05 銀髪が似合うのは10代まで
*
キノコが消えた理由はお互い分からないことが分かったので、
とりあえず教室に向かうことにした。
僕が所属する二年二組の教室は、一号棟の二階にある。
昇降口から階段を登り、二つ目の教室だ。
僕と春家は同じクラスなので、当然教室までの道のりは同じである。
「銀髪というよりは、白金だな。」
春家の髪色を指して、そう言った。
明らかに公立高校に通う生徒としては不適切な髪色を、春家はしている。
「プラチナっていい響きね。銀髪と言われるよりも気分がいいわ。」
先週まで真っ黒の髪色だった春家はご機嫌のようである。
「気分がいいって・・・」
周りの様子を見てみる。誰も春家の髪色には反応していない。
「プラトニックを連想させるからかな、私にぴったり。」
こいつ本当にあの春家なのか。
先週までクラスの隅っこで一人で本を読んでるようなもの静かな人だったのに。
髪色を明るくしたら、性格まで明るくなるのだろうか。
「プラスチックだかプランクトンだか知らないけど、大丈夫なのか。」
公立風来高校では、当然染髪は禁止である。
それも即生徒指導レベルで。
「プラトニック!柳くん、プラトニックからよくもそんな言葉思いつけるね。もしかしてラッパー?」
生徒がこんな派手な髪色にしてきたら、生徒指導の先生が飛んでくるのも時間の問題だ。
「僕はラッパーじゃない。美化委員だ。」
「ラップって委員会活動なの?」
「お前の髪はコウソクイハン、高速で指導、正されるキハン。」
おお〜
と春家が拍手する。
「よくそんな言葉ぽんぽん思いつくね。頭の回転早いんだ。柳くんって国語の成績良かったっけ。」
「国語は普通。それ以外の教科は最下位。このくらいの言葉遊びなんて、誰でもできるよ。」
そんなことを言っている場合ではない。
話はそれたが、春家が銀髪で登校していることが問題だ。
今はたまたま誰かしらの先生に遭遇してないからいいものの・・・
「今日月曜日だぞ、分かってるのか?」
そう、今日は週明けの月曜日である。
「うん、月曜日だね、それがどうかしたの?」
朝先生に遭遇しようがしまいが、結局は時間の問題なのだ。
「月曜は服装検査の日だぞ。」
毎週月曜は、風紀委員により服装検査が行われる。
服装検査は服装はもちろん、頭髪や不要物の持ち込みのチェックも同時に行う。
「あ〜そっか、しまった。ハンカチ忘れた。」
いやハンカチはどうでもいいだろ!それどころじゃない髪色してるだろうが!
「本気で、その髪色でいけると思ってんのか?」
しかし・・・どういうことだ?
さっきから誰にも声をかけられていない。
こんなに目立つ髪をしているにも関わらず。
まるで、誰も気づいていないみたいに——
「あれ、珍しい組み合わせだね。」
教室前の廊下で、後ろから声をかけられた。
振り向くと、丸メガネの女の子が立っていた。
「水鳥。」
水鳥琴雛。クラスメイトからはヒナと呼ばれている。
その名の通り、ヒナみたいによちよち歩く。
「噂をすれば、ほら、風紀委員だ。」
春家を一瞥する。
水鳥は風紀委員で、週に一回の服装検査を担当している。
「ヤナギン、春家さんと仲よかったっけ?」
よちよち歩きで近づいてくる。
僕のことをヤナギンと呼ぶのは水鳥だけだ。
「・・ってあれ、春家さん!」
水鳥は早速声をあげた。
言わんこっちゃない。
服装検査までもたなかった。生徒指導室直行だ。
「やれやれ」
わざとらしく肩をすくめる。
だからそんな派手な髪はやめた方がいいと———
「コンタクトに変えたんだ!かわいい!」
「え?」
水鳥が感嘆の声を漏らしながら春家の手を握る。
「うわあ、やっぱり春家さん、メガネ外したら美人になると思ってたんだよ〜」
うんうん、と水鳥はうなずいている。
その反応は、僕の予想とは大きく違っていた。
この派手な髪色を無視して、コンタクト?
あっけにとられて、春家を見る。
春家は水鳥に「かわいい」攻めされて、困惑の表情を浮かべていた。
「どうなってるんだ・・・?」
水鳥の丸メガネの奥の、まん丸の目がギョロリと僕に視線を移す。
「ああ、もしかして、ヤナギン、可愛くイメチェンした春家さんにナンパしてたな〜」
「あ?」
春家がさっきから黙っている。
さっきまでプラスチックだかなんだか言って、ご機嫌だったのだが。
「今日の服装検査、ヤナギンは適当にイチャモンつけて、不合格にしちゃおっと。」
職権乱用だ!
「お前みたいなやつは、風紀委員の風上にも置けんな。美化委員が学校からお掃除してくれるわ。」
すると、身長の小さい水鳥が、見下すように鼻で笑った。
「ハッ、美化委員ごときが風紀委員に勝てると思ってんの?」
委員会に序列があってたまるか。
いや、でも風紀委員の方がなんとなく強そう。
というか、単純に僕が弱い。
「コウソクイハンしない僕こそがキハン!」
春家には好評だった、ラップで攻めてみる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
風紀委員には、通用しなかったようである。
こうして僕は、月曜の朝から大スベリした。
*
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