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23 二人の妹の違い




木の屋根の下、暗い夜道に二人の女の子が立っている。

一人は制服、一人はジャージ姿だ。

二人の女の子は同じ背丈、同じ体格、そして、同じ顔をしている。

しかし、二人は双子ではない。

二人とも、僕のたった一人の妹だ。


同じ家に暮らす一人の妹が、突然二人になった。


「僕のせいだ。」


考えられる可能性は一つしかないだろう。


僕が一ヶ月前に突如手に入れた力のことだ。

【増殖】

僕が念じたり、時には無意識のうちに発動するこの力は、名前の通り、目の前のものが増殖する。

それはバナナであったり、バスケットボールであったり、石鹸であったり・・・

今まで増やしてきたものは様々だったが、まさか。


まさか人間が増えるとは。

人間も、増殖できるのか———


「今日、気づいたら二人になっていた。」


小道で僕を待っていた方の妹が初めて口を開いた。


「勉強の途中に、急に眠くなって、仮眠をとったんだけど。ベッドからおきると、もう一人の自分が机に座ってた。」


ジャージ姿で、腕を組んでいる。

僕を連れてきた方の妹——制服を着ている妹と、僕を交互に見ながら説明する。


「私から見れば、勉強中眠気が襲ってきて、そのまま机に座ったまま仮眠をとって、起きたらベッドにもう一人の自分が寝てた。」


制服の妹も当時の状況を説明する。

今日、僕がアルバイトで酒を配達している間に、妹は二人になった。

勉強中仮眠をとったところまでの証言は同じだ。

そしてお互い、気づいたら同じ部屋にもう一人の自分がいたということか。


「私たち、まずお互いが本当に自分かどうか確かめあったの。体のホクロを見せ合って。腕だけじゃなくて、全身同じだったよ。腰、脇、太もも、おっぱいの下とか、、、」


まずは本当に自分自身かどうか確認したようだ。

確認方法はホクロの位置か。

妹の体を見回す。暗くてホクロは見えない。

しかし一華、おっぱいの下にホクロがあるのか。知らなかった。


「ちょっと、凛太郎、じろじろ見過ぎじゃない。」


ジャージの方の妹が冷ややかな目で僕をみる。


「私のおっぱい見てたでしょ。二人の妹のおっぱい見比べてたでしょ、しね。」


制服の妹も突っかかってきた。

息ぴったりだ。さすが同一人物なだけはある。


「ふん、妹のおっぱいなんて興味あるか。そんな貧弱な胸、比べるまでもない。」


しね!と言って制服の妹が足を蹴ってきた。ローキックだ。

腰がちゃんと入っているのか、結構痛い。

兄を蹴るときに腰を入れるな。


「とにかく、元に戻してよ。凛太郎の能力なんでしょ。」


「お兄ちゃん、早く戻して。」


妹二人に急かされる。


「いや、戻せないぞ?」


「え?」


「お前も見てきただろ?増殖で増やしたものは元に戻らない。少なくとも、戻し方を知らない。」


戻せたら、どんなによかったか。

結局、バナナもボールも、散々増やした後、片付けるのが大変だった。



「嘘でしょ?私たち一生このままってこと?」


「春家に聞いてみる。あいつなら何か知ってるかもしれない。」


僕に能力(ルール)のことを教えてくれた張本人だ。

・・・

あれ、でも、春家も増殖したものを元に戻す方法は知らないって言ってたような気がする。

バナナの時もバスケットボールの時も、一緒に片付けをしたのは春家だったし・・・。



「すぐに連絡して。」


「僕、春家の連絡先知らない・・・月曜日になったら聞くよ。」


まずい。春家に聞いても解決しない可能性が出てきた。

妹が今後一生、二人のままかもしれない。どうしよう。


「ほんっと使えないね。」


元には戻らないと妹に伝えたら、妹はどんな反応を示すだろうか。

僕、ボコボコにされるんじゃないか?

妹が一人の時だって喧嘩に勝てないのに。


「ちなみに聞くけど、どっちがオリジナルなんだ?」


とりあえず、大きな問題から目をそらすため、話題も逸らしてみる。


「どういうこと?」


「どっちが増殖した方かわかるか?」


【増殖】は、何かオリジナルのもの一つから増殖する。

言い換えると、オリジナルと、増殖したものの二種類が存在する。

かつて水鳥に没収された時の成年向け雑誌は、増殖すると表紙が変わっていた。

そのため、増殖した本とオリジナルの本の区別は一瞬でついた。


「それは私たちも考えた。けれど、今日までの記憶は全く同じだった。小さい頃の記憶とかも二人とも同じものを覚えてた。勉強中寝落ちした時の記憶も曖昧で、机かベッドどっちで寝たのか覚えてないし。」


「どっちがオリジナルで、どっちが増殖した方かわからないということか。」


体も同じ。記憶も同じのようだ。


「だけど、一つだけ違うところがあって。」


話し始めたのは制服の妹だった。

「宿題をしていた途中で寝ていたんだけど、起きてから、ノートに書いてあった問題が全くわからないの。」


嘘、とジャージの妹が呟く。

まだ共有していなかったようだ。

制服の妹の告白は続く。


「授業を受けた記憶はあるから、全部わからないわけじゃないんだけど、さっきまで自分でノートに書いてた数式とか、英語の意味とかがわからなかった。私がいきなり二人になって混乱してるだけかな、と思ったけど、もう一人の私はわかるみたいだし。」


二人になった妹の一人が、勉強ができなくなった、ということらしい。

増殖して、見た目も、記憶も全く同じではあるが、一人だけが勉強ができなくなっていた——。

問題が分からなくなったと言っている方の妹は、僕をバイトから連れ出した、制服の方である。


元の妹とは違うのだから、制服の妹を「増殖した方」と考えるのが普通だ。

しかしこの要素だけで、オリジナルかそうでないか判断できるのだろうか。


そして、既に僕はもう一つの違いにも気づいていた。

僕の呼び方だ。

制服の妹は僕のことをお兄ちゃんと呼ぶ。

ジャージの妹は僕のことを凛太郎と呼ぶ。

どちらの呼び方もされたことはあるが、最近の一華の呼び方は「凛太郎」だ。


制服の妹は、勉強のレベルと僕の呼び方が、変わっていることになる。


「勉強の他には、違いはなかったのか?例えば、運動とか。お前、陸上部だろ。」


僕がそう言うと、妹は思い出したように顔を見合わせた。


「それはまだ確認してなかった。そうか、勉強以外も、できることがばらけてるかもってことね。」


ばらけている。と妹は言った。

なるほど、妹は少し僕と考え方の方向が違うようだ。

増殖することで、勉強の能力が振り分けられた。

オリジナルから、勉強のスキルが振り分けられた可能性もあるということか。


「確かに私が勉強が分からなくなってる以上、できることを確認しておくのは大事かもね。すぐに一人に戻れるとは限らないし。お兄ちゃんのくせに、よく気づいたね。」


一言余計だ、勉強ができない方の妹。


「でも陸上のレベルの差を確認する前に、先に決めておかないといけないことがある。」


「そうだね。」


ジャージの妹が言うと、もう一人の妹もうなづく。


「なんだ、急ぎなのか?」


今日中に決めないと、と妹は言う。


「緊急も緊急。由々しき事態だよ。」


「何があるんだ?」


「二人いるから、どちらか一人に決めないといけない。」


やはり増殖といえど、記憶も同じ同一人物である。

考えは同じようだ。


「「明日のデートにどちらが行くか。」」


声を揃えて、二人の妹は言った。







【お願い】

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