第32話 強大な敵
後ろを振り向くと男が立っていた。いやたっていたというのは少し違う。男は飛んでいた。目の前の女の子や自分と同じように飛んでいたのだ。
「・・・」
しばらく沈黙が続いた。来未は神眼で何者か確認したが、名前やステータスが文字化けしていて分からなかった。
(名前もステータスも分からないなんて・・・)
そこ白髪の男は来未の体を眺めるとゆっくり口を開いた。
「まさか・・・これほどまでに強い男がいたとはな・・・」
「何を言っている?それに・・・」
「お兄ちゃんに気安く話しかけないで!」
女の子は前より少し強い衝撃波を放った。
「グァッ!」
来未に女の子の放った衝撃波が直撃してしまった。そのまま下まで吹き飛ばされ地面に大きなクレーターを作った。
「グハッ!ゲホッ、ゲホッ!・・・」
「大丈夫!?来未くん!」
キュラとマリムが近寄ってきた。2人は近づくとすぐに近くの民家の中に来未を運んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「来未、大丈夫?何があったの?」
「なんか・・・変な男が出てきた。そしたらまた衝撃波を食らった」
「け、怪我とかしてないですか?」
「まぁね。まだ、行ける・・・よ」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
『っ!?』
突然の大声に来未達は動けなくなった。しかし、その声は村の中心部から響、全ての民家を粉々に壊して言った。
「伏せろ!」
来未はそう叫んでキュラとマリムを押し倒した。そして、来未達が隠れていた民家は粉々に壊れてしまった。
━━それから少しして来未達は起き上がった。起き上がると村中瓦礫の山と化していた。上をむくと女の子が不敵な笑みを浮かべ、男がこちらを睨んでいた。来未はキュラとマリムを庇ったことで背中に大きな傷をおっていた。
「く、来未くん!背中が削られたみたいに・・・」
キュラは背中を見ると回復薬を使った。だが、傷が大きいせいか、あまり効果はなかった。
「来未!ど、どうしよう!私のせいで・・・」
マリムはずっと暗い顔をしている。普段罵られても喜ぶマリムだが、今回は暗い顔をして泣いている。言うことは全て謝罪や卑屈なことばかりだ。来未は起き上がるとマリムの唇に手を当てた。
「ダーメ、そんな卑屈なこと言わないの。暗い顔なんかしないでさ、ピンチな時こそ笑うんだよ」
来未はそう言って微笑みかけた。すると、マリムは涙を流しながらも笑顔になった。
「・・・・・・・・・なぜ・・・だ?」
「・・・?」
「・・・なぜ、生きている?あれだけの攻撃だ。たとえ、どんな防御力があっても完全には防げまい」
「・・・」
よくわかってるじゃないか。・・・そんなこと言えないな。隣の2人が心配だ。隣の2人を失望させたくない。2人は俺が降ってきた時心配しただろう。・・・て言うか心配して欲しい。来未は起き上がるなりいきなりキュラとマリムに抱きついた。
「ど、どうしたの!?いきなり・・・」
「え、え?あの、その、ど、どうしたの!?」
「キュラ、マリム、聞いてくれ・・・今から俺は全力で奴らを潰す。2人は危ないから結界の外に移動させるよ」
「え?で、できるんですか」
「前に使った闇の中を移動するやつだ。危険だが数秒程度なら大丈夫だ」
「でも、本気を出すって、もしかして本気を出したら死んじゃうの?」
「・・・分からない。本気を出すとどうなるか、それに敵の強さが異常だ。生きていても大怪我は免れない」
「だ、ダメです!一緒に逃げましょう!」
「それこそダメだ。世界征服されるかもしれないだろ。・・・前にも言った通り、俺はお前らと幸せに暮らしたい。だから、その障害になるものは排除する」
「そうやって、自分が傷ついたら意味ないよ・・・」
キュラとマリムは泣きながら言ってきた。
「私たちのためでも自分を犠牲になんてしないでよ!」
「わ、私達の幸せは皆で手に入れたいよ!」
「お前ら・・・ありがとう。でも、今回はやらせてくれ」
来未の力強い言葉に2人は少し考えるとうなづいて結界のすぐ側まで走っていった。結界のすぐ側まで来ると闇の扉を作り2人はその中に入っていった。
「ップハ!」
「闇の中って呼吸ができるんだね。意外だよ・・・。来未くん、無事に帰ってきて・・・」
来未は2人がを見送ると上を見上げて立っていた。背中には神器を背負っている。準備はできている。そこで突然自分の闇に誰か入った感覚がした。キュラとマリムが入ったんだろう。そろそろだ・・・
「皆の為にも生きて帰らないとだな」
「・・・」
「”黒蝕・黒刃”」
先手を打ったのは来未だった。一瞬にして闇は2人の前まで飛んで行った。だが、攻撃は通じなかった。
「無駄なあがきだ。俺には通用しない」
男はそう言うと、詠唱らしきものをしだした。しかしその言葉は理解できない。
《༅༄◎※◆∮✩.*˚》
「何を言っている?」
来未は1度近づこうと前にジャンプをした。すると、少し前に出たところで無数の剣が降ってきて何本か来未に刺さった。
「があっ!・・・まだだ!」
《暗黒化》
《制限解除》
《力の(・)深淵を(・)覗け(・)》
来未の体にまとわりつく闇は大きくなった。
(この結界の性能を活かして・・・)
「”黒蝕・乱黒龍・絶撃”」
来未から放たれた無数の闇の刃は結界に当たると反対側から出てきた。それを繰り返すことで、結界内は闇によってズタズタに切り刻まれた。だが、男は無傷だ
「効かないと言っているだろ」
《§∮∮✩.*˚∞》
(またなにか来る・・・)
来未は構えたが意味はなかった。無数のかまいたちに切られた。見えないせいか防ぐことが出来ずに身体中切り刻まれた。━━それから数分間ずっと攻防を繰り返した。だが、先に来未の方が限界が来た。男は依然として平然としている。
「お兄ちゃん、今回もダメなの?」
「あぁ、ダメだな。弱いからな」
「ふーん。残念・・・今回はいいと思ったのに」
「何を言っている?」
「今回は命拾いしたねってこと」
「っ!?いきなり何言ってやがる!まだ終わってねぇぞ!」
「強がるな。お前程度の力じゃダメだ」
「だから何がダメなんだよ!・・・まぁいいダメじゃない力見せてやるよ!」
そう言うと来未はナイトメア・エビルに手をかけた。すると消えかけていた闇が戻り全て剣の中に吸い込まれて行った。
「これが効かなかったら本当にダメだな」
(前に作っておいて良かったぜ!あの時の俺最高!)
《羅刹の獄》
その技はまさに闇そのものだった。来未が進んだ後は夜になり闇しか残らない。結界内が闇に埋めつくられると突如としてその闇は来未の手によって切り裂かれた。闇は切り裂かれると切れ目から消え初めその中から胴と足の2つに切られた男が出てきた。その隣には左手を切られた女の子もいた。
「ッ!?まさか・・・これ程とはな。だが、この程度の傷はすぐ治る。妹もな」
そう言うと2人は無くなった部分が再生した。
「お兄ちゃ〜ん!痛いよ〜!」
「おいお前!前言撤回だ!こんな力を持っているとはな!今回は引かせてもらう!これ以上やっても決着はつかないからな!」
「お兄ちゃん!逃げちゃうの!?あいつを早く殺してよ!」
「待て妹よ。あの男の力は強大だ。もう一度あの技を喰らえば確実に死ぬ。だから引くぞ」
男達はボソボソ呟いて後ろを向いた。
「じゃあな。人の力を超えたものよ。また、どこかで会うとしよう」
そう言って2人は去っていった。結界は先程の攻撃で大破していたため出入りは自由となっていた。
「はぁ・・・終わったか」
その言葉と同時に来未の体に無数の傷ができたそして、意識を失った。
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