17 無限ポテチ
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無限ポテチ———
僕は手元にあるプラスチックの袋をそう呼んだ。
袋の中のポテチを一つとり、食べる。
リズムよく運ばれるポテチが、口の中で咀嚼される。
何度も運ばれるポテトチップスは、食べ続けても空になることはなく——
むしろ元の容量よりも増えていた。
【増殖】
突然発言した謎の能力は、全小中学生男子の夢であろう、無限ポテチを実現可能にした。
塩と油のしつこさで、正直もう食べたくないと体が言っている。
しかし、"子供の頃の夢を叶えた"という陶酔が、僕の背中を後押しする。
リビングの食卓で一心不乱に揚げた芋の菓子を食べ続ける。
無限ポテチができることに気づいたのは、土曜の朝だ。
朝一のコンビニに走り、ポテトチップスだけを購入した。
天気が良くて、清々しい朝だった。
「いつまでボリボリ食ってんのよ。何袋開ける気?」
抗議の声をあげたのは僕の妹、柳一華だ。
バイト前にソファでくつろいでいた妹が、裸足を持ち上げた。
ソファから、妹の裸足だけが顔を出す。
足の指を器用に動かして、僕の方を指差した。
「兄を足で指さすな。無限ポテチがまずくなる。」
妹の足の指が開いたり閉じたりしている。
「妹の美しい足が見れて感謝して欲しいくらいなんだけど。」
確かに陸上で鍛えられた妹の足は筋肉質で程よく茶色に焼けている。
夢うつつの状態なら、フランスパンと間違えてかぶりつきそうな出来である。
「確かにそろそろ飽きてきたな。ポテチ。」
呟いて手を止めた。
人差し指と親指が油で光っている。
「30分くらいずーとボリボリ言ってたけど、やっと飽きたんだ。」
「飽きた」という感想はとうに過ぎ去り、
ポテチはいつまで食べ続けられるのか、という挑戦に姿を変えていた。
その挑戦にも飽きた。という意味である。
「お前にはわかるまい。この無限——夢幻ポテチの魅力が。」
「ポテチは一袋だから美味しいんだよ。増殖かなんだか知らないけど、ホント使えない能力だね。」
「そ————!!!」
そんなことはない!
と断言できなかったのは、実際妹が言ったことが的を得ていたからである。
ポテチを一袋食べるのが美味しい。の意見はもちろんのこと、
【増殖】が使えない能力と揶揄されたこともだ。
僕は三週間前の土曜日、【増殖】の能力を手に入れた。
それから増殖させたものといえば、
バナナ、キノコ、バスケットボール・・・
他にも無意識で増やしてしまったものはいくつかあるが、
いずれにしてもろくなことになっていない。
なんとかポジティブに捉えようと、
子供の夢と銘打って減らないポテチを食べ続けてみたが、
お菓子は食べる量と美味しいが反比例していくことがわかっただけだった。
お菓子は、丁度いいが一番大事なのだ。
「【増殖】かあ・・・」
ソファに隠れて姿が見えない妹がため息まじりに呟く。
妹が僕の【増殖】を知ったのは、先週のことだ。
こうして妹の目の前で堂々と「無限ポテチ」をやっているのも、
妹が既に僕の【増殖】を知っているからである。
三橋先輩の事件の後、僕は妹に【増殖】のことを話した。
話した、というより問い詰められた、と言う方が正しいだろう。
こんな日常からは考えられないような突飛な力、できれば妹には言いたくはなかった。
多少は【増殖】を操れるようにはなってきてはいたものの、いまだに無意識下での暴発は起きた。
暴発といっても春家が持っていたキノコほどではなく、近くにあったものが数個に増えるだけなのだが、それでも同じものが複数に増えることは思ったよりも異常なことだった。
また、無意識下での増殖は特に家でリラックスしている時が多かった。
僕の周りで不自然にものが増えていく現象を、僕はうまく誤魔化すことができなかった。
だって、テレビのリモコンが三個になった時、なんと説明すれば良いのだろうか。
「丁度切らしてたと思って・・・」なんてトイレットペーパーを間違って買ったときの言い訳は使えるはずもなく、妹が、「説明して」と言うまでに時間はかからなかった。
春家に会った日のことを説明すると、「ありえない。」と否定していた妹だったが、目の前で増えるタワシを見て渋々受け入れたようだった。
話を聞くと「夢遊病で無意識に買い物してるのかと思っていた」と言っており、最終的には「それよりはマシか」とコメントを残していた。
確かに、突然テレビのリモコンが増えたら、そう思うのも不思議ではないかもしれない。
いい方向に裏切れた、とその場では思った僕だったが、「使えない能力」と言われてしまった今では、たまに無意識で同じものを三つ四つに増やしてしまうおっちょこちょい魔法使いみたいな存在になってしまったのではないかと危惧し始めている。
ここまで「残念な能力」みたいになってしまったのも、一重に先日の妹の提案のせいだろう。
一週間前、妹は僕の能力を見てすぐに言った。
「一万円札を増やそう。」
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