16 後日談
*
*
三橋先輩の弟がこの世から姿を消して、1週間が経過した。
三橋先輩の弟、三橋光希はおよそ一ヶ月前、事故で亡くなった。
しかし三橋光希は死ぬ直前、姉を心配する強い思いから能力を発現させた。
【霊】。
体は死んだが、意識だけが現世に留まった。
基本的に姉の体を媒体にすることが能力となっていた。
目的が、姉の自殺を止めることだったからだ。
弟の死後から三週間、弟が意識を支配していたことで防いでいた、三橋美佳の自殺欲求が爆発した。
三橋美佳の【命中】は、三という数字に関わる時効果が強力になる能力で、弟のスリーポイントシュートを得意としていたことが原因と思われた。
弟がスリーポイントシュートを姉に教える際に、銃の構造を例えにしていたことも、【命中】の元になっていたのかもしれない。
弟は姉を守るために能力を発現し、
姉は弟を死なせた罪を償うために自分を殺す能力を発現させた。
三橋先輩と弟が事故の後初めて言葉を交わしたあの日、
弟の意識は消滅した。
春家の体で三橋先輩と数分の会話を交わして、消えた。
三橋先輩に、「生きろ」と言い残して。
あの後、僕と春家は病院に搬送された。
出血は多少していたものの、軽傷と診断されその日のうちに家に帰れた。
体育倉庫で血を流して倒れていたのは、男子バスケ部部長の鉄原という男だった。
幸い命に別状はなく、今は入院しているらしい。
三橋先輩は、体育倉庫で血を流して倒れていた鉄腹の関係者として警察から取り調べを受けた。
三橋先輩は自分がやったと言ったが、現場の状況と、被害者の男子バスケ部部長の証言が矛盾しており、すぐに釈放された。
さらに鉄原の証言によって、三橋先輩のいじめが明らかになった。
警察が関わったこともあり学校側も無視できず、女子バスケ部は3ヶ月間の活動停止を余儀なくされた。
加えていじめの主犯格の三人組は、1ヶ月の停学処分が下された。
*
「大体の流れはわかった。説明ありがとう。」
僕より頭一つ分低い位置から、水鳥は感謝を述べる。
校舎の隅、廊下はほとんど人が通らない、生徒指導室とは名ばかりの荷物置きの部屋に、僕は今いる。
僕と水鳥の二人きりだ。
「これが、そのモデルガン。」
想像よりも軽い、銃の形をした模型を持ち上げる。
三橋先輩が持っていた、弟、三橋光希の持ち物。
三橋先輩は、弟の形見といっていた。
「これでよかったのかな。」
モデルガンを水鳥に渡そうと手を伸ばしているが、水鳥は受け取ろうとしない。
これが三橋先輩の形見だとわかっているからだ。
これまでの経緯を説明する都合上、水鳥には話していた。
わざわざ生徒指導室に水鳥を連れてきたのも、モデルガンを渡すためだ。
風紀委員を生徒指導室に呼び出すことになるとは思いもしなかったが。
「いいんだ。これは三橋先輩には必要ない。」
三橋先輩は生きなければならない。
それが、光希の願いだ。
自殺の道具として使われようとしていたこれは、三橋先輩は持っていてはいけないものだ。
僕は水鳥との約束「三橋美佳から'危険物'を回収して欲しい」がきっかけで、三橋先輩と出会った。
結果的に三橋先輩の【命中】のメインウエポンであるモデルガンを回収することにはなったが、
もはやその目的は、三橋先輩の命を守ることに他ならない。
「わかった。これは私が預かる。」
僕の気持ちを察したのか、水鳥はようやくモデルガンを受けとった。
「それにしても、なんで三橋先輩がモデルガンを持っているって知ってたんだ?」
同じくこの場所で、三橋先輩の危険物回収を命じた水鳥。
何かしらの情報は当然あっただろう。
「別に危険物の種類まではわかってなかったわ。ただ、'危険物'ってことだけ。後、'危険物'っていうのはモデルガンのことじゃなくて、能力——【命中】のこと。」
僕の【増殖】を見破ったときと同様、三橋先輩にも能力があることを知っていた。
春家の【ルールブック】を思い出す。
他人の能力を再現できる能力。
水鳥も似たような能力なのだろうか。少なくとも、水鳥が無能力者ではないことは明らかだ。
春家も、水鳥には能力があるみたいなことを言っていたし。
「僕の【増殖】のときもそうだったけど、水鳥も能力あるんだよな?どんな能力なの?春家みたいな相手の能力がわかるみたいな系統?」
「いや、春家さんみたいなのとは違う。私は———」
そこまで言って、水鳥はうつむく。
身長が小さいので、少しうつむくだけでつむじがはっきりと見える。
「ごめん、今はまだ言えない。」
僕と水鳥は小学生の頃からの付き合いで、数えてみれば出会って十年以上になる。
そんな水鳥が能力を持っていたなんて驚きだが、何せ僕自身もつい最近変な能力——【増殖】が発現したばかりなのだ。
「わかった。水鳥がそう言うなら聞かないよ。話せるときに話して。」
そのような特殊な状況を抜きにしても、僕は水鳥との距離感を熟知しているつもりだ。
十年間で、毎日一緒にいたこともあれば、数ヶ月口を聞かなかったこともある。
そうやってくっついたり離れたりして——ハリネズミのジレンマというらしい——、友人を続けてきた。
話したくなさそうな時は、無理に聞き出そうとしないこと。
水鳥は、話すべきときにはきちんと話せるやつだと、僕は知っていた。
「ありがとう、ヤナギン。」
幼児のような見た目の割に、成熟した水鳥は、そう言った。
「そういえばまだキノコのこと、お礼言ってなかったけど。」
【増殖】を発現させた日、学校を埋め尽くすほどのキノコを発生させてしまったことである。
どうしようもない量のキノコを目の前にして、僕と春家は諦めて帰ってしまった。
翌日跡形もなくキノコは消え、ニュースにもなっていなかった。
水鳥がキノコを片付けたと言っていた。
方法はわからないが、水鳥がなんとかしたのは本当だろう。
「ありがとうな、僕を助けてくれて。」
僕が感謝を述べると、水鳥は大きな目をこちらに向けた。
水面に水滴が落ちたみたいに、水鳥の瞳が潤う。
「ばか!ヤナギンのばか!」
感謝の言葉を言ったら、ばか、と言われた。
「水鳥、なんで泣いてるの?」
水鳥の目から、大粒の涙がこぼれていた。
「はあ!?泣いてないし!もう!いいから帰ってよ!」
水鳥は怒っているような泣いているような、そんな変な表情で叫んだ。
結局ゆっくり話もできないまま、
水鳥に背中を押され、僕は生徒指導室を後にしたのだった。
【お願い】
読んでいただきありがとうございます。
ページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると、
書き続ける励みになります。
☆評価と、ブックマークをよろしくお願いいたします。




