12 【命中】
*
〜ここまでのあらすじ〜
ある日突然、僕、柳凛太郎は【増殖】の力に目覚める。
春家キノコの力で【増殖】の力が暴発し、学校がキノコだらけに。
キノコの後処理をした見返りに、風紀委員の水鳥の仕事を手伝うことに。
バスケ部部長の三橋美佳が持っている危険物を回収するため、三橋へコンタクトをとるが、聞き出すきっかけをつかめない。
翌日、体育倉庫で血まみれの三橋先輩と遭遇する。
その場で、柳は頭を弾丸で撃ち抜かれ、死亡する。
*
目を覚ますと、白い天井があった。
「あ、起きた。」
白い天井から、目線だけを動かす。
僕は白を基調としたどこかの部屋で寝ていた。
「ここは・・・」
「保健室よ。私が連れてきた。」
答えたのは、春家だった。
ゆっくりと頭を動かす。
目眩がして、気持ちが悪い。
「僕、何でここに・・・」
まだ意識がはっきりとしない。
春家は僕が横たわるベッドの横で、椅子に座っていた。
膝を隠すほどの大きな本を開いている。
「三橋美佳に撃たれて、死んだのよ、あんた。」
銀髪の美少女が淡々と述べる。
そうだ、僕は体育館倉庫に行って、そこで三橋先輩に会って・・・
「撃たれて、死んだ?」
額を触る。
穴はない。
体を見ても、血はついていない。
「私が体育館に行った時、柳くんは頭を撃たれて死んでいた。即死ね。」
嫌なもん見たわ、と春家はため息をつく。
「いや、でも僕は今こうして・・」
僕は生きている。
「【増殖】の力ね。ホント、とんでもないわ。まさか不死身だなんてね。」
【増殖】?不死身?どういうことだ?
【増殖】って、バナナとかキノコとか石鹸とか、そういう物を増やしたりする能力じゃないのか?
「これは推測だけど、」
春家が大きな本をペラりとめくった。
「自分の細胞を増殖させたんじゃないかしら。」
細胞を・・・増殖。
「再生したのよ。すごいスピードで。柳くんの細胞が。」
「何だよ、それ・・・」
信じられず、もう一度額を触る。
傷跡ひとつ付いていない。
「私だってびっくりだわ。本来、柳くんが持っているような能力には制限があるもの。」
「制限?」
「そう。例えば私の【ルールブック】なら、片手サイズの物体が示せる範囲でしか能力を測れない。後はこの銀髪は、他の人の能力だけど、能力者にだけ銀髪に見える、とか。」
便利すぎるものでもないということか。
「能力には必ずルールがある。火は酸素がないと燃えない、みたいな、根源的なルールが。」
ルール。
「だけど柳くんの【増殖】は今のところ制限がない。それどころか、擬似的な不死身まで再現してしまっている。」
「リスクがないってこと?」
いや、と春家はかぶりをふる。
「それはない。【増殖】にも必ずルールがあるはず。それも調べないといけないけど、今はそれよりも。」
春家はポケットに手を突っ込む。
おもむろに取り出したのは、一本の缶ジュース。
「三橋美佳の能力を暴くことが先決よ。」
そうだ。
三橋先輩が。
僕はまだ眠っていた。意識が眠っていた。
記憶の扉が開くみたいに、体育倉庫の惨劇が脳裏に蘇ってくる。
「三橋先輩・・・そうだ、三橋先輩はどうした?」
———誰だお前。
あの恐ろしい顔をした、三橋先輩の皮を被った化物は、一体。
あれは三橋先輩じゃなかった。
「私が体育館に行った時は、誰もいなかった。体育倉庫で倒れていた男は重症だったから救急車を呼んだよ。柳くんは血を流していたけど、どこも傷付いてなかったから保健室まで運んできた。話したいこともあったし。」
三橋先輩は、いなかった。
「助けてくれて、ありがとう。」
「ふん。まああんたが倒れているのを見た時はさすがに焦ったわ。遅かった、って思った。けれど結果的に不死身に近い能力があるってわかったし、いいわ。」
春家なりに僕に気をつかっているのだろう。
少しだけ可愛く思えた。
「それで。」
僕は春家の目を見る。
「三橋先輩の能力ってなんなんだ。」
言いつつ、僕には大体見当はついていた。
あの銃———
血まみれの三橋先輩が持っていたあの銃。
男の腹を撃って、僕の頭を撃ったあの銃が、関係しているのだろう。
「三橋美佳の能力は———」
春家が持っていた缶ジュースが変形していく。
予想通り、缶ジュースは拳銃の形に変形した。
「【命中】」
バン、と拳銃の形をした缶ジュースを打つジェスチャーをする。
「【命中】か。」
ピストルとか、弾丸とか、そういう、銃を連想させる能力かと思ったが、
もっと汎用的だ。
なるほど、命中。
扱いに慣れていない素人が銃を撃っても、数メートル先の人間にすら弾を当てることはできないと聞いたことがある。
三橋先輩は体育倉庫の中から、外にいる僕の額に弾丸を当てた。
「ちなみに、彼女が持っていたのはモデルガンよ。」
モデルガン?
「でも、僕に当たったのは銃弾だろ?スポンジ弾なんかじゃ、頭を貫けるわけがない。」
実際に弾を射出できるモデルガンでも、装填できるのはスポンジ弾だ。
「これが体育館に落ちてた。」
春家が見せてきたのは、大きさ三センチほどのスポンジ弾だ。
親指と人差し指で、軽く潰して見せた。
スポンジだ。
「スポンジ弾が、実弾に変わったということか?」
変わったとは少し違う、と春家が修正する。
「スポンジ弾の威力が、実弾並の威力を持った。という方が正しいかも。」
「いや、能力は【命中】だろ?何でスポンジ弾が実弾並の威力を持つんだ。それこそ、ルール違いじゃないか。」
「そこが私もまだわかっていない。能力は確かに【命中】のはずなんだけど・・・」
春家が本のページをまためくる。
目を落とすが、字が読めない。逆さま文字だから読みにくいのだろうか?
「三橋美佳には、まだ何かある。私たちの知らない根源的なルールが。それがわからないと、【命中】は攻略できない。」
根源的なルール、か。
三橋先輩の能力の、根源・・・
「三橋先輩は、三週間前に弟を自殺で亡くしている。」
「それ、本当?」
「本当だ。三橋先輩が言っていた。」
春家が考え込む。
「三週間前・・・」
僕は体を滑らせ、ベッドの外に出る。
裸足を保健室の床につけると、ひんやりと冷たい。
「僕は三橋先輩と話しに行く。」
「は?あんた撃たれたのよ?正気?」
「僕は不死身なんだろ?」
「だけど、次はどうなるかわからないし・・・」
「放っておけないよ。あんなに夜遅くまで一人で練習して、チームのために頑張ってる三橋先輩が、後輩の頭をいきなり撃つわけがない。」
———凛太郎もミカンさんって呼びなよ。
「三橋先輩は、後輩から、チームから慕われているんだよ。スリーポイントがめちゃくちゃ上手くて、教えるのは少し下手かもしれないけど、初心者の僕にも、すごく優しくしてくれた。大会も近いのに。」
———弟がバスケを始めたいって言い出してね、練習に付き合ってたら私も始めたくなっちゃって。
———でもまだ全然だよお。経験が足りない分、練習しないと。
「だから僕は認めない。三橋先輩の様子がおかしかったんだ。能力の影響で、何かが起きているのかもしれない。」
僕は立ち上がる。
もう意識もはっきりしている。
次はうまくやる。
「わかったわ。私も後ですぐに行く。もう少し調べたいことがあるから。」
「わかった。」
僕はうなづく。
「けれど柳くん、少し訂正しておきたいことがある。」
春家が本を閉じて、立ち上がる。
「三橋美佳は、チームから慕われてるって言ってたけど、三橋美佳は高校三年間、バスケ部員からひどいいじめを受けているわ。」
は?
「部長なのも、コート取りの役割を押し付けるために無理やりさせられているらしい。試合も、公式戦は一度も出たことがない。」
———あいつ、コートも取れないくせに男の後輩にミカンさんって呼ばせてる暇あんのかよ!
———わかる、もういい加減、コートとって欲しいよね〜。大会負けたらあいつのせいだわ。
あいつらか。
ふつふつと怒りがこみ上げる。
「あんなに、スリーポイントシュートが上手いのに、一度も出てないのか。」
「いや、聞いたところ、三橋美佳はスリーポイントシュートは、入るどころか届きもしないらしいわ。」
何だって?
いや、でも僕は確かに見た。
三橋先輩が何度も、何度も、何度も、スリーポイントシュートを決めるところを。
———まさか。
奇妙な想像が脳裏をよぎる。
「僕、いくよ。」
シューズをはく。
保健室の扉を開けた。
早く、三橋先輩のところにいかないと。
「柳くん、後もうひとつ。」
春家が僕の背後で言う。
「体育倉庫で倒れていたのは、男子バスケ部の部長よ。」
「そうか。」
小さくつぶやいて、僕は保健室を後にした。
*




