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捨てる神あれば呪う騎士あり~師匠と弟子の物語~  作者: キムラナオト
山の王編
20/65

森の戦い

 迷林山の三合目で、アンナたちは知らぬ間に仮面の男たちに包囲されていた。モンジが確認できたのは大樹の枝に立つ六人。顔の倍近くある楕円形の木製の仮面は葉をすり潰して塗ったのか、緑色をしていた。体は皮の防具をつけており、樹木の魔物のように見える。一人だけ仮面の色が青い男がいた。


 青仮面の男がアンナたちを指して言う。


「その制服。アカツキの犬か」


「いきなり矢で射るなんてひどいわ! あたしたちが何したっていうの!」


「嗅ぎまわり、よく吠える。犬どもを生かして返すな」


「アンナ! 話しても無駄だ!」


 モンジは両手に短剣を構えると、デブモヒカンのランブーとチビモヒカンのジャポに向かって叫ぶ。


「ランブーはネスコ担いで樹の陰に! ジャポは薬草で傷の治療! アンナは二人をフォロー!」


「わかったよお」


「任せて!」


 ランブーの間延びした返事は聞こえたが、ジャポの声は聞こえなかった。

 モンジは舌打ちし、ノッポモヒカンのアケビーに治療の指示を出す。

 アンナがモヒカンズの前に立ち、飛んでくる矢を防いでいるのを見てモンジが感心する。


「目がまた良くなっている。俺も負けてらんねえな」


 モンジが走り出すと、ランブーが立ち上がって叫ぶ。


「モンジも逃げたあ!」


「ランブー立ち上がらないで。的が大きくなるわ」


「おでは足が遅い。もうお終いだあ」


「あきらめる前に戦うの!」


「剣が届かないのにどうすればいいんだよお」


「できることを考えるのよ。いいこと思いついたら、ガルバ様秘蔵のドラゴンジャーキーをあげるわ」


「ほんとかあ! おで、考えるう」


「アケビー! ネスコの傷はどう?」


 ノッポモヒカンのアケビーが傷口に当てていた薬草を毒消草に取り換える。


「矢に毒が塗ってあったポ。体を動かせば、毒の周りが早まるポ」



 一方、モンジは敵に追走されていた。敵が笑う。


「ヒハハハ! 逃げ切れると思っているのか、バーカ。上から丸見えなんだよ」


「逃げていると思ったのか、バーカ」


「何ぃ!」


 モンジは走るのを止めると、樹を枝から枝へ飛び移るように登っていく。


「俺が反転して向かってくるとは思わなかったろう。この身軽さもな」


 敵が弓を放つが、モンジは矢を叩き落す。


「アンナほどの目はねえが、一直線に向かってくる矢なら落とせるんだよ!」


 敵が弓を捨てて剣を抜くのを見て、モンジが笑う。


「今さら遅えよ」


 モンジが右袈裟斬りと左袈裟斬りを同時に放つと、敵の体にXの文字が刻まれ、血を噴き出しながら落ちて行った。



 アンナは矢を防いでいるなか、ランブーが、うおおおお! と、大きな声をあげたので体をビクリとさせた。


「急に大声あげないでよ! ビックリするじゃない」


 振り向いて起こったアンナはさらに驚いた。ランブーが人の体ほどもある岩を持ち上げていたからだ。岩でネスコたちを隠すように落とすと、ズシンという音が響く。


「オラ、考えたあ。これで矢を防ぐ。早くあいつらを倒せえ」


「剣が届かないのにどうすればいいのよ!」


「オラ、できること考えたあ。アンナも考えろお」


「そ、そうよね。うーんと」


 アンナはガルバだったらどう戦うか考える。


「そういえば、アキさんがガルバ様に倒されたとき、あたしを使ったって言ってなかったけ? たしかあれは――! ランブー、あたしを木の上の敵まで投げることができる?」


「ぶんぶん回せば、いけるんじゃないかなあ」


「じゃあお願い! あ、あんまり回しすぎないでね」


 ランブーはアンナの両足首を持つと、自分の体を軸にぐるぐると回り始めた。

 その間もアンナは剣で矢を防ぎながら、タイミングを計っていた。


「いつ、離せばいいんだあ」


「…3、2、1、投げて!」


「ほおおいっ!」


 ランブーが手を離すと、アンナが弓を構えていた敵に向かって飛んでいく。


「いっけー!」


 剣ごと体当たりすると、敵は吹っ飛んでいった。


「問題はこの後なのよ、ねっ!」


 アンナは手ごろな枝に剣を引っかけるようにして落ちていく。

 衝撃を吸収してくれそうな枝を次々と見定めるのが難しかった。


 青い仮面の男が怒りに震える。


「犬ごときが! 皆、弓を捨て、あの娘を斬り殺せ!」


 しかし、他の仮面の男は動かなかった。というより、一人しかいなかった。


「貴様は誰だ?」


「さすがだな。他の奴らは仲間だと思って油断してくれたのによ!」


 モンジが仮面を脱いで投げつけた。

 青い仮面の男が抜刀して仮面を割る。

 仮面に隠れる形で、すぐそこまでモンジが迫っていた。


「驚いたか。仮面の隊長。胴がガラ空きだ」


「格が違う!」


「グハッ!」


 青い仮面の男が素早く手首を返し、斬り上げた剣の柄頭をモンジに叩きつけた。

 地面に落ちたモンジをアケビーが受け止めるのを見て、舌打ちをする。


「犬が群れようと我のみで充分! 降りてやるから、全員でかかってこい」


「降りる必要はないわ!」


 アンナが再び、ランブーに両足首を持たれて回っていた。


「大道芸が二度も通用するか。一刀両断にしてくれる」


「…3、2、1、今よ!」


 ランブーが手を離すとアンナが飛んでいく。

 しかし、青い仮面の男の横を通り過ぎた。


「フッ、土壇場で臆したか」


「狙い通りよ」


 アンナは枝にぶつかる直前で体をくるりと前転させると、枝に両足をつけ踏ん張る。枝は大きくしなり、反発力でアンナを跳ね返した。

 青い仮面の男の背に向かって飛んでいくアンナに対し、男は腰を回転させる。


「それがどうした! 見ずとも斬れる!」


 しかし、ズシンという音とともに樹が揺れ、青い仮面の男の足元がぐらつく。

 ランブーが岩を男の立っている樹の根本に投げていた。


「おのれええええ!!」


「相手の剣が届かなく、こっちだけが攻撃できる場所――それはここよ!」


 仰向けで飛ぶアンナは見上げる形で男の足首を斬った。

 アンナは枝に剣をひっかけながら落ちていく。

 男も落下しながら剣を枝にひっかける。が、アンナほど上手くなかった。


「あたしたちの勝ちよ」


「舐めるな! 頭が上になれば充分!」


 男は剣を振りかぶると絶叫した。


「キイイィヤアアアァッ!!!」


 樹の幹に剣を打ち込むと、幹がベキベキと音を立てて、真っ二つに裂けていく。

 男は幹を裂きながら落下速度を落とし、ゆっくりと着地した。


「嘘でしょ。ランブー、モンジをネスコのところに!」


 アンナは遅れて着地すると、男の前に立って剣を構える。

 男は青い仮面を投げ捨てた。面長の顔に、小さく細い目。綺麗に整えられたオールバックの黒い髪が現れる。

 

「シャーキ・リキノト。貴様らを皆殺しにする男の名だ」


「そ、そんなに頑張らなくていいんじゃない。その足首じゃ踏ん張れなさそうだし」


「腕だけで充分!」


 シャーキは左手の手のひらに炎を出すと、剣にまとわせた。

 アンナは足を引きずりながら、近づいてくるシャーキと切り裂かれた大樹を見て焦る。


「とんでもない馬鹿力だわ。炎の剣って振ったら、炎が飛んでくるのかな。こうなったら、やることは一つ」


 アンナはアケビーを見る。


「ネスコの傷はどう!」


「もう毒は消えたポ」


「ランブー! モンジを担いで逃げられる?」


「いいよお」


 シャーキが剣を突き立て激昂する。


「…待て、娘。ここまでして逃げる気か!」


「やばい奴が現れたら逃げろって言われてるの。あたしの薬草あげるわ。お大事に」


「おのれえええ!!」


 アンナが薬草をシャーキに向かって投げたとき、アケビーが情けない声で言った。


「だめだポ。大勢に囲まれてるポ」


「そんな…」


 アンナが見上げると、数十人の仮面の男たちに包囲されていた。

 シャーキが炎の剣を振り上げて、命令する。


「よく来た、同志よ。犬を皆殺しにしろ!」


「将軍、そいつぁダメです。大将に生かして連れて来いと言われている」


 配下らしき、緑の仮面の男が首を振る。


「立ち入る者は誰であろうと殺す。それが掟だ!」


「隣山に向かった、モトク将軍がやられちまったんです」


「モトクが!?」


「へい。敵はただ者じゃありません。だから、こいつらを人質にしろってえことで」


「…連れていけ。後は本営で聞く」


 シャーキは渋々、剣を収めた。

 ネスコがアンナに耳打ちする。


「将軍というからにはシャーキに近い強さだ。あんな化け物を倒せるのは師匠しかいない。おとなしくしていれば、きっと助けに来てくれる。逃げたジャポも師匠に伝えてくれるはずだ」


「そうするしかなさそうね」


 アンナたちは武器を捨てると、両手をあげて降伏の意を示した。



 そのころ、ジャポは無林山に向かって泣きながら走っていた。


「オイラは間違ってない。やばい奴を見たら逃げろって言われたじゃないか! でも…、みんな卑怯者って思っているかも。見捨てたって思っているかも。何で逃げたのがオイラだけなんだよ!」


 ★


 一方、無林山のガルバはというと、襲ってきた仮面の男たちを半殺しにし、死宝の振り子(デッドオアトレジャー)が激しく揺れて示した谷底に蹴り落していた。


「や、やめろ…。私は三将軍の一人、モトク・ハラシノだ。私を殺せば大将が黙って――ひいいいっ! ぎゃああああああああ―――っ!」


 ガルバは落ちていく男の悲鳴に耳をすませ、谷底の深さを測る。


「そこまで、深くはなさそうだ。っておい! いつまでそこにいやがる」


 崖の近くの温泉で、ルザンヌとアキが湯につかっていた。

 ルザンヌの豊満な体とアキの引き締まった白い体は、男なら誰しも見入ってしまうだろう。


「だってえ、お肌にいいっていうじゃない。ねえ、アキちゃん」


「そうですね。肌がスベスベになった気がします」


「ガルちゃんもおいでよ。二人で洗ってあげる」


「わ、私は殿方の裸を見るのは…」


「アキ、あっちを向いてろ。俺様も汗をかいた」


 ガルバが鎧を脱いで温泉に入る。


「い、いえ。私も見たい…じゃない! 洗います…」


 アキは消え入りそうな声で言った。

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