22 ある日突然、妹が二人になった
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七月二十日金曜十九時
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部活に入ったはいいものの、以降能力探しの依頼は発生していない。
———一件一千万の案件もある。
そう言われた日の夜は興奮で眠れなかった。
もし明日能力を見つけたら、一日で一千万———
もう金に困ることはない。
しかし、そう都合よく目の前に能力者は現れない。
そのことに気づいたのは、部活に入って一週間がたってからだった。
相変わらず春家は教室の隅で本を読んでいて、新しい能力探しの話はなかった。
あくまで臨時収入程度で考えるべきか———
そんなことを、頭の中で考える。
配達のアルバイト中、考える。
僕は一年前から、酒配達のアルバイトをやっている。
酒を運ぶだけの仕事だから、高校生の僕でも簡単にできた。
一年間も続いているのは、一重に仕事の簡単さと、接客の少ない気楽さゆえだろう。
夜の仕事のため、時給がそこそこいいという理由もある。
前と後ろに設置された大きなカゴに酒をいっぱいに積んで、配達先のお店に向かう。
こめかみにじんわり汗がにじむ。
そろそろ夏本番だな。
遠くの入道雲を眺めながら、真夏の訪れを実感していた、その時。
「お兄ちゃんいた!!」
女の子の声が聞こえた。
と同時に、袖を強く引っ張られる。
「な、なんだ!?」
強く袖を引っ張られて、バランスを崩す。
大量の酒を積んだ自転車のカゴが傾いて、地面に引っ張られる。
そして、必死の支えも虚しく自転車は倒れ込み、カゴに入っていた酒瓶が一気に放り出された。
「ヤベ。ごめんお兄ちゃん。」
一斉に解き放たれた家畜のように、波状に酒瓶が転がっていく。
「一華!?お前何やってんだ!?」
僕の裾を強く引っ張って、自転車を転倒させた犯人は、妹の一華だった。
「でもそれどころじゃない。ちょっと来て!」
それでもなお、一華は僕の服を引っ張る。
「待て待て待て。なんだよいきなり!」
突然現れて「来て」とはなんなのか。
制服姿の一華は、僕を走って探していたらしく、息を切らせている。
「いいから来て!」
その慌てぶりに、さすがの僕も緊急性を察知する。
「わかった。わかったから。ちょっと待て。」
とはいえ転がった酒瓶をこのまま放置するわけにもいかず、急いで自転車を立ち上げ、カゴに入れていく。
「早くして。」
「なら手伝え。」
妹はため息をついて落ちている酒瓶をカゴに入れ始めた。
ようやく集め終わり、自転車を安全な歩道においた。
「で、なんだよ。今バイト中だからそんなに時間取れないぞ。」
妹はまだ僕の裾を握っている。
そんなに強く引っ張らなくても、僕は逃げない。
「マジで怒ってる。」
一華が僕を睨みつけている。
「怒ってる?僕に?」
怒っていることはわかったが、心当たりがない。
「お兄ちゃんの変なやつ。」
感情的になっているのか、要領を得ない。
「変なやつ?」
僕のことを変なやつ呼ばわりしているのか、他に伝えたいことがあるのか・・・。
「あの、役に立たない、タワシ増やすやつ」
そこまで聞いて、ピンときた。
「役に立たない」をわざわざ枕詞にするあたり、相当怒っているようだ。
「【増殖】のことか?」
また家のものを無意識に増やしてしまったのだろうか。
ものを無くすならまだしも、ものを増やして困ることがあるのだろうか。
家の中のものを一通り想像してみたが、干していた僕のパンツが大量に増えてしまったとか、ドアノブが増えてどれが本物かわからなくなったとか、そんなくだらないことしか思いつかない。
「お兄ちゃん、あれ私に使ったでしょ。」
腕は引っ張られ続けている。
大通りを抜けて、木陰に連れて行かれる。
「は?お前に?どういう意味だ?」
一華に【増殖】使った。と解釈した。
しかし、そんな覚えは一切ない。
そもそも人に向けて使ったことないし、人間を増やそうなんてそもそも———。
「こっち来て!」
連れて行かれた先———
木がもくもくと生茂る小道の真ん中に、女の子が立っていた。
女の子は黙って僕を見ていた。
木で影ができており、顔がよく見えない。
一歩近づくと、彼女が誰かすぐにわかった。
間違いなく、妹だった。
柳一華。僕のたった一人の妹。
そして、僕の横にも、バイトから僕を強引に連れて来た妹がいる。
たった一人のはずの妹が、二人いた。
二人の妹が、僕を見ていた。
一人は僕を引っ張って来た制服を着ていて、
もう一人はジャージを着ている。
だが二人とも紛れもなく妹だ。
肩までかかった細い髪が、木陰に吹く風で、揺れる。
僕は黙っていた。
黙って、二人の妹を見ていた。
そっくりというレベルではない。
瓜二つともまた違う。
同じだ。
直接目の当たりにしているからわかる。
同一人物だ。
同じ人が、妹が、二人いた。
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