13 なんでも言うこときく券は、実際なんでもはだめ
*
ダム、ダム、ダム、
ボールが床にぶつかっては跳ね、ぶつかっては跳ねる。
ダム、ダム、ダム、
力強く打ちつけられたボールが、彼女の手元に戻っては離れ、戻っては離れる。
ダム、ダム、ダム、
体育館に、三橋先輩はいた。ユニホームを着ている。
バスケットゴールからおよそ五メートルの位置。
手元のボールが一瞬沈んだ直後、勢いよく放たれる。
ボールは放物線を描き、まっすぐとゴールへ向かう。
ボールは枠に触れることなく、静かにネットを揺らした。
「相変わらず上手いですね、三橋先輩」
声をかけると、三橋先輩と目があった。
「あ、凛太郎だ。」
三橋先輩は優しく微笑んだ。
「今日も一緒に練習する?」
初めて出会ったときの三橋先輩に戻っている。
——悪いが、弟の死を知っている人間は殺さないとけないんだ。
あのときの三橋先輩ではない。
「1 on 1しませんか。」
僕が言うと、三橋先輩は一度きょとんとした顔をして、また笑った。
「おお、やる気満々だね。いいよお。ハンデは?」
バスケユニホームなので袖はないが、腕まくりをする仕草をしている。
「ハンデなんていりません。」
「あれあれ、凛太郎、バスケは急に上手くはならないよ?女の子にボコボコにされて泣いちゃうよ、凛太郎。」
「秘密の特訓をしてきたので大丈夫です。」
ふん、と三橋先輩が鼻で笑う。
「秘密の特訓ね、よし、いいよ。やろう。」
ダム、とボールが床を跳ねる。
「あとひとつ」
僕は付け加える。
「勝った方が、一つだけ何でも言うことを聞くというのはどうでしょう。」
ハハハ、と今度は声を出して笑われた。
「いいよお。負けたら何でもきいてあげる。エッチなのでもいいよ。」
フフフ、と僕は不気味に笑って見せた。
「後悔しますよ。その言葉。僕のあまりの変態的な要求に、腰を抜かしますよ!」
「ま、まさか、先輩である私に全裸でモップがけをさせる気か!?それも持ち手が短いやつで!全裸でモップがけさせる気なのかあ!!??」
「・・・」
「・・・」
「いや、さすがにそこまで変態では・・・」
「・・・」
「というか、先輩の方が変態ですね。」
斜め上の変態っぷりを示した三橋先輩だった。
*
ハンデはいらないとは言ったものの、さすがに純粋な実力では勝てないので、
短期決戦のルールを提案した。
一点先取である。
一点先取なら、偶然、何か不思議な力でたまたま勝つこともあるかもしれない。
もちろん三橋先輩は快諾した。
先攻も譲ってもらった。
「言っとくけど、私手は抜かないから。いいでしょ?」
三橋先輩からボールを投げる。
二回バウンドして、手元にぴったり飛んできた。
「言ったはずです。秘密の特訓をしてきたと。」
持ったボールを、ついてみる。
ボールは跳ねて、同じ高さに戻ってきた。
「見失わないでくださいよ、ミカンさん!」
そう言って、勢いよく走り出す。
全力で足を回す。
三橋先輩の横を抜け、ゴールへの道が開けた。
「うわ早っ!てか急に始まるの!?最初は一回パスするもんじゃないの!?ズルくない!?」
「ハハハ!バスケ部の常識なんて知りませんよ!勝てばよかろうなのだ!!」
勝利の文句を宣言した僕だった。
しかし、直後悲劇が起こる。
初心者の僕が全力疾走しながらボールをドリブルできるはずもなく、落としたボールは僕の足元に転がった。
転がったボールに足の裏が乗ってしまい、そのまま体が宙に浮き、回転した。
僕は顔面から体育館の床に激突したのであった。
「うわあ、大丈夫?」
うつ伏せで寝転ぶ僕に三橋先輩が声をかける。
「そんなに必死で・・・よほど私にエッチなお願いがしたいんだ。」
顔をあげる。
鼻が痛い。ヒリヒリする。
「エッチなお願いとは一言も言ってないですが・・・」
でも、三橋先輩の魅惑的なボディを目の前にして、強く否定できない自分がいる。
・・・勝ったらやっぱりエッチなお願いにしちゃおうかな。
僕の中のピンクの悪魔がささやきかけてくる。
「ま、凛太郎は頑張ったよ。悪いけど、後攻で終わらせるよ。ちなみに、私が勝ったら凛太郎がモップがけだよ。全裸で。」
「全裸でですか!?」
「自分だけリスクがないわけないじゃんか〜あ〜楽しみだなあ。凛太郎の全裸モップ。」
全裸モップ!?
世界一恐ろしい造語だ。
立とうとすると、三橋先輩が手を貸してくれた。
明るくて、無邪気で、優しくて、盛り上げ上手な、三橋先輩だ。
「ほい、いくよ。」
三橋先輩がボールを投げてきた。
ボールを投げ返す。
ダム、ダム、ダム、
ドリブルしながら、ゆっくりと近づいてくる。
ボールを奪おうと、手を伸ばした。
三橋先輩の重心がぐんと下がって、ボールが消える。
次の瞬間、三橋先輩は僕の背後にいた。
抜かれた!
慌ててゴールに向かって走る。
すると、三橋先輩は急ストップする。
物凄い緩急をつけているのに、ボールはぴったり三橋先輩の手に収まっている。
うま———
勢い余って、また顔からこけた。
「私の勝ちだよ」
あまりに余裕のあるタメを与えたが故の、勝利宣言——
ボールが放たれる。
放物線の軌道を描いて、ゴールへ飛んでいく。
——言ったはずだ。秘密の特訓をしてきたと。
僕は倒れ込みながら、ゴールに飛んでいくボールを睨みつける。
———【増殖】!!!!
ボールが枠に入る瞬間、ボールが二つに増殖する。
二つになったボールは押し合い、ゴール枠にぶつかった。
鈍い音を立てて、ぶつかり合ったボールが枠の外へ飛び出していく。
ボールはネットに触れることなく、弾き出された。
弾かれたボールの一つが、僕の手元に落ちてくる。
ボールをキャッチした。
膝を曲げて、重心を落とす。
「ボールは、手で投げるんじゃなくて、足で投げる、ですよね。」
ボールは弾丸、腕は銃身、指先は銃口、そして、膝が弾倉。
「僕の勝ちです。三橋先輩」
ゆっくりと放ったボールは、まっすぐゴールへ飛んでいった。
「凛太郎。君は———」
ネットがボールに貫かれ、勢いよく跳ねた。
「教えてもらいますよ。銃のこと・・・そして、三橋先輩のこと。」
静かな体育館で、ボールが二つ、ぶつかった。
「三橋先輩の弟ですよね、あなた」
*
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