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40 後日談




三日間だけ、僕には二人の妹がいた。


赤いリボンを頭につけた赤一華と、青いリボンを頭につけた青一華。


赤一華は僕のことをお兄ちゃんと呼ぶ。

天真爛漫で感情豊か。

勉強と運動が苦手。

絵が死ぬほど上手い。


青一華は僕のことを凛太郎と呼ぶ。

冷静で論理的。

勉強も運動も完璧にこなす。

絵が死ぬほど好きなくせに、描くのは下手。


赤一華は、青一華の強い願望から生まれたドッペルゲンガーだった。

故に対照的で、それは一華の理想像でもあった。


赤一華は僕と一華を救うため、死んだ。


——ドッペルゲンガーは、オリジナルを殺す。


赤一華は、ドッペルゲンガーの本来の役割を果たすことなく、死んでいった。


三橋先輩に頭を撃ち抜かれた赤一華は、文字通り影も形もなくなって消えた。


僕は、立てかけてあるキャンパスを眺める。


陽はとっくにくれていた。


ふう、と隣で背を向ける田中が白い息を吐く。


「悪かったな。殺そうとして。」


背を向けたまま、田中は僕に謝る。


「どうでもいいよ。」


水鳥のタイムリープの影響で、僕には二人の妹の記憶が大量に残っていた。

カレンダーの上では三日だったが、僕たち兄妹は長い間時を共にした。


「なんでドッペルゲンガーまで助けようとしたんだ?」


二人の妹、どちらも助けたかった。

二人とも性格は違うけれど、確かに二人とも妹だった。


「家族だから。」


僕は即答する。

家族を助けるのに、理由が必要だろうか。


「そうか。」


田中はそう返事して、ため息をつく。

田中の近くにいると、真夏にも関わらず寒い。

冷房の効きすぎた部屋にいるみたいだ。


「あんたこそ、そんな能力(ルール)隠し持っていたのか。モブキャラみたいな名字のくせに。」


田中は、タバコの煙を氷に変えていた。


「名字ね。実は、田中って名字気に入っているんだ。普通でいいだろ?」


「能力は普通じゃないけどな。」


煙は肉眼で見えないため、何もないところから突如氷の塊が発生するように見える。

氷の成長は自在に操れるようで、かまくらみたいに丸い氷で閉じ込めることも可能だ。


「そうかもな。温かい季節が苦手でね。寒いと落ち着くんだ。」


「ふうん。」


それ以上は田中は説明してくれなかった。


「水鳥と三橋は?あと柳妹。」


ここは2号棟の屋上だ。

僕と田中以外は誰もいない。


「帰らせたよ。お前に凍らされるからな。」


僕は先に屋上にたどり着き、すぐに全員を帰らせた。


「失礼な。先生を通り魔みたいに言うな。」


「いや、通り魔だろ。僕、あんたに殺された記憶あるんだが。それも突然。」


デジャブ。とも言えないほど鮮明に腹突き出した氷の柱の映像を覚えている。


「へえ。柳を殺したのか、別の世界線だと。」


田中は覚えていないようだった。


「ああ。」


「柳は、俺のこと怖くないのか?」


言いながらも、田中はまた新しいタバコに火をつけた。

その気になればこの屋上くらいの広さは一瞬で氷漬けにできるだろう。


「妹と水鳥をあんたに会わせないことに必死で、怖さも忘れたよ。」


「ハハッ、大丈夫、誰も殺す気はないよ。」


ふう、と白い息を吐き出す。


「それはよかった。」


「ドッペル・・・いや、赤い方の妹と何か話したかい?」


赤一華と過ごした時間を思い出す。


「もちろん。一緒に買い物行ったり、ゲームしたり、デートを尾行したりした。」


一生懸命陸上している姿をみた。

徹夜で絵を描いている姿をみた。

図書館で絵に夢中になる姿をみた。


「尾行?おかしなことしてるね、君ら兄妹は。」


「僕もそれは思うよ。」


僕は乾いた笑い声をあげた。


「先生、七つの大罪って知ってる?」


図書館にある巨大な壁画。七つに別れた絵。


「知っているよ、憤怒、傲慢、色欲、怠惰、暴食、強欲、嫉妬だろ?」


七つの罪を示した絵を見ながら、赤一華は僕に一つの罪を提示した。


「妹が、僕は七つの大罪の中で何が当てはまるのか言ってくれたんだ。」


「なんて言ったの?」


屋上は風が強い。

すっかり暗くなった水平線を眺めて、つぶやく。


「強欲。」


ハハハ、と田中は声をあげて笑った。


「なるほど、ぴったりだ。」


そんな感想を述べた。









ここまで読んでくださった皆様、いつもありがとうございます。

本作「春家キノコのルールブック」はこれにて完結とさせていただきます。

今後とも応援よろしくお願いいたします。

Sun

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