33 ルール-時間退行
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視点:水鳥琴雛
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私の能力、【時間退行】には大きなルールが三つある。
一つ、時間移動できるのは過去のみ。時間移動ではなく、時間退行の名前になっている理由でもある。
また、移動できると言っても自由に好きな時間、場所を指定することはできない。
大まかな移動時間は選べるが、実際に遡る時間はランダムである。
二つ、時間を遡るリスク。私は遡った時間分だけ、身体的年齢も遡ってしまう。言い換えれば、若返ってしまう。最初はこのルールに気づかず、今は中学生くらいまで退行してしまっている。故に、何十年も遡ることはできない。数年遡るだけで、体はどんどん小さくなるだろう。
そして最後に三つ目。
時間退行——タイムリープをしても、結果を変えることはできない。
些細な過程を変えることはできても、たどり着く結果を変えることはできない。
私は一度、ある電車の人身事故を防ごうとしたことがある。未然に非常停止ボタンを押したとしても、停止ボタンが反応しなかったり、信号障害が起きたりして結局電車は止まらなかった。人間の方を助けようとしても、数分後に向かいのホームで飛び降りたりした。
何度タイムリープしても、人身事故が起きるという結果は変わらなかった。
故に今回も———
一華ちゃんを助けたいと思いつつも、心のどこかでは諦めていた。
でも、昔からの顔見知りが、あんな悲惨な死に方をしたら戻りたくもなる。
事故現場に駆けつけた時、あまりの凄惨な現場に腰を抜かした。
広い交差点に巨大なトラックが横たわり、建物に頭を突っ込んでいた。
そして、後に続くように何台もの軽自動車が仰向けになって転がっていた。
交差点に倒れていた二人は私のよく知る人物だった。
一華ちゃんとヤナギン———
ヤナギンと一華ちゃんは近くに倒れていて、大量の血溜まりの上にいた。
どちらの血液か分からなかったが、どちらも瀕死の重症だということはわかった。
もう一人、交差点の真ん中に倒れている女の子がいたが、顔が潰れていて誰か分からなかった。
近くに赤いリボンが落ちていたので、彼女がつけていたのかもしれない。
ヤナギンは増殖の能力で助かるかもしれないが、一華ちゃんはきっと助からない。
交通事故で一華ちゃんは死ぬ。
この結果はきっと変わらない。
だけど、諦めきれなかった。
救急車のサイレンが聞こえた。
気づくと私は、慌ててヤナギンだけ引きずっていた。
建物の影までヤナギンを引っ張って、ヤナギンが起きるのを待った。
一華ちゃんを助ける方法を考えていた。
でも考えれば考えるほど、一華ちゃんを助けるのは無理な気がしてならなかった。
ヤナギンが目を覚ました。
「水鳥・・・一華が」
何かしらの奇跡が起きて———
なんて淡い期待と共に、私はヤナギンに伝える。
「一華ちゃんを助けよう。」
それは決意ではなく、願望だった。
「タイムリープして、一華ちゃんを助ける。」
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目を開けると、私は夕方の教室にいた。
慌てて黒板を確認すると、七月二十三月曜日と書いてあった。
タイムリープして、まず最初にすることは日時の確認だ。
タイムリープした時計は、タイムリープする前の日時になっているため使い物にならない。
遡る時間はランダムで、選べない。
タイムリープした先で正確な日時を確認する必要がある。
タイムリープした先が日時をすぐに確認できる場所でラッキーだった。
一方で、この日時に飛んできてしまったことは不運だった。
七月二十三日月曜日。私がタイムリープする前も、今日の日付だった。
つまり、半日しかタイムリープしていない。
確か、下校中に事故は起きたはず。
時間がない。
私は急いで事故現場の交差点に向かった。
交差点に到着すると、既にヤナギンと一華ちゃんは現場にいた。
声をかけようとした時、横断歩道の向こうから走ってくる女の子に気づいた。
女の子は頭に赤いリボンをつけていた。
私は事故現場で潰れていた女の子を思い出す。
赤いリボン———彼女だったのか。
それだけではない。
私が驚いたのは、赤いリボンの女の子が一華ちゃんにそっくりだったことだ。
いや、そっくりというレベルではない。
同じだ。と思った。
走り方も、笑い方も、声も、一華ちゃんと全く同じだった。
能力————
何かの能力なのだろうか、とふと思った。
———しかし今はそんなことを考えている暇はない。
「ヤナギン!」
精一杯の大声で叫ぶ。
ヤナギンが気づいて振り向いた。
「水鳥、学校休んでたんじゃ・・・」
「その交差点から離れて!」
その時、遠くで
ドン!
と大きな破裂音が聞こえた。
巨大なトラックが傾いて、倒れる寸前だった。
あれが突っ込んでくる。
「逃げて!」
変わらないかもしれない。
一華ちゃんは死んでしまうかもしれない。
タイムリープしても、無駄かもしれない。
けれど、あんな結末は嫌だ。
奇跡が起こる可能性が残っているなら、諦めない。
それは、他でもなくヤナギンが教えてくれたことだった。
だから、私は飛んだ。
ヤナギンならまた、あのときみたいに—————
「ヤナギン————!」
次の瞬間、激しい強風と共に、巨大なトラックと無数のガードレールが衝突した。
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