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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
23/65

激突

 ガルバがツルハシを振り始めて2週間を過ぎたころ、岸壁の中から青白い輝きを放つミスリル鉱石が見つかった。嬉しさのあまり、アキがガルバに抱き着く。


「やりましたね! 大変でしたけど、見つかるとこんなに嬉しいものなのですね!」


「だろ? 今回はすぐ見つかったほうだ。予想し、試し掘りをし、何度も空振りをして、ようやく見つかる。今より何倍も大変だし、見つけた時は何倍も嬉しい」



「同感ですね。私も谷底につながる獣道を見つけた時は喜びました」


「誰だ。てめえ」


 ガルバが振り向くと黒いローブを着た男と、大勢の仮面の男がいた。

 胸元が開いたドレスを着たルザンヌが仮面の男に短剣を突き付けられている。


「ガルちゃあ~ん。捕まっちゃったあ~。助けてえ~」


 ルザンヌが体をくねらせながら、緊張感の無い甘えた声で助けを求める。

 短剣を突き付けている男はルザンヌの体が擦り付けられる形になり、真っ赤な顔でドギマギしていた。

 黒いローブを着た男が頭を下げる。


「申し遅れました。私は反乱軍の三将軍の一人、シムタラ・パーチン。大将の命令で、貴公をお迎えにあがりました。貴公の弟子も我が拠点でお待ちしております」


「卑怯者! 人質を取ったのね!」


 アキが前に出て戦いの構えを取った。

 その横でガルバは転移魔法を唱えると、アキの襟首を掴み黒円の中に放り込む。


「ガルバ様! アキもいっしょに戦います!」


「お前の相手はこいつじゃねえ。この向こう側にいる」


「アキちゃん、バイバ~イ」


「クッ!」


 ハンカチを振りながら微笑むルザンヌを睨みながら、アキは黒円に飲み込まれ、その後、黒円も消失した。

 シムタラの顔が強張る。


「どこへ転移させたのです? 王都ではないでしょうね?」


「ビビッてんのか? だったら、反乱なんぞ止めちまえ」


「止めるわけにはいかないのですよ。ついてきてもらいます」


 仮面の男たちがガルバを囲んだ。

 すると、男たちの中から恐怖の声があがった。


「大魔王ガルバじゃないか?」

「なんだと!」「本当か!」


 ガルバを包囲する輪が警戒する様に外に広がる。

 シムタラだけが確認するように前へ歩み出た。


「…確かにガルバと似ています。封印を解いたのですか?」

「剣で答えてやるよ」


 ガルバは背負っている血喰い剣を抜いた。

 シムタラは慌てて手を前に出して遮る。


「いえ、その剣でわかりました。ガルバ、いやガルバ殿、我らが大将、ゴード・イーサンに力を貸してもらえませんか」


「ゴード? そいつはいい。俺様も探していた」


「そうですか! 二人の力が合わされば敵無しです!」


「早く会いたい。お前は転移魔法を使えるのか?」


 転移魔法は行き先を知らないと使うことができない。


 ガルバは剣を収めると、拳を鳴らしながら笑みを浮かべた。

 シムタラはその姿を見てごくりと唾を飲んだ。


「ガ、ガルバ殿、アカツキ軍は近くにはおりません。それほど闘気を出さなくても…」


「いいから、やれ」


 シムタラはうなずくと、仮面の男たちに命令した。


「私とガルバ殿は転移魔法で先に行きます。お前たちはその貴婦人を連れて拠点へ戻りなさい」


「え~、歩くのヤダ~。転移魔法がいいわ」


「私の魔力では二人の転移が限界です。では―――」


 ルザンヌの同行を軽く断ると、シムタラは宙に黒円を発現させた。

 黒円が人の大きさに拡がると、ガルバが先に入っていった。


 ★


 迷林山の村広場でゴードはアンナたちと会ったときと同じように大きな丸太が積まれた上に座っていた。前と違うのは鎧を着け、大きな戦斧(ハルバード)を握っていることである。


 見慣れないゴードの姿に村全体が緊張感に包まれた。

 皆が武具の手入れに集中し、アンナたちの存在を気に掛ける者などいない。

 シャーキが足で地面を踏みながら言う。


「もう足首の傷は治った。シムタラの代わりに俺を行かせてくれ。今、娘の師匠を始末すれば、アカツキにここを知られずに済む」


「知られてもよか」


「ゴード、大将には仲間を守る責任がある」


 ゴードが黙るのを見て、シャーキは目をそらした。

 シャーキはゴードを慕う仲間をダシにして、ゴードの行動を縛り付けている。

 それがわかるだけに、放った言葉はシャーキの心をチクリと刺した。


 広場の中央に黒円が出現することで、二人は救われた。


「シムタラの意見ば聞く」


 しかし、黒円から出てきたのはシムタラではなかった。

 黒い鎧に真紅のマントの男は辺りを見回すと、ゴードに向かって一直線に突っ込んできた。続いて出てきたシムタラが慌てている。


「ガルバ殿! おやめください!」


「お仕置きの時間だ! ゴードおおおおっ!」


 シャーキが素早く黒い鎧の男の前に立ちふさがり剣を抜く。


「どけっ!」


 黒い鎧の男が左の裏拳をぶつけてくるのを、シャーキはかろうじて剣で受け止めた。が、そのまま吹っ飛ばされた。


「おまん、ガルバか!」


 ゴードは立ち上がるとガルバが振り下ろす血喰い剣をハルバードで下から弾き返す。

 ガルバは後ろに宙返りして着地した。


「可愛げのねえ怪力は変わってねえな、ゴード。素直にぶん殴られろ。お前一人じゃ俺様に勝てねえこたあわかってんだろう」


 吹っ飛ばされたシャーキが立ち上がる。


「シムタラ! 敵を連れてきたな!」


「そんなつもりでは――」


「村にいる仲間に集合をかけろ!」


 物見櫓にいる男が鐘を激しく打ち鳴らした。

 丸太を積んである場所からゴードはゆっくりと降りてくる。


「おいは一人じゃ無か」


「金魚の糞にくっついている糞をいくら集めたても、一人と変わりゃしねえよ」


「一人じゃ無か!」


 ゴードの叫びにガルバは構えを解いて血喰い剣を肩に担ぐ。


「お前、本当にゴードか? 髪の毛が真っ白になっちまってるし、目に光もねえ」


「おいはおいじゃ」


 広場に集まってくる兵士を見て、ガルバはため息をつく。


「みんなお前がいなければって目をしてやがる。呪われたんだな。こいつらに」


「呪われてなど無か!」


「冒険者ギルドで見た顔がいる。ギルド長をやっていたお前は面倒見が良かったからな。担がれてどうしようもなくなったんだろ。行きつく先は生贄の祭壇だ」


「おいは仲間にとって良か国にするために王国軍を倒す」


 兵士から「そうだ!」という声が上がる。


「どいつもこいつも思いつめた顔しやがって。胸糞悪りぃ。聞け! てめえらも呪われてんだよ。冒険者の魂はもうとっくに死んじまってる」


 ガルバは血喰い剣を握りなおす。


「闇騎士ガルバが呪いを払ってやる。てめえら全員ぶっ飛ばしてな」


 1万人近い兵士に囲まれながら、自信満々に言い放つガルバの姿に、皆がたじろいだ。

 シャーキが叱咤する。


「王国を倒す我らがたった一人の男に怯んでどうする! 血祭りにあげろ!」


「「「おうっ!!!」」」


 雄叫びを上げながら兵士たちがガルバに殺到した。

 ガルバは宙高く飛び上がると、鎧に命令する。


班目(マダラメ)え! 全開眼だ!」


 黒鎧・班目の閉じられていた瞼が開き、五つの瞳が現れた。

 それぞれ、青、黄、緑、紫、橙の色に光る。


「睨みつけろ! ギンギンにな!」


 班目の白目部分に見える血管が太くなって、目が血走る。


 すると、ガルバに向かってくる兵士が立ち止まる。


「目が見えない!」


「毒だ! 毒が体に!」


「おい! 誰を攻撃している! 俺は味方だ!」


「…なんか眠くなってきた」


「体の力が抜けていく!」


 たちまち大混乱に陥った兵士を、ガルバは次々と倒していく。

 暗闇と混乱にかかった男は同士討ちを起こしていた。

 シャーキが剣を振り回して叫ぶ。


「状態異常攻撃だ! 鎧の目を見るな! C級以下の戦士は一旦、退避いぃ! シムタラ、回復術士部隊でサポートしろ!」


「承知しました!」


 しかし、シャーキが軍を立て直すより、ガルバの攻撃のほうが早かった。瞬きの間に十の斬撃を放ち、すでに2千人近くがうずくまっている。シムタラ率いる回復術士部隊が必死に回復しているが、状態異常を含めると兵の半数近くが戦闘不能になり、とても手が足りなかった。


 ガルバは兵士を倒しながら、ゆっくりとゴードに近づいていく。

 ガルバを包囲していた兵士はいつの間にかゴードとガルバの間に集まっていた。


「大将は動かねえでください! ここは俺たちが!」

「そうだ! 大将はやらせねえ!」

「死んでも守る!」


「ああ、そうかい。せいぜい踏ん張りな!」


 ガルバの一振りで百人が吹っ飛んだ。

 ゴードが目を瞑る。

 シャーキの周りには鉢巻をした兵士が数十人、集まっていた。

 全員の体が薄く発光しており、バフの効果を示している。

 彼らの後ろではシムタラたちが魔法をかけていた。


「我々、決死隊で状況を打開する! 死を恐れるな! 我に続けえええっ!」


「守備を捨てての攻撃バフ。そういうのは嫌いじゃねえ」


 全員が剣を振り被り突っ込んでくる。


「キイイィヤアアアァッ!!!」


「だが、付き合う気はねえ。転移!」


 ガルバが手をかざすと、決死隊の前に人の倍ほどの黒円が拡がった。

 シャーキを筆頭に決死隊の先頭部分は勢いのまま黒円に入っていく。

 10人ほど入ると黒円は定員を告げるように閉じた。

 決死隊の残りがガルバに突っ込んでいくが、率いるシャーキが消えたために隊列が崩れ、ガルバが苦も無く倒していく。


「シャーキをどこへ飛ばしたのです!」


 シムタラの問いにガルバは剣を指し示して答える。

 剣の先にはゴードがいた。

 黒円がゴードの前に出現するのを見てシムタラが叫ぶ。


「ゴード、危ない!」


 黒円からシャーキが飛び出してきた。

 シャーキの渾身の一撃をゴードが戦斧を盾にして受け止める。

 しかし、両手がふさがったため、後続の決死隊の攻撃までは防ぎきれず、ゴードは体の数カ所に傷を負った。


「大丈夫か、ゴード! 止められなかった!」


「大将、すまねえ!」


「問題無か。良か動きじゃ」


 シャーキが剣を掲げる。


「もう一度、決死隊で突撃する! 我の元に集まれ!」


「しくじった攻撃を繰り返す。そういうのは好きじゃねえ!」


 ガルバは血喰い剣を横に構える。


「吸った血を吐き出せ! 血潮の衝撃(ブラッドクレセント)!」


 ガルバが剣を振ると偃月を描くような赤い衝撃波が飛び出し、決死隊をなぎ倒した。

 シャーキだけが傷を負いながら剣を杖にして立っている。


「貴様がどれだけの化け物だろうが、ゴードはやらせん!」


 シャーキの気迫が伝播したのか、倒れていた兵士がよろよろと立ち上がる。


「…そうだ」

「…頭は殺させねえ」


 ガルバはシャーキに構わずに、シムタラと回復術師部隊を見る。

 シムタラたちは肩で息をしており、術の使い過ぎで魔力困憊なのは明らかだった。


「先にこちらを潰す気ですね」


「魔力が尽きるまで回復してやれ。邪魔はしねえ」


「フッ、余裕なのですね…」


 ガルバは何も言わずに血喰い剣を地面に突き立てた。

 シムタラたちは両手を掲げ集中する。


「仲間たちは倒れるまで戦いました! 私たちも倒れるまでヒールを使うのです!」


 シムタラたちから柔らかい光が放たれ、立ち上がろうとする兵士に吸い込まれていく。

 千人を超える兵士が立ち上がり、シムタラたちは倒れた。

 ガルバが血喰い剣を地面から引き抜く。


「2回戦開始だ。根性を見せてみろ」


 シャーキが立ち上がって叫ぶ。


「もう作戦は無いいぃっ! おのおのが死力を尽くせえっ!」


「「「オオーッ!!!」」」


 兵士たちは咆哮をあげた。

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