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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
33/65

新生

 ガルバたちがミスリル鉱山の採掘を始めてから一カ月。無林山の谷底には小屋が立ち並び、大勢の元反乱軍兵士がツルハシを振るっていた。

 現場で図面を広げながら指示を出すガルバを見てゴードが感心する。


「おまんが人を使うばうまか。ギルド長ばすれば良か」


「得意と好きは一緒じゃねえ」


「好きなもんは得意になる」


「好きが嫌いに変わることもある。俺様は料理長をやりたかったのによ」


「おまんの料理ば固くて塩辛い」


「雑魚だからだ。顎の力が足りねえ。汗の量が足りねえから、塩を美味く感じねえ。お前もサボってねえで道を造れ」


「終わった」


 ガルバが見ると山の麓の平野まで見えた。


「怪力野郎が」


 ★


 食堂ではルザンヌがつまらなそうに盛り付けをしていた。

 皿に盛り付けられた量を見て、男が不満を言う。


「1日中働いてんだぜ。もっと量をくれよ」


「ゾクゾクしない男にはこれぐらいでいいわ」


「何だよ、そりゃ」


「ガルちゃんに勝てるようになったら、増やしてあげる」


「無茶言うなよ!」


 男が席に座ると、アンナが料理を持ってきた。


「サービスよ。頑張ってね」


「アンナちゃんは優しいね。あの年増、美人を鼻にかけてやがる」


「聞こえたわよ。あなたたち、教育してあげて」 


「「「へい、姉さん!」」」


 食事をしていた男数人が立ち上がる。


「お、お前らなんだよ」


「俺たちの女神を侮辱するな」


「うわ、やめろ! 誰か助けてくれー!」


 男はルザンヌのファンに担ぎ上げられると食堂の外に連れていかれた。


「ルザンヌさん、あんまりいじめちゃダメよ」


「ねえ、アンナ。ガルちゃんはなんでオーゲンラバリを探しているの?」


「え、えーと。呪いの道具が好きだからじゃないかなあ」


「なーんか、怪しいわね」

 

 ルザンヌが探るようにアンナの目を見る。


「不老不死になれるとか?」


「えっ、ガルバ様は不老不死なの!」


「その反応。本当に知らないようね」


 ★


 数日後、ゴードが造った道を通って一台の荷馬車がやってきた。

 荷馬車から降りてくるアキを見て、ガルバが満足そうにうなずく。


「アキ、よくやった」


「転移魔法で旦那様の元に飛ばされたとき、私がやることを理解しました。でも旦那様がなかなか動いてくれなくて」


「マロッキ、遅せえぞ」


「シッ! ここはグティンラ王国の中ということを忘れずに」


 頬かぶりしたマロッキが辺りを伺いながら歩いてきた。


「ビクビクすんな。反乱軍が十年以上見つからなかった辺境だ」


「おとなしく他国へ行ったかと思えば、反乱軍とつるむとは。狂気の沙汰としか思えませんな。今日来たのはきーっぱり断るためですわい。もうわしは協力しませんぞ」


「あれを見てもそう言えるか?」


 ガルバが指した先にはミスリル鉱石が山のように積まれていた。


「採掘期間は?」


「一カ月」


 マロッキの表情が真剣になる。


「取り分は?」


「こっちが6でお前が4だ」


「鉱石があっても鍛冶職人がいないはず。その逆で手を打ちましょう」


「強欲狸め。前金を寄こせば条件を飲んでやる」


「いいでしょう」


 こうして二人の取引は成立した。

 すぐにマロッキが鍛冶職人の集団を連れてきて、武具をはじめとするミスリル製の商品が作られていった。

 ゴードたちは祝宴を開き、三日三晩、飲んで騒いだ。

 祝宴のフィナーレとして建物の除幕式が行われた。


 シムタラが手をあげると建物の幕が落ちていく。

 周りからは歓声と感極まって泣く声が聞こえた。


「シムタラ、懐かしか」


「まったく同じものを建てました」


「良か」


 皆の前には王都にあった冒険者ギルドそのままの建物があった。

 ゴードが入口の前に立つ。


「ギルド長のゴードだ。ガルバに言われてやることになった」


 歓声がひと際大きくなる。

 泣いているシムタラの肩にモトクが手を置いた。


「報われたな、シムタラ」


「良かった…。良かった…」


 ゴードは紙を掲げた。


「初依頼はガルバからだ。エルザ・ホイスーンを探せ。報酬は金貨百枚。大賢者が相手だ。命知らずはギルドば来い!」


「「「うおおおおおおおっっっ!!!」」」


 今までの思いを解き放つような歓喜の雄叫びが山々にこだました――。


 ★


 冒険者たちが歓喜の声をあげているころ、ガルバたちは荷馬車に揺られながら南へ向かっていた。

 ルザンヌが香水を体に振りかける。


「男臭い場所ともこれでお別れね。これからどうするの?」


「美食巡りの旅だ」


「それって最高だわ!」


「ルザンヌさん、ガルバ様に抱き着かないでください! また胸を押し付けて!」


 御者席のアキが振り返って口を尖らせる。

 アキの隣に座っているジャポが嬉しそうに言う。


「美食巡りなら襲われる心配はないね」


「あたしも楽しみー!」


「やったポ」


「話だけでお腹がすいてきたよお」


「稽古はするんだよな?」


「師匠、他に目的があるのでは?」


「シュンカ探しだ。世界で一番美味い店にあいつはいる」


 ルザンヌが納得したような顔をする。


「それでギルドにはエルザ様探ししか依頼しなかったわけね」


 ★


 とある地下神殿。

 何段もの階段の先に鉄の茨で装飾された台があり、若い美女が全裸で横たわっていた。裸に大司教のローブだけをまとったエルザが見下ろすように立っている。右手にはオーゲンラバリをつけていた。階段の下では小石を首に下げた群衆が跪いて二人を見ている。


 エルザが横たわる女の体にオーゲンラバリを突き刺し、心臓を抜き取ると祭壇に捧げた。

女は抵抗せず笑顔で死んだ。


 血に濡れた生者と死者は禍々しく、美しかった。


 オーゲンラバリをつけたエルザの右腕が黒くなり、腕を這いのぼるように黒さが大きくなっていく。エルザは左手をかざすと右腕の肘までが凍り、次の瞬間、砕けた。


 装飾だと思った鉄の茨が何本も動き出し、そのうちの1本は死んだ美女の右腕の肘から先を切り取った。そしてその腕をエルザの右腕と合わせるように運んでくる。他の茨が何本も先端を右腕の合わせ目に近づき細かな動きを始めた。


「神に心臓を捧げ、娘は私と一つになった」


 群衆は感嘆の声をあげ、祈りを捧げる。

 そんな中、群衆の後ろで冷静に見ている二人がいた。


「私の腕もああやって繋げたのか?」


 シャーキが自分の右腕のつなぎ目を見て言う。


「感謝しなー。ボクがエルザ様にお願いした」


「なぜ屍にしなかった? 使役するのでは無かったのか?」


「豚は太らせてから、果実は熟してから採ったほうがいいよねー。まだ強くなるよ、キミは」


「そうか。貴様は私に命と腕を与えた。借りは返す」


「じゃあ、バリバリ戦ってもらおうかなー。ボクの国で」


「相手は誰だ?」


「グティンラ王国北部方面団」


「アカツキが相手か。おもしろい」


 二人は群衆に背を向けると、黒円の中に消えた。

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