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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
30/65

狂戦士

 ガルバたちが無林山の鉱脈に行き、誰もいなくなった村にシャーキが戻ってきた。シャーキは自分の小屋に入ると、剣歯狼(サーベルウルフ)の皮鎧を取り出して、身に着けた。


 小屋から出ると奴隷狩りに出ていた配下たちの姿が見えた。

皆、誰もいないのを不安がっていて、シャーキを見つけると親を見つけた迷子のように集まってきた。


「兄貴、これは一体…」


 シャーキは反乱軍がガルバに負け、隣山でミスリルを採掘していることを話した。


「こちらは百人。ガルバに勝つには、質のいい奴隷戦士が必要だ。これからは俺も奴隷狩りに加わる。行くぞ!」


 シャーキが歩き出しても配下たちはついてこなかった。


「どうした?」


「冒険者ギルドを再建するのなら、加わろうと思う」

「ゴードが納得したんだろ。なら従おうぜ」

「仕方なく奴隷狩りをやってたんだ。鉱山掘ってすむのなら、そっちのほうがいいや」


「…ガルバに牙を抜かれて、犬に成り下がるのか?」


「実際、負けたんだろ? しょうがねえよ」

「ここに来てからもう17年。もう疲れちまった」


「…そうか」


 配下たちが、自分を「餓狼」と言って拒絶していた冒険者と同じように見えた。

 シャーキは静かに剣歯狼の頭を被る。


「犬は死ね」


 広場に血煙が上がる。シャーキは逃げる配下たちの背を鉤爪で容赦なく斬りつけた。

 瞬く間に配下たちが、配下だった死体に変わった。


 血にまみれた右手に火球を出すと、小屋に火をつけた。

 燃え上がっていく村を見ながら、シャーキは思う。


 ガルバに世界を奪われた。

 十七年住んでいた村には誰もいない。

 兄弟だと思っていた配下はついてこなかった。

 最強だと信じていた。父と慕っていたゴードが負けた。

 アカツキと死んでも戦い抜くと言っていた不屈の男が、ガルバに従った。

 こんな結果になるなら、アカツキとの戦争で、ゴードと共に死んだほうがマシだった。


 シャーキは怒りをぶつけるように小屋を破壊していく。


「村を満たす炎と血の匂い。思い出したくもない記憶まで蘇る」


 ★回想


 シャーキは異国の山中で暮らす狂戦士(バーサーカー)の部族に生まれた。部族は傭兵を生業としており、物心がつくと戦闘術を叩きこまれた。父親は戦いで右脚を失っていた。

 強さがすべてという価値観を持つ部族の中で、父親の地位は低かった。

 それでも、父親は不満を言わず黙々と戦っていた。


 シャーキはそんな父親を誇りに思っていた。傷が増え、手や脚が動かなくなっていっても、弱音を吐かない父親は村の誰よりも心が強いと思った。


 ある日、人間の軍が部族の村を急襲してきた。

 敵の侵入を知らせるために張り巡らされた仕掛けは、一つとして動かなかった。

 部族を裏切り、敵軍の手引きをしたのは父親だった。


 狂戦士が雄叫びを上げて敵軍と戦うが、多勢に無勢だった。

 仲間が殺されていく中、父親は剣歯狼の皮鎧を脱ぎ捨てて言った。


「戦いしか知らない馬鹿が。これからは頭を使う時代なんだよ。お前らは頭突きぐらいしか頭の使い方は思いつかないだろうがな? ハハハハハ!」


 初めて見た父親の笑顔はとても醜かった。次の瞬間、シャーキの意識が飛んだ。


 意識が戻ったとき、シャーキは父親の首を持って森をさまよっていた。

 父親は笑ってはいなかった。

 シャーキは首を抱きしめて咆哮した。


 ★


 肌を焦がす炎が、シャーキを過去から引き戻す。

 シャーキは身体の血の流れが速くなるのを感じた。


「怒りが全身を満たしていく、この感じ。久しく忘れていた」


 シャーキが隠れ家でもある教会に行くと、修道服を着たビスカが燃え盛る山を見て笑っていた


「あれれれ~。もうアカツキにやられたちゃったの。雑魚すぎない?」


「黙れ!」


 シャーキが鉤爪で斬りかかるが、ビスカは家の屋根に跳んでかわす。


「やめなよ~。負け犬の遠吠えは」


「キイイィヤアアアァッ!!!」


「うわっ、本当に吠えた」


 石造りの教会が真っ二つになり、砕けた破片が辺りに飛び散る。

 飛び降りるビスカをシャーキは逃がさなかった。

 ビスカの首をはねる。しかし、ビスカは死ぬどころか憤慨していた。


「余所行きの服を壊したな! 気に入ってたのにー!」


 ビスカの服の中から少年が出てきた。貴族の子弟のような格好だが、大粒の魔石のネックレスを何重にもかけていた。

 シャーキが構えを解く。


「奴隷商人の子か?」


「声が同じだろバーカ、僕がビスカさ」


「なら、死ぬまで切り裂く!」


「調子に乗んなよ!」


 ビスカが手を合わせると、ネックレスの魔石が一つ砕けた。

 地面から骸骨が何十体も現れ、シャーキの下半身を掴む。

 シャーキが斬り払うと骸骨は崩れ散った、しかし、同時に百を超える骸骨がビスカを守っていた。

 鉤爪の先で自分の腕に傷をつける。


「無理無理の無理ぃ~。これは幻惑や混乱の魔法じゃないよー。キミは正気で、見ているのは現実」


「…何をした?」


「死霊術~。見たことが無いだろ? 伝説でしか知らないだろ? ボクが死霊導師(ネクロマンサー)でーす」


「貴様が…」


「バレたから遠慮は無しねー。骸骨に埋もれて死んじゃいな」


 無数の骸骨が骨の剣を持ち、シャーキに襲い掛かる。

 シャーキは次々と骸骨を倒しながら、骸骨の攻撃が単調なことに気付いた。


「なぜ、心臓を狙わせる」


「状態のいい屍が欲しいからに決まってるじゃん。A級戦士は珍しいからねー」


「おのれ!」


 シャーキの攻撃力が増し、倒した骸骨は百を超えた。

 しかし、同じ数の骸骨が地中から這い出てきて状況は変わらない。時間が経つにつれ、シャーキの体は傷がどこかわからないほど血に染まっていた。

 ビスカが苦々しい顔でネックレスの魔石を一つ握りつぶすと、赤い光が地面に吸い込まれていく。


「あ~あ、ヘコむなー。魔石は減るし、体はボロ雑巾みたいになっていくし。いい加減殺されなよ」


「肉一切れ、骨一片になろうとも貴様を殺すには充分!」


「うわー、執念の嫌がらせ」


 ★


 シャーキと骸骨の死闘を繰り広げているのを森の中から見ている者たちがいた。


「モンジ、教えて。どうして魔物がいるの?」


「俺はどうしてここにいるのか教えて欲しいね。オシロワ、下山しているはずの俺たちがなぜ隠れ家に来ているんだ?」


「悪い奴らの隠れ家に案内しろ、って言われたからだよ。早く着いたでしょ?」


 オシロワは胸をそらして答えると、ネスコが腰をかがめ、確かめるように聞く。


「君は外の世界を見てみたいのじゃなかったのか?」


「嫌だよ。父ちゃんや母ちゃんと離れたくない」


「ハァ? 話があべこべじゃねえか? あの長老ボケてたのか?」


 モンジの言葉にネスコは考える。


「違う。僕たちを利用したんだ。隠れ家に案内させ、奴隷狩りと戦わせるためにね」


「お兄ちゃんたちは20人もやっつけたんでしょ! 魔物たちもやっつけてよ!」


「勝手なことを言うんじぇねえ、クソガキ!」


「モンジ、子供にあたってもしょうがない。それも見越してるんじゃないかな」


「善良そうな顔しやがって、あのジジイ…」


「文句は後だ。早くこの場を離れたほうがいい」


 戦いを凝視していたアンナが振り返る。


「ダメよ! 助けなきゃ!」


「誰をだよ? ヤベエ奴しかいねえだろうが」


「見て! 子供が魔物に囲まれてるわ。みんな援護して!」


「おいやめろ! 馬鹿! くそったれが!」


 アンナが飛び出すと、モンジも短剣を抜いて後を追った。


「ネスコ、どうするポ」


「あの骸骨の集団。師匠が言っていた死霊導師(ネクロマンサー)がどこかにいるとすれば、僕たちは死ぬしかない。だけど…」


「アンナは見捨てられないよお」


「そうだ。アケビ―とランブ―はアンナたちと戦ってくれ。無理に魔物を倒そうとせず、粘ることを考えるんだ。その間に僕が逃げる方法を考える」


「わかったあ」


「頼むポ」


 アケビ―とランブ―が覚悟を決めた表情で骸骨の集団に突っ込んでいくのを見て、オシロワは泣きだした。


「あたちのせいで、お兄ちゃんたち死んじゃうの…」


 ネスコは落ち着かせるようにオシロワの頭を撫でる。


「大丈夫。一つお使いを頼まれてくれないかい。反乱軍の村にゴードという大きなオジサンがいる。その人にシャーキが殺されそうだと伝えて欲しいんだ。君なら迷わずに行けるだろう」


「うん! でも…」


「怖いのかい? ゴードさんは悪い人じゃない」


「燃えてる」


 オシロワが指した方向から大きな黒煙が立ち上っていた。


「何が起こっている? 王国軍が攻めてきたのなら、ゴードさんは充てにできない…。オシロワ、お使い変更だ。無林山に行って黒鎧を着た騎士を探してくれ。僕が火をつけて煙をあげるから、そこにいると伝えるんだ」


「目印なんかなくてもあたちが案内するよ」


「師匠は君より速い」


「わかった! お使いに行ってくる!」


 オシロワはあっという間に森の中に消えていった。


「速いな。だけどそれまで持つか…」


 ネスコがアンナたちを見ると助けようとする子供に近づくことすらできていない。


 アンナが骸骨を倒しながら言う。


「もう安心して、お姉さんたちがすぐに助けるからね!」


「キミら誰? 邪魔なんだけど…」


「怖くてパニックになってるのね。かわいそう」


「無知無知のむーち!」


 子供がネックレスの魔石を一つ砕くと、地中から骸骨が這いずりでてきた。


「襲われてんじゃなくて、このビスカ様が使役してんの!」


「へ?」


「アンナ、下がるポ。あいつが死霊導師(ネクロマンサー)だポ」


「噓でしょ? 子供なのに?」


「キミらより年上なんだけどなー」


「そ、そうなの。あは、あははは」


「悪りぃ。アンナが勘違いしたみてえだ。もう邪魔しねえから、こいつらに道を開けさせてくれねえかな」


「僕はいいけどー」


 ビスカは興味無さそうに言うと、骸骨たちが左右に分かれ道が出てきていく。


「彼は嫌みたい」


 骸骨たちが開けた道にシャーキが立っていた。


「…ガルバは我からすべてを奪った。だから奴から貴様らを奪う!」


 シャーキが鉤爪で斬りかかるのをアンナはかわす。

 だが、斬撃の速さが起こす衝撃波によって皮膚が切り裂かれた。


「アンナ、気をつけろ! シャーキの戦い方も武器も違う!」


「ちょっと! あたしたちを殺しちゃダメって言われたでしょ! ゴードさんに言いつけるわよ。逃げちゃってるけど」


「その名を出すなああああっ!」


「まずい! みんなでアンナを守れ!」



「そうは、させないよー」


 ビスカの命令で骸骨たちがモンジ、アケビ―、ランブ―を囲む。


「おい! 見逃してくれるんだろ!」


「ククク、クソガルバの仲間なら7回は殺さないとねー。心臓を刺し、首を絞め、頭を砕き、腹を裂き、毒を浴びせ、体を焼き、溺れ沈める」


「どんだけ恨まれてんだよ。師匠は」


「しゃべってる暇はないポ」


 モンジたちに骸骨の集団が襲い掛かってきた。

 一方、アンナはタコの顔になっていた。呼吸のリズムが早くなる。

 シャーキが踏み込みを強くする。


「その程度の強さで挑発か!」


 しかし、シャーキの動きが止まった。


「何をした…」


「アンナ! 心臓を刺せ!」


 モンジの言葉にアンナは首を振る。


「殺す理由はないわ。シャーキ、みんなを助けるまでおとなしくしてて」


「そうか…。赤い瞳、ガルバの鎧と同じだ。我が狂戦士にならなかったように、貴様も力を隠していたのか…。ウオオオラッ!」


 バチリ!という音がすると、シャーキの体が動き出した。

 頭にかぶった剣牙狼の毛皮を下げると、体から赤いオーラが現れた。


「匂いがあれば充分!」


「噓でしょ!」


 シャーキの猛攻をアンナはかわしきれず傷ついていく。

 モンジたちも同じだった。3人が背中を合わせて戦っているが、大量の骸骨の攻撃は確実に3人を削っていった。


 ネスコは枝に火をつけながら焦る。


「僕たちじゃ粘ることすら無理なのか…。どっちを助ける? どうやって? 焼け石に水だ…。焼く!?」


 ネスコは火のついた枝を背負う。

 拾う手が焼け、一瞬ためらった。


「迷うな。狂人になれ。僕一人が死んでも4人が助かれば勝利だ」


 ネスコは燃え盛る火を背負うと敵に向かって走り出した。

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