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春家キノコのルールブック 〜高校生に発現する異能!異能!異能!〜    作者: Sun
第一章 春家キノコのルールブック
8/40

08 【ルールブック】





「三年三組、三橋美佳。女子バスケ部部長。彼女は校内に危険物を持ち込んでいる。ヤナギンには、それを回収して欲しい。」



水鳥は、生徒指導室でそう言った。






放課後、僕と春家は体育館に向かっていた。


体育館は、僕らのいる二年生の校舎、一号棟から二号棟へ行き、一階の渡り廊下を歩いて東にある。



「で、その'危険物'ってなんなの?」


春家は訪ねた。


「わからん。とりあえず、女子バスケ部の部長の三橋美佳先輩っていう人が、'危険物'を持っているらしい。」


西日が眩しい。渡り廊下がオレンジ色になっている。


「そもそもなんで三年生の人のものを柳くんが没収しないといけないのよ。私たち二年生よ?」


「知らないよ。水鳥に聞いてくれ。」


「私、あの子苦手なのよ。」


春家は肩をすくめる。


水鳥がいるとき、確かに春家は口数が少なかった。


春家、水鳥のこと苦手なのか。


「水鳥、僕の【増殖】のこと、知ってたぞ。」


そういえば、と思い出したように言う。


「でしょうね。」


春家は分かっていたらしい。


「彼女も能力者よ。私の髪がプラチナ色になっていることも気づいている。気づいてない振りしてたけどね。そういうとこが苦手なのよ。」


'プラチナ色'、気に入っているらしい。


「何の能力?」


「それはまだ、わからない。」


「そういえば春家、僕の能力は何で知ってたんだ?僕の場合、【増殖】であることも知ってたんだろ?」


僕は昨日、初めて能力を使った。突然【増殖】が発現して、キノコで学校を埋め尽くした。


僕自身が知らなかった能力を、なぜ春家は知っていたのだろうか。


「まあ柳くんには伝えておくかな。これよ。」


春家はカバンからおもむろに何かを取り出した。


「お前、それ・・・」


春家が取り出したのは、一本のバナナだった。

このバナナは朝も見ていた。春家に食べるか聞かれたバナナだ。

朝よりも熟れて、かなり黒くなっている。食べ頃は過ぎたようだ。


「【ルールブック】」


何?ルールブック?


すると、春家の持っているバナナが突然動き出した。


「うわ!何だ!?」


手の上で、バナナが上体をくねらせている。

まるで、踊っているようだ。


「なに、バナナが・・・・キモっ!!」


そして、一通り踊った後、バナナからもう一本のバナナが生えてきた。

枝みたいにバナナが生えてきて、やがてもう一本のバナナが生まれた。


「これ、もしかして、僕の【増殖】?」


生まれたバナナは黒点一つなく、黄色い。


「そう。」


春家は新しく【増殖】したバナナを剥き、食べ始めた。


「私は他人の能力をある程度検知できる。それがこの、【ルールブック】よ。」


能力の検知・・・

それで、僕の【増殖】を知っていたのか。


「片手で持てる棒サイズのもので、対象の人間の能力がわかる。今のところマツタケが一番効果が強くて、調子がいい時は喋ったりするわよ。」


喋るの!?あのマツタケ喋るの!?


「それで・・・・昨日マツタケ持ってたのか。」


なぜ春家がマツタケを持っていたのか理由がわかった。春家は、マツタケの力を使って、僕の能力が【増殖】だと知った。


「そう、だけどマツタケは能力を強化する力もあるみたいで、柳くんの【増殖】の力を爆発させちゃったみたい。」


そういうことだったのか。

どちらにせよ、しばらくマツタケは見たくない。軽いトラウマになっている。


「ところで柳くん」


バナナを食べ終えて、渡り廊下に設置してあったゴミ箱に皮を投げ入れる。


「【増殖】の力で、お金は増やした?」


———あ。


そういえば、そんなこともできるのか。

能力に振り回されて、全くそんな発想にならなかった。


「お金、増やしてない。」


「へえ。柳くん、無欲?一番に思いつきそうなものだけど。」


「そうか?でも、そんなことしていいのかな?」


お金を【増殖】させる。

そんなことができたら、それ以上の便利な能力はない。


「柳くんの能力、コピーじゃなくて、オリジナルが増殖してるよね。」


全く同じ物質ではなく、オリジナルが増殖する。

それは、水鳥に見つかった雑誌と、春家が増やしたバナナで明らかだ。

黒いバナナから増えたバナナは、黄色だった。


お札にはそれぞれ、識別用の番号が書いてある。

【増殖】を使ったら、きっと別の番号のお札が出てくるだろう。

そうなったら、完全に本物だ。


「確かに、お金は増やせそうだ。けど、なんか、それってマズくないか?」


「マズいって、どういう意味で?」


「いや、お金を発行するのって、重罪じゃなかったっけ?」


「柳くん、成績は最下位のくせにそういうことは詳しいんだね。」


成績の悪さをいじるな。お前は僕の妹か。


「でも、【増殖】でふやすのであって、発行ではないんじゃない?法律で、お金に【増殖】を使うことは禁止されてないでしょう?」

春家は続ける。


「屁理屈じゃないか・・?」


「そうかもね。でも、柳くんみたいな能力のことを、今、法律は考慮してないよね。」


法律が、【増殖】を考慮していない。


「柳くんが発現させた力は、ルールの外にあるんだよ。」


「ルールの外・・・」


「私が言いたかったのは、ルールの外だからこそ、気をつけてねってこと。さっきは法律に触れないみたいに言って、柳くんにお金の増殖を勧めるような言い方したけど、柳くんにはお金を増殖させないで欲しいの。」


「どうして?」

帰ったらやってみようと思ったのに。


「この学校、どうやら監視されているみたいだから。」


「監視?」


「それこそ、【増殖】でお金なんか増やしてるのがバレたら、一発アウト。柳くん、殺されちゃうかも。」


「バレたら、殺される!?おい、ちょっと初耳なんだが、誰にバレるとマズいんだ?」


少なくとも【増殖】は既に二人にバレている。


「わからない、でも、バナナとかを多少増やしても大丈夫だから、安心して。」


要するに、法律違反っぽいことをするな、ということか。

僕の道徳力が試されている。

それにしても、殺されるかもって・・・


「この世のルールの外の力、【増殖】をルールの中で使え、か。」



僕と春家は体育館に到着した。

体育館の中から、部活動生の声が聞こえてくる。


三橋先輩はどこだろう。

体育館の中を除くと、男子バスケ部とバレー部、バトミントン部がコートを使っている。


「柳くん、私もう帰るけど、」


「え?一緒に来てれるんじゃないの?」


「別に私が頼まれんたんじゃないもん。ここまで来ただけでも、感謝して欲しいわ。」


そっぽを向く春家の奥で、女子の声が聞こえた。

女子バスケ部が、体育館横の広場で、ステップを踏んでいるのが見えた。


「まあ練習が終わるのを待たないといけなさそうだし、わかった。また明日。」


僕がそう言うと、春家が黒くなったバナナを渡してきた。


「はい、これあげる。」


いらない・・・が、何となく受け取った。


「最後に、もう一つ教えてあげる。三橋美佳、彼女もルール外の力を持っている。」


渡されたバナナが、僕の手の上で踊っている。

———【ルールブック】が発動している。


三橋先輩は、僕と同じ【増殖】のような、能力を持っている。


「・・・・わかった。」


二回転ほどした後、黒々としたバナナは、力なく倒れた。












【お願い】

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