表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春家キノコのルールブック 〜高校生に発現する異能!異能!異能!〜    作者: Sun
第一章 春家キノコのルールブック
10/40

10 初夏の夜は口が軽くなる




体育館の照明が全て消されると、あたりはほとんどなにも見えなくなった。


遠くに、駐輪場の外灯がぼんやりと光っている。



「お待たせ。帰ろうか。」


体育館の照明を消してきた三橋先輩が歩いてくる。


バスケの練習着から、制服に着替えている。


暗闇に目が慣れてきて、三橋先輩の制服姿が徐々に見えてきた。


初対面がスポーツウエアだったので、印象がかなり違って見えた。


制服の三橋先輩は、何だか色っぽい。


急いで着替えたのか、夏服の胸元の隙が多い。

豊かな胸が、胸元の赤いリボンから顔をのぞかせている。


三橋先輩の靴のつま先が、とんとんとリズムよくコンクリートをつつく。


「私自転車だから、駐輪場寄るね。いいよね?」


「はい、もちろんです。」


何だが、どぎまぎする。


駐輪場で自転車をとって、僕たちは校門を出た。



「結局、練習を邪魔しただけになってしまって、すみません。」


今日、僕はスリーポイントシュートを一度も決めることができなかった。


「そんなことないよ、楽しかったし。」


三橋先輩が自転車を押すと、タイヤからゼンマイを巻くような音がした。


「その上、帰りも送ってもらって・・・」


大丈夫、と三橋先輩は言う。

「これでも私、年下の面倒を見るのは得意なの。」


あごを突き出し、大袈裟に胸を張っている。


「確かに三橋先輩は、後輩から好かれそうです。」


素直に言ってみる。


「やっぱそう見える?やっぱり?」


そう言って、バシバシと背中を叩いてきた。


「私、後輩からはミカンさんって呼ばれてるの。名前が美佳だから、みかんね。そうだ、凛太郎もミカンさんって呼びなよ。」


ミカンさん。

ぴったりの名前だな、と思う。


「いいんですか。」


「いいよ!てかむしろそっちの方がイイ〜。」


歯医者に見せるみたいに、白い歯を出す。


初夏の夜はまだ肌寒い。


「ミカンさん、バスケはいつから始めたんですか?」


「中二の夏くらい。ちょうどこのくらいの季節だったなあ。」


「ええ、意外とバスケ歴短いんですね。あんなに上手いのに。」


三橋先輩のスリーポイントシュートを思い出す。


「アリガト。でもまだ全然だよお。経験が足りない分、練習しないと。」


道の先の青信号が点滅する。自転車なら間に合いそうだが、三橋先輩はスピードをあげずに合わせてくれる。


「それにしても、中学二年の夏からって、変な時期ですね。」


部活動を始めるのは、大抵入学して3ヶ月以内だ。


「弟がバスケを始めたいって言い出してね、練習に付き合ってたら私も始めたくなっちゃって。」


弟か。

年下の面倒を見るのが得意と言っていたのは、きっと弟がいたからだろう。


「なるほど、弟ですか。じゃあ弟さんも今は高校バスケ部ですか?」


何気なく聞いてみる。歳が近ければ、この学校にいるかもしれないと思ったから。


「いや、弟は三つ下だから・・・」


点滅していた青信号が赤に変わり、足を止める。


「ああ、来年高校生ですね。高校が三年だから、被らないのは残念ですね。」


三歳差であれば今は中学三年生ということになる。


「うん、それに・・」


中学三年生はと高校三年生。

受験の時期が被って大変だ。


「高校はどこを受けるんですか?風来高校(ここ)ですか?」


聞く限り仲が良さそうなので、姉を追ってくるかもしれない。

仲の良い姉弟の姿が目に浮かぶ。


「弟はここには来ないよ。」


「あ、すみません、別の高校ですか。まあ、同じ高校になることもあんまり——」


再び信号が青になる。

信号機は、(カッコー)がなるタイプではなかった。


静かに青に変わる。

横断歩道が、ぼんやりと青白く光る。


三橋先輩は、立ち止まったままだった。


「弟は死んだの。」


「え」


横断歩道の真ん中で、僕は立ち止まる。

信号は青なのに、三橋先輩は、まだ立ち止まったままだ。


「弟は三週間前、自殺した。」


静寂が、夜を包む。


また信号が点滅した。

僕は一旦横断歩道を渡りきった。

振り返ると、道路を挟んで、三橋先輩が立っている。


「ああごめん、別に気を遣わなくていいよ。私もいまだにピンときてなくて、実感がないんだ。」


信号が赤に変わる。


「・・・」


弟が自殺?


肉親の死・・・


想像ができない。



「もうすぐ大会も近いし、私の事情で、みんなに迷惑をかけるわけにもいかないから。」


三橋先輩が遠くて、顔がよく見えない。


「やばい、私、今日会ったばかりの後輩に何でこんなこと話してんだろ。バスケ部の誰にも話してないのに。」


いや、今日会ったばかりだからかな、と三橋先輩は付け足す。


「私、あっちだから。じゃあね、凛太郎。」


そう言って、三橋先輩は去っていった。


「三橋先輩」


信号が、また、青に変わった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ