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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
24/65

魔眼

 迷林山から3日ほど奥へ進んだ山では、アンナたちが森の中を走って逃げていた。

 樹の上や地上からシャーキの配下、20人が追いかけてくる。

 モンジがアンナに文句を言う。


「何も考えずに突っ込みやがって。なんでいつもそうなんだよ!」


「山の民を助けるのは作戦通りでしょ!」


「だからって大勢の敵がいるところを選ぶなって言ってんだよ!」


「そんなの行ってみなきゃわからないわ!」


 ネスコが首を振る。


「アンナ、あの小屋の数を見ただろ。百人近くの山の民が住んでいるのがわかる。そんな場所に数人で奴隷狩りをしにいくわけがないだろ」


「だって、子供が脅されてたから!」


「このままじゃ追いつかれるポ」


「もう走るの疲れたあ」


「みんなで文句言わないでよ! ああそう! わかったわよ! 責任取ればいいんでしょ! あたしが囮になるから、その隙に勝つ作戦を考えて! 子供を奴隷にするなんて許せないわ!」


 アンナは急停止すると追手に向かって剣を構えた。

 モンジは舌打ちする。


「また、勝手に決めやがって! ネスコ、どうする?」


「左右に分かれて、追手の外側に回って一撃だけ与えよう」


「その後は?」


「アンナを連れて逃げる。反撃で痛い目に会えば追撃も鈍る」


 モンジとアケビーが左に、ネスコとランブーが右に大きく曲がった。


 大樹を背にしたアンナをシャーキの配下が囲んだ。リーダー格の男が言う。


「油断するなよ。将軍に傷を負わせた娘だ」


「ああ、アンナ様は素晴らしい人だ」


「アンナ様!? お前は何を言っている!」


「そうだ! アンナ様の敵は殺す!」


 シャーキの配下の半分が体の向きを変え、リーダー格の男を攻撃し始めた。

 アンナも何が何だかわからずにポカンと口を開けている。


「アンナ! 貴様、何をした――クッ! 体が! 動かん…、グアッ!」


 リーダー格の男の動きが止まり、アンナに味方する男たちに斬られた。

 他の配下たちの動きも止まり、次々と斬られていく。


 そこへ、救援にやってきたモンジたちがハッとする。

 髪の下でアンナの瞳が光を放っていたからだ。


「マズイ! アンナ、目を閉じろ!」


「…もう…遅い」


 モンジとネスコの体の動きが止まった。

 ネスコが振り絞るように声を出す。


「…これが瞳の力か」


「…ああ、アンナがブチ切れたみてえだ」


「え!? また目が光ってるの?」


「…右目が赤く、左目がピンクに光っている」


「…色によって状態異常効果が違うとすれば、麻痺ともう一つは何だ?」


 アケビーとランブーがシャーキの配下と共に、アンナの前で跪いている。


「…おそらく、魅了(チャーム)だろう」


 その後、モンジたちを追ってきた他の配下たちもアンナを見ると、麻痺か魅了にかかり、戦闘不能となった。

 モンジがアンナを責める。


「…いつまでも光らせてんじゃねえよ。前は一瞬だったろ」


「あたしだってわかんないのよ」


「…アンナ、その目は師匠に治してもらったって言ってたよね」


「うん。班目さんから目をもらったの」


「…だとしたら、目が体に馴染んできたのか。班目本体に何かあったのかもしれない。とりあえず、僕とモンジに背を向けてくれないかい。シャーキの配下はそのまま見つめ続けて」


 アンナが後ろを向いてしばらくすると、モンジとネスコの体が動くようになった。

 二人はアンナを見ないようにして、樹の蔓でシャーキの配下を縛り上げる。


「あっ、目の光が消えたみたい」


「何でわかるんだよ」


「光ってるときって目がすごく疲れるの。前は一瞬だったからわからなかったけど、今日は凄くわかる。今、その感覚が無くなったわ」


 モンジが恐る恐る振り返ると、アンナの言う通り目は光っていなかった。

 ネスコは振り返らずにアケビーとランブーを見ている。


「ネスコ。ズルいぞ。俺で試したな」


「そうよ。あたしを信じてないの?」


「アケビーとランブーの魅了が解けるのを見たほうが正確だからね。効果がどのぐらい持続するのか興味もある」


 3分ほど経つと、アケビーとランブーも我に返った。

 ネスコが二人にどんな状態だったか聞く。


「大好きなご主人様だと思ってたあ」


「好きすぎて、アンナの奴隷になるのが嬉しいって思ったポ」


「あたしが奴隷にしたってこと? すっごい嫌だわ。左目を隠そうかな」


 アンナが顔をしかめる。


「その必要はないんじゃないかな。今まで麻痺しか発動しなかったのは、アンナが潜在意識で人を操る魅了を拒否していたからだと思う」


「確かに、回りくどいのは好きじゃないもんな」


 ネスコの分析にモンジが同意する。


「本当かなあ」


「正解は師匠に聞けばいい。山の民の村へ行って下山方法を教えてもらおう」



 アンナたちが村へ行くと、山の民たちは村を救ってくれた恩人として扱ってくれた。

 村の長老は礼をのべると、下山案内役の少女をアンナたちに紹介した。

 

「オシロワです。この子は外の世界を知りたがっております。下山後もいっしょに連れていってもらえませんか? 山中でも方角がわかり、草木の種類にも詳しい。きっとお役に立てるでしょう」


「どうしよう、ネスコ」


「長老、僕たちは未熟です。この村には大人も多い。ここで暮らしたほうがいいと思います」


「師匠という大人がいるではありませんか。あなた方をここまで育てた。さぞかし立派な御方に違いない」


 ネスコは考えた末、ガルバに相談すると約束すると、長老は満足そうにうなずいた。

 モンジがネスコの耳元でボソリと言う。


「師匠に怒られるぞ」


「モンジは僕たちより何倍も生きている老人を説得できるのか?」


「さあ! 下山するわよ! オシロワちゃん、よろしくね!」


 アンナが元気よく言うと、オシロワの手を握った。


 ★


 迷林山の村広場では、最後までガルバに向かっていったシャーキが膝から崩れ落ち、立っているのはガルバとゴードだけになった。


「さて、仕上げと行くか」


 ガルバが剣を構えなおすと、ゴードは応じるようにハルバードを構える。

 次の瞬間、ガルバが斬りかかるが、ゴードはハルバードを回して弾いた。

 回転の勢いでゴードがハルバードを振り下ろし、ガルバは後ろ脚を引き半身でかわす。

 お互いを試すような攻撃が何度か続いた後、ガルバが何かに気づいたようにつぶやく。


「仕方ねえ野郎だな」


 ガルバはゴードの後ろに回り込む。


「こっちにはお前の仲間はいねえ。全力で来い。言い訳は無しだ」


「良か」


 ゴードの瞳に炎が揺らめく。身を沈め、ハルバードを引きずるように地につけた。

 ガルバが血喰い剣を大上段に構える。

 ゴードが地面に足がめり込むほど踏み込むと、大地が揺れた。


巨人断罪撃(タイタンスカフォード)!」


吸血王恨斬(キングリザメント)!」


 ハルバードが投げ放たれると、地面を削りながら、ガルバに迫ってくる。

 ガルバの放った斬撃が迎え撃つ形で当たり、ハルバードがわずかに横にそれると、森の樹々が音を立てながら次々と倒れていく。

 

「握力が落ちたな。技に体がついていってねえんだよ! 俺様の勝ちだ!」


 ガルバがゴードを斬りつけた。ゴードの鎧から血が吹き出る。


「まだ終わって無か」


 ゴードは血喰い剣を握ると、ガルバごと自分の胸に引き寄せた。

 ガルバの後ろに両手を回し、大剣ごと抱きしめるように羽交い絞めにする。


「てめえっ!」


「絞め砕く」

 

 ガルバの体が締め上げられ、骨が折れる音がした。


「腕の馬鹿力は変わってねえな…。馬鹿な頭もだ。血喰い剣、血を吐きだせ。とびきり濃厚なやつをな」


 血喰い剣の刀身からドロリと血があふれ出す。


「おまん、何を」


「潤滑油だ」


 ガルバの体が滑り、ゴードの締め付けの力で、宙高くに飛び出した。

 ガルバが落下しながら剣を振り下ろす。


吸血王恨斬キングリザメント!!」


 ゴードは両手を交差して庇うが、その程度では防ぎようはなく、血を吹き出しながら吹っ飛んだ。


「おおおおおっ!!」


 雄叫びを上げながら立ち上がるゴードの脇腹に血喰い剣が突き刺さる。

 血喰い剣の刀身に浮かぶ血管が激しく脈打った。


「ったく、骨を小枝みてえに折りやがって。お前の血で回復するぞ」


 逆に曲がった左腕をプラプラさせてガルバが言うと、ゴードは眠るように倒れた。

 ズシンと音が響く。


「そういや、こんなガタイで貧血持ちだったな。コイツ」


 ガルバは丸太が積んである一番上に登ると、ゴロリと横になった。

 しばらくするとシムタラの配下たちがルザンヌを連れてやってきた。

 兵士はおろかゴードまでが倒れている状況が理解できず騒ぎ始める。

そんな中、ルザンヌだけが落ち着いていた。


「もう終わったの? ガルちゃんったら早漏ねえ」


「俺様の戦いはセックスじゃねえ。お前ら、倒れている奴らを手当てしてやれ」


 シムタラの配下の一人が、倉庫にあるだけのポーションと薬草を持ってくるように命令すると、何人かが走っていった。

 ルザンヌが積み上げられた丸太を登って、ガルバの横に座る。


「戦いが終わった後は体が火照るっていうじゃない? 二回戦はどう?」


 ルザンヌは胸元を近づけてくる。


「そいつより太ももがいい。やつらが回復したら起こしてくれ」


「ん、もう!」


 ガルバはそういうとルザンヌの太ももに頭を預けた。


 ★


 ガルバが起こされたときにはすっかり暗くなっていた。

 広場には月明かりに照らされたゴードと反乱軍の兵士がいる。

 ゴードを守るために戦って死んだと思っていた彼らは、助かった意味がわからず、この場に居づらそうな、バツの悪い顔をしていた。

 

 ガルバが立ち上がると見下ろして言った。


「ダセエよな。お前らは口だけでゴードを守れなかった。カッコつけて死ぬこともできなかった。今、お前らの心は宙ぶらりんだ。それでいい。呪いが解けたってことだ。本当のお前らは何者だ? 忠義の騎士でも、献身好きな殉教者でもねえ。一攫千金と自由を愛した冒険者だろうが! お前らの魂が自由になれば、ゴードの呪いも解ける」


 ガルバは座っているゴードを見る。


「こいつらもガキじゃねえ。甘やかすから頼ってくる。慕われていい気になっているうちに、他人の理想を演じる羽目になる。気づいたらがんじがらめ。お笑い草だ」


 ゴードは何も言い返さない。

 代わりにシムタラが立ち上がる。


「ガルバ殿は封印されていて、何も知らないから言えるのです! 我々はこうするしかなかった!」


「そうだ。俺様は何も知らねえ。ゴード、すべてを話せ。裏切ったところからだ」


 ゴードが重い口を開こうとすると、シムタラが遮るように前へ出た。


「大将を裏切らせたのはこの私です。私に説明する義務があります」


 ガルバがしゃしゃり出るなと言わんばかりにギロリと睨む。

 シムタラは怯みそうになったが、勇気を振り絞って話し始めた。


「二十一年前、私は大将、いやギルド長と呼びましょう。そのほうが思い出しやすい。ギルド長の元でギルド長代理をしていました。当時は<唯我独戦>が、魔王討伐に手が届いた時期で、冒険者志願者も多く、まさに最盛期と言って良かったでしょう。しかし、私はある変化に気づきました――」


 ガルバは丸太の上に腰を下ろすことで、シムタラが話すのを認めた。

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