07 美化委員としてやる仕事は特にない
*
「それでは、裁判に移りたいと思います。」
水鳥は仰々(ぎょうぎょう)しく言った。
僕は水鳥に呼び出され、生徒指導室に来ていた。
「被告人、前へ。」
言われて、なんとなく一歩前に出る。
六畳ほどの狭い部屋には、僕と水鳥しかいない。
「何か弁明はありますか?」
裁判官の真似事をしている。
余りものだろうか、部屋の真ん中には教卓が置いてある。
その上には、五冊の卑猥な本が美しく並べられていた。
教卓の奥では、身長の小さい水鳥が、ひょっこり顔を出している。
「これは、僕のものではありません。」
僕はまっすぐ前を向いてそう言った。
水鳥がじっとこちらを見ているのがわかったが、遠くを見るように努める。
「【眼鏡巨乳の女子高生が我慢できず学校で・・・・】」
すると水鳥が、雑誌のタイトルを読み上げ始めた。
「【同級生に・・・されるも眼鏡女子は満足できず・・・・】」
じっとりと、たまに呼吸を漏らしながら読んでいく。
「これは、僕のものではありません!」
これはどんなプレイだ!?
「・・・・・【風紀委員と体育倉庫で・・・・】」
風紀委員。水鳥も偶然、風紀委員である。
「どれも、なんだか私に似てる気がするのは、気のせいかしら?」
気のせいではありません。そのうちの一冊は、最初から僕のセカンドバッグの下にありました。
そして、増殖して5冊に増えたものと思われます。
「気のせいです、サー!」
今回の件で、増殖の能力についてわかったことがあった。
増殖したものは、丸々同じのコピー品にはならず、何かしらのオリジナル性を持つということだ。
これまではバナナやキノコ、石鹸だったのでわからなかったが、増殖したものを細かく見れば
全て違ったのかもしれない。
「なるほど、この雑誌の女の子が、私に似ていることも、風紀委員であることも、単なる偶然というわけね。」
「そうです。不思議なこともあったものですね。」
水鳥が雑誌に優しく触れる。
「では、最後に、何か言いたいことはありますか?」
裁判が佳境になってきたようだ。
「すみません、弁護士を呼んでもいいですか?」
「却下します。」
一秒で却下された。
「では、判決を言い渡します。柳凛太郎くん・・・死刑!」
しけい!
小学生か!
「———とまあ茶番はこれくらいにして。」
一体何をやらされてるんだ。僕は。
———まあ茶番抜きにしても、水鳥そっくり女の子が載ったエロ本を水鳥に見つかった時点で相当な状況なのだが。
「今、この部屋に二人きりだね。」
へ?
「この狭い生徒指導室に二人きり。薄暗くて、蒸し暑いよね。」
水鳥は自分そっくりの雑誌を手に取る。
「ここで何しても、誰もこないよ、ヤナギン。」
水鳥が一歩、僕に近づく。雑誌の中の水鳥そっくりの女の子が、僕を見ている。
「ヤナギンは私のこと、この雑誌みたいにしたいの?」
鼓動が暴れ始める。水鳥の顔が近づく。
「ねえ、この本は———」
ああ!僕は———
「——【増殖】で増やしたんでしょ。」
は・・・・・
今、増殖って言いましたか?
増殖って、物が増える、あの増殖?
僕がキノコを大量に増やした、【増殖】の力のこと?
「ダメだよ、学校をあんなにしたら。」
もしかして、水鳥こいつ———
「キノコを見たのか?」
僕の増殖の力を知っているのか?
少しだけ、ほんの少しだけ、何かを期待していた僕のナニカが、ゆっくりとしぼんでいく。
「見たも何も、あれ片付けたの私だから。」
え?うそ!まじですか!?
「あの量のキノコを片付けた?お前が?」
「そ。大変だったんだよ。臭かったし。」
やっぱり臭かったか。大量のキノコは臭いよね。
「だからヤナギンは、私に借りがある。」
水鳥は、上目遣いで、いたずらっぽく笑う。
あのキノコを本当に片付けたのなら、確かに借りの一つや二つは返さないといけないだろう。
「というわけで、風紀委員の仕事を、一つ頼まれて欲しいのだよ。」
静かな、誰もいない生徒指導室。
弱みを握られ、借りを作ってしまった僕に、選択肢などない。
こうして、美化委員と風紀委員の格付けは完了した。
*
*
【お願い】
読んでいただきありがとうございます。
ページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると、
書き続ける励みになります。
☆評価と、ブックマークをよろしくお願いいたします。