骨と血と
シャーキとアンナ、骸骨集団とモンジたちの戦いを見ながら、ビスカはあくびをする。
「みんなボロボロになっちゃってー。体を大事にしなきゃ、いい屍になれないよー」
「じゃあ僕は悪い屍だ」
ビスカの背後から燃え盛るネスコが斬りかかった。
しかし、ビスカが魔石を一つ砕き、手をかざすと魔法陣が現れた。
ネスコの攻撃を弾かれ、モンジたちのところに転がっていく。
「あっぶな! 骸骨が炎に弱点なのを気づいたんだー」
「火をつけている僕に向かってこなかったからね」
モンジが燃える枝をネスコの背から払いのける。
「何やってんだ! ネスコ」
「死んじゃうポ」
「無茶しすぎだよお」
「死にかけなのは同じだろ。可能性を探ったんだ。みんなが希望を持ち、奮い立つための」
ビスカが笑う。
「で、不意打ちしようと思ったのー。読みが外れたねー」
「当たったよ。骸骨を防御に使わなかった。もう弾切れなんだろ?」
「無限だよー」
「教会の墓地を見れば、だいたいの数はわかる。シャーキ相手に使いすぎたね。みんな、もう骸骨は出てこない」
「キミ、ムカつくなー」
ビスカの顔が怒りで歪む。
モンジが火のついた枝を片手に取る。
「なるほどね。残りの骸骨を始末すれば、助かるってことか」
「やるポ!」
「全滅させるぞおお」
ネスコの特攻はシャーキの攻撃も止ませた。炎の煙が流れてアンナを隠したのだ。
アンナは一息つく間に考える。
「煙は目だけじゃなく、鼻に対しても煙幕になるんだわ。ネスコは死を覚悟して助けようとしてくれた。だったら、わたしも――」
「いつまで休んでいる」
シャーキの鉤爪がアンナを切り裂いた。
アンナの体から大量の血が噴き出す。
「アンナ!」
モンジたちが悲痛な叫びをあげる。
シャーキがニヤリと笑う。そして、アンナも笑っていた。
「終わりだ!」
シャーキが鉤爪を振り下ろす。しかし、手が止まった。
「どこにいる?」
「血の匂いに包まれてわからないでしょ?」
「貴様ぁ!」
血煙の中からアンナが飛び出し、シャーキに斬りかかる。
しかし、シャーキの体を袈裟斬りにしよとしたアンナの剣がずれ、シャーキの右腕を切り落とした。シャーキが膝をつく。
「あれ? なんで、シャーキが二人いるの? 目の前が暗くなる…」
アンナは血だまりの中、崩れるように倒れた。
モンジたちがあせる。
「ヤバイ! アンナが血を出しすぎた!」
「でも骸骨がいるポ」
「二人が死んじゃうよおお」
「馬鹿馬鹿のバーカ、みんな死ぬんだよ!」
ビスカが両手を掲げるとネックレスの魔石が3つ砕けだ。
骸骨たちが集まり一つの塊になる。そして、巨人になった。
「どう? ボクって凄いだろー」
「こんなやつ、どうやって倒すんだよ…」
「デカすぎるポ」
「もうダメだああ」
「キャハハ、その顔、その顔。心が折れちゃったねー」
3人の武器を持つ手がだらりと下がった。
「キミらの体はいらなーい。巨人、潰しちゃえ」
骨の巨人が拳を叩きつけようと振り上げる。
次の瞬間、巨人の拳が燃え上がった。
「何が起こった?」
ビスカが辺りを見回すが誰も見当たらない。
「ここさ」
空から声がする。
ビスカが見上げるとワイバーンに乗った少年が青龍刀を構えていた。
飛竜は火を吐きながら急降下し、少年が巨人の拳を切り落とす。
モンジたちが叫ぶ。
「ミカエル!」
「竜に乗ってるよお」
「凄いポ」
ネスコが全身を火傷している姿を見て、ミカエルが眉を寄せる。
「ワイバーンを上手く操れていれば、間に合った…」
「ミカエル? もしかしてアカツキの息子ー?」
「アンナ、アンナはどこ!」
「おい、答えなよー」
ミカエルはアンナが倒れているのを見つけた。
その傍でシャーキが立ちあがる。
「お前か! お前がアンナを傷つけたんだな!」
ミカエルはワイバーンの体を返し、ビスカと骨の巨人に背を向けた。
「ボクを無視するな!」
骨の巨人がワイバーンごとミカエルを捕まえようとする。
地響きとともにアースドラゴンが飛び出し、骨の巨人に体当たりした。
アケビーたちが驚く。
「あのときのドラゴンだポ!」
「違うよお。鱗があるう」
「いや、成長したんだ」
アースドラゴンは岩のような竜鱗に覆われていて、小さな角が二本。大きな手には太く長い爪が生えていた。
ワイバーンがシャーキに炎を浴びせ、ミカエルが青龍刀で斬る。
シャーキは左腕の鉤爪で受けるが、衝撃を吸収できず足元がふらついた。
鉤爪で反撃するが空を斬る。すでにミカエルは上空にいた。
ミカエルは空からの一撃離脱を何度も繰り返す。
シャーキは被っていた狼頭の毛皮をあげ、目で追うがミカエルの速さを捕えきれなかった。
「グゥ…。おのれ…」
「アンナを傷つけた者は許さない」
「そうか…。この娘。貴様の大切なものか。ならば奪って死ぬまで!」
「やめろ!」
シャーキがアンナに止めを刺そうとすが、しかし、倒れていたはずのアンナはいなかった。
「あの出血で動けるはずが…」
「そうよね。でも動けちゃった」
「なんだと!」
シャーキの横にアンナが立っていた。
「体も軽いの」
「キイイィヤアアアァッ!」
シャーキが横殴りに鉤爪を振るうが、アンナは逃げずに踏み込むと、カウンターでシャーキの顎を打ち抜いた。
「やった! 初めて当たった!」
「アンナ、無理しないで!」
ワイバーンに乗ったミカエルが地上に降りる。
「力がみなぎっているの! 心臓が戦えって叫んでるみたい!」
アンナが立ちあがるのを見たビスカが歯噛みする。
「なんなのこれ! 聞いてない、聞いてない、聞いてない! これじゃあ、ボクの丸損じゃないか! 一人だけでももらっていく!」
ビスカが黒円を発現させる。
骨の巨人がシャーキを掴んで黒円に投げた。
ミカエルがビスカに向かう。
「逃がさない!」
「調子に乗るな! 骨花火!」
骨の巨人が砕け散り、細かな骨片がミカエルとワイバーンを襲う。
ワイバーンが上体を反らして骨片を受け止めてミカエルを守る。しかし、ダメージが深くなったワイバーンは地面に落ちた。
その隙にビスカとシャーキは黒円の中へ入っていった。
「大丈夫か!」
ミカエルがワイバーンから骨片を抜いていく。
アースドラゴンがハヤテのそばにきて体を舐めた。
「ペロ、頼む」
「ミカエル、ペロってこの子のこと?」
「うん。ペロの唾液には回復効果があるんだ」
「だったら、ネスコたちもお願い!」
「アンナからだ! 僕はそのために来た!」
「あたしは元気よ。みんなを連れてくる」
「アンナ!」
アンナがモンジたちとネスコを担いでくると、ペロの傍に寝かせた。
そのままアンナが大木にもたれかかるように座る。
「ハァ、ハァ…。モンジたちから治してもらって」
「アンナ、顔が青いぞ」
「大丈夫。疲れちゃっただけ…。あっ、ガルバ様の声がする」
「師匠はどこにもいねえよ! しっかりしろ!」
そのとき、山の向こうから突風が吹き、竜巻が通ったように樹々が倒れた。
「起きろ! 寝るんじゃねええええっ!!」
「「「師匠の声だ!」」」
「寝たら殺す!」
「無理、眠いよ…」
「馬鹿野郎が!!」
モンジは赤い突風が横を吹き抜けたような気がした。振り返ると、アンナの体に大剣が刺さっていた。
「寝たから殺したポ!」
「師匠、ひどいよお」
「これは師匠の血喰い剣だ」
血喰い剣の刀身に血管が浮き出し波打つ。
「アンナの顔色が良くなっている。血が増えているんだ…。アンナ起きろ! 師匠が助けてくれた!」
アンナが目を開け、飛ぶように起き上がった。
「おい、無理するな!」
「眠たかったのに、ギンギンになっちゃった。ガルバ様、血をくれすぎたみたい」
アンナが笑うと鼻血がツーっと垂れた。




