21 水鳥と春家
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視点:春家キノコ
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柳を顧問の田中先生に紹介した春家は、帰宅しようとしていた。
「日曜のガラガラの学校も、たまにはオツなものね。」
誰もいない校門で、春家は呟く。
「春家さん」
校門を出た時、名前を呼ばれる。
声の方向に目をやると、私服姿の水鳥がいた。
白のフリルのスカートに青いリボンがついている。
小柄な体型が、人形を思わせる風貌だ。
「水鳥さん」
水鳥とは、【ルールブック】の仕事以外の話はあまりしない。
他のクラスメイトよりは会話する方かもしれないが、それでも事務的なこと以外は話さない。
「柳くんを部活に入れたでしょ。」
今日も例に漏れず仕事の話のようだ。
しかし、水鳥は相変わらず情報が早い。さすがは"教育規則研究部"の情報屋だ。
何かの能力なのだろうが、水鳥はルールを教えてくれない。
それもまた、彼女との距離を遠ざけている。
「そうだけど、悪い?」
責めるような言われ方をしたので、挑発的な返事で応戦する。
「ヤナギンを【ルールブック】に巻き込まないで。」
「部活に入りたいと言ったのは柳くんよ。」
確かに誘導はしたけど。
「お金渡したんでしょ。柳くんの家、ご両親がいないから・・・」
柳くんの家庭事情は知らなかったが、アルバイトをしていることは知っていた。
大金は誰だって欲しい。
柳くんもその一人だと思っていたが、思ったより柳家の経済事情は悪いらしい。
「柳くんはお金が必要、私はルールを集めたい。お互いが納得してるんだから。問題ないでしょ。」
ならば、尚更この話は柳くんにとっていいことだろう。
いわゆるwin-winってやつだ。
「でも・・・」
「大丈夫。柳くんは不死身だから。心配することない。」
「・・・」
柳くんは、細胞増殖による擬似的な"不死身"の力も持っている。
能力集めにおいて、これ以上優秀な力はない。
鉄砲玉、といえば聞こえは悪いが、格段に動きやすくなる。
「…わかったわ。でも、危なくなったら私を頼って。」
水鳥は小さくため息をつく。
水鳥の情報網にはこれまで何度も助けられてきた。
仕事の上では、信頼はしている。
しかし、やはり能力は不明だし、【ルールブック】も空白のままだ。
田中先生は、水鳥の能力を記入出来たらかなり高値がつくと言っていた。
「あなたのルールを教えてくれない?」
ダメ元で聞いてみる。
ルールを知っていれば、頼りやすいから。とも付け加える。
「・・・今は教えられない。」
予想通り拒否された。
「そう。」
「今は」と水鳥は頭につけた。
いつかは話す気があるということだ。
気になるが、まあ待ってもいいだろう。
少なくとも能力集めには協力的なんだし。
「水鳥さんと柳くんって、幼なじみなんだよね?」
二人が幼なじみということは、なんとなく知っていた。
いつも仲良く話していて、気のおけない二人、という印象だ。
「うん、小学生の時から一緒。」
小学生と言われても納得してしまいそうな風貌の水鳥はそう言う。
十年近い関係か、となんとなく計算する。
高校生になっても、小学生のころの異性の友人と仲がいいのは意外とすごいことなのでは、とふと思う。
「全然関係ない話だけど、水鳥さん、柳くんのこと好きなの?」
「は、はあ!?なんの話?」
分かりやすく反応した。
普段私に対する様子と、柳くんが絡むときの様子は明らかに違う気がしたのでなんとなく聞いてみたが、図星のようである。
「いや、なんとなく思っただけだけど。」
みるみる内に顔が真っ赤になっている。
「好きとか好きじゃないとか、そういうのはあれだから。それはまあ、どうだかな。」
誤魔化す水鳥だったが、耳まで赤くなった顔が、動揺を隠しきれていない。
言葉も回答になっていない。
これまで一度も思ったことがなかった可愛げを水鳥に感じた。
「ふん、柳くんも罪な男だな」
「ちょっとそれどういう意味よ!!」
能力を教えてくれない水鳥にささやかな仕返しができたような気がして、少しの快感を覚えた。
顔が真っ赤になっていることは、あえて教えてあげないことにした。
水鳥は顔を真っ赤にさせたまま、振り返って帰って行った。
「柳くんと水鳥さん・・・ね。」
後ろ姿の水鳥の奥では、コンクリートの上で蜃気楼が揺れていた。
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