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調査

 王都フォミニディの王宮の最上階には国王の部屋があった。謁見や会議を行う、玉座の間とは違い、私室としての意味合いが強い。この部屋に入ることができるのは、国王・アカツキと親しい者に限られていた。


 高級材で作られた机を前に、金の装飾が施された白い軍服着てアカツキが座っている。後ろの壁には大きな地図が貼ってあり、グティンラ王国を中心に東半分が赤く塗られていた。アカツキが国王になる前は大陸の四分の一程度しか塗られてはいなかった。


 ノックをして入ってきたのは、緊張の面持ちをした近衛隊のナイラだった。

 ナイラはレイピアを抜くと、アカツキが応じるように立ち上がる。手には何も持っていない。


 ナイラが突きを放ち、横なぎに斬るが、アカツキはギリギリで避けた。ナイラは何度攻撃をしてもかすりもしない。

 アカツキはナイラの横に回り、剣の持ち手を取ると、ナイラに剣を握らせたまま、元の鞘に納めた。


「腕を上げたな、ナイラ」


「陛下との差は微塵も縮まっておりません」


 アカツキは再び、椅子に座ると気落ちするナイラを慰めた。


「余も修練を怠ってはいない。案ずるな。卿の力はA級に近づいている」


「卿? 私は爵位を賜る身分ではございませんが…」


「子爵を与える」


 王国の騎士には貴族と平民がおり、貴族は爵位を持っていたが、平民に対しては貴族の反対もあり、爵位は与えられなかった。それが、男爵を飛び越え、いきなり子爵を与えられたのでナイラはとまどった。


 アカツキは手元の鈴を鳴らすと、黒スーツの執事が授与状と畳まれた軍服を乗せたトレイを持ってやってくる。

 ナイラはうやうやしく受け取ると、軍服を拡げて見た。赤一色ではなく、中心で赤と黒に分かれている。


「これは、近衛隊長の――」


「男爵の騎士を指揮するためには、上位の子爵でなくてはな」


「身に余る光栄です。しかし、私には功績がありません。陛下が弟子を贔屓したとのそしりを受けないでしょうか」


「ミカエルが卿の指導で貴族科トップの成績になったのは、王宮の皆が知っている。今までよく息子の御守りをしてくれた。これからは王宮全体の警備を任せる」


 ナイラは近衛隊長の軍服をトレイに戻した。


「殿下が卒業されるまで、護衛を続けさせてはいただけないでしょうか? 殿下の実力は貴族科でこそトップですが、学校には殿下より強い生徒がいます。その生徒たちは危険すぎる男の指導を受けております」


「ほう。余も知っている者か?」


死霊導師(ネクロマンサー)です。生徒も死人の可能性が――」


 ナイラの話を聞いたアカツキは大笑いした。


「余が知る死霊導師(ネクロマンサー)は子供だ。他にはおらぬ」


「子供…。魔王軍四天王が…」


「それに死霊は鍛えられぬ。強い死霊がいたなら、死ぬ前から強者だったか、死んだ後の怨念が強いかのどちらかだ」


「愚見を申し上げました。お忘れください」


 アカツキは机の上に肘をつき両手を組むと、恐縮しているナイラに聞く。


「なぜ、そう思った?」


「浅慮でした。申し訳ありません」


「責めてはいない。話せ」


 ナイラは<始まりの洞窟>で見た稽古のやり方を話した。

 話を聞き終えたアカツキが黙ったままでいるので、ナイラは沈黙に耐えられなくなって口を開いた。


「陛下のおっしゃる通り、死霊導師(ネクロマンサー)で無ければ、回復術士を稽古に加えてもよろしいでしょうか? 殿下が同じ稽古を望まれておりましたので」


「卿は余の息子を殺したいのか?」


「いいえ! もちろん死ぬ直前に回復を…」


「回復術士の役割は仲間を瀕死にさせぬことだ。死の際を見極めて回復するような性格の悪い術士など、仲間から敬遠される」


「確かに」


「回復術士は死の寸前を狙って回復させる技など磨いていない。だからこそ、卿は死霊導師(ネクロマンサー)だと勘違いしたのであろう」


「御意の通りです! 私は許されない間違いを犯すところでした」


「案ずるな。余も息子のことは考えている。ミカエルはいずれ余をしのぐほど強くなる」


 ナイラはミカエルがそれほどの強さを秘めているとは、到底信じられなかった。決して才能が飛びぬけているわけではない。親の過大評価だとしても、評価が高すぎた。根拠があるとすれば一つしか思い浮かばない。


「陛下は地下室で殿下に何をなされているのでしょうか?」


「問いを許した覚えはない」


「ハッ! 申し訳ありません」


「護衛の継続を認める。ミカエルに死の危険が及ぶ稽古は許さぬ。絶対にだ」


 ナイラが敬礼して部屋から退出すると、アカツキは内務大臣のアッカ・カムロンを呼んだ。おかっぱ頭に丸い鼻。細い目はいつも笑っているように見える。服装は宝石の装飾が入ったコートにシルクのシャツと胸飾り。超一流品を肥えた体に着けたカムロンがソファの上座に浅く座ると、アカツキは向かいのソファに座った。


 カムロンは旧国王の遠縁にあたる侯爵で、王家を超える資産家でもある。<三公の乱>では、早々とアカツキへの味方し、<壁耳>の異名を持つ彼は、諜報能力と謀略でアカツキの勝利に貢献した。数字にも強く、財務も任されている。


 その一方、賄賂で私腹を肥やしているが、アカツキは咎めない。冒険者から騎士団という、戦いの人生しか歩んでいないアカツキにとっては、カムロンの政治家としての能力が必要だった。そして、アカツキの秘密も握っていた。


 かといって、カムロンはアカツキに対し、一時も気を許したことはない。アカツキはカムロンに対し敬意を表してくれるが、どんなに大切にされていても、不必要になった途端、切り捨てられた人間をカムロンは何人も知っている。だから、カムロンはアカツキの前に出る時には豪華な衣服の下に、必ずミスリルの鎖帷子を着けていた。


――わしの能力が必要な間、陛下は好きにさせてくれるだろう。だが、この幸福な時間がいつまで続くか…。


 カムロンは壁の本棚に目をやる。


――また、政治の本が増えている。苦手だった政治を克服しようとしているのは明白だ。平民出身の士官学校の生徒による官僚団も作り始めている。そして気になるのが、あの地下の金食い虫。


「また研究費を増やせとのご下命ですかな」


「年が明けたら、カリバキア王国を落とす。それで事足りるはずだ」


「まあ、そうですが…。前借りではなく奪ってからにしてくだされ」


「ハッハッハ。困らせてすまぬ。呼んだのは他のことだ。<始まりの洞窟>に住む男と、その弟子たちを調べてもらいたい。厄介な男らしいが<壁耳>の異名を持つ卿ならば、時もかからぬだろう」


 カムロンは不信のこもった目をアカツキに向けた。


「白々しい。陛下のほうがよくご存じでは? その男の一番弟子に、わしの息子がいじめられたのです」


「オルゴが? だが、なぜ余が知っていることになる?」


「息子は仲間と力を合わせて戦おうとしたが、ご学友の殿下は離れて見ているだけ。助けもしなかったそうで」


「…すまなかった。後でミカエルを叱っておく」


「ついでに<始まりの洞窟>に住む男のことも聞けばよろしい。殿下は一番弟子とご学友のようですから。もちろん、仕事として調べはしますがね。では、これにて失礼」


 カムロンは嫌味を言うと、部屋から出て行った。

 アカツキはソファに背を預けると、新しい事実について考える。


「ナイラが今の話を報告しなかったのは、ミカエルへの義理立てか? それとも校内の事情に疎いだけか? もう少し情報を集めてみるか…」


 アカツキは鈴を鳴らして執事を呼んだ。


「ルザンヌを呼べ」


 ★


 ガルバが<始まりの洞窟>で生徒たちに稽古をつけていると荷馬車がやってきた。降りてきたのは黒布を頬被りしたマロッキとアキで、マロッキはステッキを振り回しがら、どけ!不良ども!と悪態をつきながら歩いてくる。その後ろでアキは頬かぶりが嫌なのか、恥ずかしそうな顔をしていた。

 ガルバはマロッキを見て笑う。


「コソ泥でも始めたのか?」


「ガルバ様の姿も大概でしょうに」


 マロッキはコックコートを被っているガルバに対し言い返した。


「わしは、目立たたないでください、とお願いしたはずです。それが、何です! 内務大臣の子息をぶっ飛ばすわ、平民の弟子を取って、貴族と対立させるわ。終いには、問題児専門の補欠科なんてものを作らせる。ガルバ様は昔っからそうだ! これっぽっちもおとなしくできない!」


 マロッキの剣幕にガルバは気圧され、珍しく弁解した。


「お前には迷惑かけねえようにするから。ほら、<ヤン商会>の服も来てるし」


「いーや、<壁耳のカムロン>が調査に乗り出したんです。もう無理。絶対無理。わしとガルバ様の関係も突き止められる。あ~、これで巻き添え決定だわい。今すぐ王都から離れてください。小娘も学校で暴れるほど強くなったのだから、もういいでしょうに」


「わかった、わかった。アカツキの息子に受けた恩をアンナが返したら、離れてやる」


「恩返しとは殊勝な心掛けですな。わしが代わりに贈り物を用意しましょうか」


「いや、剣で返す。アカツキの息子より、俺様の弟子が強いことを示さねえとな」


「どーこーがー恩返しですか! つまらない意地を張らないでください」


「大事なことだ。お前は商人だから、俺様の気持ちがわからねえ」


「はいはい、わかっていましたよ。ガルバ様を説得しても、立ち退かないことは。おい、不良ども! 馬車の荷台に積んである荷物を持ってこい。馬鹿でもそれぐらいできるだろ」


 モヒカンズが文句を言いながら、様々な荷物を持ってきた。

 マロッキがガルバに数枚の書類を渡す。


「さあ、ガルバ様。この書類にサインを。いい、いい、読まなくて結構。どうせ読んでもわかんないんだから。これからは、わしの指示に従ってもらいます。聞いてくださらないなら、今後一切の援助をしません。薬もです!」


「ほう。命がいらないのか?」


 ガルバが顔を近づけて脅す。


「どうぞご自由に。壁耳に目を着けられたら、どの道、吊られる運命ですわい」


 マロッキが両手で自分の首を絞める仕草をする。

 ガルバはため息をつくと、マロッキの指示通りに動くことを約束した。

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