14 ミカ姉と弟
*
三橋美佳、彼女は'危険物'を持ち込んでいる。
大会負けたらあいつのせいだわ。
部長としての責任感がないよね。
凛太郎、銃の仕組みはわかる?
弟は三週間前、自殺した。
高校三年間、いじめを受けている。
公式戦に出たことがなく、スリーポイントシュートは入るどころか、届きもしない。
根源的なルール。【命中】のルール。
実弾並の威力を持つ、モデルガン。
*
思考回路に電流が走る。
繋がって、導通する。
記憶と情報が繋がって、増殖していく。
「それが、君のお願いなのかな。凛太郎。」
まっすぐ僕の目を見て言う。
「はい、三橋先輩のことを全部、教えてください。【命中】のことも。」
ハハハ、と三橋先輩は笑う。
いや、きっと、目の前に立っているのは三橋先輩ではない。
「なるほど能力のこと知ってるんだ。ああ、それでさっきのか。【分裂】とかかな?」
ボールが二つに増えたことだ。
「【増殖】です。」
僕は勘違いしていた。
額を銃で撃たれたときの三橋先輩。
彼女は僕のことを覚えていなかった。
まるで誰かに取り憑かれたように弾丸を撃った。
正確に、即死する場所を撃った。
「ハハハ、秘策があるって、そういうことだったんだ。」
彼女は二つのボールを拾い上げる。
「三橋先輩の能力は、【命中】ですね?」
「うん、そうだよ。」
モデルガンで僕の頭を撃ったのは、【命中】の能力を持っている三橋先輩だ。
僕は勘違いしていた。
最初に会った人が、三橋先輩だと思い込んでいた。
そして、僕を撃ったのは三橋先輩ではない誰かだと。
僕を撃ったのは、三橋先輩ではない別人格なのではないかと。
「昼休み、僕を撃ったのはあなたではなく、本物の三橋先輩ですね?」
春家から、三橋先輩の能力が【命中】だときいたとき、気づいた。
本物の三橋先輩はバスケを教えてくれた方ではなく、僕を撃った方なのではないか?
「ハハハ、よく気づいたね。そ、正解。探偵みたいだね、君」
僕は探偵ではない。
わかっている事実を、情報を、整理しただけだ。
「三橋先輩は最近までずっと、スリーポイントの地点から、ボールを届かせることすらできなかったそうです。」
「そうだね。」
出会った時、三橋先輩はスリーポイントシュートを何本も決めていた。
一瞬、【命中】の力かとも思ったが、さっきのドリブルを目の前で見てわかった。
数年そこらのバスケの実力ではない。
突然、バスケが上手くなった。
そう、弟が死んでから突然。
「教えてください。なぜ、自殺したはずの三橋先輩の弟が、三橋先輩の姿になって生きているんですか。」
三橋先輩が髪をかき上げた。
腰に手を当てて、重心が片足になる。
「生きてないよ。」
目を落とす。
「俺は三週間前に死んだ。」
彼はボールを置いて、体育館横の非常扉へ歩いていく。
「死んで、ミカ姉の体に入った。凛太郎と同じだよ。能力の名前はわからないけど。」
三週間前、三橋先輩は自分と弟の二つの人格を持つようになった。
死んだ人間が、多重人格として存在している。
ルール外の力。
「三橋先輩・・・君の姉が銃を持っている。生徒が一人撃たれてる。僕も入れると二人か・・・まずは銃を渡してほしい。」
危険物の回収。三橋先輩に会う前に水鳥から頼まれた。
水鳥は、三橋先輩の【命中】を知っていたのだろうか?
「まあそう焦るなよ・・・銃・・モデルガンは持ってきてる。」
カバンに入れてある。と弟は言う。
「この服装だと隠す場所なんてないぜ?」
弟が自分の胸を両手で持ち上げる。
大きな胸が、バスケウエアの下からくっきりと形を現す。
男子高校生には刺激が強い。
1on1の時からそうだったが、姉の体で男子高校生の純情を弄ばないで欲しい。
「ミカ姉は、すごく優しかった。俺にも優しかったし、俺以外の後輩にも。途中から入ったバスケ部員ともうまくやってたし、いつも笑ってた。ミカ姉は可愛いから、学校中で人気があった。中学校では少し有名なくらい。」
弟がだらりと両手を下ろす。
「でも、高校生になって、ミカ姉は変わった。いじめが始まったんだ。同級生のバスケ部の男子から告白されて、ミカ姉がフったんだ。そいつは結構顔面が良くて、女子バスケ部からの人気も高かった。嫉妬されたんだ。ミカ姉があまりバスケがうまくないことも手伝って、部活の同級生から、ひどいいじめを受けた。」
男子バスケ部。
今日血まみれになって体育倉庫で倒れていた男を思い出す。
「ミカ姉の変化は明らかだった。日に日に憔悴してた。何度もバスケ部を辞めるべきだと言った。でも、ミカ姉はやめなかった。今思えばあの時、もっと強く言うべきだった。殴ってでも止めるべきだった。」
弟が唇を噛む。
「そして三週間前、ついにミカ姉は自殺しようとした。」
「え。」
「海に落ちそうになっていたミカ姉を助けようとして、俺は海に落ち、溺死した。」
弟は自殺ではなかった。
自殺しようとしていたのは、三橋先輩だった。
「まずい。」
弟が、体育館横の非常扉から出て、外に置いてあったカバンを拾った。
「ミカ姉が出てくる。」
弟の意識を持った、三橋先輩の体が震えている。
「凛太郎、勝負には負けたけど、一つ頼みをきいてくれないか。」
カバンを開ける。
ぬらりと、黒い影が顔を出す。
「ミカ姉はまた自殺しようとしてる。俺が入ることで、止めてきた。でも、そろそろ限界だ。ミカ姉の意識が覚醒する。」
黒い銃が姿を現す。手が震えている。
弟が抵抗しているのだ。
「凛太郎!」
弟が叫ぶ。
「ミカ姉を助けてくれ!!!!」
黒い銃口と目があった。
*
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