02 母校をキノコの海に沈めてしまいました。
*
大量のバナナを目の前にして、僕は確信した。
これは、春家が僕に仕掛けた、手のこんだマジックなのだと。
「———んで、説明はあるんだろうな。」
なぜクラスメイトの春家が、なんの接点もない僕にマジックを披露したのかはわからない。
けれど、この状況を他にどう説明すればよいだろうか。
バナナを一つ、拾う。
「説明って、なんの?」
春家も、バナナを一つ、拾う。
「とぼけるな、このバナナだよ!」
叫んだら、腕に抱えていたバナナが一つ落ちた。
だめだ、きりがない。
せっかく拾い集めてたのに。
「柳くんのせいだよ。」
春家がまた一つ、バナナを拾う。
「僕のせいなわけないだろ?種明かししてくれよ。」
どうして、マジックの後片付けを僕がしているんだ。
なんとなく、手伝っているのだけれど。
「破れたカバンも、僕のじゃないんだろ?僕のカバン、返してくれよ、どっかに隠してるんだろ?バナナ拾うの手伝うからさ。カバンがないと、効率悪いんだよ。」
両手いっぱいにバナナを集めたところで、僕は気づく。
これ、どうすればいいんだ?
一旦、下駄箱の横に、一箇所に集めてみる。
無残に横たわるカバンに目をやる。
あれは僕のじゃない、きっと。
「だからマジックじゃないってば。柳くんの力なんだよ。」
「は?何言ってんの?」
「柳くんが、バナナを増やした。柳くんの【増殖】が発現したの。」
もしかしたら、この春家という女は少しアブナイやつかもしれない。
驚きより恐怖が湧き上がってきた。
髪もいきなり銀髪にしてくるし、もしかして、妄想力が激しいタイプか?
「お前、僕がさっきひっくり返っているとき、訳知り顔でうなづいてたじゃねえか。」
「まあ、柳くんの【増殖】は知ってたからね。」
「だからなんなんだよそのゾウショクって。僕が増やしたってのか?」
「だからさっきからそう言ってるじゃん。」
春家は少しムッとした表情を見せた。
すると春家が突然、僕に肩をぶつけてくる。
「ああっ」
春家に肩をぶつけられて、抱えていたバナナがこぼれる。
思ったより情けない声が出てしまった。
「このっ」
ムッとしたいのは、こっちなんだよ。
バナナが落ちないように、タックルを試みる。
バナナを抱えたまま、肩を春家にぶつける。
「きゃっ」
ぶつかった春家も、持っていた大量のバナナをこぼした。
ぼとぼとと鈍い音をたててバナナが転がる。
春家から、香ばしい匂いがする。
しかしそれは、女の子の花のような柔軟剤みたいな匂いではない。
・・・なんだか土っぽい匂い?
「もう!せっかく集めてたのに!」
春家が叫ぶと、またバナナが数本落ちた。
「頼むよ、種明かししてよ。じゃないと、この大量のバナナを拾う気が起きない。」
「・・・種明かししたら、本気で拾うの?」
「ああ、約束する。」
「・・・わかった。」
僕はため息をつく。
どんなマジックかは知らないが、この大量のバナナの片付けはどっちにしろ早くやらないといけないだろう。
教員に見つかったらまずい。
僕の目的は、マジックのタネを知ることよりも、
この量のバナナをもともと入れていた袋を持ってきてもらうことだった。
マジックなら、このバナナを用意するための入れ物がいるだろう。
手で拾うのには限界がある。
もともと入っていた袋にバナナを入れて、持って帰ってもらおう。
「はい。」
春家の声が聞こえた。
大きな入れ物を取り出してくるのを期待していた。
しかし、春家はそれらしき物は持っていなかった。
「いや、袋は?」
「袋?」
「バナナを入れる袋」
「そんなのないよ?」
春家は、大きな入れ物は持っていなかった。
「え?じゃあどうやってバナナを持ってきたんだ?」
「バナナなんて持ってきてないってば。」
春家が腕を伸ばして僕のほうに何かを突き出している。
「何これ。」
春家は、手に何かを持っていた。白くて、細長い棒状の物。
「マツタケ。」
マツタケ!?
春家が手に持っていたのは、確かにマツタケだった。
嗅ぎ覚えのある香ばしい香りがする。
さっきふんわりこいつから香ったのは、これのせいか。
僕は拳を握った。
話にならない。
バナナがいきなりカバンから大量に出てきて、カバンがビリビリに破かれて、
訳もわからずバナナを拾い続けて、最後にはマツタケ?
意味がわからないし、こいつはやっぱり、ちょっと頭がおかしい。
「は〜る〜い〜え〜」
午前からストレスが溜まっていて、爆発寸前だった。
突き出されたキノコを乱暴に取り上げる。
さすがの僕も、もう怒る。
もう我慢ならん。
取り上げたマツタケを天高く振り上げた。
キノコでなら・・・殴っていいよなあ!!!?
僕は春家が持っていたキノコを奪い取り、殴りかかる。
———こんにちマツタケ、柳くん。
「こんにちマツタケってのはなあ!こうやるんだよ!!!」
意味不明なセリフを叫んでいた。
我ながら、本当に意味不明だと思う。
先ほどまでの記憶が混在して、怒りというペーストでベチョベチョになった感情が、
ピュっと飛び出てしまった感じ。
ドクン。
え?
ドクン。
視界が揺れる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!
何これ、なんだ、これ!
「柳くん!」
春家の声が聞こえる。
「キノコを見て!」
「キノコ・・・?」
体が止まる。
頭を上げて、自分の腕の先を見た。
振り上げた先にキノコがある。
キノコを握っている。
「まずい、それを離して!」
キノコが、ドクン、と波打った気がした。
心臓みたいに、膨らんで、戻る。
「なんだ・・・これ・・・」
次は、トゲのように茎の部分が尖っては戻り、尖っては戻る。
春家が叫んでいる。
だが、スローモーションみたいになって、全く聞き取れない。
3Dモデルみたいに、手の中のキノコが、ヌルヌルと形を変化させている。
ドクン、ともう一度、はっきりと耳元で聞こえた。
「柳くん!離して!!!」
強い衝撃とともに、腕が弾かれた。
春家がぶつかってきたのだと認識したのは、キノコを手放して、倒れ込んだ後だった。
スロモーションは続いている。
宙に浮いたキノコが、ウニのような形状に姿を変えた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
*
どのくらい気絶していたのだろうか。
体が締め付けられるような不快感で、僕は目を覚ました。
・・・臭い。
土の匂いがする。
この匂いは。
「・・・マツタケ。」
ひどい頭痛がして、起き上がろうとする。しかし、まるで水の中にいるみたいに手応えがない。
「・・・なんだこれ・・」
やっとの思いで顔を水面から出す。
空気がうまい。
溺れていた何かに目をやる。
僕が体中にまとっていたのは、大量のマツタケだった。
僕は大量のマツタケの中にいた。
マツタケの海、という言い方が適切かもしれない。
「ヒッ」
僕は小さく悲鳴を上げる。
「柳くーん」
遠くで、春家の声がした。
一体、どうなっているんだ?
春家の声に向かって、手足を動かしてみる。
少しだけ体が浮かんで、顔を出せた。
水面———キノコの海から顔を出した。
顔を出し、周りを見渡した瞬間、絶句する。
そこにあるのは、見渡すかぎり、キノコ。
キノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコ・・・・
「これは・・・」
夢でも見ているのだろうか。
学校の半分が、キノコで埋め尽くされていた。
【お願い】
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