第25話 新しい力と代償
「ソートレー・シャル・エレメツ!賭けをしないか?」
「賭け・・・ですか?」
「あぁ、そうだ。俺が無事この国から逃げれたらお前達は事情がある場合を除いて一切関与しない。逆もまた同じだ。どうだ?」
「良い提案ですね。いいでしょう、受けましょう。あなた達が無事逃げることが出来たら一切関与しないと誓いましょう。無事逃げることが出来たらの話ですけど」
契約魔法で契約が終わるとソートレーは勝ち誇ったように笑っている。すると、来未も不敵な笑みを浮かべ手を前に出し、水晶でも持つかのような手の形をさせた。
「皆、伏せてくれ。俺が攻撃したらすぐに立って逃げるぞ」
そう言うと3人はしゃがんだ。いつでも立てる体制で構えている。
「だいぶ練習したからな。スキルと違って扱いが難しい・・・」
来未は小さくそう呟くと左手に闇を集めだした。
「”黒球・波動刃”」
左手に集まった闇は一瞬で黒い刃となり360度の方向に円形に飛んで行った。その闇の刃は周りにいた兵士をほとんど斬り殺した。
「行くぞ!立て、皆!」
4人は走り出した。それも扉やもんに向けてではなく壁に向けてだ。
「こっちの方が魔力反応が少ない。こっちから逃げるぞ。」
来未はそう言うと左手でシャイニング・アーツの柄をにぎった。
「”聖蝕”・・・これでやっと使える!」
そのまま壁に向かって剣を振り下ろした。白い斬撃は光となってまっすぐ飛んで行った。壁には大きな穴が開きそこから4人は抜け出した。
「逃がしてはなりません!追いかけなさい!」
ソートレーのその言葉も虚しく無駄となった。来未は闇で羽を作り外に出た途端国外まで飛んで行ってしまった。
「す、凄い!来未くん、空飛べるの?」
「そうだよ、キュラ。この3日間でかなり練習したからね」
「でも、くるみん、ミューナの転移魔法で逃げれば良かったんじゃないの?」
「今のミューナには酷だろ。それにあそこにはかなり強い結界が張られている。魔力の流れを乱される中高等技術である転移魔法は少し危ない」
「じ、じゃあ来未くんはどうやって中に入ったの?」
「転移魔法の1種だ。少し劣るが移動魔法を使った。闇の中ならどこでも移動できるってことだ」
「それなら今すぐ同じ方法で逃げたらいいんじゃない?」
「出来ないこともないが、どうやら俺の闇は人の魔力を吸い上げるらしい。今は制御しているが流石に中に入るのはちょっと危険かな」
「なーんだ、残念。それなら早くこの国から出ましょ。外に出たら次はどこに・・・」
「”黒繭”」
突然来未が闇を展開しだした。
「どうしたの?急に闇を覆わせて」
「あと少しで大規模魔法が来る。神眼で確認した」
するとミューナが焦りながら聞いてきた。
「それってもしかして、”大規模光魔法・シャイニングバスター”ですか?」
「そう書いてるな」
「まずいです!それは、お母様がこの国の衛兵達全ての魔力を集め発動する魔法。国ひとつ滅ぼすレベルです!早く逃げてください!」
「面白いな、国ひとつを滅ぼすレベルの魔法を俺達に使うか」
来未が楽しそうに笑うと、ミューナが暴れだした。
「笑い事じゃないです!本当に危険なんです!」
「わかったわかった。だが、どうしたもんかね」
「逃げるしかないです」
「多分無理だな。相手は光だ。あと数分もすれば完成する。恐らくだが間に合わないな」
「そ、そんな・・・来未くんは何も手がないの」
「無いわけじゃないよ。でもちょっと危険かな」
「いいわ、くるみんがそれでどうにかなるって言うなら使った方が良いのよ」
「そうか、じゃあそっちでいく」
そう言って来未は止まった。皆が不思議そうに来未の顔を見た。振り返って闇の足場を作り皆を下ろすと皆がなにか察したように慌てだした。
「ね、ねぇ来未くん。もしかしてだけど・・・」
「や、やらないのよね。そんなこと・・・」
「ご主人様、流石にそれは・・・」
「ご名答!相殺する!」
『やっぱり!』
皆の声がハモった。すると諦めたかのように座り込んだ。
「大丈夫だって。何とかなるよ。”多重神聖結界””物理結界””魔法結界””魔法付与・無限”・・・よし!結界はこんぐらいでいいかな。あとは魔法だ」
来未が大量の魔法を発動するとミューナが急に笑いだした。
「ふふふっ、なんか行ける気がしてきたわ。ねぇ、そう思わないニュー、キュラ」
『うん』
「来るぞ!」
その掛け声とともに遠くから光線が飛んできた。
(やったことない技ばかりだ。成功するかわからんがやるしかない)
《暗黒化、聖心化》
来未は闇と光を纏わせた。そして詠唱を始めた。
「”深淵を読み解き心理を追求するものは暗き闇と明るき光の加護を授からん。今ここに顕現させ新たなる世界の覇道とならん”・・・”コズミック・ブラスター”!」
・・・その技は綺麗だった。まるで宇宙のようだった。闇の中に無数に瞬く光。それは、ソートレーの放った光線にぶつかると、光線を飲み込み王城まで飛んで行った。そして王城は無くなった。神眼で確認したところ国王は逃げられたらしい。だが、ほかの衛兵は見つからなかった。国王を逃がすために死んでしまったのだろう・・・。
「っ!?」
急に目眩がした。頭が割れるように痛い。
「早く逃げるぞ・・・」
来未はそう言って再び闇で羽を作り3人を抱き上げ飛び去った。
廃城となった王城を見て3人は黙り込んでしまった。下の街には、国民が慌てふためいていた。




