20 教育規則研究部
*
教室は既に独特の臭いが充満していた。
窓は開いているが、換気が追いついていない。
教室の薄暗さもあってか、子供の頃に通ったゲームセンターを思い出した。
「ああ、春家と柳か。」
僕と春家が教室に入ってきても、田中は一切慌てる素振りを見せない。
こちらを一瞥すると、興味がなさそうにぷかぷかタバコをくゆらせている。
「いやだから教室でタバコ!信じられないんだが!」
僕は小走りでまだ開いていない窓を開けにいく。
そして、田中が加えていたタバコを取り上げ、ゴミ箱に捨てた。
「おいおい、この社畜からこれ以上取りあげないでくれよ。数少ない嗜好品なんだぞ。」
教員が自分のことを社畜呼ばわりとは、この男は本当に教師失格である。
「お前なんかクビになっちまえ。」
「柳がその気になれば俺はすぐクビだよ。まいったね。これは逆らえない。」
春家にバイトに加わりたいと申し出ると、春家はあっさり快諾した。
「顧問のところに連れて行く」と言われ、着いた先は自分の教室、二年二組だった。
そして、そこにいたのは僕の補修担当で数学教師の、田中だった。
僕を待っていたのか、教室に着いた頃にはタバコを燻らせていた。
日曜日の補修の時、田中はなんと教室でタバコを吸う。
信じられないことだが、僕以外にはバレていない。
僕がタバコのことを告発しないのは、田中がクビになって喜ぶと分かっているからだ。
「私がいるときはタバコはやめてと言ったはずよ。」
春家が腕を組んで後ろの扉の前に立っている。
「いやあごめんごめん、今日は柳だけだと思っていたから。ほら、柳がタバコを消してくれたし。」
言い訳するようにゴミ箱に目をやる。
つられてゴミ箱を見ると、煙が上がっていた。
「———燃えてる!」
慌ててゴミ箱を廊下に運び出し、水道の水を流し込む。
炎をあげていたゴミ箱は、水浸しになって消化された。
「何やってんの・・・」
春家が呆れてため息をついている。
「———それで」
ぼや騒ぎをやり過ごした僕に田中が声をかける。
「柳、【増殖】が出たらしいな、お前らしいよ。」
確かに【増殖】と田中は言った。
三週間前に突然発現した能力。
「春家から聞いたんですか。」
「まあそんなとこだ。」
妙にはぐらかされている気がする。
「さっきも言ったけど、田中先生は私の部活の顧問よ。」
「部活・・・?」
「そう、活動内容は、能力集め。報酬も出る。柳くんもお金をもらうなら、入部してもらうことになる。」
「部活動なのか。お前が言ってた能力集めってのは。」
能力集めの報酬として国からお金が配布される。
その活動はアルバイトではなく、「部活動」というくくりにされているらしい。
「体裁的な問題よ。そうでしょ?田中先生。」
田中はタバコを探すようにポケットをまさぐっている。
「ああ、そうだ——春家、三橋の件の部費は渡したか?」
「渡しました。」
僕がさっきもらった十万円のことだろう。
部費と言っているが———部費を生徒がもらうというのはなんだかおかしな話である。
「うん、本当は俺が渡してやりたいとこだったんだがな。まあ柳が部に入るか分からなかったから部費として堂々と渡せなくてな・・・教員が生徒にものを渡すと目立つんだ・・・」
田中がぶつぶつ説明しながらタバコを取り出すと、春家が田中から取りあげた。
ああ、と情けない声がもれる。
「能力を調べるだけで、金がもらえるのか?」
改めて確認しておく。
「・・・ああ、高校生には見合わないほどもらえるぜ。」
「一つ調べたらいくらくらいもらえる?」
「能力によるが・・・高くて一千万のものもある。」
心臓が高なった。
とうの昔に忘れていた夢———
妹の進学。
一千万あれば、なんの憂いもなく妹を大学に送り出せる。
「僕も部活に入る。それが条件なんだろ?」
この部活に入って、能力を調べる。
うまくいけば、妹は大学に進学できるだろう。
「よろしくな、柳。部活名は「教育規則研究部」。特に意味はない。名前なんてただの箱だからな。」
確かに、名前だけ聞いてもなんの部活かさっぱり分らなさそうだ。
「早速やりたい。誰を調べればいい?」
「慌てるな。今はない。が、すぐ出てくる。この高校は、そういうところだ。」
やはり、三橋先輩のように、この学校には能力持ちの人間がいる。
田中の口ぶりからして、予想よりも多そうだ。
しかし、やはりそうタイミングよく現れはしないか。
「そうか。今はないのか・・・」
「お前自身の能力でもいいぜ。」
「僕は【増殖】だろ?」
既に能力は明かされたはずでは?
春家の持っていた本【ルールブック】にも載っていたようだし。
「まだ、他にもルールがあるんじゃないか?ものを増やす以外に、不死身の力もあると聞いてる」
不死身のことも知っているのか。
まあ当然か。
体育館で頭を撃たれて派手に死んだんだ。
もう少し知られていると考えていた方が良さそうだ。
しかし、細胞を増やすことによる擬似的な増殖はともかく、
「他にもできることがあるってことか?」
「分からない。まあ、見つかったら部費は出すよ。見つかったらな。」
「そうか、分かった。」
まだ色々試してみる価値はありそうだ。
「とにかく、「教育規則研究部」へようこそ。」
ニタリと田中は鈍い笑みを見せた。
「この学校のルールを見破れ、柳。」
こうして僕の、少し遅めの部活動生活が幕を開けた。
そしてこれは僕の青春をかけた、壮大な戦いの1ページ目であり、
高校を巻き込んだ大きな戦いの序章でもあった。
*
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