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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
28/65

17年前<敗走>

 シャーキとモトクパーティーの計5人が隠れ家から王宮を見ると、月が雲に隠れているせいで、影色の装いをしていた。

 モトクが誰ともなくつぶやく。


「白亜の麗人は気が早い。もう喪服をお召しだ。果たして悼むのは誰の死か?」


 闇ギルドのメンバーは後一人いたが、今夜の襲撃には参加しないと言って、姿を消した。

 モトクパーティーの魔法戦士がモトクに言った。


「追わなくて良かったのか?」


「ほっとけ。あいつは呪いの装備を着けて3年も戦ってきた。もう長くねえ」


「闇騎士ガルバは何年も戦っていたじゃないか?」


「俺が知っているのは人間のことだ。S級を超えた化け物のことは知らねえよ。普通、闇騎士ってのは5年で狂い死ぬ。普通ならあんなジョブは選ばねえ」


 モトクパーティーのアサシンが王宮の情報を説明する。


「王女は国王といっしょの部屋で暮らしている。表向きは看病で付きっ切りということらしいが、警備上の都合上、二人いっしょのほうが便利だからだろう。部屋の前に騎士団が最低十人はいる。もちろん、騒ぎになれば百人以上が即座に駆けつけてくる」


 アサシンが憐れむように言う。


「それに比べて王妃の扱いはひどい。近衛兵が1人立っているだけだ。あの差は何なのかね」


「もう終わった人間ってことだろう。少なくともアカツキにとってはな。獲物と関係ねえ話は終わりだ。潜入ルートを説明してくれ」


 モトクは王宮の地図を拡げると、アサシンが指でルートをなぞっていく。

 それを見ながらモトクパーティーの弓使いは紙に距離を書いていった。


「何をしている」


 シャーキが聞くと弓使いは弓の弦をひいてみせる。


「闇夜で目標が見えないから、距離を測って火矢を放つのさ。その火を目印に進めば、お前たちは迷わず、王の部屋にたどり着ける。激しく燃える炎と間違うな。そっちは混乱させるために放つ油矢だ」


 作戦の確認が終わると、全員が配置についた。

 弓使いの火矢を合図に王宮の堀を飛び越えて侵入する。

 警備兵以外が寝静まる中、シャーキと弓使いをのぞくモトクパーティーは問題なく、王宮の3階にある王の部屋の前にたどり着くことができた。


 騎士団の精鋭が守っているとはいえ、モトクは恐れはしない。闇ギルドのメンバーは3年間、修羅場を潜り抜けてA級の実力を身に着けている。

 モトクがもっとも恐れていたのは時間だった。


「シャーキは騎士団に構わず部屋へ入れ!」


 シャーキがドアを蹴破ると、ベッドに寝ている国王と、その傍らに気を失っている王女がいた。そして――。


 国王に剣を突き立てているアカツキがいた。

 シャーキは鉤爪を構えて警戒する。


「どういうことだ…」


「貴様は国王を殺した大逆人。そして私が処刑人だ」


 アカツキが国王から刺突剣を抜き、静かに構えた。

 シャーキが咆哮する。


「うおおおおおおおおッ!!」


「ほう、戦闘力が一段上がった。遠い異国の地に、獣の皮を被ることにより、鬼神をその身に宿すジョブを使う民族がいると聞いたことがある。ジョブの名は狂戦士(バーサーカー)


 シャーキは鉤爪で何度も斬りつけるが、アカツキのかわすスピードのほうが上だった。


「惜しいな。私で無ければ倒せていた」


 アカツキが連続突きを放つと、シャーキは部屋の外まで飛ばされて気を失った。

 騎士団を倒していたモトクは驚き、振り向くと戦慄した。


「作戦中止! 撤退だ!」


「無駄だ」


 アカツキの刺突剣は言葉と同時にモトクの横にいた魔法戦士の左胸を貫いていた。

 建物の外から弓使いが援護の矢を放つ。

 アサシンはアカツキの背後に回り、短剣で刺す動きをみせる。


 しかし、アカツキは体を半回転させ、翻したマントで弓を受けると、回転の勢いのままアサシンの体を両断した。

 弓使いの二の矢、三の矢を首だけで避け、刺突剣を外に投げる。

 遠くで弓使いの断末魔が聞こえた。


 弓使いの持っていた放火用の油に引火したのか、弓使いのいた場所から竜のように炎が立ち昇り、アカツキたちを明るく照らした。

 国王の部屋を守っていた騎士団員がアカツキの側に駆け寄る。


「団長! 助かりました! ですが、なぜここに――グアッ!」

「ギャッ!」

「ウッ!」


 アカツキは生き残っていた騎士団員から剣を奪うと黙って突き殺しす。

 シャーキは気を失い。モトクは恐怖で腰を抜かしていた。


「敵も味方も殺しまくって…。おめえはいったい何なんだよ!」


 アカツキは死んだ騎士団員の長剣を拾う。


「救世主だ」


「だったら、助けてくれよ。俺の宝物をやるからさ!」


 モトクが小さい包みを投げると赤い粉が拡がった。

 アカルキが目を腕で押さえる。


「シュンカのレストランで買った、超のつく激辛スパイスだ。金貨1枚の値ぐらいは持ってくれよ――転移!」


 黒円が発現する。が、人の半分ほどの大きさだった。


「悪りぃな、シャーキ。魔法が苦手で一人しか通れねえ」


 そう言って黒円の中に入ろうとするモトクしたが、アカツキの殺気を感じて後ろに飛び退く。


「回復が早すぎんだろ!」


「エリクサーを使った。金貨10枚の価値はある」


「金持ちのジョークは笑えねえな。もう好きにしやがれ」


 モトクは覚悟して座り込む。


「すまねえ、シムタラ。すまねえ、ゴード…」


 そのとき、王宮が激しく揺れ、床が崩れ落ちた。

 モトクとシャーキはそのまま落下し、アカツキは崩壊した床を飛び石を渡るように移動し、王女を抱き止める。


 モトクがガレキの山から抜け出すと、落下の衝撃でシャーキが目覚めていた。

 シャーキは棒立ちで一点を見つめている。


「おい、死んだふりしとけ」


 シャーキが見つめる先にはアカツキではなく、ハルバードを持ったゴードが仁王立ちで立っていた。


「ゴード! 助けに来てくれたのか」


「無か! 叱りに来た! おまんらもアカツキも間違うとる!」


 怒りの形相のゴードの周りには千人を超える騎士団員が倒れていた。

 王女を抱きかかえたアカツキが右手で剣を構える。

 ゴードは左手で転移魔法を唱えると、ゴードが通れるほどの黒円が発現した。


「アカツキ、こん馬鹿どもば連れて帰る」


「慣れない剣で、王女を守りながら貴様と戦うのは、分が悪そうだ」


「良か。おまんら入れ」


 モトクが黒円に向かう。


「仲間ば連れていかんか!」


「あ、ああ」


 モトクとシャーキは両肩に死体を担ぐと黒円の中に入った。

ゴードはアカツキにハルバードを突き付けながらゆっくりと黒円にはいっていく。


「ゴード、私の部下になれ。騎士団長にしてやってもいい」


「己中心で世界が回ると思うとる。ガルバを見とるようだ。ガルバは温かかったが、おまんは冷たか」


「世界のためだ」


「おまんは間違うとる」


 そう言い残し、ゴードは黒円の中に消えた。


 ★


 翌日、アカツキはカジノフ公爵がゴードら冒険者を使って国王を暗殺したと発表し、同時にソフィー王女の女王即位式を行った。


 この情報が王国中に喧伝されると、貴族連合に動揺が走った。

 「君側の奸」を叫んでいたカジノフ公爵が国王暗殺をしたのでは話があべこべになる。当然のことながら、カジノフ公爵側は、国王暗殺は事実無根で、アカツキの謀略であると貴族たちに訴えた。


 しかし、アカツキ側は追い打ちをかけるように、カムロンが調べ上げた、カジノフ公爵派が闇ギルドに依頼した悪事を公表する。内容はガノー公爵派、ノマタイ公爵派の貴族たちへの暗殺、強盗などで、被害者側である2派閥の貴族たちは、身に覚えがあり、カジノフ公爵に対して憎悪の炎を燃え上がらせた。


 そして、これだけの悪事をやっているのならば、国王暗殺もやったに違いない、と貴族たちはささやきあい、誰が言い始めたかは知らないが、カジノフ公爵と王妃が不倫の関係であるという噂まで流れた。


 結果、貴族連合は瓦解し、カジノフ公爵は二公爵とアカツキから攻められることになった。


 冒険者集団はゴードが闇ギルドの存在が明らかになる前に冒険者たちに説明していたこともあって崩壊を免れた。国王暗殺の首謀者がゴードだと言われても、冒険者たちは、ゴードがそんなことをするわけがない、と言って信じなかった。


 しかし、公爵たちは違った。反逆者と呼ばれるゴードを受け入れれば、いらぬ疑いがかかる。ゴードは無実を主張したが、王宮を襲撃したのは事実で、王女を暗殺するためだった、とも言えず、ますます疑われた。最終的に二公爵は兵をもってゴードを拒絶することになる。


 カジノフ公爵もはじめは拒絶していたが、戦況が悪化していくと、ゴードを受け入れた。


 シムタラが久しぶりに会ったカジノフ公爵は、自信に満ち溢れていた男ではなく、味方の裏切りに怯える男に変わっていた。ゴードを受け入れたのも、ゴードが他に行くところはなく、裏切る可能性は低いと判断してのことだろう。


 それでも冒険者集団は、カジノフ公爵がいる居城から一番遠い激戦区に配置された。


 作戦会議が終わり、シムタラが冒険者の元へ戻ろうとすると、カジノフ公爵が恨みがましく言った。


「すべてが上手くいくはずだった。貴様らが…、貴様らが王宮を襲撃さえしなければ!」


 カジノフ公爵の言葉に、数か月間、流浪を続けていたシムタラは怒りを爆発させた。


「王女の暗殺を依頼してきたのは公爵ではありませんか! 罠に嵌められたのは、私たちの失態ですが、そのような言葉は心外です!」


「私はそんな依頼などしていない!」


 カジノフ公爵が立ち上がって叫ぶ。


「白を切るつもりですか…。まあ、忘れましょう。これから共に戦う相手と言い争うつもりはありません。報酬と寝る場所さえいただければ、存分に働いてみせますよ」


 シムタラはそう言い捨てると、カジノフ公爵と目を合わせずに退出した。

 城から出ると軽侮をこめてつぶやく。


「カジノフ公は無能だ。だからカムロンにも見限られる」


 カムロンの顔が浮かんだとき、シムタラの心臓が大きく跳ねた。


「カムロンはカジノフ公の密使が次の日に来るのを知っていた。あれは諜報力の誇示だと思っていたが、密使を出したのがカムロン自身だとすれば、知っていて当然だ。腕だけしか出せない転移魔法も顔を見られないためにしていたとしたら…」


 足首を掴まれたように足が重く感じた。


「アカツキが罠を仕掛けたにしても、なぜ襲撃の日がわかった? モトクは国王の部屋の前までは問題なくたどり着いたと言っていた。密使によって、そうなるように導かれたのではないのか?」


 胃がギュッっと締め上げられる。


「アカツキはギルド長の性格を知っている。ギルド長なら暗殺は選ばない。だとしたら、あの密使は私を狙ったものだ。私がギルド長の判断より、自分の判断を優先させることを、カムロンは見抜いていた。私はカムロンの狙い通りにギルド長の判断を疑い、シャーキたちに話した…」


 シムタラは膝をつき、天を仰ぐ。


「私こそ思い上がりの無能だった!」


 そう叫ぶと、シムタラは嘔吐した。


 ★


 その後、冒険者2万人はゴード軍として、激戦区で勝利を重ねたが、兵の数は減り続けた。そして、カジノフ軍の他の戦線が破られ、アカツキ軍がカジノフ公爵の居城に迫らんとするとき、モトクが進言した。


「カジノフの負けは決まった。早くずらかったほうがいい」


「アカツキに会うて、間違いば正す」


「わかってるって。だが、今のゴード軍じゃ、アカツキより前に死神の顔を拝むことになっちまう。力を蓄えて、次はカジノフ軍じゃなく、ゴード軍として戦えばいい」


 突撃隊長のシャーキが言う。


「迷林山に籠ろう。一時期住んだことがある。軍を隠し、少数で守れる場所だ。その間に軍を大きくする」


「逃げたい者は逃げると良か! おいは戦う!」


「ゴードが死んだら意味は無い! 俺たちはゴードと共に生きたいんだ!」


「おいは――」


「頼む!」「お願いします!」「生きてくれ!」


 いつの間にかゴードの周りには冒険者が集まっていた。


「カジノフなんてどうでもいい! ゴードこそが俺たちの大将だ!」


「そうだ! そうだ! 大将と共に生きよう!」


「「「大将! 大将! 大将!」」


 ゴードは熱狂に包まれる冒険者を見る。怪我をしていない者は誰一人いなかった。

 横にいるシムタラを見る。頬はこけ、目の下には隈ができていた。


「おいはどげんすれば良か?」


「私には答える資格はありません。考える能力も」


「成長すれば良か」


 シムタラの頬に涙が流れる。


「必ず成長します! だから、生きてください!」


「…良か」


 ゴード軍は戦場を放棄し、迷林山へ向かった。


 その後、カジノフ公爵はアカツキに討たれ、二公爵もアカツキに敗北した。

 こうして後に「三公の乱」と言われる争乱は終わった。

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