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春家キノコのルールブック 〜高校生に発現する異能!異能!異能!〜    作者: Sun
第一章 春家キノコのルールブック
3/40

03 マツタケは集まるとくさい




昇降口の下駄箱が、


駐輪場と隣接する駐車場が、


体育館が、


武道館が、


校舎が、


全てキノコで埋め尽くされた。

比喩ではなく、本当に、キノコの海に沈んだ——。


悪い夢でも見ているようだ。


「やっと・・・でれた・・。」


キノコの海をかき分け、校門から出る。


制服を引っ張ると、背中に挟まっていたキノコがボトボトと落ちた。


「くっせ。」


この量になると、もはやマツタケの香ばしさなど微塵も感じない。

ただ、土臭いだけだ。


「・・・・・」


キノコに埋め尽くされた校舎を眺める。

足元のキノコを蹴ると、思ったより飛んだ。

ゴムみたいに跳ねて、校門にぶつかる。


さっきまで手に握っていたキノコを思い出す。

僕が振り上げた瞬間、ありえない形になっていた。


そしてそう——爆発に近い。

キノコが爆発したみたいに、一気に増殖した。


———柳くんの増殖力が発現した。


春家の言葉が脳裏をよぎる。


まさか、本当にこれを僕がやったのか?


「ゴホッ、エホッ、うう、うええええ。」


嗚咽が聞こえてくる。


「くっさああああ!!!」


銀髪の女が、叫び声を上げながら飛び出してきた。

春家だ。

上半身だけ、キノコの山から飛び出て、校門のアスファルトに横たわっている。


「うええええええん、臭いいい。生乾きの靴下の臭いするううう。」


地面に手を叩きつけ、苦しさを表現している。


「臭くて苦しくて、死ぬかと思った・・・」


キノコから半分飛び出ている姿は、非常にシュールだ。


半ベソをかいている春家が、なんだかかわいそうになって、手を貸してやる。

さっきまでの怒りはとっくに消えていた。


「ううう、ありがとう・・・」


キノコからひきづり出された春家は、素直にお礼を述べた。


「それにしても。」


僕は改めて校舎を眺める。

キノコで埋め尽くされた校舎。


「大変なことになったな。」


春家を見ると、体操座りでうつむいていた。

余程キノコに溺れそうになったのが怖かったのだろうか。


「さすがに手品・・・とかじゃないな、これは。」


限度を超えている。

手品の限度もそうだが、

人間の限度を、だ。


ウニのように尖ったキノコの姿を思い出す。


「僕の・・・せいなのか。」


自分の目で直接見てしまったのだ。認めざるを得ない。

確かに自分が、キノコを爆発させた。爆発して、増殖した。

感覚があった。

自分の中から何かが溢れて、キノコに伝わっていく感覚。

心臓の音が大きく聞こえて、身体中の血が集まっていく感覚。


「どうする?春家。」


この状況、このキノコの海をどうするか、という意味で聞いた。


少し間があって、

「・・・さすがにこんなの、どうしようもないでしょ。」


駐輪場横の時計が、キノコの海からひょっこりと顔を出している。


はあ、とため息をついた。


「どうしようもないな。」


春家の様子を見る感じ、春家にとっても予想外だったようだ。

どうやら本当に、僕は、キノコを増殖させたらしい。

多分、バナナも、僕が増やしたのだろう。

春家は最初から、ずっと本当のことを言っていた。


僕がキノコを増殖させた、のか。

しかし、それがわかったところで、もうどうにもならない。

校舎を沈める大量のキノコをどうにかできる訳がないのだ。


「帰るわ。」

「帰ろう。」


と、僕らは諦める決意をした。

責任なら問わないでほしい。

僕らはまだ16歳だ。


僕らは増殖したキノコを放置して、帰った。





家に帰ると、リビングで妹がアイスを食べていた。

素通りして二階の部屋に行こうとした時、


「うわ、何、くっさ。」


と低い声で言われた。


「なんか腐った革靴の臭いするんだけど。」


「革靴は腐らないだろ。」

と突っ込んでみる。


「は?腐るけど。加水分解って知らない?湿気の多い場所で劣化するやつ。」


「そ、そうなんですか・・・」


妹に完全論破された。

余計なツッコミしなければよかった。


妹は僕と違い、頭の出来がすこぶるいい。

遺伝子とは不思議なものである。

妹に口喧嘩で勝ったことがないことを、恥ずかしさと共に思い出す。


「どうでもいいけど、風呂入りなよ。臭い。」


部屋に戻ろうとしていたが、そう言われて足を止める。

慣れたのか自分ではもう感じなくなっていたが、やはりくさいようだ。


「早く行って、臭いでアイスが腐っちゃうよ。」


いや、アイスは腐らんだろ。


と言いかけて、やめる。


もしかしたら、アイスも腐るのかもしれない。

先ほどの失態で、完全に疑心暗鬼である。


妹に急かされて、脱衣所に小走りで向かう。

服を脱ぎ、蛇口をひねる。

温かくなるまで少し待って、頭からシャワーを浴びた。


温水に打たれている間も、先ほどの出来事を思い出していた。

帰り道は、現実離れした出来事との遭遇で興奮していて、他のことに頭が回らなかった。


しかし、こうしてゆっくりシャワーを浴びていると、色々なことを考えるようになる。


土曜日とはいえ、学校に部活動で来ている人はいただろう。

あの大量のキノコで、学校をでれなくなった人はいないだろうか。

怪我をした人もいたかもしれない。

そういえば田中は無事だろうか。

敷地外からでも、あのキノコの海は目撃されているだろう。

明日、全国ニュースになるだろうか。

「怪奇現象?大量のキノコに埋まる校舎」

という見出しで、新聞の一面になるだろうか。


・・・あれ?


どうしよう。やばくね?


本当に僕がやったんだよね?


学校をキノコの地獄に変えたの、僕だよね?


でも、まあ、犯人はバレてないよね。


さすがに僕がやったとか、バレないでしょ。


そもそもあんなこと、もう二度と起きないって。


僕みたいな平凡な、普通の高校生に何度もあんな奇跡が起きるわけがない。


しばらく経ったら、みんなも忘れるさ。。


そう。


僕もいづれ・・・


「・・・・・」


体を洗うため、石鹸に手を伸ばした。


一個だけのはずの石鹸が、10個に増えていた。











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