表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混ざる七十九回目  作者: けろけろ
5/20

5.薄くなった壁

 その日から、私と花川くんの間にある壁が薄くなった。

 まずは一方通行状態を解消した花川くんが、本音なんかを吐き出してくれたのだ。


 花川くんが私の病気以外で一番大きく持っていた悩みは『学校なんかに行かないで、ずっと礼田さんの傍に居たい』という内容だった。これを想いが通じていない状態の私に言えば、絶対に同居を解消されると思っていたらしい。確かに私のせいで高校を退学なんていう事になったら、花川くんにもご両親にも申し訳が立たないので、入院するか覚悟を決めて田舎へ戻った可能性がある。でもまぁ、今はこんな関係になっているから、学校以外の時間で満ち足りる事が出来るし――と花川くんは自己解決していた。これに関しては自己解決したからこそ私に伝えてきた可能性が九割以上。そのうち未整理でぐちゃぐちゃな悩みも聞いてやりたいものだ。


 一方、私の方はシンプルに、花川くんへ甘える事が出来るようになっていた。今までは「悪いね」「ごめん」「申し訳ない」と伝えていた言葉が「ありがと!」「さすが私が選んだだけある」「そういうトコが好きかも」などに変化。花川くんは私が言うたびに大げさなほど喜んで、行列店の甘い物をお土産に買ってきたり、花川くんの超能力で月夜の空中デートへ出かけたり、私の体調を配慮しながら優しく抱いてくれたり――という感じになる。正直、自分の奇病を忘れてしまう程度に幸せだ。


 これは花川くんにとって隠し切れない嬉しさだったようで、送迎の様子から『街の便利屋さん』の面々に少しずつバレた。まずは大久保が気づき、次に鈍い吉岡、最後にかなり鈍い毛利。吉岡は「花川くん良かったね! 本気の想いって通じるんだね!」と感動。毛利も似たような感じだが「僕たちの礼田さんをよろしく」という言葉が最後にくっ付いている。意外なのは大久保で「礼田おまっ、お前……年齢差はアレだが、嫁に行けなさそうなお前と本気の花川が遂に結ばれ……グスッ……びょ、病気、物ともせず……ゲホッ」と咽せながら泣いていた。どう対応すればいいのか困っていたら大久保は泣きながら消えてしまい、まぁ泣いてしまったのが恥ずかしかったのかなと業務再開。でも後日、吉岡と毛利、花川くんが揃うタイミングで、シフトに入っていなかった大久保が現れた。手には随分大きな白い箱。中身がケーキだと判ったのは、大久保が箱の蓋を開けてからだ。しかしこのケーキ、丸いしデカいし載ってるチョコのプレートには、大久保が書いた『れいだ、はながわ、おめでとう』の文字列。私は誕生日でも無いのに蝋燭を消すハメになったし、ケーキ入刀はさせられるし、ファーストバイトとかいうのもやらされた。まるで結婚式のようだ。


 なので、その日の私は初夜気分で抱かれる事となり、手加減無しの花川くんを感じた。かなり疲れたが、私より先に眠ってしまった花川くんの頬を撫でるのは楽しい。その時点で、手のひらの半分は石化していたけれど。


 この石化はゆっくりだが確実に進み、花川くんが高校二年生になった段階で肘まで石になっていた。こうなってしまうと、もちろん自分でやれる事はやるけれど、二十四時間の介助が必要になってくる。今のところ夜中のトイレの行きと帰りに浮かせて貰うだけだが、起こすと花川くんが眠たそうなので可哀相だ。なので、寝る前は水分を摂らないよう心掛け、朝までぐっすりという状態にしたくて病院で眠剤を貰った。しかし石化した手では上手くシートから薬を出せず、格闘していたところを花川くんに発見され、めっちゃくちゃに怒られる。言い訳も誤魔化しも通じない。仕舞いには「僕はそこまで頼りになりませんか」と泣かれる始末。頼りにしてるよ、という事で眠剤は処分。ただし寝る前に水分を控えるのは、それとなく続けた。


 でもまぁ、しばらくすると、そんな気遣いはもう不要という事態になってしまう。遂に膝から上の石化が始まったのだ。その時、運悪く脚を伸ばしていたので、私の膝はまっすぐ硬直したまま。石化している部分は重たいし、相変わらず石と肌の隙間が痛いので、最初のうちはふくらはぎ辺りを支える台で乗り切っていたのだが、無理な姿勢から酷い腰痛を発症して厳しくなった。つまり、椅子、洋式便器、車椅子などに座れない状態になる。排泄については成人用オムツを使い、肘までは自由に動く腕で何とか自己処理。そんな状態なので、『街の便利屋さん』は諦め吉岡に託した。石化が進む間に経営、税金の申告などについて数年掛け叩き込んだし、いざとなれば電話で連絡も取れるし、花川くんが浮かせてくれれば『街の便利屋さん』へ顔を出すことも出来る。

 当然、売上金は全て吉岡にと思ったのだが、私は最終的に名誉所長とかいう肩書きになり幾らかの金を貰う事になった。贅沢をしなければ十分暮らせる金額で有難い。他の生活費としては私の両親からの仕送りで賄っている。父さんが現役で助かった。私はその金をすべて花川くんに預け、食費やら何やら一切を任せている。

 ちなみに花川くんもご両親からの仕送りを受け取っており、それらは主に学費や高校生らしい衣類や持ち物、残りは本当に申し訳ないのだが私とのデートというか娯楽や外食費に使ってくれている。私の生命保険が下りたら何倍かにして返そう。その他、医療費は研究材料という名目で無料だから助かる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ