバ一行が無林山を離れてから半年。カフイサヤ教国で美食巡りの旅は3カ国目になる。辺境にあるカフイサヤは近年、王ではなく大司教が統治する教国に代わっている。街は栄えてはいこそいないが、清潔で道路を清掃している人をよく見かけた。カフイサヤの大食堂でガルバはネスコを叱っていた。


「肉がねえ! 味もねえ! ネスコ、ちゃんと調べたのか!」


「何人にも聞いて回りましたよ。そうだよね。ジャポ」


「うん。皆、口をそろえてこの国一番の食堂だって」


「ガルちゃんの言う通り美味しくないわ」


「量も少ないし、食べた気がしないよお」


「でも、お客さんはいっぱいいるわ」


「人気があるってことだポ」


「だとしたら、俺らだけ料理が違うとしか思えねえ」


 ガルバは立ち上がると厨房に向かって叫ぶ。


「この料理を作ったのは誰だ!」


「師匠、やめなって」


 モンジが止めるなか、ガルバが文句を言い続けていると、厨房からコックコートを着た痩せぎすの男が出てきた。


「私が料理長ですが」


「他国者をからかうために不味い飯を出したな? この国一番の料理がこんなわけねえだろ!」


「間違いなく一番の料理ですよ。ただし味ではなく健康という点で」


「舐めてんのか? 美味くなきゃ、こんなに客は来ねえ」


「この国の人々は何よりも健康を望んでいます。体の中から美しくなれば、神に捧げられ、永遠に生き続けられるのです」


 料理長は首から下げた小石を触る。


「永遠に不味い飯だけ食うってか? ここは地獄か?」


「ガルバ様、やめようよ」


「宗教ならしょうがないわ。相手を尊重しましょう、ってガルちゃんには無理よね」


 ルザンヌは椅子を蹴り倒し、外に出ていくガルバを見て言った。


「ごめんなさいね」


「お気になさらずに。他国の方に教えを誤解されることには慣れていますから。そうだ。せっかくこの国に来たのならぜひ守護聖人をご覧になってください。観光名所にもなっています」


「守護聖人? 人が名所なの?」


「行けばわかります。そして神の一端を感じられるでしょう」


「ルザンヌさん、行きましょうよ」


「神聖な場所は苦手なの。私って淫らで欲深いから」


 ルザンヌがモンジとネスコを流し目で見る。

 アキがたしなめる。


「男の子たちに色目を使わないでください」


「まーだ、足りなのよねえ」


「精進します」


 ネスコが苦笑して答えた。

 アキが立ち上がる。


「ガルバ様を探してきます」


「私は酒場でも行ってるわ」


「この国に酒場はありません」


 料理長が答えると、ルザンヌはホテルで寝ると言って帰ったので、残ったアンナたちで守護聖人を見に行くことになった。


 ★


 街から少し離れた場所まで歩いていくと渓谷があり、そこには岩でできた十体を超える巨大な魔物像が並んでいた。アンナが呆然とする。


「これって、闘技大会のときの…」


「ゴーレムみたいだよな」


「じゃあ、この国が王都を襲ったってこと?」


「形が全然違う。調べもせずに犯人扱いするのはよくねえ」


「そうよね。顔は人だけど体は蜘蛛や蛇みたいだし」


「こっちに石碑があるよ」


 蜘蛛の像の足元にある石碑に全員が集まる。


『岩石の魔獣。我らの祈りで蛮族の侵略を退ける。平和の守り人は魔獣にあらず。守護聖人なり。聖人と心を一つにし、祈りを捧げよ。信仰失えば魔獣へ還る』


「こいつらがいれば軍隊はいらねえな」


「このゴーレムの足、細くない?」


「削られているんだ。信仰の対象なのにね」


「信仰の証として削ったんじゃないかな。ジャポ、食堂を聞きまわっていたとき、みんな胸に小石を吊り下げていたよね。あれはゴーレムの一部かもしれない」



「ガルバ様やめてください!」



「今の、アキさんの声じゃ――」


 みんなが辺りを見回すが誰もいない。

 代わりにドゴーンという破壊音がし、蜘蛛の像の頭が落ちてきた。

 地面が揺れ土煙が舞う。蜘蛛の像の頭の上にはガルバが立っていた。


「聖人が死んだー!」


「罰が当たるポ」


「削るってレベルじゃねえぞ」


「ガルバ様、これはいいゴーレムよ。怒って魔人になっちゃうわ」


「木偶は木偶だ。良いも悪いもねえ! てめえらまで信じてどうする。情けねえ」


 ガルバは首の無い蜘蛛の像に向かって叫ぶ。


「中から音が聞こえた。いるんだろ? セゲロ! 魔王軍四天王が宗教ごっこか? 出てこねえとお前のオモチャを全部ぶっ壊すぞ」


「それは困るな」


 蜘蛛の像の背から紫のローブに魔石のネックレスをつけた男が現れた。

 ボサボサの髪に無精髭。眠そうな目。細い葉巻から煙を吹かす。


「やはりお前か。傀儡師セゲロ」


「今は四天王でも傀儡師でもない。司祭様だ」


「何をたくらんでやがる」


「神の意思に従っているだけだ。呪われた貴様といっしょにするな」


「呪いをかけてやろうか? 己に戻れる」


「戻れば悲劇だ。知っているぞ。貴様が呪った女のことを」


「てめえ!」


 ガルバが飛び掛かるが、何体もの守護聖人が壁になって立ちはだかった。

 ガルバが血喰い剣を抜く。


「俺様とやるのか?」


「やらないさ。戦えという命令は無い」


「ほお。こいつらをぶっ壊されてもそう思えるか?」


「悲しみ、怒り、憤る。だがそれだけだ。大麻を吸えば気も晴れる」


 セゲロは大きな煙を吐くのを見て、ガルバは舌打ちする。


「やる気が失せた。ラリっている奴をぶっ倒してもしょうがねえ」


「貴様は強すぎる。だが、いずれ聖人は貴様を超える」


「こんな木偶。百体かかってこようが俺様の敵じゃねえ」


「1万体なら? 1億体ならどうする?」


「くだらねえ。ガキの発想だ」


「そう。シンプルで子供でもわかる勝ち方だ。個の強さではなく強さの総量で勝る。すでに量産化は始まっている」


「量産? お前のゴーレムはそうは見えねえな」


「俺の役目は量産化じゃない。聖人の可能性を拡げることだ。次に会う時にはおもしろいものを見せてやる」


 セゲロが魔石を砕くと黒円が発現した。

 その中に入っていくセゲロの背中にガルバが言う。


「ゴーレムを聖人と呼ぶ。過去のお前が隙間から顔を出しているぞ」


「だとしたら、こいつのせいだ」


 セゲロは振り返らずに葉巻を捨てると、黒円の中に消えた。

 アンナたちがガルバに駆け寄る。


「師匠、四天王って本当かよ!」


「悪い奴なの?」


「傀儡師とはゴーレムを操るジョブなのですか?」


「いっぺんに質問してくるんじゃねええええ!!! お前らには関係ねえ! それ以上、聞きやがるとこうするぞ!」


 ガルバが蜘蛛の像を真っ二つにしたので、アンナたちは黙った。


 ガルバたちが街に戻ると、人々が刺すような目で見てきて、避けるように道から消えた。商店は戸を閉じる。宿屋の入口ではルザンヌが店主らしき男に追い出されていた。


「ちょっとお、なんで私が悪魔の仲間なのよ!」


「お前らは守護聖人を破壊した! この国から出ていけ!」


 ネスコがため息をつく。


「誰かに見られていたみたいですね。事が事だけに噂が広がるのも早い」


「でも、悪魔扱いってひでえよな」


「こんなメシマズ国。こっちから願い下げだ。次の国へ行くぞ」


 ガルバ一行は荷馬車に乗るとカフイサヤ教国を後にした。


 ★


 カフイサヤ教国にある地下神殿の一室で、エルザが本を読んでいると、黒円が現れて手が出てきた。しかし、バチリという音がすると黒円から出ていた手が引っ込む。

 

「禁煙よ」


 少し間が空いて部屋をノックする音がする。

 セゲロがローブを手ではたきながら入ってきた。


「大麻の匂いは自分では気づけなくて。いつ見ても凄い蔵書だ」


 吹き抜けの広い部屋の壁は本で埋まっていた。


「城を書庫にしている人間もいる。その人から借りた」

「それはうらやましい」


 セゲロは本棚から視線をエルザに移す。


「ガルバはスルー。で、良かったんですよね? まあ、やれ、と言われても今の聖人では勝てませんがね」


「それでいい。私たちにとって危険なのは、大きなっていくアカツキ軍。宗教もゴーレムも彼と戦うための道具の一つ」


「諸国連合も」


「彼を放っておけば世界は統一される。その前に決戦できるだけの戦力を揃える。貴様も励め」


「励みましょう」


 セゲロは部屋から出ようとして扉に手をかけた。


「ゴーレムじゃなく聖人と言ってもらえませんかね。世界観が崩れるので」


 そう言うと、セゲロは出ていった。

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