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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
22/65

奴隷商人

 無林山の谷底では、ツルハシを持ったガルバとアキが壁面を掘っていた。

 それを温泉につかりながらルザンヌがつまらなそうに見ている。


「ガルちゃーん。鉱脈はまだー? もう一週間よ。ここからも温泉が出たから良かったけど、景色が岩壁だけで退屈だわ」


「やかましい! 地表に鉱脈が無けりゃ、掘るしかねえだろ」


「ルザンヌさんも手伝ってくださいよ」


「嫌よ。わたしが肉体労働するのはガルちゃんの上だけ。ガルちゃん、わたしと休憩しない?」


 ルザンヌは立ち上がると体をくねらせた。

 アキが真っ赤になって叱る。


「まあ、はしたない! ガルバ様、肩をお揉みいたします。私と一緒に正しい休憩をいたしましょう」


 ガルバは二人を無視してツルハシを振り続ける。


「ねえ、ガルちゃんの力だったら剣でバーン!ってやれば、ドーン!ってなって、すぐ終わるんじゃないの?」


 ガルバはツルハシを掲げて上を指す。


「何百mもある岸壁の高さが見えねえのか。バーン!ってやったら、ドーン!って崩れて、全員生き埋めだろうが。鉱山掘りってのは、慎重にやらねえと事故んだよ」


 ガルバはツルハシを置くと、アキの後ろから両手首を握った。


「えっ、ガルバ様。ルザンヌさんの前で恥ずかしい…」


 ドギマギするアキに構わず、ガルバはアキの手を取ってツルハシを振り上げる。


「手伝ってくれる礼に、稽古をつけてやる。ツルハシも正しく振れば剣の稽古と変わらねえ。やりながら、岩のどこを叩けば砕きやすいか探れ。常に観察する癖をつければ、戦いの役にも立つ」


「ありがとうございます! ガルバ様もこうやって強くなられたのでしょうか」


「ああ、振り続けた。気が遠くなるほどな…」


 そう言うとガルバはアキの両手首を離した。

 アキはもっと質問したかったが、ガルバが黙ってツルハシで掘り始めたので、アキもいっしょにツルハシを振った。


 ★


 迷林山の五合目の村では、ガルバが一向に助けが来る気配がないので、アンナたちは自力で下山する気持ちを強くしていった。当然、かくれんぼの修行も熱を帯びていく。


「またアンナに見つかった。考えて隠れたんだけどな」


 ネスコがくやしそうに森から出てくる。

 すでにアンナに見つけられたランブーとアケビーが小屋の前で待っていた。


「アンナは目が良すぎるよお。草木が少し揺れただけですぐ気づく」


「見つかったら最後だポ。こっちがバテるまで追いかけてくるポ」


 森の中ではアンナに見つかったモンジが枝から枝へ飛び移るように樹を登っていた。 追いかけるアンナは短剣を幹に突き立てながら登るので、モンジに振り切られる。


 太陽の光が夕焼けで赤くなったころ、モンジは樹の上から降りてきて、アンナの肩をポンと叩く。


「はい、時間切れ。俺の勝ちー」


「何度も見つけたのに、樹の上を逃げるのはズルいわ。これじゃあ追いかけっこよ」


「身軽さは俺の特技だ。生かすのは当然――おい、誰かがこっちに向かってくる音がする。アンナ、見えるか」


 アンナは辺りに目を凝らす。すると樹々の枝を飛び移りながら移動する影が見えた。


「シャーキよ。他には誰もいないわ――ねえ、モンジ。着けてみない?」


「今の俺たちならいけるかもな。俺は樹の上から、アンナは地上からやつを追おう」


 アンナは樹から飛び降りると、シャーキの斜め後ろから追いかける。途中、見つからないよう位置取りを変えたかったが、シャーキの速さについていくので精一杯だった。シャーキが振り返らないことを祈りながら追いかけていくうちに太陽が沈み、森の中に月明かりが差し込む。


 モンジが樹から降りてきて、アンナと並走した。


「シャーキは尾行されるなんて思ってねえんだろうな。一直線に走ってる。ここから先はアンナの目が頼りだ」


 間もなく、さびれた石造りの教会が現れた。

 シャーキが教会の扉を開けると中から明かりが漏れる。


「周りの樹がちっとも低くなってない。がっかりだわ。山から下りると思ったのに」


「せっかくだ。もう少し様子を探ろう」


 アンナたちは身をかがめながら教会の窓の下にいく。

 中の声を聞くため窓を閉じている板に枝を差し込んで隙間を作った



 シャーキが教会の中に入ると、緑の仮面の男たちが机を囲むように座って、縄で縛られた十人の男女を見張っていた。

 シャーキの不満げな顔を見て、仮面の男が弁解する。


「兄貴だって知ってんだろ。山の民が減っていることは」


 山の民とは山で暮らす人々のことを指す。彼らは山を家と考えており、生まれ育った山脈の中で一生を過ごす。この山脈にはいくつもの小さな集団が季節ごとに移動しながら生活していた。


「人を増やす。近辺の山の民をすべて捕えろ」


「派手にやれば大将に見つかっちまいやすぜ」


「ゴードは王国軍と戦う気だ」


「大将が!? こっちは1万足らず。数十万の王国軍相手に勝てますかね」


「この山の天険を使ってしのぐ」


「それって、最後は負けるってことじゃねえんですか? なんで大将はそんな気に?」


「戦いに飢えているのか、もう終わらせたいと思っているのか…」


 シャーキの言葉に仮面の男たちが黙った。

 その中の一人が机を叩いて憤る。


「終わらせるって、そりゃねえぜ! 俺は反乱軍が存続するために、奴隷狩りなんて汚れ仕事までしてきたんだ。シャーキの兄貴、大将を止めてくれよ」


「反乱軍は英雄ゴードを慕う者たちの集団だ。これまでゴードは何も言わず、黙って冒険者に担がれていてくれた。そのゴードが初めて強い意志を見せたのだ。止めるのなら、殺す他はない」


 仮面の男たちは強く首を振る。


「大将は恩人だ。殺せるわけがねえ。だけど! だけど、こんな終わり方ってねえよ…」


「終わりたくなければ、山の民を狩りつくせ」


 シャーキたちの話を遮るように建物の中に黒円が発現した。

 黒円の中から一人の女が出てくる。


 修道女の衣服を着ているが、首から下げているのは十字架では無く、水晶で出来た髑髏だった。髑髏は一度砕けたのか、割れ目が金によって繋がれている。肌は漆黒で目と歯が闇に浮かんでいるように見えた。


 修道女はシャーキたちの顔と山の民の顔を見比べると、大口を開けて笑う。

 

「あれれれれ~。深刻な顔しちゃって、どっちが奴隷か間違いそうになったじゃん。ヘマでもしたの?」


 仮面の男たちが立ち上がって剣を抜く。


「うるせえぞ! 奴隷商人!」


「無理無理の無理~。ボクに勝てるわけないじゃ~ん」


 シャーキは男たちを手で制止する。


「転移魔法を使えるのはA級以上だ。お前らじゃ勝てない」


「そうそう、身の程知らないと、奴隷にしちゃうよー」


「貴様も口を閉じろ。無駄口を叩くと斬る」


「キャハハハ! 言ってくれるじゃないか、シャーキ。軍資金を貯められるのは誰のおかげ? 山の中から外交できるのは誰のおかげ~? ねえ、言ってみなよ」


 修道女が机の上に拳を突き出す。手を開くと金貨がバラバラと落ちた。


「ビスカ、諸国連合はどうなった?」


「あ~、わかった~。アカツキが攻めてきたんだ~。そりゃ顔も暗くなるよね~」


「問いに答えろ!」


 シャーキが怒鳴ると、ビスカと呼ばれた奴隷商人は首を振る。


「まだ大司教様が飛び回っている途中。だから援軍を期待してもダメ~」


「なら北国の王に会わせろ」


「兄さんを巻き込もうって? ボクがさせないよー」


 シャーキは机の上で拳を強く握りしめた。

 金貨を拳の甲で、ビスカに寄せる。


「奴隷戦士を買う。今まで山の民を売った金で何人用意できる?」


「C級なら5千人ってとこかな」


 仮面の男が首を振る。


「兄貴、5千人ぽっちじゃ焼け石に水ですぜ」


「そうだな…」


 シャーキは少し考えた後、言った。


「奴隷戦士は止めだ。ビスカ・アイトセンヌ。貴様を雇いたい」


「兄貴! こんなやつに大金はたくつもりですか? 馬鹿げている」


 仮面の男が両手を拡げて呆れると、ビスカも同じ仕草をした。

 ただし、意味はまったくの逆だった。


「そんなはした金で?」


「C級戦士5千人分だ。不足はあるまい」


「アリアリのアリ。桁が一つ足らないよ。まあ、雑魚にはボクの力は見抜けなくて当然だけどね~」


「ふざけやがって。兄貴、こんなやつに頼ることはねえ。貯めた金は装備に使いやしょう」


 ビスカが薄ら笑いをシャーキに向ける。


「でもでものでも~、ゴードが奴隷として契約を結ぶのなら、手伝ってあげてもいいよ~」


 シャーキの顔が怒りに染まり、両手の鉤爪が飛び出した。

 仮面の男たちも剣を抜く。


「暴力はんた~い。話は終わりなら、奴隷をもらってくよ~」


 ビスカはおどけて言うと、黒円を発現させ、山の民にその中に入るよう命令した。

 シャーキはその間、ずっと黙っていたが、ビスカが黒円の中に入ろうとしたとき、その背に声をかける。


「我が奴隷として契約を結んだらどうだ?」


「キミなら、一週間だけ力を貸してあげる」


 ビスカは人差し指を立ててウインクすると、黒円の中に消えていった。



 建物の外で聞き耳を立てていたモンジとアンナは顔を見合わせた。


「無理やり奴隷にするなんて許せない。山の民を助けなきゃ」


 立ち上がろうとするアンナの腕をモンジが掴むと離れた茂みまで引っ張ってく。


「聞こえただろ。もう山の民も奴隷商人も転移魔法でどこかにいっちまってる」


「だったら、これから捕えられる山の民を助けなきゃ!」


「落ち着け。これは王国軍と反乱軍の戦争の話だ。俺たちでどうにかなる問題じゃねえ」


「奴隷狩りを見逃せって言うの!」


「そうだ! 後をつけてきたのは何のためだ? 下山の手がかりを掴むためだろ。他人を助ける余裕なんてねえよ」


「モンジは薄情よ。みんなは奴隷狩りを止めることに賛成してくれるわ」


「いーや、みんな下山が第一だと反対するね」


 二人は多数決で決めることにすると、シャーキを追うときに樹につけた傷を目印に村へ戻っていった。


 村に帰った二人は、帰りを心配していたモヒカンズに、シャーキを追っていたことと、教会で聞いた話を説明した。


「で、あたしの意見とモンジの意見、みんなはどっちに賛成する?」


 モヒカンズは考えた後、ランブーがアンナの側に、アケビーがモンジの側に移動した。

 残ったネスコはアンナとモンジの間に立った。


「棄権か? らしくねえな」


「ちょっとお! 多数決になんないじゃない」


「僕の位置が正しい。そもそも二人の意見は割れていない」


「どういうことだ?」


 ネスコはモンジを見る。


「モンジは早く下山したい、そうだろ?」


「ああ」


 ネスコはアンナを見る。


「アンナは奴隷狩りから山の民を救いたい」


「そうよ」


 ネスコは正面を見て眼鏡をクイッと上げた。


「山の民を救い、山の民に下山の案内をしてもらう。これがベストだ」

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